リチウムイオン電池シミュレーション

カテゴリ: 連成解析 | 2026-10-01 改稿

理論:電気と熱をつなぐモデル

概要

🙋

電動工具の電池パックが、連続で使うと熱くなって止まってしまいます。電池の温度をシミュレーションで予測できますか?

🎓

できるよ。まず電池の電気的なふるまいをモデルにして、電流を流したときに内部でどれだけ熱が出るかを求める。それを熱の解析に渡して温度を計算し、温度で変わる内部抵抗をまた電気のモデルに戻す——電気化学と熱の連成だ。一番手軽なのは、電池を電圧源と抵抗・コンデンサの回路で表す等価回路モデル。電極の中の反応や拡散まで見たいなら電気化学モデルを使う。熱くなって止まる問題なら、等価回路モデルで十分見当がつくよ。

等価回路モデル(1RC)

$$ V = U_{oc}(\mathrm{SOC}) - I R_0 - V_1, \qquad \frac{dV_1}{dt} = \frac{I}{C_1} - \frac{V_1}{R_1 C_1} $$

$U_{oc}$ は開回路電圧(充電状態で決まる)、$R_0$ は即座に効く内部抵抗、$R_1, C_1$ は拡散などによる遅れを表す部分。電流を流した瞬間に $IR_0$ だけ電圧が下がり、その後 $R_1C_1$ の時定数でさらに下がっていく。各値は温度と充電状態で変わるので、試験から表として作る。

発熱の式

$$ \dot Q = \underbrace{I^2 R_0 + \frac{V_1^2}{R_1}}_{\text{irreversible}} + \underbrace{I\,T\,\frac{\partial U_{oc}}{\partial T}}_{\text{reversible}} $$
$$ m c_p \frac{dT}{dt} = \dot Q - h A (T - T_\infty) $$

不可逆な発熱は抵抗によるもので、必ず正。可逆な発熱は反応のエントロピー変化によるもので、充電状態と電流の向きで正にも負にもなる。温度は、発熱と表面からの放熱の釣り合いで決まる。

Coffee Break よもやま話

Newmanの電気化学モデル

電池の中を細かく解くモデルの基礎は、米国のNewmanらが1970〜90年代に作った多孔質電極の理論で、1990年代にリチウムイオン電池に応用された『疑似2次元(P2D)モデル』は今も標準だ。電極の厚さ方向の1次元と、粒子の中の半径方向の1次元を組み合わせて、リチウムの拡散と反応を解く。リチウムイオン電池は1991年に商品化され、2019年には開発に貢献した吉野彰らがノーベル化学賞を受けている。

計算例:仮想の18650セル

容量3 Ah、R₀ 30 mΩ、R₁ 15 mΩ、C₁ 2,000 F(時定数30秒)、質量45 g、比熱1,000 J/(kg·K)、表面積0.0042 m²、表面の熱伝達係数10 W/(m²·K)、周囲25 ℃。定電流で容量の95%まで放電した。

放電の速さ電流最初の電圧降下抵抗の発熱1回の発熱量温度上昇(冷却あり)温度上昇(断熱)
1C3 A0.09 V0.40 W1.4 kJ9 K31 K
2C6 A0.18 V1.62 W2.7 kJ31 K61 K
3C9 A0.27 V3.65 W4.1 kJ56 K91 K
🙋

電流を3倍にすると、発熱は9倍、温度上昇は6倍にもなるんですね。

🎓

そう。発熱は電流の2乗、放電の時間は電流に反比例するから、1回の放電で出る熱の量は電流に比例して3倍。一方でこのセルの熱の時定数は約18分(1,071秒)で、1Cの1時間の放電ではその間にかなり放熱できるけど、3Cの20分では放熱が追いつかない。だから温度上昇は6倍になる。パックの中のセルは周りのセルに囲まれて放熱がさらに悪く、断熱の値に近づく。可逆な発熱(この例で1〜2割)や、温度で下がる内部抵抗も入れると、より正確になるよ。

解析の進め方

手順

  1. パルス放電の試験から、温度と充電状態ごとの R₀・R₁・C₁ と開回路電圧を求める。
  2. 開回路電圧の温度変化(dU/dT)を測り、可逆な発熱を入れる。
  3. セル1本で温度を検証してから、パック全体の熱解析(セルの並び、冷却の流れ、接触熱抵抗)へ広げる。
  4. 使用の条件(充電、放電、休止)の繰り返しで、最高温度とセル間の温度差を評価する。

注意点

  • 内部抵抗の温度依存:低温では内部抵抗が何倍にもなり、発熱と電圧降下が大きい。
  • セル間の温度差:温度の違いは劣化の速さの違いになり、容量のばらつきを広げる。
  • 熱暴走の手前:高温では副反応の発熱が加わり、温度が上がるほど発熱が増える。安全の評価は別途行う。
Coffee Break よもやま話

「真ん中のセルだけ早く劣化する」

電池パックを数年使うと、端のセルより真ん中のセルの容量が大きく落ちていた——よくある話だ。真ん中のセルは周りを他のセルに囲まれて冷えにくく、使うたびに数K高い温度にさらされる。劣化の速さは温度が10 K上がるとおよそ倍になると言われるので、わずかな温度差が年単位で大きな差になる。パックの寿命は一番弱いセルで決まるから、熱解析で『最高温度』だけでなく『セル間の温度差』を小さくする設計が大事になる。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
内部抵抗を一定とする低温の発熱・電圧を誤る温度・SOCの表を使う
可逆な発熱を無視低い電流で誤差が大きいdU/dTを測って入れる
セル1本の冷却をパックに流用中央のセルを過小評価パック全体で解析
最高温度だけ見る劣化のばらつきを見落とすセル間の温度差も評価
一定の放電だけで評価実際の使い方と合わない使用パターンで解析
🙋

電池の計算を自分でも試したいです。

🎓

電池モデルのシミュレーターで等価回路、充電状態(SOC)の計算で充電状態、電池の劣化(アレニウス)で劣化、電池の容量設計で容量の設計を試せるよ。関連する話題は電池の熱管理、熱暴走、電池の劣化、燃料電池のモデル化の記事にまとめてある。

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