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熱工学

球の半径方向熱伝導シミュレーター

球殻(中空の球状の壁)を半径方向に流れる定常熱伝導を可視化するツールです。内半径・外半径・熱伝導率・内外表面温度を変えると、熱抵抗・熱流量・熱流束と半径方向の温度プロファイルがリアルタイムで分かり、断熱タンクや極低温デュワーの保温設計に使えます。

パラメータ設定
内半径 r₁
m
球殻の内側の半径(高温側)
外半径 r₂
m
球殻の外側の半径(低温側)。必ず r₁ より大きくする
熱伝導率 k
W/(m·K)
保温材で 0.03〜0.05、ガラスで 1、銅で 400 程度
内表面温度 T₁
°C
外表面温度 T₂
°C
計算結果
熱抵抗 R_th (K/W)
熱流量 Q (W)
内表面の熱流束 (W/m²)
外表面の熱流束 (W/m²)
中間半径での温度 (°C)
断熱性能の判定
球殻断面 — 半径方向の熱流アニメーション

球殻を切った断面図。内側(高温)から外側(低温)に向かって熱が放射状に流れます。同じ熱流量 Q が広がる球面を通り抜けるため、外側ほど矢印は疎になります。

温度プロファイル T(r)
熱流量 Q vs 内半径 r₁
理論・主要公式

$$Q=\frac{T_1-T_2}{R_{th}},\qquad R_{th}=\frac{r_2-r_1}{4\pi k\,r_1\,r_2}$$

球殻の定常熱伝導。Q:熱流量 [W]、R_th:球殻の熱抵抗 [K/W]、T₁,T₂:内外表面温度、r₁,r₂:内外半径、k:熱伝導率。熱流量は経路全体で一定だが、熱流束は q(r) = Q/(4πr²) で 1/r² に比例して減少する。

$$T(r)=T_1-(T_1-T_2)\,\frac{\dfrac{1}{r_1}-\dfrac{1}{r}}{\dfrac{1}{r_1}-\dfrac{1}{r_2}}$$

球殻内の温度分布。T は r ではなく 1/r の一次関数になり、内側に温度ドロップが集中する。

球の半径方向熱伝導とは

🙋
「球の半径方向熱伝導」って、どんな場面で出てくる話ですか?平板の熱伝導は授業で習いましたが、球というのがピンと来なくて…
🎓
身近なところだと、魔法瓶の中身や LNG を貯める巨大な球形タンク、あるいは血液保管用のデュワー瓶なんかが典型例だね。中の温度を外と切り離して保ちたいときに、球の壁を熱が半径方向に通り抜ける、というモデルになる。圧力容器や宇宙機の燃料タンクもよく球形で、これは強度上の理由でもあるんだけど、結果として「同じ体積で外表面積が一番小さい形」になるから、保温という観点でもおいしいんだ。
🙋
外表面積が小さい=熱が逃げにくい、ですよね。じゃあ球は無条件で断熱に強いんですか?
🎓
そこが面白いところで、「形状として有利」なのと「同じ厚みの壁として有利」は別物なんだ。同じ厚みの壁単体で比べると、球は外側に向かって面積が r² で広がっているせいで、平板や円筒よりも熱を通しやすい。下のグラフで内半径 r₁ を小さくしていくと、熱流量 Q が逆に増えていくのが見えるはずだよ。これは「内側の小さな面が温度差をすべて受け持つ」のに対し、外側の大きな面はゆっくり熱を捨てるだけで済むから、内側が律速になっているという見方ができる。
🙋
あ、本当だ。内半径を小さくすると Q が増えるんですね。じゃあ、保温材を厚く巻けば外半径が大きくなって、その分よく冷めるようになる、なんてことも?
🎓
まさにそれが「臨界半径」って呼ばれる現象で、円筒だと電線の被覆設計でよく出てくる話だ。保温材を足すと「熱抵抗は増える」けど「外表面積も増えて対流で逃げやすくなる」。小さな球を低 k の保温材で覆うと、最初は加えるほど熱損失が増える、という直感に反することが起きる。球の臨界半径は r_c = 2k/h くらいで、円筒の r_c = k/h よりは少しマシだけど、ちゃんと意識しないと「ちゃんと巻いたのに冷めるのが速くなった」と本当に首を傾げることになる。
🙋
なるほど、保温材=厚ければ正義、じゃないんですね。ところで T(r) のグラフが直線じゃなくて、内側で急に下がっているのが気になります。これも球だから?
🎓
そう、これも球の特徴。定常では同じ熱流量 Q が次々に大きくなる球面 4πr² を通る必要があるから、温度勾配 dT/dr は 1/r² で急速に小さくなる。積分すると T(r) は 1/r の一次関数になって、内側で急に、外側でなだらかに下がるカーブになる。たとえば直径 20 cm の高温球を 1 cm の薄い殻で覆うと、温度ドロップのほとんどが殻の内側 3〜4 mm の中で起きていることになる。だから保温材は均一に巻いたつもりでも、内側部分の品質と密着が品質を決める、ということになるんだ。
🙋
面白いですね。CAE で球の伝熱を解くときに、わざわざ詳しいメッシュを切らなくても、この解析解で当たりがつけられそうです。
🎓
そう、まさにこの式が「サニティチェック」の親玉なんだ。FEM で球を解いて出てきた熱流量がここでの値と桁違いなら、十中八九どこかで境界条件か単位を間違えてる。逆に近ければ、対流や輻射を加えるとどれくらいズレるかを見積もる出発点にできる。だから極低温・断熱・圧力容器の世界では、このページの式が手計算でいちばん最初に出てくる、というくらい基本中の基本だよ。

よくある質問

定常で内表面 r₁・外表面 r₂・熱伝導率 k の球殻を半径方向に通過する熱伝導の熱抵抗は R_th = (r₂ − r₁) / (4π k r₁ r₂) です。これは平板の R = L/(kA) や円筒の R = ln(r₂/r₁)/(2π k L) と同じく、ΔT = Q·R_th という「電気回路のオームの法則」の熱版です。式の中の (r₁·r₂) は内外半径の幾何平均面積に対応し、半径方向に広がっていく伝熱面積を平均化した形になっています。
同じ厚みで比べると、球は外側に向かって面積が r² で広がるため、平板や円筒よりも熱流量は大きくなりやすく、単純な意味で「断熱に有利」とは言えません。ただし、球は内表面積に対する外表面積の比が最も小さくなる形状なので、容器の体積あたりの表面積(つまり熱損失の入口)は最小になります。極低温の球形デュワーや LNG 球形タンクが球形を選ぶのはこの理由で、形状と保温材の厚みを合わせて初めて低い熱損失が実現されます。
いいえ、必ずしも下がりません。これが有名な「保温の臨界半径」効果です。小さな球の外側に低熱伝導率の保温材を足していくと、外表面積が増えて対流による放熱がしやすくなり、保温材を足したのに熱損失が増えるという逆転現象が起こることがあります。臨界半径は円筒で r_c = k/h、球で r_c = 2k/h(h は外表面の熱伝達率)です。本ツールは内外表面温度を境界条件にとる純伝導モデルなので、この外側対流の効果は陽に含みません。実機ではこの臨界半径を超える厚みを採用するのが鉄則です。
定常で半径方向に熱が流れる球殻では、同じ熱流量 Q が次々に大きくなる球面 4πr² を通り抜けるため、温度勾配 dT/dr は 1/r² に比例して急速に小さくなります。これを積分すると、温度は 1/r の一次関数になります。つまり T(r) は r が小さい内側で急に下がり、外側ではなだらかに下がるカーブを描きます。本ツールの T(r) グラフでもこの「内側で急、外側でなだらか」が確認できます。平板(直線)や円筒(対数)と比較すると、球はもっとも内側に温度ドロップが集中する形状です。

実世界での応用

極低温貯槽・LNG 球形タンク:液体水素や液体窒素を貯めるデュワー瓶、−162 ℃ の LNG を貯蔵する Moss 型の球形タンクは、まさにこの球殻熱伝導の問題そのものです。タンク内壁が低温、外壁が外気温で、間に多層真空断熱(MLI)やパーライト充填層が入る。設計の現場では「1 日あたり何 % が蒸発するか(ボイルオフ率)」が指標になり、Q = ΔT/R_th から逆算して保温材の k と厚みを決めます。本ツールの内半径感度グラフで、容量を増やす(r₁ を上げる)と単位体積あたりの熱損失がどう減るか、おおまかに見て取れます。

圧力容器・原子炉格納容器:球形は同じ容積で外表面積が最小、かつ内圧に対する応力が最も均等になるため、高圧ガスタンクや一部の原子炉格納容器に採用されます。事故時の伝熱解析では、内側に高温・高圧の流体、外側に空気や冷却水という境界条件で、本式と同じ形の熱抵抗ネットワークが組まれます。多層構造(鋼・断熱材・コンクリート)の場合は、各層の R_th を直列に足し合わせて全体抵抗を出す、というのが基本です。

球形保温材・触媒粒子・電子部品の発熱解析:触媒の球状ペレットや、球形の蓄熱材、半導体パッケージ内のはんだボール、さらにはアイスクリームのスクープといった「球状の物体」の温度応答は、まずこの定常解で初期評価します。半径と熱伝導率の組み合わせから熱時定数 τ ≈ ρcr²/k のオーダーを掴み、「秒で温まるのか、時間が必要なのか」の見当をつけてから過渡解析に進むのが定石です。

地球・惑星科学:地球内部の熱輸送、惑星の冷却モデル、月や氷天体の地下海の温度評価などでも、球殻伝導の式は出発点として頻繁に登場します。もちろん実際は対流・放射・潜熱・内部発熱が絡みますが、まず「もし純伝導だけだったら何 W が惑星表面に出てくるか」を本式で見積もり、そこから対流が支配的なのか伝導でも辻褄が合うのかを判定します。研究者がスプレッドシートで最初に書く一行が、まさにこの R_th = (r₂−r₁)/(4πkr₁r₂) です。

よくある誤解と注意点

最大の落とし穴が、「球の熱抵抗の式を平板や円筒と取り違える」ことです。R = (r₂−r₁)/(4πkr₁r₂) は球専用で、平板 R = L/(kA) や円筒 R = ln(r₂/r₁)/(2πkL) とは形が違います。同じ厚みでも球は内外半径の積 r₁r₂ が分母に入るぶん、半径が大きいほど抵抗が小さくなる、という特徴があります。多層構造の伝熱ネットワークを書くときに、各層を平板の式で「面積一定」と扱ってしまうと、薄い殻に大量の熱が流れているはずなのに過小評価し、逆に厚い殻では過大評価する、という両側のミスが同時に発生します。必ず形状に合わせた抵抗式を選んでください。

次に、「内外表面温度を境界条件にしてしまうと、現実の対流・放射が含まれない」こと。本ツールは内外表面温度をユーザーが指定する純伝導モデルです。一方、現実の保温タンクでは「内側流体の温度」と「外気温」がわかっていても、「内壁表面」と「外壁表面」の温度はそれ自体が未知で、対流伝達率 h_in, h_out によって決まります。実機の熱流量を出すには、内側対流抵抗 1/(h_in·A_in) と外側対流抵抗 1/(h_out·A_out) を本式の R_th と直列に足す必要があります。これを忘れると、本ツールの値は実機より大きく出ます(壁内伝導しか考えていないため)。サニティチェック用と割り切るのが安全です。

最後に、「熱伝導率 k を一定値だと思い込む」こと。多くの保温材は温度依存性が強く、ポリウレタンフォームや真空多層断熱は低温で急速に性能が変わり、高温では輻射成分が無視できなくなって見かけの k が温度の 3 乗で増える、ということが起きます。極低温機器では平均温度ではなく「温度範囲で積分した実効 k」を使う、というのが業界標準です。本ツールで k を一つの値に固定するときは、内外温度の中央値での k を入れるのが第一近似ですが、桁を狙う設計では必ずメーカーの温度依存曲線にあたってください。

使い方ガイド

  1. 内球半径(mm)と外球半径(mm)を入力して球殻の寸法を設定する。例:内球半径50mm、外球半径100mmのウレタンフォーム断熱タンク
  2. 材料の熱伝導率(W/m·K)を指定する。ウレタンフォーム0.025、グラスウール0.04、ロックウール0.05の典型値から選択可能
  3. 内表面温度と外表面温度(°C)を入力して境界条件を確定すると、熱抵抗・熱流量・各層での温度分布がリアルタイム計算される
  4. 中間半径での温度プロファイルを確認して、内側からの距離による温度低下を視覚化する

具体的な計算例

液化窒素貯蔵用デュワー瓶の球殻設計:内球半径r₁=40mm、外球半径r₂=80mm、ウレタンフォーム充填(λ=0.026 W/m·K)、内表面温度Tin=77K(-196°C)、外表面温度Tout=293K(20°C)の場合、熱抵抗Rth=(r₂-r₁)/(4πλr₁r₂)=(0.04)/(4π×0.026×0.04×0.08)≈3.04 K/Wとなり、熱流量Q=(293-77)/3.04≈71Wである。内表面熱流束は約710 W/m²、外表面は約355 W/m²となる。

実務での注意点

  1. 空気層の熱伝導率は約0.026 W/m·Kだが、真空引きで0.001以下に低減可能。二重壁間を1×10⁻⁴Pa以下に保つと放射熱伝達が支配的になり放射遮蔽が重要
  2. ウレタンフォーム充填時は施工ムラによる局所的な密度低下で熱伝導率が0.04まで増加する可能性。サンプル測定(JIS A1412)で確認必須
  3. 温度差が大きい場合、材料の熱伝導率が温度依存性を持つため、平均温度での補正値を用いる。例えば低温下では値が変化するため中温値での再計算を推奨
  4. 外表面結露が発生する環境では追加の放射遮蔽層やヒータ帯を検討し、計算に含める