燃料電池シミュレーション

カテゴリ: 連成解析・電気化学 | 2026-10-01 改稿

理論:流路に沿って変わる酸素と水

概要

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燃料電池のセルの性能は分極曲線でわかるのに、なぜ流路まで解く必要があるのですか?

🎓

分極曲線はセル全体の平均を表すが、セルの中は場所によって状態が違うからだ。空気は流路の入口から入り、進むにつれて酸素が使われて薄くなり、代わりに反応でできた水が増えていく。出口に近いほど酸素が少なく、電極の反応が遅くなって電流が減る。一方、入口付近は空気が乾いていて膜の水が奪われ、抵抗が上がる。送る空気を増やせば出口の酸素は増えるが、膜はさらに乾き、空気を送る圧縮機の電力も増える。どれだけの空気を送るか(ストイキ比)は、こうした兼ね合いで決まり、それを調べるのが流路のシミュレーションの役目だ。

酸素と水の収支

$$ \dot n_{O_2} = \frac{I}{4F},\qquad x_{O_2,out} = \frac{\lambda - 1}{(\lambda - 1) + 3.76\lambda},\qquad x_{H_2O,out} = \frac{2}{2 + (\lambda - 1) + 3.76\lambda} $$

λ はストイキ比、3.76 は空気中の窒素と酸素の比。酸素1 molを使うと水が2 molできる。入口は乾いた空気、水はすべて蒸気とした。300 cm²のセルを1.0 A/cm²(300 A、0.635 V、190.5 W)で運転する。

出口側の電圧の損失と圧縮機の電力

$$ \Delta V_{out} = \left(b + \frac{RT}{4F}\right)\ln\frac{x_{O_2,in}}{x_{O_2,out}},\qquad P_{comp} = \dot m_{air}\,\frac{c_p T_1}{\eta}\left[\left(\frac{p_2}{p_1}\right)^{0.286} - 1\right] $$

b はターフェル勾配(0.0304 V)、温度80℃、圧力150 kPa(絶対圧)、80℃の飽和水蒸気圧47.4 kPa。圧縮機は101.3 kPaから150 kPaへ、効率0.7、比仕事は50.8 kJ/kg。

Coffee Break よもやま話

ベーコンの5キロワット

燃料電池を実用の大きさにした先駆けの一人が英国のベーコンである。彼は高い圧力で動くアルカリ形の燃料電池を長年改良し、1959年に5 kWの装置を動かしてみせた。この設計は米国で引き継がれ、宇宙船の電源へとつながった。研究室の小さなセルから実用の装置に大きくするとき、ガスと水をセル全体にどう配るかが課題になったのは、今の流路の設計と同じである。

計算例

例1:ストイキ比と出口の状態(300 cm²、1.0 A/cm²)

ストイキ比出口の酸素(乾き基準)出口の湿度出口側の電圧の損失空気の流量圧縮機の電力
1.24.2%94%0.061 V0.13 g/s6.5 W(3.4%)
1.58.1%78%0.036 V0.16 g/s8.2 W(4.3%)
2.011.7%60%0.022 V0.21 g/s10.9 W(5.7%)
3.015.1%41%0.013 V0.32 g/s16.3 W(8.6%)

圧縮機の電力の割合はセルの出力190.5 Wに対する値。出口側の電圧の損失は、入口の酸素21%に対して出口の酸素が薄いことによる。

🙋

ストイキ比1.2だと出口の湿度が94%もあるんですね。乾かないならそれでいいのでは?

🎓

湿度が高すぎるのも危ない。94%は蒸気だけを仮定した平均の値で、実際には流路の壁や拡散層は温度が低く、そこで水が凝縮して液体の水が出る。液体の水が拡散層の細かい穴や流路をふさぐと、酸素が届かなくなり、出口付近の電流が急に落ちる(フラッディング)。しかもストイキ比1.2では出口の酸素が4.2%しかなく、出口側の電圧の損失は0.061 Vと大きい。水がたまるとさらに酸素が足りなくなり、局所的に電位が乱れて触媒が傷む原因にもなる。逆にストイキ比3では膜が乾いて抵抗が上がり、圧縮機の電力も重い。2前後がよく使われるのは、この両側の問題の間にあるからだ。実際の設計では、入口の加湿の量、流路の形、冷却水の温度の分布を組み合わせ、セルの中の湿度と電流がなるべく均一になるように流路のシミュレーションで調整する。

モデリングの進め方

  1. セルの分極曲線を、酸素の濃度と膜の含水率の関数として与える。
  2. 流路を入口から出口まで分け、酸素・水・温度の収支を解く。
  3. 場所ごとの電流を、そこでの酸素と膜の状態から求める。
  4. 凝縮した水の量と、それによる酸素の通りにくさを入れる。
  5. ストイキ比・加湿・冷却を変えて、出力と補機の電力の差が最大になる条件を探す。
Coffee Break よもやま話

「低い負荷で電圧がふらつくスタック」

ある燃料電池のスタックで、低い負荷のときだけ一部のセルの電圧がふらついた。流路のシミュレーションで調べると、低い負荷では空気の流量が少なく、流路の中の流れが遅いため、凝縮した水を押し流せずにたまり、ときどき流路をふさいでいた。低い負荷でもストイキ比を高めに保ち、流量の下限を設ける制御に変えると、電圧のふらつきはなくなった。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
酸素を入口の濃度で一定出口の性能低下を見逃す流路に沿って解く
水をすべて蒸気とするフラッディングを見逃す凝縮を入れる
補機の電力を無視ストイキ比を高く選びすぎる正味の出力で比べる
膜の抵抗を一定乾燥の影響を見逃す含水率の関数
定格の負荷だけで評価低い負荷の水詰まりを見逃す負荷の範囲全体で
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