コンパクト熱モデル(Delphi/JEDEC)
考え方:部品を少ない節点で表す
概要
基板全体の熱解析で、IC を何十個も詳細にモデル化したら計算が終わらないんです。
そういうときに使うのがコンパクト熱モデルだよ。チップ、ボンディングワイヤ、リードフレーム、樹脂……と中身を全部メッシュにする代わりに、接合部と外面の数点を熱抵抗でつないだだけの「箱」に置き換える。ポイントは、どれだけ単純にしても、使う冷却条件で接合部の温度が合っていればいい、という割り切りなんだ。どこまで単純にしてよいかは、冷やし方で決まる。
代表的なモデル
| モデル | 節点 | 特徴 |
|---|---|---|
| 1抵抗(θJA) | 接合部と周囲 | 試験基板の条件でしか使えない。システム解析には不向き |
| 2抵抗(JEDEC) | 接合部・上面・基板面 | データシートの RJC・RJB から作れる。冷やし方によって誤差が出る |
| DELPHI(多節点) | 上面・底面・側面を複数に分割 | 多数の冷却条件で詳細モデルに合わせて抵抗値を決める。境界条件が変わっても精度を保ちやすい |
2抵抗モデルの式
$R_{top}$ は上面から周囲まで(ヒートシンクや対流)、$R_{board}$ は基板面から周囲までの熱抵抗。上面と基板面をそれぞれ1つの温度で代表させている点が、このモデルの限界になる。
ヨーロッパの共同研究から生まれた
DELPHI は、1990年代前半にヨーロッパの電子機器メーカーと解析ソフト会社が参加した共同研究プロジェクトの名前だ。部品メーカーが中身を公開しなくても、機器メーカーが正確に熱解析できる「部品の熱モデル」を作ることが目的だった。そこで生まれたのが、たくさんの冷却条件で詳細モデルと合うように抵抗網を決める方法で、境界条件に依存しにくいモデルという考え方は、のちにJEDECの規格にも取り入れられた。部品の中身を秘密にしたまま、熱の振る舞いだけを渡せるのが大きな利点である。
計算例:冷やし方で誤差がどう変わるか
基準にする「詳細モデル」
部品を、接合部・上面中央・上面周辺・底面の4節点の熱抵抗網で表したものを「詳細モデル」とする(接合部〜上面中央 8 K/W、接合部〜上面周辺 30 K/W、上面中央〜周辺 6 K/W、接合部〜底面 4 K/W)。ここから2抵抗モデルを作ると、上面全体を冷やしたときの値から $R_{JC} = 6.32$ K/W、基板だけで冷やしたときの値から $R_{JB} = 4.00$ K/W となる。この2つを、いろいろな冷やし方で比べた(発熱1 W あたりの接合部の温度上昇)。
| 冷やし方 | 詳細モデル | 2抵抗モデル | 誤差 |
|---|---|---|---|
| 上面全体をコールドプレートで冷却 | 6.32 K/W | 6.32 K/W | 0 % |
| 基板だけで冷却 | 4.00 K/W | 4.00 K/W | 0 % |
| 上面中央に小型ヒートシンク+基板 | 5.42 K/W | 5.31 K/W | −2.1 % |
| 上面は自然対流+放熱の良い基板 | 10.14 K/W | 10.11 K/W | −0.3 % |
| 周辺部だけに放熱板が接触 | 8.31 K/W | 6.26 K/W | −24.6 % |
周辺だけから冷やす条件では、25%も低く出るんですね。しかも危険側に。
2抵抗モデルは上面を1つの温度で扱うから、「上面のどこから熱が出ていくか」を区別できない。実際には接合部の真上の中央のほうが熱が通りやすいのに、周辺からしか逃げられない条件では、その差が効いてくるんだ。上面中央と周辺を分けた多節点モデル(この例では詳細モデルそのもの)なら、どの条件でも誤差は0になる。これがDELPHIモデルの考え方だよ。
システム解析での使い方
モデルの選び方
- 発熱の小さい部品や、温度の余裕が大きい部品は2抵抗モデルで十分なことが多い。
- 温度の余裕が小さい部品、ヒートシンクやヒートスプレッダが部分的にしか触れない部品は、DELPHIモデルか詳細モデルを使う。
- 部品メーカーが提供するモデルの形式(2抵抗・DELPHI・詳細)と、どの冷却条件で検証されたかを確認する。
検証の手順
- 重要な部品について、詳細モデル(またはメーカー提供の詳細データ)と、実際の使用条件に近い冷却条件で比べる。
- 接合部の温度上昇の誤差が数%以内なら、そのコンパクトモデルをシステム解析に使う。
- 実機では、ケース上面の温度と ψJT から接合部温度を推定し、解析と比べる。
コンパクトモデルの「面」の置き方
コンパクトモデルを CFD に入れるときにありがちなのが、モデルの外面と基板や筐体との接触を正しく作れていないことだ。上面の節点がヒートシンクと面で接していない、底面の節点が基板の銅箔の層と熱的につながっていない、などがあると、抵抗値が正しくても熱の出口がふさがってしまう。モデルを配置したら、各節点から出ていく熱量を出力して、想定どおりの経路で熱が流れているかを確認するのが確実だ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| θJA だけで部品を表す | 実際の基板で温度を大きく誤る | 2抵抗以上のモデルを使う |
| 部分的な冷却に2抵抗モデル | 接合部温度を危険側に誤る | DELPHI か詳細モデル |
| 外面と基板の接触を作らない | 熱の出口がふさがる | 各節点の熱量を出力して確認 |
| 検証条件を確かめない | 適用範囲外で使う | メーカーの検証条件を確認 |
熱抵抗の積み上げを自分でも試したいです。
LEDジャンクション温度シミュレーターで部品から周囲までの熱抵抗の積み上げ、ヒートシンク設計計算機でヒートシンク側を確かめられるよ。基本の式は熱抵抗(Rth)モデル、全体の進め方はジャンクション温度予測と基板レベルの熱解析、基板への放熱はサーマルビアの記事にまとめてある。
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