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振動工学

回転体のバランシング(影響係数法)シミュレーター

ファンや羽根車、砥石などの回転体が振れる原因のほとんどは質量の不釣り合いです。元の振動・試しおもり付きの振動・試しおもりの諸元を入力すると、影響係数法によって付けるべき修正おもりの質量と取付角がベクトル演算で求まります。

パラメータ設定
元の振動振幅 A₀
µm
運転速度で測った試しおもり無しの振動振幅
元の振動の位相 φ₀
°
基準パルスから測った振動ピークの角度
試しおもりの質量 mₜ
g
影響係数を求めるために仮付けする既知の質量
試しおもりの取付角 θₜ
°
ロータ上で試しおもりを付けた角度位置
試しおもり付きの振動振幅 A₁
µm
試しおもりを付けて再運転したときの振動振幅
試しおもり付きの振動位相 φ₁
°
試しおもり付きでの振動ピークの角度
計算結果
影響係数 α の大きさ (µm/g)
修正おもりの質量 (g)
修正おもりの取付角 (°)
試しおもりの効果 (µm)
予測振動低減率 (%)
バランス判定
複素平面のベクトル図とロータ

左の極座標グリッドに元振動 V0・試しおもり付き振動 V1・試しおもりの効果 V1−V0・修正おもり位置を矢印で表示。右は回転するロータと不釣り合い/修正おもりの位置です。

振動ベクトル図(複素平面 x-y)
補正前後の振動振幅
理論・主要公式

$$\alpha=\frac{V_1-V_0}{W_t},\qquad W_c=-\frac{V_0}{\alpha}$$

影響係数 α と修正おもり Wc。V0:元の振動、V1:試しおもり付きの振動、Wt:試しおもり。すべて振幅∠位相のベクトルで、α はロータの「1グラムあたり何µm振れるか」を表す影響係数(µm/g)。

$$x=A\cos\theta,\quad y=A\sin\theta,\qquad A=\sqrt{x^2+y^2},\quad \theta=\operatorname{atan2}(y,x)$$

ベクトル演算は直交座標 (x, y) に変換して加減算・複素除算を行い、結果を振幅 A と位相 θ(0〜360°に正規化)へ戻す。

$$\Delta V = V_1-V_0,\qquad |W_c| = \frac{|V_0|}{|\alpha|},\quad \angle W_c = \angle V_0 + 180^\circ - \angle\alpha$$

ΔV は試しおもりの効果ベクトル。複素除算では大きさを割り、角度を引く。修正おもりの角度は「−V0 の角度」から「α の角度」を引いて求める。

回転体のバランシングとは

🙋
工場の大きな送風機が「ブーン」と振動して、ベアリングがすぐ傷むって聞いたんですけど、これって何が原因なんですか?
🎓
回転速度に同期した振動なら、まず疑うのは「不釣り合い(アンバランス)」だね。ロータの重心が回転軸の上にぴったり乗っていないと、回した瞬間にぐるぐる回る遠心力が生まれて、それが軸受を揺さぶる。羽根に付いた塵、補修の溶接、わずかな加工誤差——どれも重心をほんの少しズラすだけで、回転が速いと無視できない力になるんだ。
🙋
なるほど。じゃあ重心がズレてるなら、反対側におもりを付ければ直せそうですけど…どこに何グラム付ければいいか、どうやって決めるんですか?
🎓
そこで使うのが「影響係数法」だよ。勘で当てるんじゃなく、たった3回の測定で正解を出す。まず運転速度で元の振動を測る——振幅だけじゃなく「1回転のどのタイミングで振れがピークになるか」という位相もセットでね。これで振動が「ベクトル」になる。左のスライダーの A₀ と φ₀ がそれだ。
🙋
振動を「ベクトル」として扱うんですね。次の試しおもりは何のためですか?
🎓
試しおもりは「このロータが、おもりにどう反応するか」を実測するための一手だ。質量も取付角も分かっている既知のおもり(mₜ、θₜ)を仮付けして、もう一度回す。すると振動ベクトルが V0 から V1 に変わる。この変化分 V1−V0 こそ「試しおもりだけが生んだ振動」で、それを試しおもりの質量で割れば、ロータの応答性=影響係数 α が1つの複素数として手に入る。α = (V1−V0)/Wt だね。
🙋
影響係数 α が分かったら、あとは修正おもりを計算するだけですか?
🎓
そう、ここからは一発の割り算だ。元の不釣り合いを打ち消すには、α が生む振動が元振動 V0 とちょうど逆向き・同じ大きさになればいい。だから修正おもりは Wc = −V0/α。複素数の割り算は「大きさを割って、角度を引く」だけ。Wc の大きさが付ける質量、角度がそのまま取り付け位置になる。右上のベクトル図で V0 と V1、その差、そして修正おもりの方向が一目で見えるよ。
🙋
たった1個のおもりで、あの大きな振動がほぼゼロになるんですか?
🎓
単面バランシングがうまく効けば、理論上は残留振動ほぼゼロまで持っていける。実際の現場でも、ガタガタ言っていた研削盤の砥石が、適切に選んだ修正おもり1個で静かに回るようになる。ただし1回で完璧に決まらないこともあって、その場合は残った振動をまた V0 とみなして同じ計算を繰り返す——これを「トリムバランス」と呼ぶんだ。

よくある質問

影響係数法は、回転体の不釣り合いを「測定だけ」で補正する標準的な手法です。まず運転速度での元の振動 V0(振幅と位相)を測ります。次に既知の質量・角度の試しおもりを取り付けて再運転し、振動 V1 を測ります。試しおもりによる振動の変化 V1−V0 を試しおもりの質量で割ると、その回転体が単位質量あたりどれだけ振動するかを表す影響係数 α が得られます。試しおもりは、この α を実測するために不可欠なのです。
影響係数 α が分かれば、元の不釣り合いを打ち消す修正おもり Wc は Wc = −V0 / α という1回の複素数除算で求まります。複素数の除算は「大きさを割り、角度を引く」演算です。Wc の大きさが付けるべき修正質量、Wc の角度が取り付けるべき角度になります。本ツールでは振動ベクトルを直交座標(x=A·cosθ, y=A·sinθ)に変換して計算し、結果を A=√(x²+y²)、θ=atan2(y,x) で振幅∠位相に戻します。
本ツールが扱う単面バランシングは、ファンや砥石、ポンプ羽根車のように軸方向に薄い「ディスク状」の回転体に有効で、1つの面に1つの修正おもりを付ければ補正できます。一方、ロータが軸方向に長い場合は、不釣り合いが偶力(モーメント)として現れ、両端の2面で同時にバランスを取る二面バランシングが必要になります。長いロータに単面補正だけを行うと、片方が良くなっても反対側が悪化することがあります。
位相は「1回転のうちどのタイミングで振動がピークになるか」を表す角度で、回転軸上に貼った反射マークを光電センサ(フォトタコ)やキーフェーザで検出し、その基準パルスを起点に測ります。振幅だけでは「どの方向の不釣り合いか」が分からないため、位相情報が不可欠です。振幅と位相をセットにして初めて振動はベクトルとして扱え、影響係数法のベクトル演算が成立します。

実世界での応用

送風機・ポンプ・コンプレッサ:工場の大型ファンや換気送風機、ポンプの羽根車は、軸方向に薄いディスク状のロータが多く、単面バランシングが最もよく効く対象です。粉塵の付着、羽根の摩耗、補修溶接などで時間とともに不釣り合いが進行するため、定期的に振動を測り、影響係数法で修正おもりを追加するか、不要な重みを削り取るバランス調整が行われます。

工作機械の砥石・主軸:研削盤の砥石は、目詰まり除去のドレッシングや吸湿で重心が動きやすく、わずかな不釣り合いが加工面のびびり模様(うねり)として直接現れます。多くの研削盤には砥石フランジに移動式のバランスウェイトが組み込まれ、影響係数法の考え方でその位置を決めて、面粗さと寸法精度を確保します。

タービン・発電機・電動機ロータ:蒸気タービンや発電機のロータは長く重いため、本来は二面・多面バランシングが必要ですが、現地での簡易補正には1平面ごとに影響係数法が使われます。運転速度が危険速度に近いと位相が大きく変わるため、運転速度そのもので測定・補正することが重要になります。

状態監視・予知保全(CBM):振動センサで常時監視している設備では、回転速度成分(1×成分)の振幅と位相を追跡することで、不釣り合いの進行を早期に検知できます。位相がほぼ一定で振幅だけ増えていく場合は典型的なアンバランスの兆候で、影響係数法による補正のタイミングを計画的に判断できます。

よくある誤解と注意点

まず最も多い誤解が、「振れる=必ず不釣り合い」と決めつけることです。回転速度に同期した1×振動の多くは確かに不釣り合いですが、ミスアライメント(軸心ずれ)、軸の曲がり、軸受のガタ、共振などでも回転同期振動は出ます。これらに影響係数法でおもりを付けても、根本原因は消えません。補正の前に、位相の挙動やスペクトル(2×成分の有無など)を見て、本当に不釣り合いが支配的かを切り分けることが先決です。

次に、「影響係数 α は機械固有の不変量だ」という思い込み。α はロータ・軸受・基礎・運転速度を含めた系全体の応答であり、運転速度が変われば、特に危険速度の近くでは大きく変わります。あるとき測った α を別の速度や別の機械にそのまま流用すると、修正おもりの角度が大きくずれます。本ツールの計算はあくまで「同一条件で測った3つのベクトル」が前提で、測定はすべて同じ運転速度・同じ位置で行わなければなりません。

最後に、「試しおもりの効果 V1−V0 が小さくてもよい」という油断。試しおもりを付けても振動がほとんど変わらない(ΔV がごく小さい)と、α = ΔV/Wt の分子が小さく、わずかな測定誤差が α に大きく増幅されて、修正おもりの質量・角度が不正確になります。試しおもりは、元の振動を意味のある量だけ変化させる程度に大きく選ぶのが鉄則です(目安として元振動の30%以上は変化させたい)。本ツールも ΔV が極端に小さい場合は判定で注意を促します。

使い方ガイド

  1. 元の振動振幅(origAmpNum)と位相角(origPhaseNum)を入力。例えば、砥石の不釣り合いで振幅120µm、位相角45°を設定します
  2. 試しおもり(trialMassNum=50g、trialAngleNum=0°)を装着して測定した試しおもり効果を入力。例:振幅が98µmに変化した場合、影響係数αが自動計算されます
  3. 計算された影響係数αと修正おもり質量・角度が表示されます。結果をローター上の指定位置に装着し、再度測定で確認します

具体的な計算例

羽根車(直径500mm、回転数3000rpm)のバランシング:元の振動が振幅150µm・位相240°。試しおもり80g・0°装着後、振動が115µmに低減。影響係数α=0.4375µm/gから、修正おもり質量は約137g、装着角度は172°と算出。実装後の予測振動低減率は82%、バランス判定は「調整可能」となります

実務での注意点