マルチスケール連成解析
理論:微視的な構造から等価な性質を求める
概要
複合材の部品を解析するとき、繊維を1本ずつモデルにするんですか?
それは現実的ではない。炭素繊維は直径7 μmほどで、厚さ2 mmの板でも厚さ方向に200本以上並ぶ。部品全体を繊維ごとにメッシュにすると要素数が膨大になる。そこで、繊維と樹脂をならした等価な材料(均質な異方性材料)を考え、その材料定数を微視的な構造から求める。簡単な式で見積もる方法と、繊維と樹脂を表した小さな代表体積(RVE)を有限要素で解く方法がある。部品の解析とRVEを行き来して解くのがマルチスケール連成で、どの程度の精度が要るかで方法を選ぶ。
均質化の簡単な式
V_f、V_m は繊維と樹脂の体積率、E_f1 は繊維の軸方向、E_f2 は繊維の直角方向のヤング率、E_m は樹脂のヤング率。ハルピン・ツァイの式の ξ は円形断面の繊維の横方向剛性で2とした。値:炭素繊維 E_f1 = 230 GPa、E_f2 = 15 GPa、エポキシ E_m = 3.5 GPa。
ボイトとロイスの上下限
混ざった材料の平均の剛性について、1889年にボイトは各成分のひずみが等しいと仮定した平均を、1929年にロイスは応力が等しいと仮定した平均を示した。のちにヒルが、本当の値はこの2つの間にあることを示し、これが上限と下限になった。1960年代にはハシンとシュトリクマンがより狭い上下限を導き、ハルピンとツァイは実験に合う使いやすい式を示した。現在はRVEの数値解析が主流だが、これらの式は結果の妥当性を確かめる目安として今も使われる。
計算例
例1:一方向CFRPの等価ヤング率
| 繊維体積率 | 繊維方向 E1 | 直角 E2(直列) | 直角 E2(ハルピン・ツァイ) | 直角 E2(並列、上限) |
|---|---|---|---|---|
| 40% | 94.1 GPa | 5.05 GPa | 6.28 GPa | 8.1 GPa |
| 60% | 139.4 GPa | 6.48 GPa | 8.30 GPa | 10.4 GPa |
例2:繊維を等方性と誤って仮定した場合(繊維体積率60%)
| 繊維の直角方向の剛性 | 直角 E2(直列) | 直角 E2(ハルピン・ツァイ) |
|---|---|---|
| 15 GPa(正しい異方性) | 6.48 GPa | 8.30 GPa |
| 230 GPa(等方性と仮定) | 8.55 GPa | 17.61 GPa |
熱伝導率(繊維の軸方向10、直角方向1、樹脂0.2 W/mK、繊維体積率60%)は、繊維方向6.08 W/mK、直角方向は直列で0.38、マクスウェル・ガーネットの式で0.47 W/mK。
繊維方向の剛性はどの式でも同じなのに、直角方向は式や仮定でこんなに変わるんですね。
繊維方向は、繊維と樹脂が同じだけ伸びるので、剛性の単純な平均(混合則)でほぼ正しい。直角方向では、力が繊維と樹脂を交互に通るので、柔らかい樹脂が全体を決め、しかも繊維の並び方や樹脂の中の応力の集中が結果を左右する。直列の式は下限、並列の式は上限で、本当の値はその間のどこかにある。ハルピン・ツァイの式は実験に合わせた中間の見積もりだ。さらに、炭素繊維は繊維の中でも方向によって性質が違うので、それを無視すると直角方向の剛性を2倍に見積もってしまう。部品の解析で直角方向の荷重や熱が重要なら、繊維の並びを表したRVEを有限要素で解き、実測とも比べて材料定数を決めるべきだ。
マルチスケール解析の進め方
- 微視的な成分(繊維・樹脂・界面)の性質を、異方性も含めて集める。
- 簡単な式で上限・下限と目安を出す。
- 繊維の配置を表したRVEを、周期境界条件で有限要素解析する。
- 得られた等価定数を部品の解析に入れ、必要なら局所の応力をRVEに戻して確かめる。
- 試験片の実測と比べて定数を検証する。
「横方向に割れた部品」
あるCFRPの部品で、繊維に直角な方向の荷重がかかる部分に、試験で予想より早くき裂が入った。解析では、繊維も等方性として直角方向の剛性を計算していたため、直角方向の剛性が実際の約2倍になり、荷重の分担と樹脂の応力を誤って見積もっていた。繊維の異方性を入れたRVEで等価定数を求め直し、さらにRVEの中で樹脂の局所的な応力を確認すると、き裂の位置と荷重を説明できた。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 繊維を等方性と仮定 | 直角方向を過大評価 | 繊維の異方性を入れる |
| 混合則を直角方向に使う | 剛性を大きく過大評価 | 直列・ハルピン・ツァイ |
| RVEの境界条件が不適切 | 等価定数がずれる | 周期境界条件 |
| 局所の応力を見ない | 樹脂の破壊を見逃す | RVEに戻して確認 |
| 熱伝導率を等方性で扱う | 温度分布を誤る | 方向別に与える |
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