全体ラグランジュ法と更新ラグランジュ法

カテゴリ: 構造解析 | 統合版 2026-04-06
CAE visualization for total lagrangian theory - technical simulation diagram
全体ラグランジュ法と更新ラグランジュ法

全体ラグランジュ法と更新ラグランジュ法の理論基礎

TL法とUL法

🙋

先生、全体ラグランジュ法(TL)と更新ラグランジュ法(UL)の違いを教えてください。


🎓

どちらも大変形の定式化だが、基準配置が異なる


特性TL法UL法
基準配置初期配置($t=0$)直前の収束配置
ひずみ尺度Green-Lagrangeひずみ $E_{ij}$対数ひずみ(Euler-Almansiの変形版)
応力尺度第2Piola-Kirchhoff応力 $S_{ij}$Cauchy応力 $\sigma_{ij}$
剛性マトリクスの構成初期配置で積分現配置で積分
🙋

「初期配置を基準」にするか「現在の配置を基準」にするかの違いですね。


🎓

正しく実装されていれば両者は同じ解を与える。計算効率と実装の都合で使い分ける。AbaqusはUL、NastranのSOL 106はTL的。


まとめ

🎓

要点:


  • TL法 — 初期配置基準。Green-Lagrangeひずみ。NastranのSOL 106
  • UL法 — 現配置基準。Cauchy応力。Abaqusのデフォルト
  • 正しく実装されれば同じ結果 — 基準配置の選択は数値効率の問題
  • ユーザーは「NLGEOM=YES」を設定するだけ — TL/ULの選択はソルバー内部

Coffee Break よもやま話

Lagrange・EulerのFEM二分法

有限変形FEMの定式化はTotal Lagrangian(TL)とUpdated Lagrangian(UL)の二系統がある。TLは初期(参照)配置を基準にした積分で、変形勾配テンソルFを使い有限ひずみを正確に表現する。ULは現在配置基準で毎ステップ更新する。超弾性材料(ゴム)にはTL、金属大変形(接触あり)にはULが適している。この使い分けの確立はMalvern・Ogden・Simo(1980〜90年代)の成果だ。

全体ラグランジュ法と更新ラグランジュ法の数値計算手法

定式化の詳細

🎓

TL法の仮想仕事の原理(弱形式):


$$ \int_{V_0} S_{ij} \delta E_{ij} dV_0 = \int_{V_0} \rho_0 b_i \delta u_i dV_0 + \int_{\partial V_0} T_i \delta u_i dA_0 $$

UL法:

$$ \int_V \sigma_{ij} \delta \varepsilon_{ij} dV = \int_V \rho b_i \delta u_i dV + \int_{\partial V} t_i \delta u_i dA $$

🙋

TL法は全て初期体積$V_0$、UL法は現体積$V$で積分するんですね。


🎓

積分領域の違いが計算コストに影響。TL法はGreen-Lagrangeひずみの計算が複雑、UL法は配置の更新が必要。


まとめ

🎓
  • TL法 — 初期体積で積分。ひずみの計算がやや複雑
  • UL法 — 現体積で積分。配置を毎ステップ更新
  • ソルバー内部の選択 — ユーザーはNLGEOM=YESで良い

  • Coffee Break よもやま話

    Second Piola-Kirchhoff応力の使い方

    Total Lagrangian定式化では「第2 Piola-Kirchhoff応力S」と「Green-Lagrangeひずみε」の共役ペアを使う。SはCauchy応力とは異なり、変形後の面積に基準前の配置を対応させた「参照配置基準の名義応力」だ。初期配置基準のため材料定数テンソルC(弾性テンソル)が変形によらず一定なのが特徴で、超弾性Mooney-RivlinモデルのFEM実装に自然に適合する。

    全体ラグランジュ法と更新ラグランジュ法の実務適用

    実務での使い分け

    🎓

    ユーザーがTL/ULを意識する場面は稀。ソルバーのデフォルトに任せるのが最善。


    実務チェックリスト

    🎓
    • [ ] NLGEOM=YESが設定されているか(大変形オプション)
    • [ ] 応力の出力がCauchy応力(真応力)か公称応力か確認
    • [ ] ひずみの出力が対数ひずみか工学ひずみか確認
    • [ ] 大変形の結果が物理的に妥当か(変位、応力のオーダー)

    • Coffee Break よもやま話

      タイヤの転がりFEM解析へのTL適用

      子午断面タイヤ(ラジアルタイヤ)の接地変形はゴムが100%以上伸びる超弾性大変形であり、Total Lagrangian定式化が必須だ。Bridgestoneは1980年代からTL定式化のFEMでタイヤ接地面形状・接触圧・転がり抵抗を予測し、2000年代には解析精度90%(実測比)を実現した。現在はTL定式化にMullins効果(軟化)とクリープを加えた多機能解析が標準となっている。

      全体ラグランジュ法と更新ラグランジュ法のソフトウェア比較

      ツール

      🎓
      • Abaqus: UL法ベース。NLGEOM=YES
      • Nastran SOL 106: TL法ベース
      • Nastran SOL 400: UL法も対応
      • Ansys: UL法ベース。NLGEOM, ON
      • LS-DYNA: UL法(陽解法は自動的に大変形)

      • 選定ガイド

        🎓

        TL/ULの選択でソルバーを選ぶ必要はない。全ソルバーが大変形に対応。


        Coffee Break よもやま話

        Marc特殊超弾性要素と大変形

        MSC MarcはもともとゴムのTotal Lagrangian解析に特化して開発されたFEMコードで、Ogden・Mooney-Rivlin・Neo-Hookean・Yeohなどの超弾性モデルを標準実装している。Marcの「Hyperelastic大変形要素」は要素反転を自動検知し荷重ステップを自動的に細かく調整する「Adaptive stepping」機能を持つ。コンチネンタル社はタイヤ設計全工程にMarcを使い続けており、50年以上の大変形FEM実績を持つ。

        全体ラグランジュ法と更新ラグランジュ法の先端研究

        先端研究

        🎓
        • TL法のSPH/MPM実装 — メッシュフリー法での大変形定式化
        • 混合TL-UL法 — 要素ごとにTL/ULを切り替える適応的手法
        • IGAの大変形 — NURBS基底での大変形。形状精度と大変形の両立

        • Coffee Break よもやま話

          Bio-FEM:軟組織のTotal Lagrangian定式化

          生体軟組織(心筋・靭帯・動脈壁)は25〜80%の生理的ひずみ範囲で働く超弾性体で、Total Lagrangian定式化が欠かせない。HolzapfelらのFiber-Reinforced超弾性モデル(2000年)は筋繊維方向を考慮したひずみエネルギー関数をTL定式化に組み込み、心臓のFEM収縮シミュレーションの精度を大幅に向上させた。ハートウェアのステント設計でも採用されている。

          全体ラグランジュ法と更新ラグランジュ法のトラブル対応

          トラブル

          🎓
          • TL/ULの選択でトラブルが起きることは稀 — ソルバーのデフォルトに任せる
          • 応力/ひずみの出力形式に注意 — Cauchy vs. PK2, 対数ひずみ vs. Green-Lagrange
          • 大変形の一般的なトラブル → large-deformationのトラブルシューティングを参照

          • Coffee Break よもやま話

            TL解析で負のヤコビアンが発生する場合

            Total Lagrangian解析で要素のヤコビアン行列式が負になる(Negative Jacobian)場合、要素が反転するほどの大変形が生じている。対策は①荷重増分ステップを細かく(1/10以下)②Adaptive meshingの使用③Reduced Integrationから完全積分への変更④要素タイプをHexからTetに変更の順に試す。ゴム解析では特にPoisson比ν=0.499(ほぼ非圧縮)では体積ロッキングが生じやすく、Hybrid要素(Abaqus C3D8H)が必須だ。

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