ロゴスキーコイル(電流センサ)
原理:空心のコイルで電流を測る
概要
インバータの試験で、細いひものようなセンサを配線に巻きつけて電流を測っていました。あれで数百アンペアも測れるんですか?
それがロゴスキーコイルだね。鉄心のない細長いコイルを、測りたい導体のまわりに輪にしたものだよ。導体の電流がつくる磁界がコイルを貫いて、電流の変化に比例した電圧が出る。鉄心がないから飽和しない。数十kAの大電流でも、パワー半導体の数ナノ秒のスイッチングでも、線形に測れるのが強みなんだ。
出力電圧と相互インダクタンス
巻数 $N$、断面が内半径 $a$・外半径 $b$・高さ $h$ の長方形で、一様に巻かれたコイルの出力は次のとおり。
$N=500$、$a=50$ mm、$b=60$ mm、$h=10$ mm なら $M \approx 182$ nH。
| 被測定電流 | コイル出力 |
|---|---|
| 50 Hz・1000 A(実効値) | 約57 mV(実効値) |
| 立ち上がり 1 kA/μs | 約182 V |
同じコイルなのに、商用周波数では数十mV、スイッチングでは100 V を超えるんですね。
出力は $di/dt$ で決まるからね。商用周波数の測定なら巻数を増やして感度を上げたいし、パワーエレクトロニクスなら逆に $M$ を小さくしないと、後段の回路の入力範囲を超えてしまう。用途によって設計の方向が正反対になるのが、このセンサのおもしろいところだよ。
なぜ導体の位置によらないのか
一様に巻かれた閉じたコイルは、磁界をコイルの経路に沿って積分したもの(アンペールの法則の左辺)を測っていることになる。だから中を通る電流の合計だけで出力が決まり、導体がどこにあっても、外に導体があっても出力は変わらない。この理想が崩れるのは、巻線が不均一なときと、輪が閉じていないとき(クランプ式のつなぎ目)だ。
「磁気電圧」を測る道具として生まれた
ロゴスキーコイルの名前は、ドイツの電気工学者ヴァルター・ロゴフスキーに由来する。1912年にシュタインハウスと共著で発表した論文は、電流の測定ではなく、空間の2点間の「磁気電圧」(磁界の線積分)を測るための細長いコイルを扱っていた。これを輪に閉じれば中を通る電流が測れる、というのがアンペールの法則そのもので、この使い方が後に電流センサとして定着した。
設計計算:積分器と帯域
積分器
出力を「1000 A あたり1 V」にしたいなら $RC = M/10^{-3} \approx 182$ μs。抵抗とコンデンサだけの受動積分器は、$1/(2\pi RC) \approx 873$ Hz より十分高い周波数でしか積分器として働かないため、50 Hz の測定には演算増幅器を使う能動積分器が必要になる。
能動積分器にも弱点がある。入力に少しでも直流のずれがあると、それを積分して出力がどんどん流れていく(ドリフト)。だから実際の積分器は、ごく低い周波数で積分をやめるように作られている。これがロゴスキーコイルで直流が測れない、もう一つの理由なんだ。
自己共振と帯域の上限
上のコイルの自己インダクタンスは $L = NM \approx 91$ μH。巻線間の浮遊容量が50 pF なら自己共振は約2.4 MHz、200 pF なら約1.2 MHz。使える帯域はこの共振よりかなり下になる。高速のスイッチング波形を見たいときは、巻数を減らしてインダクタンスを下げ、コイルを細く短くして浮遊容量を下げる。
| 比較項目 | ロゴスキーコイル | 変流器(鉄心あり) |
|---|---|---|
| 飽和 | なし | 大電流・直流重畳で飽和 |
| 直流 | 測れない | 測れない |
| 低周波の感度 | 小さい(積分器が必要) | 大きい |
| 高周波・急峻な電流 | 得意(自己共振まで) | 鉄心の損失と飽和で制約 |
| 取り付け | 柔軟で後付けしやすい | 導体を通す必要があることが多い |
電磁界解析で精度を評価する
計算例:つなぎ目のすき間による誤差
上と同じコイル(500巻、$a=50$ mm、$b=60$ mm)について、クランプ部に巻線のない角度範囲(すき間)がある場合を、無限長の直線導体からのビオ・サバールの式で1巻きずつ鎖交磁束を積分して計算した。値は、導体がコイルの中心にあるときの出力に対する変化率。
| すき間 | 導体を中心から30 mm すき間側へ | 導体を30 mm 反対側へ | 外部導体(すき間の近く80 mm) | 外部導体(反対側80 mm) |
|---|---|---|---|---|
| 0° | 0.00 % | 0.00 % | 0.00 % | 0.00 % |
| 5° | −1.72 % | +0.50 % | +3.08 % | −0.58 % |
| 10° | −3.39 % | +1.02 % | +5.87 % | −1.17 % |
すき間がなければ本当に0なんですね。でも10°あると、外の導体の電流まで5%以上拾ってしまう。
三相のケーブルが並んでいる盤の中では、この「外部導体のクロストーク」が一番効くことが多い。対策は、つなぎ目を隣の相から遠い向きにする、導体をコイルの中心に置く、つなぎ目に巻線を重ねてすき間を小さくする、の3つ。どの位置で何%ずれるかは、こういう計算か、導体を動かしながらの校正で確かめておくといい。
有限要素法でのモデル化
- 巻線を1本ずつモデル化する必要はない。コイル断面を「電流が流れない、磁束を拾うだけの領域」として扱い、各巻きの鎖交磁束の和から相互インダクタンスを求める。
- 周囲に鉄の構造物(盤の筐体、ブスバーの支持金具)があると、磁界の分布は変わるがアンペールの法則は成り立つので、閉じたコイルなら影響は小さい。影響が出るのはすき間があるときで、鉄の近くのすき間は誤差を大きくする。
- 高周波では、被測定導体の表皮効果や近接効果で電流分布が偏る。導体が中心にあってもすき間があれば誤差は周波数で変わるので、必要な周波数で渦電流解析を行う。
- 帯域を評価するときは、巻線の浮遊容量を含む回路モデル(分布定数線路として扱うこともある)とつないで、自己共振の位置を確かめる。
「ノイズが乗る」の正体は電界
パワー半導体のスイッチング波形をロゴスキーコイルで測ると、電流と関係のないスパイクが乗ることがある。原因の多くは、数百V/ns で変化する導体の電圧が、コイルとの間の浮遊容量を通して電流を注入する「容量結合」だ。コイルに静電シールドを付ける、コイルを導体から少し離す、コイルの出力を差動で受ける、といった対策が効く。磁界ではなく電界の問題なので、磁界だけの解析では再現できない点に注意したい。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 受動積分器で商用周波数を測る | 積分されず位相も振幅もずれる | 能動積分器を使う |
| 急峻な電流で出力電圧を確認しない | 後段が飽和・破損 | $M\,di/dt$ の最大値を見積もる |
| つなぎ目を隣の相に向ける | クロストークで数%の誤差 | つなぎ目を隣接導体から遠ざける |
| 直流成分を含む電流を測る | 直流分が消えて波形がずれる | ホール素子などと組み合わせる |
| 自己共振付近の波形を信じる | リンギングを電流と誤認 | 帯域を確認し、必要なら巻数を減らす |
コイルの設計値を自分でも計算してみたいです。
コイルインダクタンス計算でコイルのインダクタンス、電磁誘導(ファラデーの法則)シミュレーターで電磁誘導の基本を確かめられるよ。鉄心を使う方式は変流器(CT)解析、直流まで測れる方式はホール効果センサ、磁束そのものを測るコイルはサーチコイルの記事にまとめてある。
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