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農業・水文・土壌物理

土壌水分テンシオメータ・van Genuchten シミュレーター

テンシオメータが測る土壌水分張力 ψ から、van Genuchten モデルで体積含水率・圃場容水量・永久萎凋点・有効水分・利用可能水深をリアルタイム計算するツールです。土壌種別と作物を変えれば、灌漑開始のタイミングと適切な灌水量が一目で分かります。

パラメータ設定
土壌種別
van Genuchten パラメータ θ_s, θ_r, α, n を自動設定
マトリックポテンシャル ψ
hPa
1 hPa ≒ 1 cm H₂O。33 kPa=圃場容水量、1500 kPa=永久萎凋点
作物
灌漑開始の閾値張力を自動設定
根群深さ
cm
有効水分の体積を決める。葉菜=20〜40cm、果樹=80〜150cm
灌漑量
mm
1回あたりの灌水量(降雨換算 mm)
計算結果
含水率 θ (m³/m³)
圃場容水量 FC (m³/m³)
永久萎凋点 PWP (m³/m³)
有効水分 AWC (m³/m³)
利用可能水深 (mm)
灌漑判定
土壌断面・テンシオメータ動作図

土壌断面と根群、テンシオメータ(セラミックカップ+真空ゲージ)の関係。色の濃さは含水率、針が指す位置は現在の張力 ψ。閾値を超えると灌漑トリガーが点灯します。

土壌水分保持曲線 SWRC θ(ψ)
土壌種別 AWC(有効水分)比較
理論・主要公式

$$\theta(\psi) = \theta_r + \frac{\theta_s - \theta_r}{[1 + (\alpha|\psi|)^n]^{1-1/n}},\quad AWC = \theta_{FC} - \theta_{WP}$$

θ_s=飽和含水率、θ_r=残留含水率、α・n=土壌固有パラメータ、FC=33 kPa、WP=1500 kPa。van Genuchten (1980) の式。

$$D_{\text{avail}} = (\theta - \theta_{WP})\cdot Z_r,\quad D_{FC} = \theta_{FC}\cdot Z_r$$

利用可能水深 D_avail と圃場容水量水深 D_FC。Z_r は根群深さ。単位を m³/m³ × cm × 10 で mm に換算する。

$$\text{Irrigate if } \psi \gt \psi_{\text{threshold}}(\text{crop})$$

作物別の灌漑開始閾値(葉菜=25 kPa、穀類=50 kPa、果樹=70 kPa、芝生=20 kPa、乾燥作物=150 kPa)。1 kPa = 10 hPa。

土壌水分テンシオメータと van Genuchten モデル — 灌漑設計

🙋
畑に刺さってる「テンシオメータ」って、要するに土の中の何を測ってるんですか?水分量ですか?
🎓
いい質問だね。実は「水の量」じゃなくて「水が引っ張られる強さ」を測ってるんだ。専門用語だとマトリックポテンシャル ψ。乾いた土ほど水を強く保持しようとして、テンシオメータ内部の真空ゲージが大きな負圧(吸引力)を示す。単位は kPa か cm H₂O で、左のスライダーで ψ を大きくすると右の含水率 θ がぐっと下がっていくのが見えるよね。植物が「水が欲しい」と感じる感覚に直接対応してるから、灌漑制御では含水率より ψ を見る方が合理的なんだ。
🙋
なるほど!でも ψ から含水率に換算してる「van Genuchten モデル」って、なんでこんなややこしい式なんですか?
🎓
あれは1980年に van Genuchten さんが「土壌の保水曲線って S字カーブだよね」っていうのを綺麗に1本の式で表現したからスタンダードになったんだ。式の中の α は「土が水を手放し始める ψ のスケール」、n は「カーブの急さ=粒径の揃い具合」。砂は粒が揃ってて隙間が大きいから α が大きく n も大きい急なカーブ、粘土は α 小さく n 小さい緩やかなカーブになる。土壌種別を「粘土質」に切り替えてみて。同じ ψ=100 hPa でも含水率がぐっと高いままで、なかなか乾かないのが見えるはずだ。
🙋
本当だ、粘土質だと全然減らないですね。じゃあ「FC」「PWP」「AWC」っていうやつは何なんですか?
🎓
これが灌漑設計の三種の神器だよ。FC(圃場容水量)は雨や灌水で土が満杯になったあと、重力で下に抜けなくなった上限の水分量で、目安は ψ=33 kPa の値。PWP(永久萎凋点)は植物が頑張っても吸えなくなる下限で ψ=1500 kPa。その差 AWC = FC − PWP が「植物が実際に使える水のプール」だ。例えば砂質土だと FC≈0.068、PWP≈0.046 だから AWC は約0.022(つまり 2.2%)しかない。根群40cmなら使える水はわずか 8.8mm 程度で、1〜2日でなくなる。だから砂地の畑は「少量を頻繁に」灌水するのが鉄則なんだ。
🙋
右下に「灌漑判定」っていうのが出てますが、これは何を見てるんですか?作物を変えると変わりますよね。
🎓
作物ごとに「ここまで乾いたら水をやれ」という閾値張力が違うんだ。葉菜(レタスなど)は浅根で蒸散も多いから ψ=25 kPa で早めに灌漑、穀類は 50 kPa、果樹は 70 kPa、乾燥作物のソルガムなんかは 150 kPa まで放置して逆に深根を発達させる。だから同じ ψ=80 kPa でも、レタスなら「灌漑必要」(赤)、果樹なら「保留」(緑)の判定になる。これが現代のスマート灌漑センサーがやっていることそのものなんだ。Decagon・Sentek・Stevens HydraProbe といったメーカーの製品もこの考え方で動いてるよ。
🙋
最後にひとつ。灌漑量はどう決めればいいんですか?多すぎても少なすぎてもダメな気がします。
🎓
基本は「FC まで戻す分だけ」を一回で灌水するのがセオリーだよ。利用可能水深 D_avail(現状)を D_FC(満タン)まで戻す差分が必要灌水量。それ以上やっても重力で抜けて肥料も一緒に流れる(深層浸透ロス)し、少なすぎると根の下に水が届かず表層だけ濡れて雑草が生えるだけになる。本ツールでは灌漑量スライダーがあるけど、これは「実際にやってる灌水量」と「FC までの差分」を比較するためのもの。一致するように灌水量を決めるのが、いわゆる欠乏灌漑(deficit irrigation)の出発点なんだ。

よくある質問

テンシオメータは土壌の「マトリックポテンシャル ψ(マイナス圧)」を測ります。セラミックカップを土に埋めると、土が乾くほど水を吸い出そうとする力(吸引力)が働き、内部の真空ゲージがその大きさを kPa または cm H₂O で表示します。1 kPa = 10 cm H₂O = 10 hPa の関係で、ψ が小さい(数 kPa)ほど湿っており、ψ=33 kPa が圃場容水量、ψ=1500 kPa が永久萎凋点の目安です。通常のテンシオメータは 0〜80 kPa の範囲が実用領域で、それを超えるとカップに空気が入り計測不能になります。
van Genuchten(1980)が提案した、土壌の含水率 θ と水分張力 ψ の関係を表す世界標準の数式です。θ(ψ) = θ_r + (θ_s−θ_r)/[1+(α|ψ|)^n]^(1−1/n) と書き、θ_s は飽和含水率、θ_r は残留含水率、α は空気侵入圧の逆数(土が水を保持し始める張力スケール)、n は曲線の急峻さ(粒径の揃い具合)を表します。砂は α が大きく n も大きい(急なカーブ)、粘土は α が小さく n も小さい(緩やかなカーブ)になります。HYDRUS や DSSAT、AquaCrop などの主要な土壌水分モデルはすべてこの式を内蔵しています。
FC(ψ=33 kPa の含水率)は重力排水が止まったあとに土が保持できる最大水分量、PWP(ψ=1500 kPa)は植物が吸えなくなる下限、AWC = FC − PWP が「植物が実際に使える水の量」です。灌漑設計では AWC に根群深さを掛けて mm 単位の利用可能水深(例:AWC=0.15、根群30cm なら 45mm)を求め、その 50〜70% を消費した時点で灌漑するのが基本ルール。砂質土は AWC が小さく速く乾くので少量多回数灌漑、粘土質は AWC が大きいので大量少回数灌漑、と質に応じて頻度と灌水量を変えます。
作物の根の吸水力と、葉から失われる蒸散の強さが品目で大きく違うためです。葉菜類(レタス・キャベツなど)は浅根で蒸散量が多く、わずかな水分ストレスで葉が萎れ商品価値が落ちるため、ψ=20〜25 kPa の早い段階で灌漑開始。穀類(コムギ・トウモロコシ)は中庸で 50 kPa 前後、果樹は深根で吸水力が強く 70 kPa まで耐えられます。逆に乾燥作物(ソルガム・ヒマワリ)は意図的に 150 kPa まで乾かして深根を発達させる栽培をします。本ツールは作物選択でこの閾値を切り替え、灌漑判定(必要/保留)を表示します。

実世界での応用

施設園芸(イチゴ・トマト・葉菜類):ハウス栽培ではテンシオメータと電磁弁を組み合わせた自動灌漑が標準装備となっており、ψ=20〜30 kPa で点滴チューブから少量を頻繁に給水する「養液土耕」が普及しています。van Genuchten パラメータは培土(ヤシガラ・ピートモス)ごとに事前に測定し、PLC や ICT クラウド(e-kakashi、AKISAI 等)に組み込んで自動制御します。

果樹園・ブドウ畑(精密灌漑):カリフォルニアやチリのワインブドウ栽培では「Regulated Deficit Irrigation(RDI)」と呼ばれる意図的な水ストレス管理を行い、果実糖度を高めるため ψ=50〜80 kPa まで意図的に乾燥させます。圃場の数十地点にテンシオメータを設置し、SWRC モデルで全域の含水率を補間して衛星NDVIと合わせて管理する事例が一般的です。

水田の畦畔・転換畑:稲作後に大豆や麦を作る転換畑では、地下水位とマトリックポテンシャルの両方を見て排水・灌漑を判断します。粘土質では FC ≒ 0.40、PWP ≒ 0.20 と AWC が大きく、1回の降雨で長期間もちますが、過湿になりやすく根腐れも起こすため、テンシオメータと地下水位計の併用で「乾燥側と過湿側」の両方を監視します。

土壌物理研究・モデリング:HYDRUS-1D/2D、DSSAT、AquaCrop、SWAP といった土壌水分・作物成長モデルは、本ツールが使う van Genuchten 式(および同種の Mualem-van Genuchten 透水係数式)を必須コンポーネントとして内蔵しています。ペネトロメータと組み合わせた SWRC 実測から α・n をフィッティングするのが、実務的なモデルキャリブレーションの第一歩です。

よくある誤解と注意点

まず最大の落とし穴が、「テンシオメータの値=含水率」と思い込むことです。本ツールが扱うように、ψ から θ への変換には van Genuchten 係数(α, n, θ_s, θ_r)が必要で、これは土壌ごとに大きく異なります。砂質土と粘土質では、同じ ψ=100 hPa でも含水率が3〜5倍違うことが珍しくありません。「ψ=30 kPa だから含水率はだいたい○%」のような一律換算は危険で、必ず対象圃場の SWRC を事前に測定するか、テクスチャから推定する Pedotransfer Function(ROSETTA 等)を使う必要があります。

次に、「テンシオメータの計測限界(80 kPa)を超えたら故障」と誤解すること。これは故障ではなくセラミックカップ内に空気が侵入してキャビテーション(気化)を起こしているだけで、再注水すれば復活します。ただし計測不能になる頻度が増えるほど、その土壌は乾燥側で扱うのは不向き。乾燥域(80〜1500 kPa)を測りたい場合は granular matrix sensor(Watermark 等)や TDR/FDR センサー(Decagon EC-5、Aquaspy)に切り替える必要があります。1台で全レンジを測れるセンサーは存在せず、複数機器の使い分けが現場の常識です。

最後に、「灌漑量は多めにしておけば安全」という油断。FC を超えて灌水した分は重力で根域より下に流亡し、肥料(特に硝酸態窒素)を地下水まで運んでしまいます。これが農地由来の地下水汚染や閉鎖性水域の富栄養化の主要原因で、EU の硝酸塩指令や日本の硝酸性窒素環境基準にも反映されています。本ツールの「灌漑量」スライダーで利用可能水深を超える設定にしないこと、そして雨予報を見て先回りで灌水を抑える運用が、ESG の文脈でも重要視されています。

使い方ガイド

  1. マトリックポテンシャル値(-100~0 hPa)をテンシオメータ計測値から入力し、土壌種(砂質土・壌土・粘土質など)を選択します
  2. 根系深度(cm)と所望灌漑深(mm)を設定し、van Genuchten水分特性曲線パラメータ(α、n値)が自動適用されます
  3. 計算ボタンを押すと、含水率θ・圃場容水量FC・永久萎凋点PWP・有効水分AWC・利用可能水深が出力され、灌漑開始の判定基準と比較できます

具体的な計算例

壌土ほ場でマトリックポテンシャル-33 hPa、根系深度60 cm、目標灌漑深50 mmの場合:van Genuchtenモデル(α=0.02 cm⁻¹、n=1.41)により含水率θ=0.28 m³/m³、FC=0.32 m³/m³、PWP=0.12 m³/m³が算出されます。AWC=0.20 m³/m³、利用可能水深=120 mmとなり、テンシオメータ値-33 hPaは小麦の灌漑開始閾値-25~-40 hPa範囲内のため灌漑実施判定が表示されます。

実務での注意点

  1. 粘土質土壌(α=0.005 cm⁻¹、n=1.08)では水分保持曲線が緩やかなため、同じマトリックポテンシャルでも砂質土より含水率が高く、塩類集積リスクに注意が必要です
  2. テンシオメータは深さ30 cm・60 cmに複数設置し、根系分布域全体の水分ストレスを評価した上で灌漑判定を行うことが推奨されます
  3. トウモロコシ(灌漑開始-40~-60 hPa)とキャベツ(-20~-40 hPa)では耐乾性が異なるため、作物別の閾値設定が重要です