伝熱 (Heat Transfer) — CAE用語解説
伝熱 (Heat Transfer) とは
伝熱って、要するに「熱が移動する」ことですよね? 具体的にどういうメカニズムがあるんですか?
伝熱には大きく3つの形態がある。伝導(conduction)は物質内を分子振動で熱が伝わるもの、対流(convection)は流体の移動に伴って熱が運ばれるもの、放射(radiation)は電磁波として真空中でも熱が伝わるもの。実際の工学問題ではこの3つが同時に起きていることが多いんだ。
3つ同時ですか! 例えばどんな場面で3つが同時に起きるんですか?
たとえばノートPCの冷却を考えてみよう。CPUの発熱はヒートシンクに伝導で伝わり、ファンが回って空気が対流でヒートシンクの熱を奪い、筐体表面からは放射でも少し放熱している。自動車のエンジンブロックなんかも同じで、3形態全部が絡んでくる。
伝導 (Conduction) — フーリエの法則
フーリエの法則って、伝導の基本法則ですよね? 数式で言うとどうなりますか?
フーリエの法則は1次元だとこうなる:
$$q = -k \frac{dT}{dx}$$$q$ は熱流束(W/m²)、$k$ は熱伝導率(W/(m·K))、$dT/dx$ は温度勾配。マイナスが付くのは、熱は必ず高温から低温へ流れるからだ。3次元だとベクトル形式で $\mathbf{q} = -k \nabla T$ になる。
$k$ の値って材料によってどれくらい違うんですか?
桁違いに変わるよ。銅は約400 W/(m·K)で抜群に熱を通すけど、空気は0.026くらい。断熱材だと0.02〜0.04程度。だから材料の $k$ 値を正確に入れないと、CAEの熱解析は全然違う結果になる。特に複合材料やガスケットなんかは要注意だ。
フーリエの法則から熱伝導方程式が導かれるんですよね?
そう。フーリエの法則をエネルギー保存と組み合わせると、熱伝導方程式が出てくる:
$$\rho c_p \frac{\partial T}{\partial t} = \nabla \cdot (k \nabla T) + \dot{q}_v$$$\rho$ は密度、$c_p$ は比熱、$\dot{q}_v$ は体積あたりの発熱率。FEMの熱解析ソルバーは基本的にこの方程式を離散化して解いているんだ。
対流 (Convection) — ニュートンの冷却法則
対流の基本式はニュートンの冷却法則ですよね?
そのとおり。式は非常にシンプルだ:
$$q = h (T_s - T_\infty)$$$T_s$ は固体表面の温度、$T_\infty$ は十分遠方の流体温度、$h$ は熱伝達係数(W/(m²·K))だ。ただし、このシンプルさの裏側に $h$ の決定という大問題が隠れている。
$h$ ってどうやって決めるんですか? 物性値表に載ってるわけじゃないですよね?
$h$ は流体の種類、流速、形状、流れの状態によって桁違いに変わる。大まかな目安を挙げると:
- 空気の自然対流:5〜25 W/(m²·K)
- 空気の強制対流:25〜250 W/(m²·K)
- 水の強制対流:100〜20,000 W/(m²·K)
- 沸騰水:2,500〜100,000 W/(m²·K)
実務ではNusselt数の経験的相関式を使うか、CFDで直接計算するかのどちらかだ。
Nusselt数は対流熱伝達の効率を表す無次元数で、$\mathrm{Nu} = hL/k_f$ だ。$k_f$ は流体の熱伝導率。ざっくり言うと「対流がないときの伝導に比べて、対流があると何倍効率よく熱が伝わるか」を示す。Nu=1なら対流の効果ゼロ、Nu=100なら対流のおかげで100倍の熱が移動しているということだ。
放射 (Radiation) — ステファン・ボルツマンの法則
放射は電磁波で熱が伝わるんですよね。ステファン・ボルツマンの法則ってどういう式ですか?
黒体(理想的な放射体)からの全放射エネルギーは:
$$E_b = \sigma T^4$$$\sigma = 5.67 \times 10^{-8}$ W/(m²·K⁴) がステファン・ボルツマン定数。実在の表面では放射率 $\varepsilon$(0〜1)が掛かるから:
$$E = \varepsilon \sigma T^4$$注目すべきは温度の4乗に比例するところ。温度が2倍になると放射は16倍になる。だから高温になればなるほど放射の影響が支配的になるんだ。
温度の4乗ってすごいですね… 2つの面の間の放射熱交換はどう書くんですか?
2つの面の間の正味放射熱交換は:
$$q_{12} = \varepsilon \sigma F_{12} A_1 (T_1^4 - T_2^4)$$$F_{12}$ がビュー係数(形態係数)で、面1から出た放射のうち面2に到達する割合だ。CAEではこのビュー係数の計算が結構面倒で、複雑な形状だとモンテカルロ法で数値的に求めることが多い。鋳造の金型冷却や宇宙機の熱設計では放射の正確なモデリングが必須だよ。
宇宙では真空だから伝導も対流もないですもんね。放射だけで熱制御するんだ…
そのとおり。人工衛星の熱設計は放射が主役。太陽に面した側は灼熱で反対側は極低温になるから、ヒートパイプと放射パネルで温度を均一化する。これは典型的な放射支配の伝熱問題だね。
共役熱伝達 (CHT)
CAEで伝導・対流・放射を全部考慮するにはどうすればいいんですか?
それが共役熱伝達(Conjugate Heat Transfer, CHT)と呼ばれるアプローチだ。固体領域は熱伝導方程式、流体領域はNavier-Stokes+エネルギー方程式を同時に解いて、界面で温度と熱流束の連続条件を満たす:
$$T_{\text{solid}} = T_{\text{fluid}} \quad \text{(温度連続)}$$ $$-k_s \frac{\partial T}{\partial n}\bigg|_{\text{solid}} = -k_f \frac{\partial T}{\partial n}\bigg|_{\text{fluid}} \quad \text{(熱流束連続)}$$$h$ を仮定する必要がないから、複雑な流れ場でも精度が高い。
CHTって計算コストが高そうですね。全部の問題でやるべきなんですか?
確かにコストは高い。だから使い分けが大事だ。単純な平板の冷却なら経験式で $h$ を決めて熱伝導解析だけでも十分。でもガスタービンブレードの冷却設計やエンジンの排気マニホールドみたいに、流れと温度が強く結合する問題ではCHTが必須になる。AnsysのFluent、STAR-CCM+、OpenFOAMのchtMultiRegionFoamあたりが定番のCHTソルバーだよ。
CAEにおける伝熱解析
CAEで熱解析をするときに、まず何を考えればいいんですか?
熱応力解析とかもあるんですよね? 伝熱と構造を連成させるってこと?
そう。温度変化があると材料は膨張・収縮するから、そこに拘束があれば熱応力が発生する。まず熱解析で温度分布を求めて、その温度場を構造解析にマッピングして応力を計算する。これを弱連成(one-way coupling)と呼ぶ。逆に変形が温度場に影響するケース(例えば接触面のギャップ変化で接触熱抵抗が変わる場合)は強連成(two-way coupling)が必要になる。エンジンのシリンダーヘッドのガスケット設計なんかが典型的な強連成問題だ。
関連用語
- フーリエの法則 — 熱伝導の基本法則
- ニュートンの冷却法則 — 対流熱伝達の基本式
- ステファン・ボルツマンの法則 — 放射の基本法則
- 熱伝導率 — 物質が熱を伝える能力
- 熱伝達係数 — 対流の強さを表す係数
- Nusselt数 — 対流熱伝達の無次元数
- ビオ数 — 内外熱抵抗の比
- 共役熱伝達 (CHT) — 固体-流体の連成解析
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