自然空冷と強制空冷の設計

カテゴリ: 熱解析 | 2026-09-28 改稿
CAE visualization for natural forced cooling theory - technical simulation diagram
自然空冷と強制空冷の設計

理論:空気でどれだけ熱を運べるか

概要

🙋

ファンをなくして自然空冷にしたい、という要望が来ました。静かで壊れないのはわかりますが、どこまでいけるものなんですか?

🎓

判断の軸は「熱伝達率 × 放熱面積 × 許容温度差」だよ。自然空冷の熱伝達率は強制空冷の数分の1しかないから、同じ発熱なら放熱面積を数倍にするか、温度上昇を大きく許すしかない。ただし自然空冷には強制空冷ではほとんど効かない味方がいる。それが放射なんだ。まず数字で比べてみよう。

自然対流の熱伝達率

$$ Ra_L = \frac{g\beta\,(T_s-T_\infty)L^3}{\nu\alpha}, \qquad \overline{Nu}_L = 0.59\,Ra_L^{1/4} \quad (10^4 < Ra_L < 10^9) $$

高さ $L=0.1$ m の垂直平板で、表面55℃・周囲25℃(温度差30 K)とすると、膜温度40℃の空気物性で $Ra_L \approx 2.2\times10^6$、$\overline{Nu} \approx 22.8$、熱伝達率は約 6.2 W/(m²·K) になる。

放射の寄与

$$ h_{rad} = \varepsilon\sigma\,(T_s^2+T_\infty^2)(T_s+T_\infty) $$

同じ平板で放射率 $\varepsilon = 0.9$(黒色アルマイトや塗装面)なら $h_{rad} \approx 6.3$ W/(m²·K)。10 cm 角の片面から、対流で約1.9 W、放射でも約1.9 W が逃げる計算になる。無処理のアルミ(放射率0.05〜0.1程度)ではこの分がほぼ消える。

🙋

放射が対流と同じくらい効くんですか! 自然空冷のヒートシンクが黒いのはそのためなんですね。

🎓

そういうこと。ただし注意点が2つある。フィンの内側どうしは互いに向き合っているから、そこからの放射はあまり外へ出ていかない。効くのは外側に見えている面が中心なんだ。それと、強制空冷で熱伝達率が30 W/(m²·K) を超えるようになると、放射の比率は小さくなって、表面処理の効果は相対的に下がる。

強制対流と混合対流の判定

$$ \overline{Nu}_L = 0.664\,Re_L^{1/2}\,Pr^{1/3}, \qquad Re_L = \frac{UL}{\nu} $$
$$ \frac{Gr_L}{Re_L^2} \gg 1 : \text{自然対流が支配}, \qquad \frac{Gr_L}{Re_L^2} \ll 1 : \text{強制対流が支配} $$
風速熱伝達率(層流平板)$Gr/Re^2$支配的な対流
0.2 m/s5.5 W/(m²·K)2.35混合(浮力が無視できない)
1 m/s12.3 W/(m²·K)0.094ほぼ強制
2 m/s17.4 W/(m²·K)0.024強制
5 m/s27.5 W/(m²·K)0.004強制

条件は上の平板と同じ(長さ0.1 m、温度差30 K)。風速0.2 m/s 程度の弱い流れは、自然対流の熱伝達率とほとんど変わらず、浮力の影響も残る。弱いファンや筐体のすき間風を「強制対流」として扱うと誤差が大きくなる。

Coffee Break よもやま話

ファンの寿命は温度で決まる

電子機器で自然空冷が好まれる大きな理由は、ファンが寿命部品だからだ。ファンの寿命はおもに軸受のグリースの劣化で決まり、使用温度が上がるほど短くなる。温度が10〜15℃上がるごとに寿命がおよそ半分になる、という経験則がよく使われる。高温の筐体の中でファンを回すと、冷却のための部品が最初に壊れるという皮肉なことになる。ファンの位置を吸気側にするか排気側にするかも、ファン自身の温度を左右する設計判断だ。

設計計算:フィン・ファン・温度

自然空冷のフィン間隔

$$ S_{opt} \approx 2.714\,\frac{L}{Ra_L^{1/4}} $$

高さ10 cm、温度差30 K(上の $Ra_L \approx 2.2\times10^6$)なら最適間隔は約7 mm。自然空冷のヒートシンクのフィン間隔が6〜10 mm 程度に落ち着くことが多いのはこのためだ。強制空冷ではもっと狭い間隔が使えるが、その分圧力損失が増えるので、次のファンの動作点と一緒に決める。

ファンの動作点

$$ \Delta p_{fan}(Q) = \Delta p_{sys}(Q) = K Q^2, \qquad \Delta T_{air} = \frac{P}{\rho c_p Q} $$

最大風量40 m³/h・最大静圧50 Pa のファン(特性を直線で近似)を、圧力損失係数 $K = 0.05$ Pa/(m³/h)² の装置に付けた場合と、フィルタを追加して $K$ が2倍になった場合を比べる。発熱は50 W、空気の $\rho c_p \approx 1170$ J/(m³·K)。

条件風量静圧排気温度上昇
カタログの最大風量で計算40 m³/h0 Pa3.8 K
$K = 0.05$21.5 m³/h23.1 Pa7.2 K
フィルタ追加 $K = 0.10$17.0 m³/h28.8 Pa9.1 K
🎓

カタログの最大風量で計算すると、排気温度上昇を半分近くに見積もってしまう。しかもフィルタが目詰まりすれば $K$ はさらに上がる。動作点は必ず特性曲線どうしの交点で求めて、目詰まり時の条件でも確認しておくこと。

ジャンクション温度までの熱抵抗

$$ T_j = T_a + P\,(R_{jc} + R_{cs} + R_{sa}) $$

発熱10 W、$R_{jc} = 1.0$ K/W、放熱グリース $R_{cs} = 0.3$ K/W、周囲40℃で、自然空冷ヒートシンク($R_{sa} = 4.0$ K/W)なら $T_j \approx 93$ ℃、強制空冷($R_{sa} = 1.2$ K/W)なら約65℃。多くの半導体の上限125〜150℃に対してどちらも収まるが、自然空冷は余裕が小さく、周囲温度や高地の条件で超えやすい。

高地での性能低下

標高3000 m では空気密度が海面の約0.74倍になる。ファンは同じ体積流量を送るので質量流量が減り、排気温度上昇は約1.35倍になる。自然対流の熱伝達率は密度の約0.5乗に比例するので約0.86倍に下がる。どちらの方式でも、仕様に使用標高があれば、その密度で計算し直す必要がある。

CFDでのモデル化

自然空冷の解析

  • 浮力(ブシネスク近似または理想気体)を必ず有効にする。重力の向きの設定ミスは意外に多い。
  • 筐体の外にも空間をとる。上方には筐体の高さの2〜3倍程度の空間を置き、上昇流が境界で押し戻されないようにする。
  • 放射モデル(面間の形態係数を考慮するもの)を入れる。入れないと放熱量を半分近く過小評価することがある。
  • 温度差が小さく流れが遅いので、収束は遅い。定常で収束しないときは、実際に流れが揺らいでいる可能性があり、非定常計算で平均をとる。

強制空冷の解析

  • ファンは形状を作り込まず、特性曲線(風量−静圧)を与える境界条件やモデルで表すことが多い。回転の影響が大きいときは回転座標系(MRF)を使う。
  • フィルタやパンチングメタル、グリルは多孔質体として圧力損失係数を与える。係数はメーカー値か実測から決める。
  • フィンのすき間には、流れと温度の分布を表せるよう数セル以上を入れる。すき間1セルでは熱伝達率を大きく外す。
  • 部品は詳細形状の代わりに、2抵抗モデルなどの簡易熱モデルで表すと規模を抑えられる(熱抵抗(Rth)モデル)。
Coffee Break よもやま話

「ファンを付けたら熱くなった」の正体

自然空冷で設計した筐体に、あとから小さなファンを付けたら部品温度が上がった、という話は珍しくない。原因の多くは、ファンの流れが自然対流の上昇流とぶつかったり、排気口近くで温まった空気を吸い戻したりしていることだ。ファンの風量が小さいと、自然対流の流れを壊すだけで、それを上回る冷却効果が出ない。CFDで流線を描けば一目でわかるので、ファンを足す前に一度確認しておきたい。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
自然空冷で放射を省略放熱量を大幅に過小評価放射モデルと実際の放射率を入れる
ファンのカタログ最大風量を使う温度上昇を半分近くに過小評価特性曲線と圧力損失曲線の交点で計算
解析領域が筐体ぎりぎり自然対流の上昇流が境界で乱される上方と側方に十分な空間をとる
周囲温度を室温の平均で与える筐体内の再循環で実際の吸気は高温吸気口の温度を解析で確認する
標高を考慮しない高地で温度上昇が約1.35倍(3000 m)使用標高の空気密度で計算
🙋

パラメータを変えて比べてみたいです。

🎓

自然対流熱伝達係数計算ツールと強制対流熱伝達計算ツールで熱伝達率の違いを、フィン配列シミュレーターとヒートシンク設計計算機でフィン寸法の効き方を確かめられるよ。ファンの動作点はファンカーブ・システム曲線計算機、LEDのように小さな部品の温度はLEDジャンクション温度シミュレーターで試せる。ヒートシンクの詳しい設計手順はヒートシンク設計の記事にまとめてある。

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