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高周波・RF

ウィルキンソン電力分配器シミュレーター

RF・マイクロ波回路で1つの信号を2つに分ける(または合成する)ウィルキンソン電力分配器を設計するツールです。系統インピーダンス・動作周波数・基板の比誘電率・分配比を変えると、分岐線路のインピーダンス、アイソレーション抵抗、λ/4線路長がリアルタイムで分かります。

パラメータ設定
系統インピーダンス Z0
Ω
入出力ポートの基準インピーダンス。50Ωが標準
動作周波数 f
GHz
分配器を設計する中心周波数
基板比誘電率 εr
プリント基板の誘電体の比誘電率(FR-4≈4.4)
分配比 k(P2/P3)
出力2と出力3の電力比。1.0で等分配
計算結果
分岐線路Z(出力2) (Ω)
分岐線路Z(出力3) (Ω)
アイソレーション抵抗 R (Ω)
λ/4線路長 (mm)
出力2の分配 (dB)
実効誘電率 εeff
ウィルキンソン分配器の回路図 — 信号伝搬アニメーション

入力ポートからλ/4線路を通って2つの出力ポートへ信号が分かれて伝わります。2出力間に橋渡しされた抵抗 R がポート間を分離します。

分岐線路インピーダンス vs 分配比 k
λ/4線路長 vs 動作周波数 f
理論・主要公式

$$Z_{0T}=Z_0\sqrt{2},\qquad R=2Z_0\quad(\text{等分配})$$

等分配(k=1)の場合、2本の分岐線路はともに Z0·√2 のλ/4線路、アイソレーション抵抗は 2Z0。Z0=50Ω なら 70.71Ω と 100Ω。

$$Z_{02}=Z_0\sqrt{\frac{1+K^2}{K^3}},\ Z_{03}=Z_0\sqrt{K(1+K^2)},\ R=Z_0\frac{1+K^2}{K}$$

不等分配の一般式。K=√(P2/P3) は電圧比に相当する分配比。出力2側 Z02・出力3側 Z03 の分岐線路とアイソレーション抵抗 R。

$$\ell=\frac{\lambda_g}{4},\quad \lambda_g=\frac{c}{f\sqrt{\varepsilon_{eff}}}$$

分岐線路の物理長 ℓ は管内波長 λg の四分の一。λg は光速 c、周波数 f、実効誘電率 εeff から求める。マイクロストリップでは εeff ≈ (εr+1)/2。

ウィルキンソン電力分配器とは

🙋
「ウィルキンソン電力分配器」って、信号を2つに分ける部品ですよね?それなら線をただ二股に分ければいいんじゃないですか?
🎓
ざっくり言うとそうなんだけど、高周波では「ただの二股」だと困ることが起きるんだ。50Ωの線をそのまま2本に分けると、入力から見たインピーダンスが25Ωになってしまって、入力ポートで反射が起きる。さらに、片方の出力につないだアンテナの状態が、もう片方の出力にも影響してしまう。ウィルキンソンの分配器は、λ/4線路と1本の抵抗を使って、この「入力の整合」と「出力どうしの分離」を同時に解決する、とても賢い回路なんだよ。
🙋
λ/4線路って、四分の一波長の長さの線ですよね。なんでその長さが効くんですか?
🎓
λ/4の伝送線路には「インピーダンス変換器」としての性質があるんだ。特性インピーダンス Z0T のλ/4線路を使うと、片端の負荷 ZL が、もう一方の端からは Z0T²/ZL に見える。等分配のウィルキンソンでは、2つの出力(各50Ω)を Z0·√2 ≈ 70.7Ω のλ/4線路で入力につなぐ。すると入力から見ると2本の線路がそれぞれ100Ωに変換され、並列で50Ωにぴったり整合する。左のスライダーで周波数 f を動かすと、λ/4線路長がそれに応じて変わるのが下のグラフで見えるよ。
🙋
なるほど!じゃあ2つの出力の間にある抵抗は何をしているんですか?λ/4線路だけじゃダメなんですか?
🎓
いい質問だね。λ/4線路だけだと入力整合はできるけど、出力ポート同士が分離されない。例えば出力2のアンテナで反射が起きると、その反射波が出力3にも回り込んでしまう。そこで2出力の間に R = 2Z0(等分配なら100Ω)の抵抗を橋渡しする。すると、入力から正常に来た信号についてはこの抵抗の両端が同じ電位になって電流が流れず、抵抗は「見えない」。ところが片方の出力から来た反射波に対しては、抵抗が両端の電位差を作ってきっちり吸収する。これがアイソレーション、つまり出力どうしの分離なんだ。
🙋
分配比 k のスライダーを動かすと、2本の分岐線路の値が違う数字になりますね。等分配じゃない使い方もあるんですか?
🎓
あるよ。例えばアンテナアレイで、中央の素子に強く、端の素子に弱く電力を配りたいときには、わざと不等分配にする。分配比 k = P2/P3 を 2 にすれば、出力2に出力3の2倍の電力が行く。このとき K=√k として、2本の分岐線路は Z02 と Z03 で別々の値になり、抵抗 R も R = Z0(1+K²)/K に変わる。基本は等分配(k=1)で、Z02=Z03、R=2Z0 というシンプルな形だけど、このツールなら不等分配のときの線路インピーダンスもすぐ確認できる。
🙋
最後に1つ。分配すると −3dB って出てきますけど、これは損失なんですか?
🎓
それは「損失」じゃなくて「分割」だよ。等分配だと入力電力がきっちり半分ずつ2つの出力に分かれる。半分は電力比で 0.5、デシベルにすると 10·log10(0.5) ≈ −3.01dB。つまり −3dB は原理どおりに正しく動いている証拠なんだ。本当の損失は、これに加わる導体損や誘電体損で、良い設計なら3GHz帯で 0.1〜0.5dB 程度。だから測定で −3.5dB くらいなら健全、−5dB も出たら線路かハンダ付けに問題がある、と判断できる。

よくある質問

等分配(分配比 k=1)の場合、2本の分岐線路はどちらも系統インピーダンス Z0 の √2 倍、すなわち Z0=50Ω なら約70.71Ω のλ/4線路にします。不等分配では K=√k(k は電力比 P2/P3)として、出力2側 Z02 = Z0·√((1+K²)/K³)、出力3側 Z03 = Z0·√(K(1+K²)) で求めます。この線路長はちょうど四分の一波長(λ/4)です。
2つの出力ポートの間に橋渡しする抵抗 R が、出力ポート同士を電気的に分離(アイソレーション)します。等分配なら R = 2·Z0(Z0=50Ω なら100Ω)、不等分配では R = Z0·(1+K²)/K です。一方の出力で生じた反射波がこの抵抗で吸収されるため、もう一方の出力に漏れません。抵抗がないと出力同士が干渉し、分配器ではなく単なる分岐になります。
管内波長 λg を実効誘電率 εeff から求め、その四分の一が線路長です。λg = c/(f·√εeff)(c は光速、f は動作周波数)、L = λg/4。マイクロストリップでは εeff ≈ (εr+1)/2 の近似で見積もれます。例えば εr=4.4 の基板(FR-4 相当)で 2.4GHz なら εeff≈2.7、λg≈76mm、λ/4線路長は約19mm になります。周波数が高いほど、また εr が大きいほど線路は短くなります。
理想的な等分配では、入力電力が2つの出力に均等に分かれるため、各ポートへは −3.01dB(ちょうど半分)が伝わります。これは分配に伴う原理的な分割であり、損失ではありません。実際の回路では導体損・誘電体損・抵抗損が加わり、3GHz帯で 0.1〜0.5dB 程度の余分な挿入損失が生じます。不等分配では強い側のポートが −3dB より小さい損失、弱い側が大きい損失になります。

実世界での応用

アンテナアレイの給電回路:フェーズドアレイやパッチアンテナアレイでは、1つの送信機の電力を多数の放射素子に分配する必要があります。ウィルキンソン分配器をツリー状に多段接続して、4分配・8分配・16分配の給電網を構成します。各素子に行く電力の振幅を制御するため、中央素子に強く端素子に弱く配る「テーパ給電」では、不等分配のウィルキンソンが使われます。

電力増幅器の合成・分配:高出力のRF電力増幅器では、複数のトランジスタの出力を合成して大電力を得ます。ウィルキンソン分配器は入力を各増幅段に等分配し、出力側で同じ回路を逆向きに使って合成します。出力ポート間のアイソレーションがあるため、1つの増幅段が故障しても他段への悪影響が抑えられ、システムの信頼性が高まります。

計測器・テストセットアップ:ベクトルネットワークアナライザやスペクトラムアナライザのフロントエンド、信号源の分岐などで、基準信号と測定信号を分けるために使われます。出力ポート間のアイソレーションが高いため、一方の測定対象の状態が他方の測定経路を乱さず、正確な測定が可能になります。広帯域版や多段版も計測用途で多用されます。

無線通信機器・基地局:携帯電話基地局、Wi-Fiルーター、衛星通信端末などで、送受信信号の分配・合成に組み込まれます。マイクロストリップやストリップラインでプリント基板上に作り込めるため、追加部品はアイソレーション抵抗1個のみで済み、低コスト・小型・量産性に優れます。本ツールで λ/4線路長を見積もれば、基板レイアウトの第一近似がすぐ得られます。

よくある誤解と注意点

まず大きな誤解が、「ウィルキンソン分配器は広い周波数で使える」という思い込みです。基本形のウィルキンソンはλ/4線路を使うため、設計周波数でしか正しく動きません。線路長が λ/4 からずれると、入力整合・アイソレーション・分配バランスがすべて劣化します。1オクターブを超える広帯域が必要なら、λ/4線路を多段にカスケードした多段ウィルキンソンを使います。本ツールは1段の基本形を対象にしているため、得られる値は中心周波数での設計値であることに注意してください。

次に、「実効誘電率 εeff = (εr+1)/2 が正確な値だ」という思い込みです。本ツールが採用しているこの式は、あくまでマイクロストリップの簡易近似です。実際の εeff は、線路幅と基板厚の比、導体厚、表面粗さによって変わり、正確には Hammerstad-Jensen の式や電磁界シミュレータ(モーメント法・FEM)で求めます。簡易式の誤差は数%〜十数%あり、それがそのまま λg と線路長の誤差になります。試作前には必ず詳細計算かシミュレーションで線路寸法を確定させてください。

最後に、「アイソレーション抵抗はただの普通の抵抗でよい」という誤解です。この抵抗には、設計値どおりの抵抗値であることに加え、動作周波数で寄生インダクタンス・寄生容量が小さいことが求められます。リード付き抵抗や大型のチップ抵抗はインダクタンスが効いてしまい、高周波でアイソレーション特性が崩れます。GHz帯では小型の薄膜チップ抵抗を使い、実装パッドも最小限にします。また合成器として使う場合は、不平衡時にこの抵抗が電力を消費するため、定格電力にも余裕を持たせてください。

使い方ガイド

  1. 入力インピーダンス(Z0)を50Ωまたは75Ωで指定し、動作周波数(2GHz~40GHz範囲推奨)を入力
  2. 基板の比誘電率(FR-4で4.6、窒化アルミで9.8など)とカップリング係数k(0.3~0.7)を設定
  3. 計算ボタンを押すと、分岐線路インピーダンス、λ/4線路長、アイソレーション抵抗が自動算出
  4. 各出力ポートの分配損失(dB)と実効誘電率εeffを確認して設計評価

具体的な計算例

Z0=50Ω、周波数10GHz、εr=4.6(FR-4基板)、k=0.5の場合:分岐線路インピーダンスは約70.7Ω、アイソレーション抵抗は100Ω、λ/4線路長は約7.1mmが得られます。εeff=3.27で、マイクロストリップ線路の遅延係数は0.644となり、実装時の配線幅・厚さから正確な寸法を決定できます。衛星通信用フィーダネットワーク(C/Kuバンド)ではこの値を基準に±5%の公差で製造されます。

実務での注意点