多層壁の熱伝導

カテゴリ: 熱解析 | 統合版 2026-04-06
CAE visualization for multi layer wall theory - technical simulation diagram
多層壁の熱伝導

多層壁の熱伝導の理論基礎

多層壁の基本

🧑‍🎓

先生、建築の壁や炉壁は何層にもなってますよね。あれの熱計算はどうするんですか?


🎓

各層を直列の熱抵抗として足し合わせる。$n$ 層の平板多層壁の定常熱流量は


$$q = \frac{T_1 - T_{n+1}}{\sum_{i=1}^{n} \frac{L_i}{k_i A}}$$

各層の温度降下は $\Delta T_i = q \cdot L_i/(k_i A)$ で、$k$ が小さい層ほど温度降下が大きい。


🧑‍🎓

電気回路の直列抵抗と同じ考え方ですね。


🎓

まさにそう。熱抵抗ネットワークの最も基本的な形だ。対流境界を含めると


$$q = \frac{T_{\infty,1} - T_{\infty,2}}{\frac{1}{h_1 A} + \sum_{i=1}^{n} \frac{L_i}{k_i A} + \frac{1}{h_2 A}}$$

温度分布

🎓

各層内の温度分布は線形だ($k$ が一定の場合)。


$$T(x) = T_{i} - \frac{q}{k_i A}(x - x_i)$$

層界面で温度は連続だが、温度勾配は $k$ の逆数に比例して不連続になる。


代表的な多層壁構成

構造層構成全体U値 [W/(m$^2$ K)]
住宅外壁石膏ボード+GW断熱+合板+サイディング0.3〜0.5
炉壁耐火煉瓦+断熱煉瓦+鉄皮0.5〜2.0
冷蔵庫鋼板+PU断熱+鋼板0.2〜0.4
LNG貯槽SUS+Perlite断熱+CS0.02〜0.05
🧑‍🎓

LNG貯槽のU値は住宅の1/10以下なんですね。


🎓

-162℃の液化天然ガスを貯蔵するから、極めて高い断熱性能が要求される。Perlite真空断熱で有効 $k = 0.002$ W/(m K) 程度を実現する。

Coffee Break よもやま話

多層壁の熱抵抗直列則

多層壁の総熱抵抗は各層のRth=L/(kA)を直列加算する。この原理は電気回路のオームの法則と完全に対応し、1940年代の建築断熱規格ISO 6946でも採用された。日本では2025年省エネ基準でUA値計算の基礎として義務付けられている。

多層壁の熱伝導の数値計算手法

手計算とFEMの使い分け

🧑‍🎓

多層壁の計算は手計算で十分ですか?


🎓

1次元の場合は手計算で完全に解ける。FEMが必要になるのは以下の場合だ。


条件手計算FEM
1D平板多層十分不要
温度依存 $k(T)$反復で近似可能推奨
2D/3D効果(コーナー、開口部)不可必須
サーマルブリッジ不可必須
接触熱抵抗手計算可圧力依存なら推奨

サーマルブリッジの扱い

🎓

建築の多層壁で最も重要な2D効果がサーマルブリッジだ。木造住宅の柱は断熱材より $k$ が高く、柱を通じて熱が漏れる。


🧑‍🎓

断熱材部分と柱部分を並列抵抗として扱えますか?


🎓

簡易的にはそうだ。ISO 6946に規定される上限・下限法(Series-Parallel法)で概算できる。しかし正確には2D FEM解析が必要で、線形熱橋係数 $\Psi$ [W/(m K)] で評価する。


$$q = U \cdot A \cdot \Delta T + \sum \Psi_j \cdot L_j \cdot \Delta T$$

$\Psi$ が大きいほどサーマルブリッジの影響が大きい。


FEMでの多層壁モデリング

🎓

多層壁のFEMモデリングで注意すべき点。


  • 各層に異なる材料を割り当て
  • 層間でノードを共有(Merged)させるか、Bonded Contact
  • 薄い層(接着層、防湿フィルムなど)は Shell要素やInterface要素で近似可能
  • 空気層は等価熱伝導率(対流+放射を含む)で置換

🧑‍🎓

空気層も固体としてモデル化するんですか?


🎓

密閉空気層なら等価 $k$ で近似できる。ISO 6946に空気層の熱抵抗値が厚みごとに表になっている。通気層(換気がある場合)はCFDでモデル化するか、境界条件として扱う。

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UA値の計算手順

建築外壁のUA値(熱貫流率W/m²K)は各層の熱抵抗を積算後に逆数をとる。コンクリート100mm+グラスウール100mm+石膏ボード12.5mmの標準構成では、表面熱伝達抵抗を含めてUA≈0.35 W/m²K程度となる。

多層壁の熱伝導の実務適用

建築の外壁計算例

🧑‍🎓

実際の建築外壁の計算例を見せてください。


🎓

木造住宅の外壁(充填断熱)を例にする。


材料$L$ [mm]$k$ [W/(m K)]$R$ [m$^2$ K/W]
室内側対流0.11
石膏ボードPB12.512.50.220.057
断熱材GW16K1050.0382.763
合板構造用9mm90.160.056
通気層180.09
サイディング窯業系140.350.040
室外側対流0.04
合計3.156

$U = 1/R_{\text{total}} = 0.317$ W/(m$^2$ K)。省エネ基準(4〜7地域)の要求値 $U \leq 0.53$ を満たす。


🧑‍🎓

断熱材が全体の87%の熱抵抗を占めてますね。


🎓

そう。他の層は実質的に熱抵抗に寄与していない。断熱材の性能が壁全体の性能をほぼ決定する。


炉壁の設計例

🎓

鋼加熱炉の炉壁は3層構成が一般的だ。


材料$L$ [mm]$k$ [W/(m K)]
耐火煉瓦SK34相当2301.3
断熱煉瓦B-21150.3
鉄皮SS400650

炉内1200℃、外気25℃の場合、鉄皮温度は約80℃。作業者の安全基準(鉄皮80℃以下)を満たす断熱煉瓦厚を設計する。


🧑‍🎓

鉄皮の熱抵抗はゼロに近いから、実質的に耐火煉瓦と断熱煉瓦の2層ですね。


🎓

その通り。鉄皮は構造体であって断熱材ではない。

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ZEH住宅の断熱設計実務

2023年施行の改正建築物省エネ法ではZEH相当のUA値0.6以下(温暖地域)が求められる。旭化成建材のネオマフォームα(k=0.020 W/m·K)を60mm使用すると、従来グラスウール16K-100mmと同等の断熱性能を半分の厚さで実現できる。

多層壁の熱伝導のソフトウェア比較

商用ツールでの実装

🧑‍🎓

多層壁の解析にはどのツールが適していますか?


🎓

用途で使い分ける。


用途推奨ツール理由
1D計算・基準適合Excel、専用計算ツール手軽で高速
サーマルブリッジ2D解析THERM (LBNL), COMSOLISO 10211準拠
建築全体の熱負荷EnergyPlus, TRNSYS動的シミュレーション
炉壁・プラント壁Ansys Mechanical, COMSOL温度依存性、非線形
🧑‍🎓

THERMは無償なんですか?


🎓

Lawrence Berkeley National Lab(LBNL)が開発した無償の2D熱伝導解析ツールだ。窓やサッシのサーマルブリッジ解析に広く使われている。ISO 10077-2のベンチマークテストをパスしている。


COMSOL実装例

🎓

COMSOLで多層壁のサーマルブリッジ解析を行う手順。


1. 2Dモデルで壁断面を描く(柱、断熱材、仕上材を別ドメインで定義)

2. Heat Transfer in Solidsを追加

3. 各ドメインに材料を割り当て

4. 室内側にConvective Heat Flux($h = 9.1$、$T = 20$℃:ISO 6946)

5. 室外側にConvective Heat Flux($h = 25$、$T = 0$℃)

6. 解析後、内表面の平均温度と熱流量から $\Psi$ を算出


🧑‍🎓

$h$ の値がISOで規定されてるんですね。


🎓

ISO 6946で室内側 $R_{si} = 0.13$ m$^2$ K/W($h = 7.7$)、室外側 $R_{se} = 0.04$($h = 25$)と規定されている。ただしISO 10211のサーマルブリッジ解析では $R_{si} = 0.11$($h = 9.1$)を使う場合もある。


建築エネルギーシミュレーション

🎓

EnergyPlusやTRNSYSでは壁の多層構成をConduction Transfer Function(CTF)やFinite Differenceで解く。年間の動的熱負荷を計算し、空調設備の容量設計に使う。


🧑‍🎓

定常計算だけでは建築設計には不十分なんですね。


🎓

建築は外気温が時々刻々変化し、日射もある。定常U値は概算用で、実際のエネルギー消費予測には動的計算が必須だ。

Coffee Break よもやま話

多層壁解析の建築系ツール

THERM 7(LBL開発・無償)はEN ISO 10211準拠の2次元FEMで熱橋のΨ値を計算でき、2023年版でEnergyPlusへのデータ連携機能が強化された。Flixo proはスイス製の建築熱橋専門ソフトで、パッシブハウス認証に必要な解析書類を自動生成する。

多層壁の熱伝導の先端研究

内部結露の判定

🧑‍🎓

多層壁の中で結露することがあるって聞いたんですが。


🎓

冬季に室内の高湿空気が壁体内に侵入し、露点以下の温度の層で結露する。Glaser法で判定する。


1. 各層の温度分布を計算

2. 各界面の飽和水蒸気圧を温度から算出

3. 各層の水蒸気拡散抵抗 $\mu d$ から水蒸気圧分布を計算

4. 水蒸気圧が飽和水蒸気圧を超える位置で結露発生


🧑‍🎓

温度計算と水蒸気計算の2段階なんですね。


🎓

ISO 13788にGlaser法の手順が規定されている。ただしGlaser法は定常計算なので、蓄湿効果を考慮した動的計算(WUFI等)の方が現実に近い。


多次元サーマルブリッジ

🎓

3Dサーマルブリッジ(壁のコーナー部、柱と梁の交差部)は点熱橋として $\chi$ [W/K] で評価する。


$$q = U \cdot A \cdot \Delta T + \sum \Psi_j L_j \Delta T + \sum \chi_k \Delta T$$

$\chi$ の算出には3D FEM解析が必要だ。


🧑‍🎓

建築の角部は熱が逃げやすいんですね。


🎓

コーナー部の内表面温度が低下し、結露やカビの原因になる。高断熱住宅では角部の断熱補強が重要な設計項目だ。


機能性多層壁

🎓

最近の研究では、相変化材料(PCM)を壁に埋め込んで蓄熱する機能性多層壁が注目されている。


🧑‍🎓

PCMで日中の熱を蓄えて夜間に放出するんですね。


🎓

パラフィン系PCM(融点22〜26℃)を石膏ボードに充填する製品がある。潜熱蓄熱により室温変動を2〜4℃低減できる。COMSOLのPhase Change Material機能やEnergyPlusのCondFDアルゴリズムでシミュレーション可能だ。

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並列経路を持つ多層壁の解析

スタッド(木材柱)と断熱材が並列に並ぶ木造外壁では等価熱回路が並列抵抗になる。スタッドの面積比15%で熱伝導率0.15 W/m·Kの木材が入ると、均一断熱材と比べて熱貫流率が最大30%増加する「熱橋」効果を正確に評価することが重要だ。

多層壁の熱伝導のトラブル対応

よくあるトラブルと対策

🧑‍🎓

多層壁の解析で注意すべき点は何ですか?


🎓

典型的なトラブルを整理する。


1. 手計算とFEMの結果が合わない

🎓

原因: FEMでは2D/3D効果(サーマルブリッジ、コーナー)が含まれるが、手計算は1Dの仮定。


対策: 1D部分だけで比較して一致を確認。差異はサーマルブリッジの寄与として解釈する。


2. 空気層の扱い

🧑‍🎓

空気層をどうモデル化するかで迷います。


🎓
空気層の状態モデル化方法
密閉(厚さ < 25mm)等価 $k$ = 対流+放射の合成(ISO 6946テーブル)
密閉(厚さ > 25mm)等価 $k$ は厚さに依存しない($R \approx 0.18$ m$^2$ K/W)
通気層外気条件として扱う(内側表面に対流条件を設定)
強制換気CFD解析が必要

3. 層間の接触抵抗

🎓

多層壁では層間が完全に密着しているとは限らない。接着剤層やエアギャップが存在する場合、追加の熱抵抗を考慮する。


🧑‍🎓

建築ではどの程度の影響がありますか?


🎓

建築壁体では通常無視できるレベルだが、電子基板の多層PCBでは各層間の接着剤(エポキシ、$k = 0.2$〜0.4)の影響が大きい。厚さ50μmの接着層でも$R = 1.25 \times 10^{-4}$ m$^2$ K/Wになり、銅箔層の熱抵抗より大きくなることがある。


4. 材料物性の不確実性

🎓

断熱材の $k$ は施工後の含水率、経年劣化、圧縮度合いで変動する。設計値に対して+20%のマージンを見込むことが推奨されている(JIS A 9501)。


🧑‍🎓

マージンを見込んだ設計が重要ですね。


🎓

感度分析で $k$ を±20%変動させ、結果の変動幅を確認する。温度基準や結露基準に対するマージンが十分か検証する。

Coffee Break よもやま話

熱橋による断熱性能低下

アルミサッシは熱伝導率k=210 W/m·Kで、樹脂サッシ(k=0.2 W/m·K)の1000倍。窓周囲の熱橋を無視すると建物全体の熱損失を20〜40%過小評価する。EN ISO 10211規格に従った3次元FEM解析でΨ値(線形熱橋係数)を算出することが必要だ。

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