リチウムイオン電池シミュレーション
理論:電気と熱をつなぐモデル
概要
電動工具の電池パックが、連続で使うと熱くなって止まってしまいます。電池の温度をシミュレーションで予測できますか?
できるよ。まず電池の電気的なふるまいをモデルにして、電流を流したときに内部でどれだけ熱が出るかを求める。それを熱の解析に渡して温度を計算し、温度で変わる内部抵抗をまた電気のモデルに戻す——電気化学と熱の連成だ。一番手軽なのは、電池を電圧源と抵抗・コンデンサの回路で表す等価回路モデル。電極の中の反応や拡散まで見たいなら電気化学モデルを使う。熱くなって止まる問題なら、等価回路モデルで十分見当がつくよ。
等価回路モデル(1RC)
$U_{oc}$ は開回路電圧(充電状態で決まる)、$R_0$ は即座に効く内部抵抗、$R_1, C_1$ は拡散などによる遅れを表す部分。電流を流した瞬間に $IR_0$ だけ電圧が下がり、その後 $R_1C_1$ の時定数でさらに下がっていく。各値は温度と充電状態で変わるので、試験から表として作る。
発熱の式
不可逆な発熱は抵抗によるもので、必ず正。可逆な発熱は反応のエントロピー変化によるもので、充電状態と電流の向きで正にも負にもなる。温度は、発熱と表面からの放熱の釣り合いで決まる。
Newmanの電気化学モデル
電池の中を細かく解くモデルの基礎は、米国のNewmanらが1970〜90年代に作った多孔質電極の理論で、1990年代にリチウムイオン電池に応用された『疑似2次元(P2D)モデル』は今も標準だ。電極の厚さ方向の1次元と、粒子の中の半径方向の1次元を組み合わせて、リチウムの拡散と反応を解く。リチウムイオン電池は1991年に商品化され、2019年には開発に貢献した吉野彰らがノーベル化学賞を受けている。
計算例:仮想の18650セル
容量3 Ah、R₀ 30 mΩ、R₁ 15 mΩ、C₁ 2,000 F(時定数30秒)、質量45 g、比熱1,000 J/(kg·K)、表面積0.0042 m²、表面の熱伝達係数10 W/(m²·K)、周囲25 ℃。定電流で容量の95%まで放電した。
| 放電の速さ | 電流 | 最初の電圧降下 | 抵抗の発熱 | 1回の発熱量 | 温度上昇(冷却あり) | 温度上昇(断熱) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1C | 3 A | 0.09 V | 0.40 W | 1.4 kJ | 9 K | 31 K |
| 2C | 6 A | 0.18 V | 1.62 W | 2.7 kJ | 31 K | 61 K |
| 3C | 9 A | 0.27 V | 3.65 W | 4.1 kJ | 56 K | 91 K |
電流を3倍にすると、発熱は9倍、温度上昇は6倍にもなるんですね。
そう。発熱は電流の2乗、放電の時間は電流に反比例するから、1回の放電で出る熱の量は電流に比例して3倍。一方でこのセルの熱の時定数は約18分(1,071秒)で、1Cの1時間の放電ではその間にかなり放熱できるけど、3Cの20分では放熱が追いつかない。だから温度上昇は6倍になる。パックの中のセルは周りのセルに囲まれて放熱がさらに悪く、断熱の値に近づく。可逆な発熱(この例で1〜2割)や、温度で下がる内部抵抗も入れると、より正確になるよ。
解析の進め方
手順
- パルス放電の試験から、温度と充電状態ごとの R₀・R₁・C₁ と開回路電圧を求める。
- 開回路電圧の温度変化(dU/dT)を測り、可逆な発熱を入れる。
- セル1本で温度を検証してから、パック全体の熱解析(セルの並び、冷却の流れ、接触熱抵抗)へ広げる。
- 使用の条件(充電、放電、休止)の繰り返しで、最高温度とセル間の温度差を評価する。
注意点
- 内部抵抗の温度依存:低温では内部抵抗が何倍にもなり、発熱と電圧降下が大きい。
- セル間の温度差:温度の違いは劣化の速さの違いになり、容量のばらつきを広げる。
- 熱暴走の手前:高温では副反応の発熱が加わり、温度が上がるほど発熱が増える。安全の評価は別途行う。
「真ん中のセルだけ早く劣化する」
電池パックを数年使うと、端のセルより真ん中のセルの容量が大きく落ちていた——よくある話だ。真ん中のセルは周りを他のセルに囲まれて冷えにくく、使うたびに数K高い温度にさらされる。劣化の速さは温度が10 K上がるとおよそ倍になると言われるので、わずかな温度差が年単位で大きな差になる。パックの寿命は一番弱いセルで決まるから、熱解析で『最高温度』だけでなく『セル間の温度差』を小さくする設計が大事になる。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 内部抵抗を一定とする | 低温の発熱・電圧を誤る | 温度・SOCの表を使う |
| 可逆な発熱を無視 | 低い電流で誤差が大きい | dU/dTを測って入れる |
| セル1本の冷却をパックに流用 | 中央のセルを過小評価 | パック全体で解析 |
| 最高温度だけ見る | 劣化のばらつきを見落とす | セル間の温度差も評価 |
| 一定の放電だけで評価 | 実際の使い方と合わない | 使用パターンで解析 |
電池の計算を自分でも試したいです。
電池モデルのシミュレーターで等価回路、充電状態(SOC)の計算で充電状態、電池の劣化(アレニウス)で劣化、電池の容量設計で容量の設計を試せるよ。関連する話題は電池の熱管理、熱暴走、電池の劣化、燃料電池のモデル化の記事にまとめてある。
関連トピック
なった
詳しく
報告