バッテリー熱管理

カテゴリ: 熱解析・電子機器冷却 | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for battery thermal theory - technical simulation diagram
バッテリー熱管理

理論:電池の発熱と冷え方

概要

🙋

電池パックの熱設計では、何がいちばん大事なんですか?

🎓

リチウムイオン電池は、温度が高いと劣化が早まり、さらに高温では発火の危険もある。だから温度を一定の範囲に保つことが最優先だ。発熱は電流の2乗に比例するので、急速充電や高出力で急に増える。しかもセルの中は熱が伝わりにくく、表面を冷やしても中心は熱いことがある。21700形のセルを例に、放電レートと冷却方法による温度の違いを計算しよう。

発熱

$$ \dot Q = I^2 R - I\,T\,\frac{\partial U_{oc}}{\partial T},\qquad \Delta T_{ad} = \frac{\dot Q\,t_{dis}}{m c_p} \propto C\text{-rate} $$

第1項は内部抵抗のジュール熱、第2項は反応に伴う可逆な熱(エントロピー熱)。ここではジュール熱だけを考えた。1回の放電で出る熱は電流の2乗×時間なので、放電時間が1/Cになっても、断熱温度上昇はCレートに比例して大きくなる。

温度の時間変化とセル内部の温度差

$$ T(t) = T_\infty + \frac{\dot Q}{hA}\left(1 - e^{-t/\tau}\right),\quad \tau = \frac{m c_p}{hA},\qquad \Delta T_{core} = \frac{\dot q\,r^2}{4k_r} $$

セル全体を1つの温度とみなした集中定数の式と、半径方向の熱伝導による中心と表面の差(定常)。ビオ数 hr/(2k) が0.1を超えると、内部の温度差を無視できない。

Coffee Break よもやま話

ベルナルディの式

電池の発熱を、ジュール熱と可逆な熱の和で表す式は、1985年にアメリカのベルナルディらがまとめたもので、今も電池の熱解析の基本になっている。電気自動車が広まった2010年代以降、セルの温度を15〜35℃ほどに保つための液冷システムや、セル間の延焼を防ぐ設計が重視されるようになった。熱設計は、性能と寿命だけでなく安全にも直結している。

計算例:21700形セル

直径21 mm・長さ70 mm、質量70 g、比熱1000 J/kgK、容量5 Ah、内部抵抗20 mΩ、半径方向の熱伝導率0.5 W/mK(仮定)。周囲25℃から放電を始める。

放電レート電流発熱断熱温度上昇自然空冷 10強制空冷 50液冷相当 300中心と表面の差
0.5C2.5 A0.12 W12.9 K27.3 °C25.5 °C25.1 °C0.3 K
1C5 A0.50 W25.7 K33.8 °C26.9 °C25.3 °C1.1 K
2C10 A2.00 W51.4 K53.0 °C32.5 °C26.3 °C4.6 K
3C15 A4.50 W77.1 K75.6 °C41.8 °C27.8 °C10.2 K

冷却の列は熱伝達率(W/m²K)ごとの放電終了時の温度(集中定数)。中心と表面の差は放電中の定常値の目安。ビオ数は10で0.11、50で0.53、300で3.2。

🙋

液冷なら3C放電でも表面は28℃なのに、中心は10 Kも高いんですね。

🎓

巻いた電極と薄い樹脂の膜が何十層も重なっているので、半径方向には熱が伝わりにくい。熱伝達率を上げて表面を冷やしても、中心からの熱の出口はこの低い熱伝導率で決まる。だから液冷では、セルの表面温度より中心の温度、そしてパック内のセル間の温度のばらつきが設計の焦点になる。もう一つ大事なのは劣化や低温で内部抵抗が増えることで、内部抵抗が2倍の40 mΩになると、2C放電の断熱温度上昇は103 Kにもなる。新品のセルで余裕があっても、使い続けたセルでは足りなくなることがある。

熱設計のポイント

  1. 最も厳しい使い方(急速充電・高出力・高温環境)で発熱を見積もる。
  2. 劣化と低温による内部抵抗の増加を見込む。
  3. セルの異方性(半径方向と軸方向の熱伝導率の違い)を入れる。
  4. パック全体でセル間の温度差を5 K程度以内にする目標を置くことが多い。
  5. 1セルの異常発熱が隣へ広がらないかも評価する。
Coffee Break よもやま話

「冬の急速充電で止まった」

ある電気自動車で、冬の朝に急速充電すると、充電の途中で電流が大きく絞られる現象が起きた。低温では内部抵抗が大きくなるうえ、リチウムの析出を防ぐために充電電流を制限する必要がある。対策として、充電前に電池を温める制御が加えられた。電池の熱管理は冷やすだけでなく、温めることも含む。最適な温度範囲に保つことが、性能・寿命・安全のすべてにつながる。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
新品の内部抵抗で設計劣化後に過熱劣化後の値で確認
表面温度だけで判断中心の過熱を見逃す内部温度を評価
熱伝導率を等方性に内部の温度差を誤る異方性を入れる
可逆熱を常に無視低レートで誤差必要に応じて含める
セル間のばらつきを無視一部のセルが早く劣化パック全体で解析
🙋

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