全体ラグランジュ法と更新ラグランジュ法
全体ラグランジュ法と更新ラグランジュ法の理論基礎
TL法とUL法
先生、全体ラグランジュ法(TL)と更新ラグランジュ法(UL)の違いを教えてください。
どちらも大変形の定式化だが、基準配置が異なる。
| 特性 | TL法 | UL法 |
|---|---|---|
| 基準配置 | 初期配置($t=0$) | 直前の収束配置 |
| ひずみ尺度 | Green-Lagrangeひずみ $E_{ij}$ | 対数ひずみ(Euler-Almansiの変形版) |
| 応力尺度 | 第2Piola-Kirchhoff応力 $S_{ij}$ | Cauchy応力 $\sigma_{ij}$ |
| 剛性マトリクスの構成 | 初期配置で積分 | 現配置で積分 |
「初期配置を基準」にするか「現在の配置を基準」にするかの違いですね。
正しく実装されていれば両者は同じ解を与える。計算効率と実装の都合で使い分ける。AbaqusはUL、NastranのSOL 106はTL的。
まとめ
要点:
- TL法 — 初期配置基準。Green-Lagrangeひずみ。NastranのSOL 106
- UL法 — 現配置基準。Cauchy応力。Abaqusのデフォルト
- 正しく実装されれば同じ結果 — 基準配置の選択は数値効率の問題
- ユーザーは「NLGEOM=YES」を設定するだけ — TL/ULの選択はソルバー内部
Lagrange・EulerのFEM二分法
有限変形FEMの定式化はTotal Lagrangian(TL)とUpdated Lagrangian(UL)の二系統がある。TLは初期(参照)配置を基準にした積分で、変形勾配テンソルFを使い有限ひずみを正確に表現する。ULは現在配置基準で毎ステップ更新する。超弾性材料(ゴム)にはTL、金属大変形(接触あり)にはULが適している。この使い分けの確立はMalvern・Ogden・Simo(1980〜90年代)の成果だ。
全体ラグランジュ法と更新ラグランジュ法の数値計算手法
定式化の詳細
TL法の仮想仕事の原理(弱形式):
UL法:
TL法は全て初期体積$V_0$、UL法は現体積$V$で積分するんですね。
積分領域の違いが計算コストに影響。TL法はGreen-Lagrangeひずみの計算が複雑、UL法は配置の更新が必要。
まとめ
Second Piola-Kirchhoff応力の使い方
Total Lagrangian定式化では「第2 Piola-Kirchhoff応力S」と「Green-Lagrangeひずみε」の共役ペアを使う。SはCauchy応力とは異なり、変形後の面積に基準前の配置を対応させた「参照配置基準の名義応力」だ。初期配置基準のため材料定数テンソルC(弾性テンソル)が変形によらず一定なのが特徴で、超弾性Mooney-RivlinモデルのFEM実装に自然に適合する。
全体ラグランジュ法と更新ラグランジュ法の実務適用
実務での使い分け
ユーザーがTL/ULを意識する場面は稀。ソルバーのデフォルトに任せるのが最善。
実務チェックリスト
タイヤの転がりFEM解析へのTL適用
子午断面タイヤ(ラジアルタイヤ)の接地変形はゴムが100%以上伸びる超弾性大変形であり、Total Lagrangian定式化が必須だ。Bridgestoneは1980年代からTL定式化のFEMでタイヤ接地面形状・接触圧・転がり抵抗を予測し、2000年代には解析精度90%(実測比)を実現した。現在はTL定式化にMullins効果(軟化)とクリープを加えた多機能解析が標準となっている。
全体ラグランジュ法と更新ラグランジュ法のソフトウェア比較
ツール
選定ガイド
TL/ULの選択でソルバーを選ぶ必要はない。全ソルバーが大変形に対応。
Marc特殊超弾性要素と大変形
MSC MarcはもともとゴムのTotal Lagrangian解析に特化して開発されたFEMコードで、Ogden・Mooney-Rivlin・Neo-Hookean・Yeohなどの超弾性モデルを標準実装している。Marcの「Hyperelastic大変形要素」は要素反転を自動検知し荷重ステップを自動的に細かく調整する「Adaptive stepping」機能を持つ。コンチネンタル社はタイヤ設計全工程にMarcを使い続けており、50年以上の大変形FEM実績を持つ。
全体ラグランジュ法と更新ラグランジュ法の先端研究
先端研究
Bio-FEM:軟組織のTotal Lagrangian定式化
生体軟組織(心筋・靭帯・動脈壁)は25〜80%の生理的ひずみ範囲で働く超弾性体で、Total Lagrangian定式化が欠かせない。HolzapfelらのFiber-Reinforced超弾性モデル(2000年)は筋繊維方向を考慮したひずみエネルギー関数をTL定式化に組み込み、心臓のFEM収縮シミュレーションの精度を大幅に向上させた。ハートウェアのステント設計でも採用されている。
全体ラグランジュ法と更新ラグランジュ法のトラブル対応
トラブル
TL解析で負のヤコビアンが発生する場合
Total Lagrangian解析で要素のヤコビアン行列式が負になる(Negative Jacobian)場合、要素が反転するほどの大変形が生じている。対策は①荷重増分ステップを細かく(1/10以下)②Adaptive meshingの使用③Reduced Integrationから完全積分への変更④要素タイプをHexからTetに変更の順に試す。ゴム解析では特にPoisson比ν=0.499(ほぼ非圧縮)では体積ロッキングが生じやすく、Hybrid要素(Abaqus C3D8H)が必須だ。
関連トピック
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