材料力学の基礎 — 弾塑性・疲労・破壊力学からCAE材料モデルまで

カテゴリ: 基礎理論 / 材料力学 | 2026-03-25 | 読了時間: 約40分

材料力学は、外力を受けた固体材料がどのように変形・破壊するかを記述する学問です。CAEによる構造解析の精度は「材料モデルの適切な選択」に大きく依存します。線形弾性だけで済む問題は実は少なく、多くの実務問題は塑性・クリープ・疲労・破壊を考慮する必要があります。本稿では、材料挙動の基礎物理から、CAEソルバーで実際に使われる構成則・数値アルゴリズムまでを体系的に解説します。

CAE visualization for material mechanics - technical simulation diagram
Material Mechanics

1. 応力-ひずみ曲線の読み方

工学応力-工学ひずみ vs 真応力-真ひずみ

🧑‍🎓

引張試験のグラフで「工学応力」と「真応力」の2種類が出てきて、どっちを使えばいいか迷います。何が違うんですか?

🎓

工学応力 $s = F/A_0$(元の断面積 $A_0$ で割る)は測定しやすいが、大変形時に実際の応力を表せない。試験片が細くなる(ネッキング)と元の断面積で割っては誤りになるからだ。真応力は $\sigma_{true} = F/A_{current}$(今の断面積で割る)で、体積一定の仮定 $A_0 L_0 = A \cdot L$ を使うと:

  • 真応力:$\sigma_{true} = s(1+e)$
  • 真ひずみ:$\varepsilon_{true} = \ln(1+e)$

ここで $e = (L-L_0)/L_0$ が工学ひずみだ。大変形や塑性解析では必ず真応力-真ひずみを使う。Abaqus・Ansys・Marc等のFEMソルバーへの材料入力も真応力-真ひずみで入力するのが基本だよ。

$$\sigma_{true} = s(1+e), \qquad \varepsilon_{true} = \ln(1+e) = \ln\frac{L}{L_0}$$

応力-ひずみ曲線の各特性点

典型的な低炭素鋼の引張試験曲線を例に、各特性点を解説します:

特性点/領域記号低炭素鋼の代表値物理的意味CAEでの扱い
弾性域$E$(ヤング率)206 GPa完全可逆の線形変形フックの法則 $\sigma = E\varepsilon$
比例限度$\sigma_p$〜200 MPa線形性が保たれる最大応力弾性域の上限
弾性限度$\sigma_e$$\approx \sigma_p$除荷すると元に戻る最大応力弾塑性境界
上降伏点$\sigma_{YU}$250〜300 MPa最初に塑性変形が始まる点(不連続降伏)低炭素鋼特有。von Mises等では省略
下降伏点$\sigma_{YL}$220〜280 MPaLüders帯が発生・伝播CAEの降伏応力として使う
加工硬化域〜600 MPa(最終強度)転位密度増加による強化硬化則で表現(等方/移動/複合)
最終引張強さ$\sigma_{UTS}$400〜600 MPaネッキング開始点(工学応力最大)成形限界・破断判定の基準
破断$\varepsilon_f$(破断伸び)20〜40%延性破断最大相当塑性ひずみ基準

各材料の特徴的な挙動

🧑‍🎓

CFRP(炭素繊維強化プラスチック)の応力-ひずみ曲線を見たら鉄と全然形が違うんですが、あれをどうCAEに入れればいいんですか?

🎓

CFRPの最大の特徴は「線形弾性のまま突然破断する」こと。金属みたいな塑性変形がほとんどなく、エネルギー吸収能力が低い。だから衝突安全の観点では金属より不利な面もある。

CAEでの扱いは材料の異方性と破断則が鍵だ:

  • 弾性特性:繊維方向($E_1$)と横方向($E_2$)が全く違う異方性弾性体(直交異方性)として扱う
  • 破断則:Tsai-Wu則やHashin則で各モード(繊維破断・マトリックスき裂・デラミネーション)ごとの破壊を予測
  • 漸進的損傷モデル:破断後の剛性低下を段階的にモデル化する

ゴムの場合は超弾性(Neo-Hookean・Mooney-Rivlin・Ogden則)で記述する別のカテゴリになるよ。

材料ヤング率 E降伏応力破断伸び応力-ひずみ曲線の特徴主要CAEモデル
低炭素鋼206 GPa250〜350 MPa20〜40%明瞭な降伏点(上・下)、加工硬化、延性破断弾塑性(等方/移動硬化)
高強度鋼(HT780)206 GPa780 MPa以上12〜18%明瞭な降伏点なし(0.2%耐力使用)、低延性弾塑性、疲労・破壊考慮
アルミ合金(A6061-T6)69 GPa276 MPa12%明瞭な降伏点なし、加工硬化は小さい弾塑性(移動硬化)
CFRP(UD, 繊維方向)135〜250 GPa—(降伏なし)1〜2%(突然破断)線形弾性のみ。強い異方性直交異方性弾性 + 破断則
天然ゴム0.001〜0.01 GPa500〜800%高度に非線形な超弾性、ヒステリシス超弾性(Mooney-Rivlin等)
コンクリート20〜35 GPa引張:2〜5 MPa(弱い)極めて小さい(脆性)引張は脆性破断、圧縮は非線形Drucker-Prager、損傷塑性

2. 弾塑性材料モデル

降伏条件(Yield Criterion)

🧑‍🎓

「von Mises降伏条件」ってよく聞くんですが、これって何を言ってる式なんですか?

🎓

ざっくり言うと「材料が降伏するのは、応力状態の『形を変えようとする成分』が一定値を超えたとき」という条件だ。多軸応力状態でも引張試験の1軸データと比較できる「相当応力」を定義している。

von Mises の相当応力(von Mises stress)は:

$\sigma_{VM} = \sqrt{\frac{(\sigma_1-\sigma_2)^2 + (\sigma_2-\sigma_3)^2 + (\sigma_3-\sigma_1)^2}{2}}$

で、これが引張試験の降伏応力 $\sigma_Y$ に達したとき降伏する。CAEのコンター図でよく見る「von Mises応力」はこれのことだ。現場で「赤いところがやばい」って見てる等価応力もこれ。金属の塑性変形は体積変化なし(静水圧には感応しない)のでvon Misesがよく合う。

$$f(\boldsymbol{\sigma}) = \sigma_{VM} - \sigma_Y = \sqrt{\frac{3}{2}s_{ij}s_{ij}} - \sigma_Y = 0$$

ここで $s_{ij} = \sigma_{ij} - \frac{1}{3}\sigma_{kk}\delta_{ij}$ は偏差応力テンソルです。

Tresca降伏条件(最大せん断応力説):

$$f = \frac{\sigma_1 - \sigma_3}{2} - k = 0, \quad k = \frac{\sigma_Y}{2}$$

Tresca は von Mises より保守的(von Mises 降伏面の内接六角形)で、約15%小さい降伏面を与えます。

Drucker-Prager降伏条件(摩擦材料:コンクリート・岩石・土):

$$f = \alpha I_1 + \sqrt{J_2} - k = 0$$

ここで $I_1 = \sigma_{ii}$ は第1応力不変量(静水圧成分)、$J_2 = \frac{1}{2}s_{ij}s_{ij}$ は第2偏差応力不変量です。内摩擦角 $\phi$ と粘着力 $c$ から $\alpha$, $k$ が決まります。コンクリートや地盤の解析に必須です。

硬化則:等方硬化・移動硬化・複合硬化

🧑‍🎓

「等方硬化」と「移動硬化」って何が違うんですか?どっちを使えばいいかわからなくて。

🎓

降伏面が「どう変化するか」の違いだ。

  • 等方硬化(Isotropic Hardening):降伏面が中心は変えずに膨らむ。引張で硬化すると圧縮方向の降伏応力も上がる。単調増加荷重(1方向の引張・圧縮)ならこれで十分
  • 移動硬化(Kinematic Hardening):降伏面の中心が移動する。引張で硬化すると、反転して圧縮したとき降伏が早くなる(バウシンガー効果)。繰り返し荷重・疲労では必須
  • 複合硬化(Combined Hardening):両者を組み合わせる。実際の金属の繰り返し挙動はこれに近い

自動車の軽量化では高強度鋼のプレス成形でバウシンガー効果が無視できない。スプリングバックの予測精度に直結するから、移動硬化モデルが重要だよ。

等方硬化の場合、降伏応力は相当塑性ひずみ $\bar{\varepsilon}^p$ の関数として増加します:

$$\sigma_Y = \sigma_Y(\bar{\varepsilon}^p), \qquad \dot{\bar{\varepsilon}}^p = \sqrt{\frac{2}{3}\dot{\varepsilon}^p_{ij}\dot{\varepsilon}^p_{ij}}$$

Voce硬化則(指数型):

$$\sigma_Y = \sigma_0 + (\sigma_\infty - \sigma_0)(1 - e^{-b\bar{\varepsilon}^p}) + H\bar{\varepsilon}^p$$

関連流れ則と塑性ポテンシャル

降伏後の塑性ひずみ増分の方向は、降伏曲面の法線方向(関連流れ則)で決まります:

$$d\varepsilon^p_{ij} = d\lambda \frac{\partial f}{\partial \sigma_{ij}}$$

ここで $d\lambda \geq 0$ は塑性乗数(consistency conditionから決定)です。von Mises降伏条件に関連流れ則を適用すると:

$$d\varepsilon^p_{ij} = d\lambda \frac{\partial\sigma_{VM}}{\partial\sigma_{ij}} = d\lambda \frac{3}{2\sigma_{VM}} s_{ij}$$

これは塑性ひずみが偏差応力に比例することを示します(Prandtl-Reussの関係)。

応力更新アルゴリズム(リターンマッピング)

CAEの弾塑性解析では、各増分ステップで応力を降伏面に戻す「リターンマッピング法」が使われます:

  1. 弾性予測(Elastic Predictor):すべて弾性と仮定して試行応力 $\boldsymbol{\sigma}^{trial} = \boldsymbol{\sigma}^n + \mathbf{C}:\Delta\boldsymbol{\varepsilon}$ を計算
  2. 降伏判定(Yield Check):$f(\boldsymbol{\sigma}^{trial}) > 0$ なら降伏が発生
  3. 塑性補正(Plastic Corrector):Newton-Raphson法でリターンマッピング方程式を解き、正しい応力 $\boldsymbol{\sigma}^{n+1}$ と $\Delta\lambda$ を求める
$$\boldsymbol{\sigma}^{n+1} = \boldsymbol{\sigma}^{trial} - \Delta\lambda \mathbf{C}:\frac{\partial f}{\partial\boldsymbol{\sigma}}\bigg|^{n+1}$$

3. クリープと粘弾性

クリープの3段階

🧑‍🎓

クリープって「高温で時間とともに変形が進む現象」ですよね。ガスタービンのCAEでよく出てくると聞きましたが、どれくらいの温度から考えなきゃいけないんですか?

🎓

クリープが顕著になるのは融点の40〜50%以上の温度が目安だ。鉄(融点1538℃)なら絶対温度で融点の40%は約500℃以上から、アルミ(融点660℃)なら約150℃以上から問題になる可能性がある。

ガスタービンの動翼は燃焼ガス温度1400〜1600℃にさらされる。Ni基超合金を使っても融点の85〜90%という過酷な条件で、寿命はクリープが支配する。だから航空エンジンメーカーは内部冷却構造と熱遮蔽コーティング(TBC)で材料温度を下げる設計を徹底してるわけだよ。

クリープひずみ-時間曲線は一般に3段階に分かれます:

段階名称特徴物理メカニズム
第I段階遷移クリープ(減速クリープ)ひずみ速度が減少転位密度増加による加工硬化が進行
第II段階定常クリープ(二次クリープ)ひずみ速度が一定(最小)加工硬化と回復のバランス。設計上最重要
第III段階加速クリープ(三次クリープ)ひずみ速度が加速ボイド形成・微小き裂発生・断面積減少で不安定化→破断

ノートン則(二次クリープ)

定常クリープのひずみ速度はノートン則(Power Law Creep)で表されます:

$$\dot{\varepsilon}_{cr} = A \sigma^n \exp\left(-\frac{Q}{RT}\right)$$

ここで $A$:材料定数、$n$:応力指数(金属で3〜10程度)、$Q$:活性化エネルギー [J/mol]、$R$:気体定数 [8.314 J/(mol·K)]、$T$:絶対温度です。高温・高応力ほどクリープ速度が急増することを示します。

$$\dot{\varepsilon}_{cr} = A \sigma^n \exp\left(-\frac{Q}{RT}\right), \qquad n = \frac{\partial\ln\dot{\varepsilon}}{\partial\ln\sigma}\bigg|_T$$

粘弾性モデル

ポリマー(樹脂)やゴムは、時間と共に応力が緩和(応力緩和)したり、ひずみが増大(クリープ)したりする粘弾性挙動を示します。

マクスウェルモデル(スプリング + ダッシュポットの直列):応力緩和に適した1次モデル

$$\dot{\varepsilon} = \frac{\dot{\sigma}}{E} + \frac{\sigma}{\eta}, \qquad \sigma(t) = \sigma_0 \exp\left(-\frac{t}{\tau}\right), \quad \tau = \frac{\eta}{E}$$

ケルビン-フォイクトモデル(スプリング + ダッシュポットの並列):クリープに適した1次モデル

$$\sigma = E\varepsilon + \eta\dot{\varepsilon}, \qquad \varepsilon(t) = \frac{\sigma_0}{E}\left(1 - e^{-t/\tau}\right)$$

実際の材料は広い時間スケールでスペクトル的な応答を示すため、Prony級数展開(マクスウェルモデルの並列接続)を使います:

$$E(t) = E_\infty + \sum_{i=1}^{N} E_i \exp\left(-t/\tau_i\right)$$

4. 疲労破壊の基礎

疲労破壊のメカニズム

🧑‍🎓

先生、疲労破壊って「繰り返し荷重で静的強度より低い応力で壊れる」ってことですよね。なんでそうなるんですか?

🎓

メカニズムは3段階で理解すると整理しやすい:

  1. き裂発生(Initiation):応力集中部(表面の機械加工傷・介在物・溶接止端)で局所的な塑性ひずみが繰り返し蓄積し、材料の結晶学的すべり面に微小き裂が発生する(数μm程度)
  2. き裂伝播(Propagation):き裂先端の応力集中でサイクルごとに少しずつ進展。この段階で「疲労縞(ストライエーション)」が破面に形成される。一回あたりの進展量は Paris 則で表現
  3. 最終破断(Final Fracture):き裂が臨界長さに達して不安定破壊

自動車の車軸やクランクシャフトの疲労破壊事故の多くは、設計時に考慮されていなかった振動応力(路面からの不規則入力)によるものだ。疲労寿命の90%がき裂発生段階に費やされる高サイクル疲労(HCF)と、50%以上が伝播段階の低サイクル疲労(LCF)では、設計アプローチが違う。

S-N曲線(高サイクル疲労)

横軸に繰り返し回数 $N$、縦軸に応力振幅 $\sigma_a$ をプロットしたS-N曲線(Wöhler曲線)は疲労設計の基本ツールです。

Basquin則による S-N 曲線の表式:

$$\sigma_a = \sigma_f' (2N_f)^b$$

ここで $\sigma_f'$:疲労強度係数、$b$:Basquin指数(通常 -0.05〜-0.12)、$N_f$:破断繰り返し数です。

鉄鋼材料には疲労限度($N > 10^6\sim10^7$ サイクルで破断しない応力振幅の下限)が存在します:

$$\sigma_w \approx 0.4 \sim 0.5 \, \sigma_{UTS} \quad (\text{鉄鋼材料の経験則})$$

アルミ合金・銅合金などの非鉄金属には明確な疲労限度がなく、$10^7$〜$10^8$ サイクルでの疲労強度(条件付き疲労限度)を使います。

Goodmanダイアグラムと平均応力効果

🧑‍🎓

「平均応力」って何ですか?繰り返し荷重でも「引っ張り続ける」と疲労に不利になるってことですか?

🎓

まさにそう。繰り返し荷重の「平均的なレベル」を平均応力 $\sigma_m = (\sigma_{max}+\sigma_{min})/2$ という。引っ張り側に平均応力があると($\sigma_m > 0$)、き裂が開いた状態で繰り返すことになるから疲労寿命が短くなる。圧縮側の平均応力($\sigma_m < 0$)はき裂を閉じるから逆に有利になる。

Goodman線図は横軸に平均応力、縦軸に許容応力振幅をプロットして、安全域と危険域を分ける図だ。修正Goodman則:$\frac{\sigma_a}{\sigma_w} + \frac{\sigma_m}{\sigma_{UTS}} = 1$(設計の安全線)。実際の部品設計では、プレストレス(残留圧縮応力を導入するショットピーニング)で $\sigma_m$ を有利な方向に変えることもよくやる。

修正Goodman則(直線型):

$$\frac{\sigma_a}{\sigma_w} + \frac{\sigma_m}{\sigma_{UTS}} = 1 \quad \Rightarrow \quad \sigma_a = \sigma_w\left(1 - \frac{\sigma_m}{\sigma_{UTS}}\right)$$

Gerber則(放物線型、延性材料でよく合う):

$$\frac{\sigma_a}{\sigma_w} + \left(\frac{\sigma_m}{\sigma_{UTS}}\right)^2 = 1$$

ASME楕円則(Soderberg則より非保守的、Goodmanより保守的):

$$\left(\frac{\sigma_a}{\sigma_w}\right)^2 + \left(\frac{\sigma_m}{\sigma_Y}\right)^2 = 1$$

マイナー則による累積損傷

実際の荷重は一定振幅でなく、複数の応力レベルが混在します。Miner則(線形累積損傷則):

$$D = \sum_i \frac{n_i}{N_{f,i}} \leq D_{cr} \approx 1$$

ここで $n_i$:応力レベル $i$ での実際の繰り返し回数、$N_{f,i}$:同応力レベルでの破断繰り返し数です。$D = 1$ で破断が予測されますが、実際には $D_{cr} = 0.5\sim2$ の散布があります。荷重順序(高→低 vs 低→高)の影響もあり、あくまで近似則として扱うべきです。

ε-N曲線(低サイクル疲労)

$N_f < 10^4$ サイクルの低サイクル疲労(LCF:熱疲労・大変形繰り返し)では、塑性ひずみ振幅が支配的になるため Coffin-Manson則を使います:

$$\frac{\Delta\varepsilon}{2} = \frac{\sigma_f'}{E}(2N_f)^b + \varepsilon_f'(2N_f)^c$$

第1項が弾性ひずみ振幅(高サイクルで支配)、第2項が塑性ひずみ振幅(低サイクルで支配)です。$\varepsilon_f'$:疲労延性係数、$c$:疲労延性指数(通常 -0.5〜-0.7)。

5. 破壊力学の基礎

Griffithのエネルギー解放率

🧑‍🎓

破壊力学の「応力拡大係数 K」って何ですか?普通の応力と何が違うんですか?

🎓

通常の応力はどんな形状にも定義できる。でも「き裂先端に近い場所の応力場」は特別な形をしていて、き裂先端からの距離 $r$ に対して $\sigma \propto 1/\sqrt{r}$(特異性がある)。つまりき裂先端そのものでは応力が理論上無限大になる。

この「無限大の特異性」を有限の数で特徴づけるのが応力拡大係数 $K$ だ。$K$ は「き裂先端の応力場の強度」を表す唯一のパラメータで、き裂の形状・大きさ・荷重・境界条件をすべて含んだ集約量だ。$K$ が材料の破壊靭性 $K_{IC}$ に達したとき、き裂が不安定伝播して破断する。

具体例:航空機のアルミ外板にき裂があって、飛行荷重を受ける状況を考えると、き裂長さと荷重から $K$ を計算して $K < K_{IC}$ かどうかを確認するのが損傷許容設計(Damage Tolerance Design)だ。

応力拡大係数の定義と破壊モード

き裂先端近傍の応力場(極座標 $r$, $\theta$):

$$\sigma_{ij} = \frac{K}{\sqrt{2\pi r}} f_{ij}(\theta) + \text{(高次項)}$$

破壊モードと応力拡大係数:

モード変位方向応力拡大係数代表例
Mode I(開口型)き裂面に垂直(引張)$K_I = Y\sigma\sqrt{\pi a}$引張荷重下の貫通き裂
Mode II(面内せん断)き裂方向(面内せん断)$K_{II}$せん断荷重下のき裂
Mode III(面外せん断)き裂面外(ねじり)$K_{III}$軸のねじりき裂

ここで $Y$ は形状係数(通常1〜3の無次元数、FEMや表で求める)、$a$ はき裂長さです。複合荷重では有効 $K = \sqrt{K_I^2 + K_{II}^2 + K_{III}^2/(1-\nu)}$ を使います。

破壊靭性と平面ひずみ条件

破壊靭性 $K_{IC}$ は材料固有の定数(ASTM E399 による標準試験)です。平面ひずみ条件(板厚十分大きい)で成立:

$$B \geq 2.5\left(\frac{K_{IC}}{\sigma_Y}\right)^2, \quad a \geq 2.5\left(\frac{K_{IC}}{\sigma_Y}\right)^2, \quad (W-a) \geq 5\left(\frac{K_{IC}}{\sigma_Y}\right)^2$$
材料$K_{IC}$ [MPa√m]降伏応力 $\sigma_Y$ [MPa]臨界き裂長さ $a_c$ [mm]
高強度アルミ(7075-T651)23〜29500~0.7
構造用鋼(HT780)70〜80780~2.6
チタン合金(Ti-6Al-4V)55〜65880~1.4
Ni基超合金(IN718)100〜1401100~2.6
セラミックス(アルミナ)3〜5—(脆性)~0.2
CFRP(積層板, T300/5208)30〜60(実効値)

J積分とエネルギー解放率

弾性域では $G = K^2/E'$($E' = E$ 平面応力, $E' = E/(1-\nu^2)$ 平面ひずみ)が成立します。弾塑性域では $J$積分が有効なパラメータです:

$$J = \oint_\Gamma \left(W n_1 - T_i \frac{\partial u_i}{\partial x_1}\right) d\Gamma$$

ここで $W = \int_0^{\varepsilon_{ij}} \sigma_{ij} d\varepsilon_{ij}$ は弾性ひずみエネルギー密度、$T_i = \sigma_{ij}n_j$ は表面力ベクトル、$\Gamma$ はき裂先端を囲む任意の経路です。$J$ 積分は経路非依存(Path Independent)であることが特長で、FEMでは複数の積分経路で計算して一致することを確認します。

Paris則によるき裂進展予測

疲労き裂進展速度は、応力拡大係数範囲 $\Delta K = K_{max} - K_{min}$ の関数としてParis則で表されます:

$$\frac{da}{dN} = C(\Delta K)^m$$

ここで $C$, $m$ は材料定数(ダブルログ直線の傾きと切片)です。実際のき裂進展曲線は3領域に分かれます:

領域$\Delta K$ の範囲特徴Paris則の適用
第I領域(しきい値域)$\Delta K < \Delta K_{th}$き裂が実質的に進展しない適用外
第II領域(安定伝播域)$\Delta K_{th} \sim K_{IC}/2$log-log直線(Paris則が成立)適用可(設計基準)
第III領域(不安定破壊域)$\Delta K \to K_{IC}$急速加速→不安定破壊寿命の大部分はここで消費されない

Paris則を初期き裂 $a_0$ から臨界き裂 $a_c$ まで積分して疲労寿命を予測できます:

$$N_f = \int_{a_0}^{a_c} \frac{da}{C[Y\sigma\sqrt{\pi a}]^m} = \frac{1}{C(Y\sigma)^m \pi^{m/2}} \int_{a_0}^{a_c} a^{-m/2} da$$

6. 複合材料の力学

ルール・オブ・ミクスチャーと弾性係数

🧑‍🎓

CFRPの弾性係数って繊維方向と横方向で全然違いますよね。「ルール・オブ・ミクスチャー」ってどうやって計算するんですか?

🎓

繊維体積比を $V_f$(繊維), $V_m = 1-V_f$(マトリックス)として:

  • 繊維方向(軸方向)$E_1$:繊維とマトリックスが同じひずみ(Voigt境界)→直列バネが並列になるイメージで $E_1 = E_f V_f + E_m V_m$
  • 横方向 $E_2$:同じ応力(Reuss境界)→直列バネのイメージで $1/E_2 = V_f/E_f + V_m/E_m$

カーボン繊維($E_f \approx 230$ GPa)とエポキシ樹脂($E_m \approx 3$ GPa)の例で $V_f = 0.6$ だと:$E_1 \approx 230\times0.6 + 3\times0.4 \approx 139$ GPa、$E_2 \approx 1/(0.6/230 + 0.4/3) \approx 7.5$ GPa。繊維方向と横方向で18倍以上の差がある。CFRPを等方性材料として解析したら全く意味がない結果になるよ。

$$E_1 = E_f V_f + E_m V_m, \quad \frac{1}{E_2} = \frac{V_f}{E_f} + \frac{V_m}{E_m}, \quad \nu_{12} = \nu_f V_f + \nu_m V_m, \quad \frac{1}{G_{12}} = \frac{V_f}{G_f} + \frac{V_m}{G_m}$$

積層板理論(CLT)とABD行列

多層CFRPの積層板では、各層の繊維角度が異なります。積層板の力学は古典積層板理論(CLT)で記述されます:

$$\begin{bmatrix} N \\ M \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} A & B \\ B & D \end{bmatrix} \begin{bmatrix} \varepsilon^0 \\ \kappa \end{bmatrix}$$

ここで:

Tsai-Wuの複合材料破断則

各層のFail Index(破断指標)を評価します。Tsai-Wu則

$$F_I = F_1\sigma_1 + F_2\sigma_2 + F_{11}\sigma_1^2 + F_{22}\sigma_2^2 + F_{66}\tau_{12}^2 + 2F_{12}\sigma_1\sigma_2$$

ここで $F_i = 1/X_t - 1/X_c$($X_t$:引張強さ, $X_c$:圧縮強さ)等は強度パラメータです。$F_I \geq 1$ で破断と判定します。

7. 材料試験とCAEへの実装

試験データからCAEパラメータへの変換

🧑‍🎓

引張試験のデータをCAEソルバーに入力するとき、どんな形式で入力すればいいんですか?試験の生データをそのまま入れればいいわけじゃないですよね?

🎓

そのまま入れたら大抵間違いになる。主要な注意点はこう:

  1. 工学応力→真応力変換:降伏点より先は必ず真応力-真ひずみに変換してから入力する
  2. 弾性成分の除去:FEMに入れる塑性データは「塑性ひずみ $\varepsilon^p = \varepsilon_{total} - \sigma/E$」だけ。弾性成分を引いてから入力する(ソルバーが弾性は別に計算するから)
  3. ネッキング後の扱い:ネッキング(くびれ)が始まった後の工学応力-ひずみデータは3軸応力状態になるため、Bridgman補正などが必要
  4. 温度依存性:温度が変わると弾性係数・降伏応力・硬化則が全部変わる。高温解析では各温度での試験データが必要
試験方法取得できる材料パラメータ主要規格CAEへの変換処理
単軸引張試験$E$, $\sigma_Y$, 硬化曲線 $\sigma(\varepsilon^p)$, $\sigma_{UTS}$, $\varepsilon_f$JIS Z2241, ASTM E8工学→真応力変換、弾性成分除去
圧縮試験$E_c$, $\sigma_{Y,c}$, 圧縮硬化曲線JIS Z2206摩擦補正(バレリング)が必要
曲げ試験(3点・4点)曲げ弾性率、曲げ強さ(特に脆性材料)JIS K7171(樹脂)断面係数を通じた換算
繰り返し試験(疲労試験)S-N曲線、$\sigma_w$、Basquin係数JIS Z2274, ASTM E466応力比 $R = \sigma_{min}/\sigma_{max}$ の明示
破壊靭性試験(CT試験)$K_{IC}$, Paris則定数 $C$, $m$ASTM E399, E647平面ひずみ条件の確認
クリープ試験Norton則 $A$, $n$, $Q$JIS Z2271対数プロットで直線回帰
DMA(動的粘弾性試験)Prony級数係数 $E_i$, $\tau_i$ASTM D5023Time-Temperature Superposition

逆解析によるパラメータ同定

試験データから材料パラメータを同定する際、単純な線形回帰が使えないケース(非線形硬化則・Prony級数・クリープ定数)では逆解析を使います:

$$\min_{\mathbf{p}} \|\mathbf{y}^{exp} - \mathbf{y}^{FEM}(\mathbf{p})\|^2 + \lambda\|\mathbf{p}\|^2$$

ここで $\mathbf{p}$ が材料パラメータベクトル、$\mathbf{y}^{exp}$ が試験測定値、$\mathbf{y}^{FEM}(\mathbf{p})$ がCAE予測値です。Levenberg-Marquardt法・遺伝的アルゴリズムなどが使われます。

8. CAEでの材料モデル選択ガイド

解析の種類・目的推奨材料モデル必要な材料データ計算コスト代表的なソルバー設定
弾性応力解析(変形量・固有値)線形等方性弾性体$E$, $\nu$Ansys Static Structural / Abaqus *ELASTIC
プレス成形・曲げ成形弾塑性(等方+移動硬化)+ 異方性降伏(Hill 1948等)$\sigma_Y(\varepsilon^p)$, r値、Lankford値中〜高Abaqus *PLASTIC / Marc ISOTROPIC
衝突・衝撃解析(自動車)弾塑性+ひずみ速度依存(Cowper-Symonds則)+破断判定動的試験データ(SHTB法等)高(陽解法)LS-DYNA MAT_024 / Abaqus *RATE DEPENDENT
高温構造(タービン翼)弾塑性+クリープ(Norton則)+熱依存物性各温度での $\sigma_Y$, $E$, クリープ定数高(非定常)Ansys *CREEP / Abaqus *CREEP
疲労寿命評価弾塑性(移動硬化)+疲労後処理S-N曲線, Goodman係数, $K_f$(疲労応力集中係数)中(Nコードで後処理)nCode DesignLife / fe-safe / Ansys Fatigue
き裂進展解析弾性/弾塑性 + XFEM or コヒーシブゾーン$K_{IC}$, Paris則定数, $J_c$Abaqus XFEM / Ansys SMART crack growth
ゴム・エラストマー超弾性(Mooney-Rivlin / Ogden / Yeoh)単軸・二軸・平面引張の試験曲線中(大変形)Abaqus *HYPERELASTIC / Marc MOONEY
樹脂(熱可塑性)粘弾性(Prony級数)または弾塑性DMAデータまたは引張試験(複数温度)Abaqus *VISCOELASTIC
コンクリート・岩盤Drucker-Prager / Concrete Damage Plasticity圧縮・引張強度, 内摩擦角中〜高Abaqus *DRUCKER PRAGER / *CONCRETE
CFRPシェル構造直交異方性弾性 + 積層板理論 + Hashin則各層の $E_1, E_2, G_{12}, \nu_{12}$, 強度データAbaqus *ELASTIC, TYPE=LAMINA / *FAIL RATIOS
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材料モデルって種類が多くて、どれを選べばいいか迷います。判断基準を一言でまとめてもらえますか?

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3つの問いに答えると自然に絞れる:

  1. 「変形は可逆か(弾性)、それとも永久変形が残るか(塑性)?」:弾性なら線形弾性体で終わり。降伏応力を超えるなら弾塑性が必要
  2. 「温度と時間が重要か?」:常温・短時間なら不要。高温や長期荷重ならクリープ・粘弾性を追加
  3. 「破断・疲労・き裂が評価対象か?」:そうなら後処理(疲労評価ツール)または破壊力学モデルを追加

最も避けるべきミスは「線形弾性でいいところに弾塑性を使ってしまう」(計算コスト無駄)や「塑性が必要なのに線形のまま」(大きく間違った結果を信じてしまう)。まず線形弾性で解いて応力が降伏応力を超えていないか確認、超えていたら弾塑性に移行するのが王道だよ。

材料力学インタラクティブツール

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Goodmanダイアグラム、Paris則き裂進展、S-N曲線生成、J積分推定など、材料強度評価に必要な計算ツール群です。

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Written by NovaSolver Contributors
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