内部発熱を伴う定常伝導
内部発熱を伴う定常伝導の理論基礎
内部発熱の物理
先生、内部発熱ってどんな場面で出てくるんですか?
電気抵抗によるジュール発熱、核燃料の崩壊熱、化学反応熱など多岐にわたる。いずれも体積あたりの発熱率 $\dot{q}_v$ [W/m$^3$] で表現する。
平板の支配方程式
一様内部発熱 $\dot{q}_v$ を持つ平板(厚さ $2L$、両面同一温度 $T_s$)の支配方程式は
解は放物線分布になる。
中心温度 $T_{\max} = T_s + \dot{q}_v L^2 / (2k)$。
放物線になるのは直感的に分かりますね。中心が一番熱い。
重要なのは $T_{\max} \propto L^2$ という点だ。板厚を2倍にすると中心温度上昇が4倍になる。薄くすることが冷却の最も効果的な手段だ。
円筒の場合
半径 $R$ の円筒(外面温度 $T_s$)では
中心温度 $T_{\max} = T_s + \dot{q}_v R^2 / (4k)$。平板の $2k$ に対して $4k$ で、円筒の方が効率よく冷える。
球の場合
球(半径 $R$)では
分母が $6k$ とさらに大きい。表面積/体積比が大きいほど冷却効率が高い。
| 形状 | $T_{\max} - T_s$ | 表面積/体積 |
|---|---|---|
| 平板 | $\dot{q}_v L^2/(2k)$ | $1/L$ |
| 円筒 | $\dot{q}_v R^2/(4k)$ | $2/R$ |
| 球 | $\dot{q}_v R^2/(6k)$ | $3/R$ |
球が最も冷却効率が良いんですね。
同じ体積なら球の表面積が最大だからだ。ただし対流条件を含めると話はもう少し複雑になる。
内部発熱の支配方程式
内部発熱を含む定常熱伝導方程式は∇²T + q̇/k = 0。核燃料ペレット(q̇≈10⁸ W/m³)からLi-ionバッテリーセル(q̇≈10⁵ W/m³)まで、発熱密度は3桁以上の幅を持つ。1940年代の原子炉設計でこの式の重要性が一気に高まった。
内部発熱を伴う定常伝導の数値計算手法
FEMでの実装
内部発熱をFEMでどう設定するんですか?
要素に体積発熱率を設定する。FEM定式では要素熱負荷ベクトルに
が追加される。$N_i$ は形状関数。一様発熱なら各節点に $\dot{q}_v \cdot V_e / n_{\text{node}}$ が等分配される。
Ansysではどう設定しますか?
BFE(Body Force on Element)コマンドで設定する。
```
BFE,ALL,HGEN,,1e6 ! 全要素に 1e6 W/m3
```
Workbench GUIではInternal Heat Generationの条件をBodyに適用する。Abaqusでは*DFLUX, BF$(\dot{q}_v)$で設定する。
非一様発熱の扱い
実際の問題では発熱率が空間的に非一様なことが多い。
| 例 | 発熱分布 | モデリング |
|---|---|---|
| 電気抵抗体 | 一様($I^2R/V$) | 定数 |
| 核燃料棒 | 余弦分布(軸方向) | テーブル/関数入力 |
| 電子基板 | 局所(IC部のみ) | 部品ごとにBody定義 |
| 誘導加熱 | 表皮深さに集中 | 電磁解析と連成 |
誘導加熱は電磁解析との連成が必要なんですね。
Ansys MaxwellやCOMSOL AC/DCモジュールで渦電流密度を計算し、$\dot{q}_v = J^2/\sigma$(ジュール発熱密度)を熱解析に入力する。Ansysではデータ転送がWorkbenchの連成機能で自動化されている。
メッシュの注意点
内部発熱問題ではメッシュが粗すぎると温度ピークが平均化されてしまう。
中心温度を正確に捉えるには十分なメッシュが必要ですね。
そう。温度勾配が最大の領域(境界付近)にメッシュを集中させる。円筒なら中心付近は温度勾配がゼロなので粗くてよいが、外面近傍は細かくする。
平板内発熱の解析解
厚さ2Lの平板で一様発熱q̇のとき中心温度はTmax = Ts + q̇L²/(2k)。厚さ10mmのシリコンウエハ(k=150 W/m·K)でq̇=10⁶ W/m³なら中心温度上昇はわずか0.08Kで、均一性が高いことが分かる計算例だ。
内部発熱を伴う定常伝導の実務適用
応用例:電線のジュール発熱
具体的な計算例を見たいです。
AWG18銅線(直径1.02mm、$\rho_e = 1.7 \times 10^{-8}$ Ωm)に10A通電する場合を考えよう。
| パラメータ | 値 |
|---|---|
| 断面積 $A$ | $8.17 \times 10^{-7}$ m$^2$ |
| 抵抗 $R/L$ | 0.0208 Ω/m |
| 発熱 $I^2R/L$ | 2.08 W/m |
| $\dot{q}_v$ | $2.55 \times 10^6$ W/m$^3$ |
| $T_{\max} - T_s$ | $\dot{q}_v R^2/(4k) = 0.0016$℃ |
0.0016℃しか上がらないんですか。
銅の $k = 398$ W/(m K) が非常に大きいからだ。温度差は電線内部ではなく、被覆と外部対流で支配される。つまり電線の熱設計で重要なのは被覆の外面温度であって、銅内部の温度分布はほぼ均一と見なせる。
応用例:核燃料棒
原子炉の燃料棒(UO$_2$ペレット、$k = 3$ W/(m K)、$\dot{q}_v = 4 \times 10^8$ W/m$^3$、半径5mm)の場合
833℃の温度差ですか。桁が全然違いますね。
UO$_2$ の $k$ が低く $\dot{q}_v$ が桁違いに大きいからだ。燃料中心温度が融点(約2800℃)を超えないことが安全設計の核心になる。
検証のポイント
内部発熱問題の検証は以下を確認する。
- 温度分布の形状: 一様発熱なら放物線分布
- 最大温度の位置: 対称中心にあるか
- エネルギー収支: 全発熱量 $\dot{q}_v \times V$ = 表面からの放熱量
- 理論解との比較: 単純形状部分で検算
エネルギー収支の確認が最も確実ですね。
AnsysならReaction Summaryで表面の放熱量合計を確認し、$\dot{q}_v \times V$ と比較する。1%以内で一致すればOKだ。
EV電池パックの発熱解析
テスラModel 3の21700型リチウムイオン電池は急速充電時にセルあたり最大5Wを発熱する。4,416セルのパックで定常状態を解析すると、冷却液流量3 L/minでもホットスポットが40°Cを超え、液冷プレート配置の最適化が必要になる。
内部発熱を伴う定常伝導のソフトウェア比較
商用ツールでの設定
各ツールで内部発熱はどう設定するんですか?
主要ツールの設定方法を比較する。
| ツール | 設定方法 | 備考 |
|---|---|---|
| Ansys Mechanical | BFE,elem,HGEN,,value(APDL)またはBody > Internal Heat Generation | 温度依存テーブル可 |
| Abaqus | *DFLUX, BF$\dot{q}_v$ | DFLUX + FILM条件で定義 |
| COMSOL | Heat Transfer > Heat Source | 数式入力で空間分布を直接記述可 |
| Ansys Icepak | Block/Source > Power Dissipation | 発熱量 [W] で直接入力 |
Icepakだけ体積発熱率じゃなくて発熱量 [W] なんですね。
電子機器の設計では部品の消費電力 [W] がデータシートに記載されているから、そのまま入力できる方が実用的だ。内部でソフトが体積発熱率に変換している。
電磁-熱連成解析
誘導加熱や変圧器の発熱解析では電磁-熱連成が必須だ。
| ツール | 電磁ソルバー | 連成方法 |
|---|---|---|
| Ansys | Maxwell 3D | WorkbenchでMapped Data Transfer |
| COMSOL | AC/DC Module | 同一モデル内で直接連成 |
| JMAG | JMAG-Designer | 発熱密度をFEM熱解析にエクスポート |
COMSOLは同一モデル内で連成できるのが強みですね。
COMSOLのマルチフィジックス連成は、電磁場のジュール発熱密度を自動的に熱源に変換するノードが用意されている。Electromagnetic Heating機能で設定1クリックだ。
APDL実装例
平板の内部発熱検証コード。
```
/PREP7
ET,1,SOLID70
MP,KXX,1,50 ! k=50 W/(mK)
BLOCK,0,0.01,0,0.01,0,0.01 ! 10mm立方
ESIZE,0.001
VMESH,ALL
/SOL
BFE,ALL,HGEN,,1E7 ! 1e7 W/m3
D,NODE(外面),,100 ! 外面100℃
SOLVE
! 理論解: Tmax = 100 + 1e70.005^2/(250) = 102.5℃
```
2.5℃の温度上昇が理論通りに出るか確認するんですね。
理論値との一致が確認できれば、設定に問題がないことが保証される。
内部発熱解析の主要ツール
ANSYS Mechanical 2024Rでは体積発熱をJoule加熱シミュレーションと連成可能で、バッテリーセルのP2Dモデルと熱解析を同時実行できる。Star-CCM+もECMモデルとの双方向熱連成に対応し、EV開発で多く採用されている。
内部発熱を伴う定常伝導の先端研究
温度依存の内部発熱
発熱率が温度に依存する場合はどうなりますか?
電気抵抗は温度とともに変化する。金属の場合 $\rho_e(T) = \rho_0(1 + \alpha T)$ なので、ジュール発熱 $\dot{q}_v = I^2 \rho_e / A^2$ も温度依存する。これは正のフィードバックで、熱暴走の原因になりうる。
温度が上がると発熱が増え、さらに温度が上がる...という暴走ですね。
金属は $\alpha$ が小さい($\sim 4 \times 10^{-3}$ /K)ので通常問題にならない。しかしセラミックPTCヒーターなど非線形性が大きい材料では安定性解析が重要だ。
Frank-Kamenetskiiパラメータ
化学反応熱を伴う系では、Arrhenius型の発熱率
が適用される。Frank-Kamenetskiiパラメータ $\delta$ が臨界値を超えると定常解が存在せず、熱暴走が生じる。
平板で $\delta_{cr} = 0.88$、円筒で $\delta_{cr} = 2.00$、球で $\delta_{cr} = 3.32$ だ。
化学プラントの安全設計で使う概念ですね。
バッチ反応器や火薬の自己発火温度の予測に使われる。COMSOLのChemical Engineering ModuleでArrhenius項を含む熱解析が可能だ。
マルチスケール発熱モデル
半導体デバイスでは、チップ全体を一様発熱とするのは粗すぎる。ゲートレベルの発熱マップ(Power Map)をFEMに入力して詳細な温度分布を求める。
ゲートレベルって数nmの話ですよね。
チップ全体は数cm角、ゲートは数nm。直接メッシュ化は不可能なので、マルチスケールアプローチが必須だ。Ansys RedHawkやCadence Voltusでパワーマップを生成し、Ansys Icepakに入力する連携が一般的だ。
核燃料の発熱密度解析
軽水炉のUO₂燃料ペレットは平均q̇≈2×10⁸ W/m³の発熱密度を持ち、中心温度が1500°Cを超える。1960年代にOak Ridge国立研究所が開発した解析解は今もANSYS Mechanicalの核工学モジュールの検証ベンチマークとして使われている。
内部発熱を伴う定常伝導のトラブル対応
よくあるトラブルと対策
内部発熱の解析で困ることは何ですか?
頻出の問題を整理しよう。
1. 温度が非現実的に高い
原因: 発熱率の単位ミス。W/m$^3$ と W/mm$^3$ を混同すると$10^9$倍の差が生じる。
対策: 手計算で $T_{\max} - T_s = \dot{q}_v L^2/(2k)$ を検算。桁が合わなければ単位を確認。
| 単位系 | $\dot{q}_v$ の単位 | 注意点 |
|---|---|---|
| SI (m) | W/m$^3$ | 基本 |
| mm系 | mW/mm$^3$ = W/mm$^3$ ×10$^{-3}$ | 変換が紛らわしい |
2. エネルギー収支が合わない
全発熱量と表面の放熱量が一致しないケースですね。
原因: 一部の面に境界条件が未設定で断熱扱いになっている。または発熱を設定したBodyの体積が意図と異なる。
対策: モデルの全体積を確認し $\dot{q}_v \times V$ を計算。Ansysなら *GET,V_total,ELEM,,VOLU でデータベースから体積を取得できる。
3. 温度分布が放物線にならない
原因:
- 境界条件が対称でない
- $k$ が温度依存している
- メッシュが粗すぎて放物線が鈍っている
$k$ が温度依存だと放物線から崩れるんですね。
そう。$k(T)$ が線形($k = k_0 + k_1 T$)の場合、温度分布はKirchhoff変換 $U = \int k(T) dT$ で解析できる。$U$ の分布は放物線で、$T$ の分布は非線形になる。
4. 局所発熱の温度が実測と合わない
原因: 発熱体の周囲のメッシュが粗く、温度勾配を十分に解像できていない。
対策: 発熱体の周囲にメッシュリファインメントを適用。発熱体寸法の1/5以下の要素サイズにする。
局所的な高発熱密度の解析は特にメッシュ感度が高いんですね。
発熱密度が高いほどメッシュ感度が上がる。半導体ダイの解析では、ダイ近傍に0.01mm以下のメッシュが必要になることもある。
発熱密度の不均一分布の落とし穴
実際のプリント回路基板では部品ごとに発熱密度が100倍以上異なる。均一分布を仮定した解析では最大温度を50°C以上過小評価することがある。Cadence Sigrity PowerDCからの発熱マップをIcepakへ直接インポートするワークフローが有効だ。
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