腐食のシミュレーション

カテゴリ: 電気化学連成 | 2026-10-01 改稿

理論:電流の分布が腐食を決める

概要

🙋

船の鋼の部品にステンレスのボルトを使ったら、ボルトの周りだけ鋼がひどく腐食しました。なぜですか?

🎓

異種金属の接触による腐食(ガルバニック腐食)だね。海水の中で電位の違う金属がつながると、卑な金属(鋼)が陽極になって溶け、貴な金属(ステンレス)の表面では酸素の還元が起きる。鋼は、自分の表面の分に加えて、ステンレスの表面で使われる電流の分まで溶けて供給しないといけない。だから貴な金属の面積が大きいほど、鋼は速く腐食する。腐食のシミュレーションは、海水の中の電位の分布を解いて、どこにどれだけ電流が集まるかを求めるものなんだ。

支配方程式

$$ \nabla\cdot(\kappa\nabla\phi) = 0 \ \ \text{in the electrolyte}, \qquad i_n = f(E - \phi) \ \ \text{on metal surfaces (polarisation curve)} $$

電解液の中では電荷が保存され、電位 $\phi$ はラプラス方程式に従う($\kappa$ は導電率)。金属の表面では、金属の電位 $E$ と液の電位の差で決まる電流が流れる。この関係が分極曲線で、腐食のしやすさや酸素の供給の速さが入っている。

電流から腐食速度へ

$$ \text{rate} = \frac{i\,M}{nF\rho} \quad\Rightarrow\quad 1\ \mathrm{A/m^2} \approx 1.16\ \mathrm{mm/y}\ \ (\text{steel}), \qquad i_{a} = i_L\,\frac{A_a + A_c}{A_a} $$

ファラデーの法則で、電流密度を減肉の速さに直せる。陰極の反応が酸素の拡散で決まる(限界電流 $i_L$)とき、陽極の電流密度は陰極と陽極の面積の比で決まる。

Coffee Break よもやま話

銅張りの船と鉄の釘

18世紀、イギリス海軍は木造の軍艦の船底をフナクイムシやフジツボから守るため、銅板で覆い始めた。ところが銅板を留めた鉄の釘や、船体の鉄の金具が急速に腐食する問題が起きた。1824年、化学者のデービーは、銅に亜鉛や鉄の小片をつないでおくと銅が守られることを示し、これが電気防食の始まりとされる。異種金属の組み合わせの危険と、その原理を逆に使う防食は、200年前から同じ電気化学で説明されている。

計算例:面積比と腐食速度

海水中で、陰極の反応(酸素の還元)が拡散で決まり、限界電流密度0.1 A/m²とした。鋼の減肉は1 A/m²あたり年1.16 mm。厚さ3 mmが減るまでの年数も示す。

貴な金属/鋼の面積比鋼の腐食速度単独との比3 mm減るまで
鋼単独0.12 mm/年×125.8年
10.23 mm/年×212.9年
101.28 mm/年×112.3年
10011.7 mm/年×1010.3年
🙋

ステンレスのボルトは小さいから大丈夫だと思っていましたが、逆に鋼の板にステンレスが大きい場合が危ないんですね。

🎓

そう、陽極が小さく陰極が大きい組み合わせが一番危ない。ステンレスの板に鋼のボルトなら、鋼のボルトが短期間で溶けてしまう。今回のように鋼の板にステンレスのボルトなら面積比は小さいはずだけど、実際には塗装した鋼の板で、塗膜の傷の小さな部分だけが露出していると、そこが小さな陽極になって集中して溶ける。表の値は理想的な上限で、実際には海水の電気抵抗で電流が接触部の近くに集まるから、面積の平均ではなく分布を解く必要がある。そこで有限要素法などで電位の分布を解くんだ。

例2:犠牲陽極の量

裸の鋼10 m²を、防食電流密度0.1 A/m²で10年守る。電流1.0 A、電気量87,660 Ah。亜鉛の電気容量780 Ah/kg、利用率0.85で、必要な亜鉛は約132 kg。塗装で露出面積を1割にできれば、約13 kgで済む。

解析の進め方

  1. 電解液の導電率、温度、流れ(酸素の供給)を決める。
  2. 各金属の分極曲線を試験や文献から用意する。
  3. 形状を入れて電解液の中の電位を解き、表面の電流の分布を求める。
  4. 電流から腐食速度を出し、寿命と防食の対策(絶縁・塗装・陽極)を比べる。
  5. 塗膜の傷や、時間とともに変わる表面の状態(皮膜・付着物)も考える。
Coffee Break よもやま話

「塗装したのに穴があいた」

銅合金の配管とつながった鋼製のタンクで、防食のために鋼の側だけを丁寧に塗装したのに、数年で鋼に小さな穴があいた——という例がある。塗膜の小さな傷から露出した鋼が、塗装していない広い銅合金の表面に対する小さな陽極になり、電流が集中した。解析で電位の分布を解くと、傷の部分の電流密度は塗装しない場合の数十倍になっていた。異種金属を組み合わせるときは、陰極側(貴な金属)も塗装するか、電気的に絶縁するのが原則だ。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
陽極側だけ塗装傷に電流が集中陰極側も塗装・絶縁
面積の平均で評価接触部の局所腐食を見落とす電位の分布を解く
分極曲線を一定に温度・流れの影響を誤る条件ごとに用意
導電率を無視電流の広がりを誤る液の抵抗を入れる
時間変化を無視皮膜・付着物の効果を見落とす経時の変化を考慮
🙋

関連する計算を試したいです。

🎓

腐食速度の計算、ガルバニック系列、電気防食の計算、ネルンストの式で試せるよ。関連する電気化学の解析は腐食解析の基礎、電気めっき、電解加工が参考になる。

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