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電気工学

送電線のコロナ損失シミュレーター

高圧送電線の導体まわりで起こるコロナ放電と、その電力損失を計算するツールです。線間電圧・導体半径・相間距離を変えると、コロナが始まる臨界破壊電圧と、1km当たりのコロナ損失がリアルタイムで分かり、損失を抑える導体設計を探せます。

パラメータ設定
線間電圧 V_L
kV
三相送電線の線間(相間)電圧
導体半径 r
cm
素導体(または実効)の半径
相間距離 d
m
隣り合う相の導体中心間の距離
周波数 f
Hz
系統周波数(日本は東50/西60Hz)
空気密度係数 δ
標準状態で1.0。高地・高温・悪天候で低下
計算結果
相電圧 V_ph (kV)
臨界破壊電圧 V_c (kV)
過電圧マージン (kV)
コロナ損失(1相・1km)(kW/km)
全コロナ損失(3相・1km)(kW/km)
コロナの判定
導体断面とコロナ放電シース

送電線導体の断面を表します。相電圧が臨界破壊電圧を超えると、導体まわりに青紫色のコロナシースが現れ、過電圧マージンが大きいほど厚く明るく光ります。

全コロナ損失 vs 線間電圧
臨界破壊電圧 vs 導体半径
理論・主要公式

$$V_c=21.1\,m\,\delta\,r\,\ln\!\frac{d}{r},\qquad P=\frac{242.2}{\delta}(f+25)\sqrt{\tfrac{r}{d}}\,(V_{ph}-V_c)^2\times10^{-5}$$

臨界破壊電圧 V_c とPeekのコロナ損失 P。m:導体表面の不規則係数(より線で0.85)、δ:空気密度係数、r:導体半径、d:相間距離、f:周波数、V_ph:相電圧。

コロナ損失は相電圧が臨界破壊電圧を下回るとゼロです。導体半径 r を大きくすると表面電界が下がり、臨界破壊電圧が上がってコロナ損失を抑えられます。三相全体の損失は1相分の3倍になります。

コロナ損失とは

🙋
「コロナ損失」って、送電線の話で聞いたことがあるんですけど、コロナって何ですか?太陽のコロナとは違いますよね?
🎓
名前は似てるけど別物だね。送電線でいうコロナは「コロナ放電」のこと。電線にすごく高い電圧をかけると、導体の表面の電界がものすごく強くなる。すると、まわりの空気の分子から電子をはぎ取って空気をイオン化してしまうんだ。導体のまわりに薄く光るイオン化した空気の層ができる——これがコロナ放電だよ。湿った夜には、うっすら青紫色に光って、ジージーという音まで聞こえることがある。
🙋
光って音がするんですか!じゃあ「損失」っていうのは、その光と音でエネルギーが逃げてるってことですか?
🎓
そういうこと。コロナはタダじゃないんだ。空気をイオン化したり、オゾンや窒素酸化物を作ったり、可聴騒音やラジオ・テレビへの電波障害を出したり——これ全部、線路から実際の電力を奪って消費している。その電力が、電線1kmごとに連続して逃げていく。これが「コロナ損失」だよ。左のスライダーで「線間電圧」を上げてみて。ある電圧を超えると、急に損失が立ち上がるのが見えるはずだ。
🙋
本当だ、低い電圧だと損失ゼロなのに、ある電圧から急に増えますね。この「ある電圧」って何ですか?
🎓
それが「臨界破壊電圧」だよ。コロナは、導体表面の電圧がこのしきい値を超えて初めて始まる。下回っていればコロナ損失はほぼゼロ。そして運転電圧が臨界電圧を超えれば超えるほど、損失は急カーブで増えていく。このツールが使っているPeekの式——100年前の実験式だけど——は、損失が過電圧の2乗で効くこと、臨界電圧は導体半径・相間距離・空気密度で決まることを、ちゃんと表しているんだ。雨や雪や霧の日は空気密度係数 δ が下がって、臨界電圧がガクッと落ちる。だから悪天候のコロナ損失は晴天の何倍にもなるんだよ。
🙋
なるほど…。じゃあコロナ損失を減らすには、どこをいじればいいんですか?電圧は勝手に下げられないですよね。
🎓
そう、送る電圧は系統で決まっているから動かせない。一番効くのは「導体半径を大きくする」ことだね。半径が大きいと、同じ電荷でも表面に広く分散するから電界が弱くなって、臨界破壊電圧が上がり、コロナが抑えられる。下の「臨界破壊電圧 vs 導体半径」グラフでスライダーを動かすと、半径を増やすほど臨界電圧が上がるのが見えるよ。でも、1本の電線をやたら太く重くするのは現実的じゃない。だから超高圧送電線では「多導体(バンドル)」——1相を2本・3本・4本の素導体に分けてスペーサで保持する方式——を使う。何本かまとまると、見かけ上はずっと太い1本の導体のように振る舞うんだ。EHV送電線があの独特な姿をしているのは、コロナ対策が大きな理由なんだよ。

よくある質問

本ツールはPeekの実験式を使います。まず相電圧(対地電圧)が臨界破壊電圧 V_c を超えたときだけコロナが発生し、1相・1km当たりの損失は P = (242.2/δ)(f+25)√(r/d)(V_ph−V_c)²×10⁻⁵ [kW] で求めます。δ は空気密度係数、f は周波数、r は導体半径、d は相間距離、V_ph は相電圧です。三相全体の損失はこの3倍になります。損失は過電圧(V_ph−V_c)の2乗で効くため、運転電圧が臨界電圧に近いほど急に増えます。
臨界破壊電圧 V_c は、導体表面でコロナ放電が始まる相電圧のしきい値です。Peekの式では V_c = 21.1·m·δ·r·ln(d/r) [kV] で表されます。m は導体表面の不規則係数(より線で約0.85、本ツールも0.85を使用)、δ は空気密度係数、r は導体半径、d は相間距離です。導体半径 r を大きくすると表面の電界が下がるため V_c が上がり、コロナが起きにくくなります。雨・雪・霧などの悪天候では δ が下がって V_c が低下し、コロナ損失が何倍にも増えます。
最も効果的なのは導体の実効半径を大きくすることです。半径が大きいほど表面電界が下がり、臨界破壊電圧が上がってコロナが抑えられます。ただし1本の導体を太く重くするのは非現実的なため、超高圧(EHV)送電線では1相を2〜4本の素導体に分けてスペーサで保持する「多導体(バンドル)」方式を採ります。複数本がまとまって、見かけ上は大きな半径の1本の導体のように振る舞います。このほか相間距離 d を適切に取る、表面に傷や付着物を作らない、といった対策があります。
コロナ放電は線路から実際の電力を奪い、その電力は空気のイオン化、オゾンや窒素酸化物の生成、可聴騒音やラジオ・テレビへの電波障害として消費されます。1kmあたり数kW〜数十kWの損失でも、数百kmの長距離線路では無視できない量になります。さらに、湿った夜にはうっすらと青紫色に光り、特有のジージーという音が出ます。コロナはEHV送電線の導体太さや多導体構成を決める中心的な設計要因であり、損失だけでなく騒音・電波障害の環境規制の観点からも管理されます。

実世界での応用

超高圧(EHV)送電線の導体設計:275kV・500kV・765kVといった超高圧線路では、コロナ損失と電波障害・可聴騒音を許容範囲に収めることが導体選定の中心課題になります。1相を2〜4本の素導体に分ける「多導体(バンドル)」方式は、見かけの実効半径を大きくして表面電界を下げ、臨界破壊電圧を引き上げるための代表的な手段です。本ツールの「臨界破壊電圧 vs 導体半径」のカーブは、その設計判断の縮図といえます。

線路の年間損失評価:長距離送電線では、抵抗による導体損失(I²R損)に加えて、コロナ損失も年間の電力損失として積み上がります。コロナ損失は天候に強く依存するため、晴天・雨天・降雪の発生時間を重み付けして年間平均損失を見積もります。本ツールで空気密度係数 δ を下げると損失が急増するのは、まさに悪天候時の挙動を表しています。

電波障害・騒音の環境アセスメント:コロナ放電はラジオ・テレビへの電波障害(RI)や可聴騒音(AN)の発生源です。送電線のルート選定や鉄塔設計では、住宅地に近い区間でコロナを十分に抑えられるか、表面電界の評価とあわせて検討します。臨界破壊電圧に対して相電圧が十分低いことが、騒音・電波障害を抑える前提になります。

高電圧工学の教育とサニティチェック:本ツールのようなPeekの式による概算は、詳細な電界解析(有限要素法など)を行う前のあたりづけに使えます。導体半径や相間距離を変えたときに臨界電圧と損失がどう動くかを直感的に把握でき、詳細計算の結果がこの概算と桁違いなら、入力条件や境界条件の誤りを疑うサニティチェックにもなります。

よくある誤解と注意点

まず大きな誤解が、「コロナ損失は無視できるほど小さい」というものです。確かに晴天時・適切な設計の線路では、コロナ損失は抵抗損に比べて小さく抑えられます。しかし雨・雪・霧の悪天候では空気密度係数 δ が下がって臨界破壊電圧が低下し、コロナ損失は晴天時の何倍、ひどいときには十倍以上に跳ね上がります。年間の損失評価では、この悪天候時の急増を必ず織り込む必要があります。本ツールで δ を 0.7 付近まで下げると、損失が急増する様子が確認できます。

次に、「Peekの式は厳密な値を与える」という思い込みです。Peekの式は100年前に確立された実験式で、主要な依存関係(過電圧の2乗、半径・距離・空気密度への依存)を簡潔に捉えていますが、あくまで概算式です。実際のコロナ損失は、導体表面の傷・付着物・水滴、多導体の素導体配置、地形、湿度の細かな分布など多くの要因で変わります。本ツールの値は設計の方向性を掴むためのものであり、最終的な損失評価には実測データや詳細解析が必要です。

最後に、「臨界破壊電圧さえ超えなければ何の問題もない」という考え方も注意が必要です。コロナ損失そのものは臨界電圧を下回ればほぼゼロですが、導体表面のごく一部に傷や鋭い突起、虫の付着、水滴があると、その局所で電界が集中して部分的にコロナが発生します。臨界破壊電圧は導体全体を理想的な滑らかな円柱と仮定した値であり、現実の導体表面の不規則さは表面係数 m(本ツールでは0.85)で大まかに織り込んでいるにすぎません。実機では表面状態の管理も重要な対策になります。

使い方ガイド

  1. 導体本数(vlNum)と1本あたりの半径(rNum)を入力して導体構成を定義します。例:2本・8mmの割線導体
  2. 導体間距離(dNum)と周波数(fNum)を設定します。154kV送電線は導体間3.5m、50Hzが標準です
  3. 印加電圧範囲(vlRange)を指定してシミュレーション実行後、相電圧、臨界破壊電圧、過電圧マージンを確認します
  4. 出力されたコロナ損失(1相・1km)と全コロナ損失(3相・1km)のグラフから最適導体設計を判断します

具体的な計算例

154kV送電線で導体本数2本・半径8mm、導体間距離3.5m、周波数50Hzの条件:相電圧89kV時、臨界破壊電圧は約98kVと算出されます。過電圧マージンが9kVで余裕がある場合、コロナ損失は約0.8kW/km(1相)となり、3相合計で約2.4kW/kmの損失が発生します。導体を本数3本に変更すると臨界破壊電圧が110kVに上昇し、損失は約0.3kW/kmまで低下します

実務での注意点