非定常伝導の数値解法

カテゴリ: 熱解析・非定常熱伝導 | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for numerical transient theory - technical simulation diagram
非定常伝導の数値解法

理論:θ法の3つの選択

概要

🙋

非定常の熱伝導を解くとき、陽解法と陰解法のどちらを選べばいいですか?

🎓

それぞれ弱点が違う。陽解法は1ステップが軽いが、時間刻みに厳しい上限があり、超えると一気に発散する。後退オイラー法は無条件に安定だが1次精度で、大きな刻みでは誤差が大きい。クランク・ニコルソン法は2次精度で正確だが、急な変化があると解が振動して、物理的にありえない温度を出すことがある。板を急に冷やす同じ問題で、3つを並べて比べてみよう。

θ法の式

$$ \frac{T_i^{n+1}-T_i^n}{\Delta t} = \alpha\left[\theta\,\delta^2 T^{n+1} + (1-\theta)\,\delta^2 T^n\right]_i,\qquad \delta^2 T_i = \frac{T_{i+1}-2T_i+T_{i-1}}{\Delta x^2} $$

θ = 0 が陽解法、θ = 1 が後退オイラー法、θ = 1/2 がクランク・ニコルソン法。

安定条件と増幅率

$$ r = \frac{\alpha\,\Delta t}{\Delta x^2} \le \frac{1}{2}\ (\theta = 0),\qquad G_{CN}(k) = \frac{1-2r\sin^2(k\Delta x/2)}{1+2r\sin^2(k\Delta x/2)} \to -1\ (r\to\infty) $$

陽解法は r ≤ 1/2 が必要。クランク・ニコルソン法の増幅率は、刻みが大きいと短い波長の成分で −1 に近づく。つまり急な変化の成分がほとんど減衰せず、1ステップごとに符号を変えて残る。これが振動の正体だ。

Coffee Break よもやま話

クランクとニコルソン

クランク・ニコルソン法は、1947年にイギリスのジョン・クランクとフィリス・ニコルソンが、熱伝導型の方程式を数値的に解く実用的な方法として発表した。電子計算機がまだ普及していない時代で、手回し計算機で解く手間を減らしながら精度を上げる工夫だった。同じ頃、陽解法の不安定さは、フォン・ノイマンが考えた安定性の解析で説明されるようになった。今でも多くの熱解析ソフトで、この2つの考え方が時間積分の基本になっている。

計算例:100℃の板の急冷

厚さ1、熱拡散率1、初期温度100℃、両面を0℃に保つ。20分割(Δx = 0.05)で、t = 0.1の中心温度を比べる。厳密解は47.449℃。

陽解法

rステップ数中心温度
0.4010047.22 °C
0.508046.87 °C
0.5277164.6 ℃(発散)

後退オイラー法とクランク・ニコルソン法

rステップ数後退オイラー:中心(誤差)CN:中心(誤差)CN:1ステップ後の最低温度
0.410047.67 (+0.22)47.45 (−0.003)70.8 °C
22048.55 (+1.10)47.44 (−0.011)23.6 °C
10452.28 (+4.83)47.14 (−0.31)−28.4 °C
🙋

クランク・ニコルソン法は中心の温度はほぼ正しいのに、表面の近くでは0℃より低い温度が出てしまうんですね。

🎓

急冷の最初は、表面の近くで温度が急に変わる。この急な変化は短い波長の成分でできていて、クランク・ニコルソン法では大きな刻みだとほとんど減らずに符号だけ変わって残る。だから1ステップ目で−28℃という、両面0℃・初期100℃の問題では決して出ない値が現れる。中心のように変化のなめらかな場所では正確なので、平均的な値だけ見ていると気づかない。温度で物性が変わる問題や、凝固のように温度で状態が変わる問題では、このありえない値が計算を狂わせる。後退オイラー法は、この成分を強く減衰させるので振動しないが、そのぶん全体がなまって誤差が大きい。実務では、最初の数ステップだけ後退オイラー法にしてからクランク・ニコルソン法に切り替えるのがよく使われる。

選び方と注意

  1. 陽解法は r ≤ 1/2(2次元1/4、3次元1/6)を守る。最小の要素で決まる。
  2. 陰解法でも、時間刻みを変えて結果が変わらないことを確かめる。
  3. 急な変化がある問題でクランク・ニコルソン法を使うなら、最初を後退オイラー法にする。
  4. 物理的にありえない値(初期値や境界値の範囲外)が出ていないか確かめる。
  5. 非線形の問題では、時間刻みを自動調整する方法も検討する。
Coffee Break よもやま話

「凝固しないはずの場所が凝固した」

鋳造の熱解析で、溶けた金属を型に流し込んだ直後、型との境目の数点だけが一瞬で固相線より低い温度になり、そこから奇妙な凝固が広がった。原因は、大きな時間刻みで使っていたクランク・ニコルソン法の振動だった。境目の急な温度変化で温度が一時的に下へ振れ、凝固の判定がそれに反応してしまったのだ。最初の数ステップを後退オイラー法に変えると、不自然な凝固は消えた。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
陽解法で r > 1/2発散安定条件を守る
陰解法で刻みが大きすぎ誤差が大きい刻みを変えて確認
CNを急変問題にそのままありえない温度最初は後退オイラー
平均値だけ確認振動を見逃す最小・最大も確認
最小要素を見落とす局所で発散最小寸法で刻みを決める
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