水撃(ウォーターハンマー)解析
理論:止められた水が圧力の波になる
概要
工場の配管で、ポンプを止めたときにガンと大きな音がして、配管が揺れます。何が起きているんですか?
水撃だね。流れていた水が急に止まると、止まった場所から水が押し縮められて圧力の高い部分ができ、それが音の速さに近い速さで管の中を伝わっていく。管の端で反射して戻ってきて、何度も往復するんだ。水はほとんど縮まないから、わずかな流速の変化でも大きな圧力になる。圧力の波の速さは水の縮みにくさだけでなく、管がどれだけふくらむかでも変わるので、管の材質も大事になるよ。
圧力波の速さ
$K$ は水の体積弾性率(約2.2 GPa)、$\rho$ は密度、$D$ は管の内径、$e$ は肉厚、$E$ は管材のヤング率。硬い管では波の速さは水中の音速(約1,480 m/s)に近く、柔らかい管では管がふくらんで圧力を吸収するため遅くなる。
ジューコフスキーの式
流速が $\Delta v$ 変わったときの圧力の変化。$T_r$ は圧力波が長さ $L$ の管を往復する時間で、弁をこれより短い時間で閉じると『急閉』となり、この式どおりの圧力が生じる。流速が減るときは上流側で圧力が上がり、下流側では下がって、場合によっては水が蒸発する(水柱分離)。
モスクワの水道管の破裂から生まれた式
19世紀末、モスクワの水道では原因のわからない管の破裂が続いていた。1897〜98年、航空力学の先駆者として知られるジューコフスキーが、長さ数百mの管で弁を閉じる実験を重ね、圧力の上昇が流速の変化と波の速さの積に比例すること、閉じる時間が往復時間より短いと最大になることを示した。同じころイタリアのアリエヴィも理論を整えている。いまも配管設計で最初に使われる式が、100年以上前の水道の事故調査から生まれたわけだ。
計算例
例1:管の材質による違い
内径200 mm、長さ1,000 m、流速2 m/sを急に止めた場合。
| 管 | 波の速さ | 圧力上昇 | 往復時間 2L/a | 周方向応力 |
|---|---|---|---|---|
| 鋼管 肉厚6 mm | 1,270 m/s | 2.53 MPa(水頭259 m) | 1.57 s | 42 MPa |
| PVC管 肉厚10 mm | 375 m/s | 0.75 MPa(76 m) | 5.33 s | 7 MPa |
| PE管 肉厚18 mm | 294 m/s | 0.59 MPa(60 m) | 6.79 s | 3 MPa |
鋼管のほうが丈夫なのに、圧力は4倍以上になるんですね。
硬い管は圧力を逃がさないからね。PVCやPEは管がふくらんで波が遅くなるぶん圧力も小さい。ただ、樹脂の管は許せる応力も小さいし、温度が上がると弱くなるから、応力の比で見ると安心とは限らない。それと、2.5 MPaは水頭で260 m分で、普段の運転圧力の何倍にもなることが多い。配管の設計圧力を運転圧力だけで決めると、水撃で破裂することがあるんだ。
例2:閉じる時間を延ばす効果
| 閉じる時間 | 鋼管(2L/a = 1.57 s) |
|---|---|
| 1.57 s 以下(急閉) | 2.53 MPa |
| 5 s | 0.80 MPa |
| 10 s | 0.40 MPa |
| 30 s | 0.13 MPa |
往復時間より長く閉じれば、弁が閉じきる前に反射した負圧の波が戻ってきて打ち消し合うため、圧力は閉じる時間にほぼ反比例して下がる。ただしこの見積もりは流量が時間に対して一様に減る場合で、実際の弁は閉じきる直前に流量が急に減るので、最後の部分をゆっくり閉じる工夫が要る。
例3:空気の混入
大気圧で空気が体積の0.1%混じるだけで、水と空気の混合物の波の速さは約1,480 m/sから約310 m/s、1%では約100 m/sまで下がる(管の変形は無視)。わずかな空気で水撃の圧力の見積もりは大きく変わり、圧力の波の往復時間も長くなる。逆に、空気だまりが圧縮と膨張を繰り返して圧力が跳ね上がることもあるので、空気の扱いは解析の不確かさの大きな要因になる。
解析の進め方
手法
- 特性曲線法(MOC):管路を1次元で扱い、圧力の波の伝わりを直接追う。管網全体の水撃解析の標準。
- 流体と構造の連成:曲がり部や弁で圧力の波が管を押し、管の振動がまた流れに影響する。支持の少ない配管では連成解析が必要になる。
- 3次元CFD:弁やポンプの周りの細かな流れを見るときに限って使う。管路全体には向かない。
確認すること
- 管路の長さと波の速さから往復時間を求め、弁やポンプ停止の時間と比べる。
- 最大圧力が設計圧力を超えないか、最小圧力が蒸気圧を下回らないかを確かめる。
- 曲がり部や弁の支持に働く力を求め、支持構造を確かめる。
- 停電によるポンプの急停止など、最も厳しい場合を必ず含める。
「停電のときだけ配管が壊れる」
普段の運転では何も起きないのに、停電のときだけ配管の支持が外れたり、弁が壊れたりすることがある。停電ではポンプが一瞬で止まり、逆止弁が勢いよく閉じるため、運転中の操作よりずっと急な流速の変化が起きる。さらにポンプ直後で圧力が下がって水柱が分離し、再びぶつかるときに大きな圧力が出る。ポンプの慣性(フライホイール)を増やす、逆止弁を閉じる速さを選ぶ、空気室を付けるといった対策は、停電の場合の解析で効果を確かめる。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 運転圧力だけで設計 | 水撃で破裂 | ジューコフスキーで最大値を確認 |
| 波の速さを水の音速にする | 柔らかい管で過大評価 | 管の弾性を入れる |
| 停電の急停止を検討しない | 最悪の場合を見落とす | 停電ケースを解析 |
| 負圧を確認しない | 水柱分離と再衝突 | 最小圧力と蒸気圧を比較 |
| 空気の影響を無視 | 圧力・周期を誤る | 空気量の感度を確認 |
水撃の圧力を自分でも計算してみたいです。
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