材料力学の基礎 — 弾塑性・疲労・破壊力学からCAE材料モデルまで
材料力学は、外力を受けた固体材料がどのように変形・破壊するかを記述する学問です。CAEによる構造解析の精度は「材料モデルの適切な選択」に大きく依存します。線形弾性だけで済む問題は実は少なく、多くの実務問題は塑性・クリープ・疲労・破壊を考慮する必要があります。本稿では、材料挙動の基礎物理から、CAEソルバーで実際に使われる構成則・数値アルゴリズムまでを体系的に解説します。
1. 応力-ひずみ曲線の読み方
工学応力-工学ひずみ vs 真応力-真ひずみ
引張試験のグラフで「工学応力」と「真応力」の2種類が出てきて、どっちを使えばいいか迷います。何が違うんですか?
工学応力 $s = F/A_0$(元の断面積 $A_0$ で割る)は測定しやすいが、大変形時に実際の応力を表せない。試験片が細くなる(ネッキング)と元の断面積で割っては誤りになるからだ。真応力は $\sigma_{true} = F/A_{current}$(今の断面積で割る)で、体積一定の仮定 $A_0 L_0 = A \cdot L$ を使うと:
- 真応力:$\sigma_{true} = s(1+e)$
- 真ひずみ:$\varepsilon_{true} = \ln(1+e)$
ここで $e = (L-L_0)/L_0$ が工学ひずみだ。大変形や塑性解析では必ず真応力-真ひずみを使う。Abaqus・Ansys・Marc等のFEMソルバーへの材料入力も真応力-真ひずみで入力するのが基本だよ。
応力-ひずみ曲線の各特性点
典型的な低炭素鋼の引張試験曲線を例に、各特性点を解説します:
| 特性点/領域 | 記号 | 低炭素鋼の代表値 | 物理的意味 | CAEでの扱い |
|---|---|---|---|---|
| 弾性域 | $E$(ヤング率) | 206 GPa | 完全可逆の線形変形 | フックの法則 $\sigma = E\varepsilon$ |
| 比例限度 | $\sigma_p$ | 〜200 MPa | 線形性が保たれる最大応力 | 弾性域の上限 |
| 弾性限度 | $\sigma_e$ | $\approx \sigma_p$ | 除荷すると元に戻る最大応力 | 弾塑性境界 |
| 上降伏点 | $\sigma_{YU}$ | 250〜300 MPa | 最初に塑性変形が始まる点(不連続降伏) | 低炭素鋼特有。von Mises等では省略 |
| 下降伏点 | $\sigma_{YL}$ | 220〜280 MPa | Lüders帯が発生・伝播 | CAEの降伏応力として使う |
| 加工硬化域 | — | 〜600 MPa(最終強度) | 転位密度増加による強化 | 硬化則で表現(等方/移動/複合) |
| 最終引張強さ | $\sigma_{UTS}$ | 400〜600 MPa | ネッキング開始点(工学応力最大) | 成形限界・破断判定の基準 |
| 破断 | $\varepsilon_f$(破断伸び) | 20〜40% | 延性破断 | 最大相当塑性ひずみ基準 |
各材料の特徴的な挙動
CFRP(炭素繊維強化プラスチック)の応力-ひずみ曲線を見たら鉄と全然形が違うんですが、あれをどうCAEに入れればいいんですか?
CFRPの最大の特徴は「線形弾性のまま突然破断する」こと。金属みたいな塑性変形がほとんどなく、エネルギー吸収能力が低い。だから衝突安全の観点では金属より不利な面もある。
CAEでの扱いは材料の異方性と破断則が鍵だ:
- 弾性特性:繊維方向($E_1$)と横方向($E_2$)が全く違う異方性弾性体(直交異方性)として扱う
- 破断則:Tsai-Wu則やHashin則で各モード(繊維破断・マトリックスき裂・デラミネーション)ごとの破壊を予測
- 漸進的損傷モデル:破断後の剛性低下を段階的にモデル化する
ゴムの場合は超弾性(Neo-Hookean・Mooney-Rivlin・Ogden則)で記述する別のカテゴリになるよ。
| 材料 | ヤング率 E | 降伏応力 | 破断伸び | 応力-ひずみ曲線の特徴 | 主要CAEモデル |
|---|---|---|---|---|---|
| 低炭素鋼 | 206 GPa | 250〜350 MPa | 20〜40% | 明瞭な降伏点(上・下)、加工硬化、延性破断 | 弾塑性(等方/移動硬化) |
| 高強度鋼(HT780) | 206 GPa | 780 MPa以上 | 12〜18% | 明瞭な降伏点なし(0.2%耐力使用)、低延性 | 弾塑性、疲労・破壊考慮 |
| アルミ合金(A6061-T6) | 69 GPa | 276 MPa | 12% | 明瞭な降伏点なし、加工硬化は小さい | 弾塑性(移動硬化) |
| CFRP(UD, 繊維方向) | 135〜250 GPa | —(降伏なし) | 1〜2%(突然破断) | 線形弾性のみ。強い異方性 | 直交異方性弾性 + 破断則 |
| 天然ゴム | 0.001〜0.01 GPa | — | 500〜800% | 高度に非線形な超弾性、ヒステリシス | 超弾性(Mooney-Rivlin等) |
| コンクリート | 20〜35 GPa | 引張:2〜5 MPa(弱い) | 極めて小さい(脆性) | 引張は脆性破断、圧縮は非線形 | Drucker-Prager、損傷塑性 |
2. 弾塑性材料モデル
降伏条件(Yield Criterion)
「von Mises降伏条件」ってよく聞くんですが、これって何を言ってる式なんですか?
ざっくり言うと「材料が降伏するのは、応力状態の『形を変えようとする成分』が一定値を超えたとき」という条件だ。多軸応力状態でも引張試験の1軸データと比較できる「相当応力」を定義している。
von Mises の相当応力(von Mises stress)は:
$\sigma_{VM} = \sqrt{\frac{(\sigma_1-\sigma_2)^2 + (\sigma_2-\sigma_3)^2 + (\sigma_3-\sigma_1)^2}{2}}$
で、これが引張試験の降伏応力 $\sigma_Y$ に達したとき降伏する。CAEのコンター図でよく見る「von Mises応力」はこれのことだ。現場で「赤いところがやばい」って見てる等価応力もこれ。金属の塑性変形は体積変化なし(静水圧には感応しない)のでvon Misesがよく合う。
ここで $s_{ij} = \sigma_{ij} - \frac{1}{3}\sigma_{kk}\delta_{ij}$ は偏差応力テンソルです。
Tresca降伏条件(最大せん断応力説):
Tresca は von Mises より保守的(von Mises 降伏面の内接六角形)で、約15%小さい降伏面を与えます。
Drucker-Prager降伏条件(摩擦材料:コンクリート・岩石・土):
ここで $I_1 = \sigma_{ii}$ は第1応力不変量(静水圧成分)、$J_2 = \frac{1}{2}s_{ij}s_{ij}$ は第2偏差応力不変量です。内摩擦角 $\phi$ と粘着力 $c$ から $\alpha$, $k$ が決まります。コンクリートや地盤の解析に必須です。
硬化則:等方硬化・移動硬化・複合硬化
「等方硬化」と「移動硬化」って何が違うんですか?どっちを使えばいいかわからなくて。
降伏面が「どう変化するか」の違いだ。
- 等方硬化(Isotropic Hardening):降伏面が中心は変えずに膨らむ。引張で硬化すると圧縮方向の降伏応力も上がる。単調増加荷重(1方向の引張・圧縮)ならこれで十分
- 移動硬化(Kinematic Hardening):降伏面の中心が移動する。引張で硬化すると、反転して圧縮したとき降伏が早くなる(バウシンガー効果)。繰り返し荷重・疲労では必須
- 複合硬化(Combined Hardening):両者を組み合わせる。実際の金属の繰り返し挙動はこれに近い
自動車の軽量化では高強度鋼のプレス成形でバウシンガー効果が無視できない。スプリングバックの予測精度に直結するから、移動硬化モデルが重要だよ。
等方硬化の場合、降伏応力は相当塑性ひずみ $\bar{\varepsilon}^p$ の関数として増加します:
Voce硬化則(指数型):
関連流れ則と塑性ポテンシャル
降伏後の塑性ひずみ増分の方向は、降伏曲面の法線方向(関連流れ則)で決まります:
ここで $d\lambda \geq 0$ は塑性乗数(consistency conditionから決定)です。von Mises降伏条件に関連流れ則を適用すると:
これは塑性ひずみが偏差応力に比例することを示します(Prandtl-Reussの関係)。
応力更新アルゴリズム(リターンマッピング)
CAEの弾塑性解析では、各増分ステップで応力を降伏面に戻す「リターンマッピング法」が使われます:
- 弾性予測(Elastic Predictor):すべて弾性と仮定して試行応力 $\boldsymbol{\sigma}^{trial} = \boldsymbol{\sigma}^n + \mathbf{C}:\Delta\boldsymbol{\varepsilon}$ を計算
- 降伏判定(Yield Check):$f(\boldsymbol{\sigma}^{trial}) > 0$ なら降伏が発生
- 塑性補正(Plastic Corrector):Newton-Raphson法でリターンマッピング方程式を解き、正しい応力 $\boldsymbol{\sigma}^{n+1}$ と $\Delta\lambda$ を求める
3. クリープと粘弾性
クリープの3段階
クリープって「高温で時間とともに変形が進む現象」ですよね。ガスタービンのCAEでよく出てくると聞きましたが、どれくらいの温度から考えなきゃいけないんですか?
クリープが顕著になるのは融点の40〜50%以上の温度が目安だ。鉄(融点1538℃)なら絶対温度で融点の40%は約500℃以上から、アルミ(融点660℃)なら約150℃以上から問題になる可能性がある。
ガスタービンの動翼は燃焼ガス温度1400〜1600℃にさらされる。Ni基超合金を使っても融点の85〜90%という過酷な条件で、寿命はクリープが支配する。だから航空エンジンメーカーは内部冷却構造と熱遮蔽コーティング(TBC)で材料温度を下げる設計を徹底してるわけだよ。
クリープひずみ-時間曲線は一般に3段階に分かれます:
| 段階 | 名称 | 特徴 | 物理メカニズム |
|---|---|---|---|
| 第I段階 | 遷移クリープ(減速クリープ) | ひずみ速度が減少 | 転位密度増加による加工硬化が進行 |
| 第II段階 | 定常クリープ(二次クリープ) | ひずみ速度が一定(最小) | 加工硬化と回復のバランス。設計上最重要 |
| 第III段階 | 加速クリープ(三次クリープ) | ひずみ速度が加速 | ボイド形成・微小き裂発生・断面積減少で不安定化→破断 |
ノートン則(二次クリープ)
定常クリープのひずみ速度はノートン則(Power Law Creep)で表されます:
ここで $A$:材料定数、$n$:応力指数(金属で3〜10程度)、$Q$:活性化エネルギー [J/mol]、$R$:気体定数 [8.314 J/(mol·K)]、$T$:絶対温度です。高温・高応力ほどクリープ速度が急増することを示します。
粘弾性モデル
ポリマー(樹脂)やゴムは、時間と共に応力が緩和(応力緩和)したり、ひずみが増大(クリープ)したりする粘弾性挙動を示します。
マクスウェルモデル(スプリング + ダッシュポットの直列):応力緩和に適した1次モデル
ケルビン-フォイクトモデル(スプリング + ダッシュポットの並列):クリープに適した1次モデル
実際の材料は広い時間スケールでスペクトル的な応答を示すため、Prony級数展開(マクスウェルモデルの並列接続)を使います:
4. 疲労破壊の基礎
疲労破壊のメカニズム
先生、疲労破壊って「繰り返し荷重で静的強度より低い応力で壊れる」ってことですよね。なんでそうなるんですか?
メカニズムは3段階で理解すると整理しやすい:
- き裂発生(Initiation):応力集中部(表面の機械加工傷・介在物・溶接止端)で局所的な塑性ひずみが繰り返し蓄積し、材料の結晶学的すべり面に微小き裂が発生する(数μm程度)
- き裂伝播(Propagation):き裂先端の応力集中でサイクルごとに少しずつ進展。この段階で「疲労縞(ストライエーション)」が破面に形成される。一回あたりの進展量は Paris 則で表現
- 最終破断(Final Fracture):き裂が臨界長さに達して不安定破壊
自動車の車軸やクランクシャフトの疲労破壊事故の多くは、設計時に考慮されていなかった振動応力(路面からの不規則入力)によるものだ。疲労寿命の90%がき裂発生段階に費やされる高サイクル疲労(HCF)と、50%以上が伝播段階の低サイクル疲労(LCF)では、設計アプローチが違う。
S-N曲線(高サイクル疲労)
横軸に繰り返し回数 $N$、縦軸に応力振幅 $\sigma_a$ をプロットしたS-N曲線(Wöhler曲線)は疲労設計の基本ツールです。
Basquin則による S-N 曲線の表式:
ここで $\sigma_f'$:疲労強度係数、$b$:Basquin指数(通常 -0.05〜-0.12)、$N_f$:破断繰り返し数です。
鉄鋼材料には疲労限度($N > 10^6\sim10^7$ サイクルで破断しない応力振幅の下限)が存在します:
アルミ合金・銅合金などの非鉄金属には明確な疲労限度がなく、$10^7$〜$10^8$ サイクルでの疲労強度(条件付き疲労限度)を使います。
Goodmanダイアグラムと平均応力効果
「平均応力」って何ですか?繰り返し荷重でも「引っ張り続ける」と疲労に不利になるってことですか?
まさにそう。繰り返し荷重の「平均的なレベル」を平均応力 $\sigma_m = (\sigma_{max}+\sigma_{min})/2$ という。引っ張り側に平均応力があると($\sigma_m > 0$)、き裂が開いた状態で繰り返すことになるから疲労寿命が短くなる。圧縮側の平均応力($\sigma_m < 0$)はき裂を閉じるから逆に有利になる。
Goodman線図は横軸に平均応力、縦軸に許容応力振幅をプロットして、安全域と危険域を分ける図だ。修正Goodman則:$\frac{\sigma_a}{\sigma_w} + \frac{\sigma_m}{\sigma_{UTS}} = 1$(設計の安全線)。実際の部品設計では、プレストレス(残留圧縮応力を導入するショットピーニング)で $\sigma_m$ を有利な方向に変えることもよくやる。
修正Goodman則(直線型):
Gerber則(放物線型、延性材料でよく合う):
ASME楕円則(Soderberg則より非保守的、Goodmanより保守的):
マイナー則による累積損傷
実際の荷重は一定振幅でなく、複数の応力レベルが混在します。Miner則(線形累積損傷則):
ここで $n_i$:応力レベル $i$ での実際の繰り返し回数、$N_{f,i}$:同応力レベルでの破断繰り返し数です。$D = 1$ で破断が予測されますが、実際には $D_{cr} = 0.5\sim2$ の散布があります。荷重順序(高→低 vs 低→高)の影響もあり、あくまで近似則として扱うべきです。
ε-N曲線(低サイクル疲労)
$N_f < 10^4$ サイクルの低サイクル疲労(LCF:熱疲労・大変形繰り返し)では、塑性ひずみ振幅が支配的になるため Coffin-Manson則を使います:
第1項が弾性ひずみ振幅(高サイクルで支配)、第2項が塑性ひずみ振幅(低サイクルで支配)です。$\varepsilon_f'$:疲労延性係数、$c$:疲労延性指数(通常 -0.5〜-0.7)。
5. 破壊力学の基礎
Griffithのエネルギー解放率
破壊力学の「応力拡大係数 K」って何ですか?普通の応力と何が違うんですか?
通常の応力はどんな形状にも定義できる。でも「き裂先端に近い場所の応力場」は特別な形をしていて、き裂先端からの距離 $r$ に対して $\sigma \propto 1/\sqrt{r}$(特異性がある)。つまりき裂先端そのものでは応力が理論上無限大になる。
この「無限大の特異性」を有限の数で特徴づけるのが応力拡大係数 $K$ だ。$K$ は「き裂先端の応力場の強度」を表す唯一のパラメータで、き裂の形状・大きさ・荷重・境界条件をすべて含んだ集約量だ。$K$ が材料の破壊靭性 $K_{IC}$ に達したとき、き裂が不安定伝播して破断する。
具体例:航空機のアルミ外板にき裂があって、飛行荷重を受ける状況を考えると、き裂長さと荷重から $K$ を計算して $K < K_{IC}$ かどうかを確認するのが損傷許容設計(Damage Tolerance Design)だ。
応力拡大係数の定義と破壊モード
き裂先端近傍の応力場(極座標 $r$, $\theta$):
破壊モードと応力拡大係数:
| モード | 変位方向 | 応力拡大係数 | 代表例 |
|---|---|---|---|
| Mode I(開口型) | き裂面に垂直(引張) | $K_I = Y\sigma\sqrt{\pi a}$ | 引張荷重下の貫通き裂 |
| Mode II(面内せん断) | き裂方向(面内せん断) | $K_{II}$ | せん断荷重下のき裂 |
| Mode III(面外せん断) | き裂面外(ねじり) | $K_{III}$ | 軸のねじりき裂 |
ここで $Y$ は形状係数(通常1〜3の無次元数、FEMや表で求める)、$a$ はき裂長さです。複合荷重では有効 $K = \sqrt{K_I^2 + K_{II}^2 + K_{III}^2/(1-\nu)}$ を使います。
破壊靭性と平面ひずみ条件
破壊靭性 $K_{IC}$ は材料固有の定数(ASTM E399 による標準試験)です。平面ひずみ条件(板厚十分大きい)で成立:
| 材料 | $K_{IC}$ [MPa√m] | 降伏応力 $\sigma_Y$ [MPa] | 臨界き裂長さ $a_c$ [mm] |
|---|---|---|---|
| 高強度アルミ(7075-T651) | 23〜29 | 500 | ~0.7 |
| 構造用鋼(HT780) | 70〜80 | 780 | ~2.6 |
| チタン合金(Ti-6Al-4V) | 55〜65 | 880 | ~1.4 |
| Ni基超合金(IN718) | 100〜140 | 1100 | ~2.6 |
| セラミックス(アルミナ) | 3〜5 | —(脆性) | ~0.2 |
| CFRP(積層板, T300/5208) | 30〜60(実効値) | — | — |
J積分とエネルギー解放率
弾性域では $G = K^2/E'$($E' = E$ 平面応力, $E' = E/(1-\nu^2)$ 平面ひずみ)が成立します。弾塑性域では $J$積分が有効なパラメータです:
ここで $W = \int_0^{\varepsilon_{ij}} \sigma_{ij} d\varepsilon_{ij}$ は弾性ひずみエネルギー密度、$T_i = \sigma_{ij}n_j$ は表面力ベクトル、$\Gamma$ はき裂先端を囲む任意の経路です。$J$ 積分は経路非依存(Path Independent)であることが特長で、FEMでは複数の積分経路で計算して一致することを確認します。
Paris則によるき裂進展予測
疲労き裂進展速度は、応力拡大係数範囲 $\Delta K = K_{max} - K_{min}$ の関数としてParis則で表されます:
ここで $C$, $m$ は材料定数(ダブルログ直線の傾きと切片)です。実際のき裂進展曲線は3領域に分かれます:
| 領域 | $\Delta K$ の範囲 | 特徴 | Paris則の適用 |
|---|---|---|---|
| 第I領域(しきい値域) | $\Delta K < \Delta K_{th}$ | き裂が実質的に進展しない | 適用外 |
| 第II領域(安定伝播域) | $\Delta K_{th} \sim K_{IC}/2$ | log-log直線(Paris則が成立) | 適用可(設計基準) |
| 第III領域(不安定破壊域) | $\Delta K \to K_{IC}$ | 急速加速→不安定破壊 | 寿命の大部分はここで消費されない |
Paris則を初期き裂 $a_0$ から臨界き裂 $a_c$ まで積分して疲労寿命を予測できます:
6. 複合材料の力学
ルール・オブ・ミクスチャーと弾性係数
CFRPの弾性係数って繊維方向と横方向で全然違いますよね。「ルール・オブ・ミクスチャー」ってどうやって計算するんですか?
繊維体積比を $V_f$(繊維), $V_m = 1-V_f$(マトリックス)として:
- 繊維方向(軸方向)$E_1$:繊維とマトリックスが同じひずみ(Voigt境界)→直列バネが並列になるイメージで $E_1 = E_f V_f + E_m V_m$
- 横方向 $E_2$:同じ応力(Reuss境界)→直列バネのイメージで $1/E_2 = V_f/E_f + V_m/E_m$
カーボン繊維($E_f \approx 230$ GPa)とエポキシ樹脂($E_m \approx 3$ GPa)の例で $V_f = 0.6$ だと:$E_1 \approx 230\times0.6 + 3\times0.4 \approx 139$ GPa、$E_2 \approx 1/(0.6/230 + 0.4/3) \approx 7.5$ GPa。繊維方向と横方向で18倍以上の差がある。CFRPを等方性材料として解析したら全く意味がない結果になるよ。
積層板理論(CLT)とABD行列
多層CFRPの積層板では、各層の繊維角度が異なります。積層板の力学は古典積層板理論(CLT)で記述されます:
ここで:
- $\mathbf{N}$:面内力(単位幅あたり)、$\mathbf{M}$:曲げモーメント(単位幅あたり)
- $\varepsilon^0$:中立面ひずみ、$\kappa$:曲率
- $\mathbf{A}$:面内剛性行列($A_{ij} = \sum_k \bar{Q}_{ij}^k h_k$)
- $\mathbf{B}$:連成剛性行列(面内-曲げ連成。対称積層なら $\mathbf{B}=0$)
- $\mathbf{D}$:曲げ剛性行列($D_{ij} = \frac{1}{3}\sum_k \bar{Q}_{ij}^k (z_k^3 - z_{k-1}^3)$)
Tsai-Wuの複合材料破断則
各層のFail Index(破断指標)を評価します。Tsai-Wu則:
ここで $F_i = 1/X_t - 1/X_c$($X_t$:引張強さ, $X_c$:圧縮強さ)等は強度パラメータです。$F_I \geq 1$ で破断と判定します。
7. 材料試験とCAEへの実装
試験データからCAEパラメータへの変換
引張試験のデータをCAEソルバーに入力するとき、どんな形式で入力すればいいんですか?試験の生データをそのまま入れればいいわけじゃないですよね?
そのまま入れたら大抵間違いになる。主要な注意点はこう:
- 工学応力→真応力変換:降伏点より先は必ず真応力-真ひずみに変換してから入力する
- 弾性成分の除去:FEMに入れる塑性データは「塑性ひずみ $\varepsilon^p = \varepsilon_{total} - \sigma/E$」だけ。弾性成分を引いてから入力する(ソルバーが弾性は別に計算するから)
- ネッキング後の扱い:ネッキング(くびれ)が始まった後の工学応力-ひずみデータは3軸応力状態になるため、Bridgman補正などが必要
- 温度依存性:温度が変わると弾性係数・降伏応力・硬化則が全部変わる。高温解析では各温度での試験データが必要
| 試験方法 | 取得できる材料パラメータ | 主要規格 | CAEへの変換処理 |
|---|---|---|---|
| 単軸引張試験 | $E$, $\sigma_Y$, 硬化曲線 $\sigma(\varepsilon^p)$, $\sigma_{UTS}$, $\varepsilon_f$ | JIS Z2241, ASTM E8 | 工学→真応力変換、弾性成分除去 |
| 圧縮試験 | $E_c$, $\sigma_{Y,c}$, 圧縮硬化曲線 | JIS Z2206 | 摩擦補正(バレリング)が必要 |
| 曲げ試験(3点・4点) | 曲げ弾性率、曲げ強さ(特に脆性材料) | JIS K7171(樹脂) | 断面係数を通じた換算 |
| 繰り返し試験(疲労試験) | S-N曲線、$\sigma_w$、Basquin係数 | JIS Z2274, ASTM E466 | 応力比 $R = \sigma_{min}/\sigma_{max}$ の明示 |
| 破壊靭性試験(CT試験) | $K_{IC}$, Paris則定数 $C$, $m$ | ASTM E399, E647 | 平面ひずみ条件の確認 |
| クリープ試験 | Norton則 $A$, $n$, $Q$ | JIS Z2271 | 対数プロットで直線回帰 |
| DMA(動的粘弾性試験) | Prony級数係数 $E_i$, $\tau_i$ | ASTM D5023 | Time-Temperature Superposition |
逆解析によるパラメータ同定
試験データから材料パラメータを同定する際、単純な線形回帰が使えないケース(非線形硬化則・Prony級数・クリープ定数)では逆解析を使います:
ここで $\mathbf{p}$ が材料パラメータベクトル、$\mathbf{y}^{exp}$ が試験測定値、$\mathbf{y}^{FEM}(\mathbf{p})$ がCAE予測値です。Levenberg-Marquardt法・遺伝的アルゴリズムなどが使われます。
8. CAEでの材料モデル選択ガイド
| 解析の種類・目的 | 推奨材料モデル | 必要な材料データ | 計算コスト | 代表的なソルバー設定 |
|---|---|---|---|---|
| 弾性応力解析(変形量・固有値) | 線形等方性弾性体 | $E$, $\nu$ | 低 | Ansys Static Structural / Abaqus *ELASTIC |
| プレス成形・曲げ成形 | 弾塑性(等方+移動硬化)+ 異方性降伏(Hill 1948等) | $\sigma_Y(\varepsilon^p)$, r値、Lankford値 | 中〜高 | Abaqus *PLASTIC / Marc ISOTROPIC |
| 衝突・衝撃解析(自動車) | 弾塑性+ひずみ速度依存(Cowper-Symonds則)+破断判定 | 動的試験データ(SHTB法等) | 高(陽解法) | LS-DYNA MAT_024 / Abaqus *RATE DEPENDENT |
| 高温構造(タービン翼) | 弾塑性+クリープ(Norton則)+熱依存物性 | 各温度での $\sigma_Y$, $E$, クリープ定数 | 高(非定常) | Ansys *CREEP / Abaqus *CREEP |
| 疲労寿命評価 | 弾塑性(移動硬化)+疲労後処理 | S-N曲線, Goodman係数, $K_f$(疲労応力集中係数) | 中(Nコードで後処理) | nCode DesignLife / fe-safe / Ansys Fatigue |
| き裂進展解析 | 弾性/弾塑性 + XFEM or コヒーシブゾーン | $K_{IC}$, Paris則定数, $J_c$ | 高 | Abaqus XFEM / Ansys SMART crack growth |
| ゴム・エラストマー | 超弾性(Mooney-Rivlin / Ogden / Yeoh) | 単軸・二軸・平面引張の試験曲線 | 中(大変形) | Abaqus *HYPERELASTIC / Marc MOONEY |
| 樹脂(熱可塑性) | 粘弾性(Prony級数)または弾塑性 | DMAデータまたは引張試験(複数温度) | 中 | Abaqus *VISCOELASTIC |
| コンクリート・岩盤 | Drucker-Prager / Concrete Damage Plasticity | 圧縮・引張強度, 内摩擦角 | 中〜高 | Abaqus *DRUCKER PRAGER / *CONCRETE |
| CFRPシェル構造 | 直交異方性弾性 + 積層板理論 + Hashin則 | 各層の $E_1, E_2, G_{12}, \nu_{12}$, 強度データ | 中 | Abaqus *ELASTIC, TYPE=LAMINA / *FAIL RATIOS |
材料モデルって種類が多くて、どれを選べばいいか迷います。判断基準を一言でまとめてもらえますか?
3つの問いに答えると自然に絞れる:
- 「変形は可逆か(弾性)、それとも永久変形が残るか(塑性)?」:弾性なら線形弾性体で終わり。降伏応力を超えるなら弾塑性が必要
- 「温度と時間が重要か?」:常温・短時間なら不要。高温や長期荷重ならクリープ・粘弾性を追加
- 「破断・疲労・き裂が評価対象か?」:そうなら後処理(疲労評価ツール)または破壊力学モデルを追加
最も避けるべきミスは「線形弾性でいいところに弾塑性を使ってしまう」(計算コスト無駄)や「塑性が必要なのに線形のまま」(大きく間違った結果を信じてしまう)。まず線形弾性で解いて応力が降伏応力を超えていないか確認、超えていたら弾塑性に移行するのが王道だよ。
材料力学インタラクティブツール
疲労設計・破壊力学の計算をブラウザ上でリアルタイムに
Goodmanダイアグラム、Paris則き裂進展、S-N曲線生成、J積分推定など、材料強度評価に必要な計算ツール群です。