自然空冷と強制空冷の設計
理論:空気でどれだけ熱を運べるか
概要
ファンをなくして自然空冷にしたい、という要望が来ました。静かで壊れないのはわかりますが、どこまでいけるものなんですか?
判断の軸は「熱伝達率 × 放熱面積 × 許容温度差」だよ。自然空冷の熱伝達率は強制空冷の数分の1しかないから、同じ発熱なら放熱面積を数倍にするか、温度上昇を大きく許すしかない。ただし自然空冷には強制空冷ではほとんど効かない味方がいる。それが放射なんだ。まず数字で比べてみよう。
自然対流の熱伝達率
高さ $L=0.1$ m の垂直平板で、表面55℃・周囲25℃(温度差30 K)とすると、膜温度40℃の空気物性で $Ra_L \approx 2.2\times10^6$、$\overline{Nu} \approx 22.8$、熱伝達率は約 6.2 W/(m²·K) になる。
放射の寄与
同じ平板で放射率 $\varepsilon = 0.9$(黒色アルマイトや塗装面)なら $h_{rad} \approx 6.3$ W/(m²·K)。10 cm 角の片面から、対流で約1.9 W、放射でも約1.9 W が逃げる計算になる。無処理のアルミ(放射率0.05〜0.1程度)ではこの分がほぼ消える。
放射が対流と同じくらい効くんですか! 自然空冷のヒートシンクが黒いのはそのためなんですね。
そういうこと。ただし注意点が2つある。フィンの内側どうしは互いに向き合っているから、そこからの放射はあまり外へ出ていかない。効くのは外側に見えている面が中心なんだ。それと、強制空冷で熱伝達率が30 W/(m²·K) を超えるようになると、放射の比率は小さくなって、表面処理の効果は相対的に下がる。
強制対流と混合対流の判定
| 風速 | 熱伝達率(層流平板) | $Gr/Re^2$ | 支配的な対流 |
|---|---|---|---|
| 0.2 m/s | 5.5 W/(m²·K) | 2.35 | 混合(浮力が無視できない) |
| 1 m/s | 12.3 W/(m²·K) | 0.094 | ほぼ強制 |
| 2 m/s | 17.4 W/(m²·K) | 0.024 | 強制 |
| 5 m/s | 27.5 W/(m²·K) | 0.004 | 強制 |
条件は上の平板と同じ(長さ0.1 m、温度差30 K)。風速0.2 m/s 程度の弱い流れは、自然対流の熱伝達率とほとんど変わらず、浮力の影響も残る。弱いファンや筐体のすき間風を「強制対流」として扱うと誤差が大きくなる。
ファンの寿命は温度で決まる
電子機器で自然空冷が好まれる大きな理由は、ファンが寿命部品だからだ。ファンの寿命はおもに軸受のグリースの劣化で決まり、使用温度が上がるほど短くなる。温度が10〜15℃上がるごとに寿命がおよそ半分になる、という経験則がよく使われる。高温の筐体の中でファンを回すと、冷却のための部品が最初に壊れるという皮肉なことになる。ファンの位置を吸気側にするか排気側にするかも、ファン自身の温度を左右する設計判断だ。
設計計算:フィン・ファン・温度
自然空冷のフィン間隔
高さ10 cm、温度差30 K(上の $Ra_L \approx 2.2\times10^6$)なら最適間隔は約7 mm。自然空冷のヒートシンクのフィン間隔が6〜10 mm 程度に落ち着くことが多いのはこのためだ。強制空冷ではもっと狭い間隔が使えるが、その分圧力損失が増えるので、次のファンの動作点と一緒に決める。
ファンの動作点
最大風量40 m³/h・最大静圧50 Pa のファン(特性を直線で近似)を、圧力損失係数 $K = 0.05$ Pa/(m³/h)² の装置に付けた場合と、フィルタを追加して $K$ が2倍になった場合を比べる。発熱は50 W、空気の $\rho c_p \approx 1170$ J/(m³·K)。
| 条件 | 風量 | 静圧 | 排気温度上昇 |
|---|---|---|---|
| カタログの最大風量で計算 | 40 m³/h | 0 Pa | 3.8 K |
| $K = 0.05$ | 21.5 m³/h | 23.1 Pa | 7.2 K |
| フィルタ追加 $K = 0.10$ | 17.0 m³/h | 28.8 Pa | 9.1 K |
カタログの最大風量で計算すると、排気温度上昇を半分近くに見積もってしまう。しかもフィルタが目詰まりすれば $K$ はさらに上がる。動作点は必ず特性曲線どうしの交点で求めて、目詰まり時の条件でも確認しておくこと。
ジャンクション温度までの熱抵抗
発熱10 W、$R_{jc} = 1.0$ K/W、放熱グリース $R_{cs} = 0.3$ K/W、周囲40℃で、自然空冷ヒートシンク($R_{sa} = 4.0$ K/W)なら $T_j \approx 93$ ℃、強制空冷($R_{sa} = 1.2$ K/W)なら約65℃。多くの半導体の上限125〜150℃に対してどちらも収まるが、自然空冷は余裕が小さく、周囲温度や高地の条件で超えやすい。
高地での性能低下
標高3000 m では空気密度が海面の約0.74倍になる。ファンは同じ体積流量を送るので質量流量が減り、排気温度上昇は約1.35倍になる。自然対流の熱伝達率は密度の約0.5乗に比例するので約0.86倍に下がる。どちらの方式でも、仕様に使用標高があれば、その密度で計算し直す必要がある。
CFDでのモデル化
自然空冷の解析
- 浮力(ブシネスク近似または理想気体)を必ず有効にする。重力の向きの設定ミスは意外に多い。
- 筐体の外にも空間をとる。上方には筐体の高さの2〜3倍程度の空間を置き、上昇流が境界で押し戻されないようにする。
- 放射モデル(面間の形態係数を考慮するもの)を入れる。入れないと放熱量を半分近く過小評価することがある。
- 温度差が小さく流れが遅いので、収束は遅い。定常で収束しないときは、実際に流れが揺らいでいる可能性があり、非定常計算で平均をとる。
強制空冷の解析
- ファンは形状を作り込まず、特性曲線(風量−静圧)を与える境界条件やモデルで表すことが多い。回転の影響が大きいときは回転座標系(MRF)を使う。
- フィルタやパンチングメタル、グリルは多孔質体として圧力損失係数を与える。係数はメーカー値か実測から決める。
- フィンのすき間には、流れと温度の分布を表せるよう数セル以上を入れる。すき間1セルでは熱伝達率を大きく外す。
- 部品は詳細形状の代わりに、2抵抗モデルなどの簡易熱モデルで表すと規模を抑えられる(熱抵抗(Rth)モデル)。
「ファンを付けたら熱くなった」の正体
自然空冷で設計した筐体に、あとから小さなファンを付けたら部品温度が上がった、という話は珍しくない。原因の多くは、ファンの流れが自然対流の上昇流とぶつかったり、排気口近くで温まった空気を吸い戻したりしていることだ。ファンの風量が小さいと、自然対流の流れを壊すだけで、それを上回る冷却効果が出ない。CFDで流線を描けば一目でわかるので、ファンを足す前に一度確認しておきたい。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 自然空冷で放射を省略 | 放熱量を大幅に過小評価 | 放射モデルと実際の放射率を入れる |
| ファンのカタログ最大風量を使う | 温度上昇を半分近くに過小評価 | 特性曲線と圧力損失曲線の交点で計算 |
| 解析領域が筐体ぎりぎり | 自然対流の上昇流が境界で乱される | 上方と側方に十分な空間をとる |
| 周囲温度を室温の平均で与える | 筐体内の再循環で実際の吸気は高温 | 吸気口の温度を解析で確認する |
| 標高を考慮しない | 高地で温度上昇が約1.35倍(3000 m) | 使用標高の空気密度で計算 |
パラメータを変えて比べてみたいです。
自然対流熱伝達係数計算ツールと強制対流熱伝達計算ツールで熱伝達率の違いを、フィン配列シミュレーターとヒートシンク設計計算機でフィン寸法の効き方を確かめられるよ。ファンの動作点はファンカーブ・システム曲線計算機、LEDのように小さな部品の温度はLEDジャンクション温度シミュレーターで試せる。ヒートシンクの詳しい設計手順はヒートシンク設計の記事にまとめてある。
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