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高周波・RF

ブランチライン カプラ シミュレーター

RF・マイクロ波回路で1つの信号を等振幅・90°位相差の2出力に分ける、3-dBブランチラインカプラ(直交ハイブリッド)を設計するツールです。系統インピーダンス・動作周波数・基板の比誘電率を変えると、直列・並列ブランチの特性インピーダンスとλ/4線路長がリアルタイムで分かります。

パラメータ設定
系統インピーダンス Z0
Ω
入出力ポートの基準インピーダンス。50Ωが標準
動作周波数 f
GHz
カプラを設計する中心周波数
基板比誘電率 εr
プリント基板の誘電体の比誘電率(FR-4≈4.4)
計算結果
直列ブランチZ Za (Ω)
並列ブランチZ Zb (Ω)
λ/4 線路長 (mm)
結合ポート (dB)
出力位相差 (°)
実効誘電率 εeff
ブランチラインカプラの回路図 — 信号伝搬アニメーション

入力ポートに入った信号が、正方形に組まれた4本のλ/4線路を通って通過ポートと結合ポートへ等分配されます。第4ポート(分離ポート)には信号が出ません。

ブランチインピーダンス vs 系統インピーダンス Z0
λ/4線路長 vs 動作周波数 f
理論・主要公式

$$Z_a=\frac{Z_0}{\sqrt2},\qquad Z_b=Z_0,\qquad \ell=\frac{\lambda_g}{4}$$

直列ブランチ(上下の水平アーム)は Z0/√2、並列ブランチ(左右の垂直アーム)は Z0。4本のアームはいずれも管内波長の四分の一(λ/4)の長さにする。

$$\lambda_g=\frac{c}{f\sqrt{\varepsilon_{eff}}},\qquad \varepsilon_{eff}=\frac{\varepsilon_r+1}{2}$$

管内波長 λg は光速 c、周波数 f、実効誘電率 εeff から求める。マイクロストリップでは εeff ≈ (εr+1)/2 の近似を用いる。

入力は通過ポートと結合ポートへ等しく −3 dB ずつ分かれ、2出力間に90°の位相差が付く。第4ポートは分離(アイソレーション)され信号が出ない。

ブランチラインカプラとは

🙋
「ブランチラインカプラ」って、信号を2つに分ける部品ですよね?前に習ったウィルキンソン分配器とは何が違うんですか?
🎓
どちらも「1入力→2出力で等分配」という点は同じなんだけど、出力の位相が決定的に違うんだ。ウィルキンソンは2つの出力が同位相(0°差)で出てくる。一方ブランチラインカプラは、2つの出力にきっちり90°の位相差が付く。だから「90°ハイブリッド」とか「直交(クアドラチャ)ハイブリッド」と呼ばれる。さらに、ブランチラインはアイソレーション抵抗を使わず、4本のλ/4線路を正方形に組むだけで作れるのも特徴だよ。
🙋
4本のλ/4線路を正方形に組む…ということは、4つの角がポートになるんですか?
🎓
そのとおり。正方形の4つの角がそれぞれ入力ポート・通過ポート・結合ポート・分離ポートになる。上下の水平アーム(直列ブランチ)は特性インピーダンスを Z0/√2、左右の垂直アーム(並列ブランチ)は Z0 にする。Z0=50Ωなら直列ブランチが約35.4Ω、並列ブランチが50Ωだね。4本ともλ/4の長さ。左のスライダーで周波数 f を動かすと、このλ/4線路長が変わるのが下のグラフで見えるよ。
🙋
なるほど。じゃあ、なんで2つの出力に90°の差が出るんですか?同じ正方形なのに不思議です。
🎓
鍵は「入力から各出力まで、通る線路の本数が違う」ことなんだ。入力ポートから見ると、通過ポート(隣の角)へは直列ブランチ1本を通る経路、結合ポート(対角の隣)へは直列+並列を通る経路になる。λ/4線路は1本通るごとに90°の位相が積み上がるから、2つの出力では合計の位相が90°ずれる。さらに分離ポートへ向かう2つの経路は、ちょうど逆位相になって打ち消し合う。だから分離ポートには信号が出ない――これがアイソレーションだよ。
🙋
分離ポートに信号が出ないなら、その第4ポートは使わないんですか?もったいない気がします。
🎓
いや、ちゃんと使い道があるよ。基本は第4ポートに Z0 の整合終端をつないでおく。すると、出力側のアンテナや増幅器で反射が起きても、その反射波は分離ポートの終端できれいに吸収される。これがバランス型増幅器の信頼性の高さの理由なんだ。逆に第4ポートを2つ目の「入力」として使うこともできて、その場合は2入力の和と差を取る回路になる。1つの正方形が、使い方しだいで分配器にも合成器にもなるわけだね。
🙋
最後に1つ。結合ポートに −3dB って出てきますけど、これは損失なんですか?
🎓
それは「損失」じゃなくて「等分割」だよ。3-dBハイブリッドだと入力電力がきっちり半分ずつ通過ポートと結合ポートに分かれる。半分は電力比で 0.5、デシベルにすると 10·log10(0.5) ≈ −3.01dB。つまり通過も結合も両方とも −3dB なら、原理どおり正しく等分配できている証拠なんだ。実際の回路では導体損・誘電体損が少し加わるけど、良い設計ならマイクロ波帯で 0.1〜0.5dB 程度。だから測定で −3.5dB くらいなら健全だと判断できる。

よくある質問

標準的な3-dB(等分配)90°ハイブリッドでは、上下の水平アーム(直列ブランチ)の特性インピーダンスを Za = Z0/√2、左右の垂直アーム(並列ブランチ)を Zb = Z0 にします。Z0=50Ω なら直列ブランチは約35.36Ω、並列ブランチは50Ωです。4本のアームはいずれも動作周波数で四分の一波長(λ/4)の長さにします。これで入力が通過ポートと結合ポートへ均等に分かれ、出力間に90°の位相差が付きます。
ブランチラインカプラは正方形に組まれた4本のλ/4線路でできています。入力ポートから通過ポートへ向かう経路と、結合ポートへ向かう経路は通る線路の本数(=積算される位相)が異なり、その差がちょうど90°になるよう設計されています。通過ポートと結合ポートの出力は振幅が等しく、位相が90°ずれるため「直交(クアドラチャ)ハイブリッド」と呼ばれます。第4ポートは2つの経路が逆位相で打ち消し合い、信号が出ません。
管内波長 λg を実効誘電率 εeff から求め、その四分の一が線路長です。λg = c/(f·√εeff)(c は光速、f は動作周波数)、ℓ = λg/4。マイクロストリップでは εeff ≈ (εr+1)/2 の近似で見積もれます。例えば εr=4.4 の基板(FR-4 相当)で 2.4GHz なら εeff≈2.7、λg≈76mm、λ/4線路長は約19mm になります。周波数が高いほど、また εr が大きいほど線路は短くなります。
理想的なブランチラインカプラでは、入力ポートに入った信号は第4ポートにはまったく出ません(アイソレーション・分離ポート)。実用上は、第4ポートに Z0 の整合終端をつなぐのが基本です。バランス型増幅器では2つの出力に増幅器を接続し、反射波を第4ポートの終端で吸収します。逆に第4ポートを2つ目の入力として使うと、入力どうしの和と差を取る加減算回路(コンバイナ)にもなります。

実世界での応用

バランス型(バランスド)増幅器:ブランチラインカプラの最も代表的な応用です。入力をハイブリッドで2つに分け、それぞれ同じ増幅器に通し、出力側でもう1つのハイブリッドで合成します。各増幅器で反射が起きても、その反射波はハイブリッドの分離ポートの終端に集まって吸収されるため、入力ポートへ戻りません。結果として、個々の増幅器の整合が悪くても、システム全体としては良好な入出力VSWRが得られます。

I/Q(直交)変復調回路:2出力の90°位相差は、I(同相)成分とQ(直交)成分を扱う無線機の心臓部です。直交変調器・復調器、イメージ除去ミキサ、シングルサイドバンド(SSB)回路などで、信号を正確に90°ずらした2系統に分けるためにブランチラインカプラが使われます。位相精度がそのまま画像抑圧比やEVMに直結します。

アンテナの偏波制御:円偏波アンテナでは、直交する2つの放射素子に等振幅・90°位相差で給電する必要があります。ブランチラインカプラはこの給電に最適で、パッチアンテナの隣り合う2辺に90°ずれた信号を送り込むことで、右旋・左旋の円偏波を生成します。GPS・衛星通信端末のアンテナで広く使われています。

マイクロ波回路の基板実装:ブランチラインカプラはマイクロストリップやストリップラインだけで構成でき、アイソレーション抵抗のような追加部品が一切不要です。プリント基板上に4本のλ/4線路を正方形に描くだけで作れるため、低コスト・量産性に優れます。本ツールで直列・並列ブランチのインピーダンスとλ/4線路長を見積もれば、基板レイアウトの第一近似がすぐ得られます。

よくある誤解と注意点

まず大きな誤解が、「ブランチラインカプラは広い周波数で使える」という思い込みです。基本形のブランチラインカプラは4本のλ/4線路を使うため、設計周波数でしか正しく動きません。線路長が λ/4 からずれると、分配バランス・90°位相差・アイソレーションがすべて劣化します。一般に良好な特性が得られるのは中心周波数の±10〜20%程度の帯域に限られます。1オクターブを超える広帯域が必要なら、複数段を縦続接続した多段ブランチラインや、Lange カプラなどの結合線路型カプラを使います。本ツールは1段の基本形を対象にしているため、得られる値は中心周波数での設計値であることに注意してください。

次に、「実効誘電率 εeff = (εr+1)/2 が正確な値だ」という思い込みです。本ツールが採用しているこの式は、あくまでマイクロストリップの簡易近似です。実際の εeff は、線路幅と基板厚の比、導体厚、表面粗さによって変わり、正確には Hammerstad-Jensen の式や電磁界シミュレータ(モーメント法・FEM)で求めます。簡易式の誤差は数%〜十数%あり、それがそのまま λg と線路長の誤差になります。さらにブランチラインカプラでは、直列ブランチ(細い線路)と並列ブランチ(太い線路)で線路幅が異なり、εeff も微妙に違います。試作前には必ず詳細計算かシミュレーションで各線路寸法を確定させてください。

最後に、「ブランチが交わる接合部(ジャンクション)は理想点として無視してよい」という誤解です。実際のブランチラインカプラでは、4本の線路が交わるT字・L字の接合部に寄生リアクタンスが生じます。この不連続性を無視して理想線路長のまま設計すると、中心周波数がずれたり、分配バランス・位相差に誤差が出たりします。マイクロ波帯では接合部の補正(線路長の微調整や角の面取り)が必須で、最終的にはフルウェーブの電磁界シミュレーションで寸法を追い込みます。本ツールの値は接合部補正前の出発点として使ってください。

使い方ガイド

  1. 系統インピーダンスZ0(通常50Ω)、動作周波数f(GHz単位)、基板比誘電率εrを入力します
  2. 「計算」ボタンをクリックすると、直列ブランチのインピーダンスZa、並列ブランチのインピーダンスZbが自動算出されます
  3. λ/4線路長(mm)、結合ポート値(dB)、出力位相差(°)、実効誘電率εeffを確認し、マイクロストリップ線路の幅・間隔設計に反映させます

具体的な計算例

Z0=50Ω、f=2.4GHz、εr=4.4(FR-4基板)の場合:直列ブランチZa≈70.7Ω、並列ブランチZb≈35.4Ω、λ/4線路長≈15.3mm、結合ポート=3dB(理想値)、出力位相差=90°、実効誘電率εeff≈3.1となります。この値をマイクロストリップライン計算機に入力し、線路幅w=0.4mm、間隔s=0.3mmで設計します。

実務での注意点

  1. 高周波(>10GHz)ではビアホール損失・分散特性の影響で位相差が90°から逸脱するため、実測で微調整が必要です
  2. 基板比誘電率εrは温度・周波数・含水率で変動するため、仕様書の標準値±5%を考慮して設計マージンを持たせてください
  3. 出力位相差が正確に90°でない場合、モンテカルロ解析で公差を確認し、許容値内か判定してください