マランゴニ対流解析
理論:表面張力の差が流れを起こす
概要
薄い油の層を下から少し温めただけで、六角形の模様の流れができました。浮力の対流にしては温度差が小さすぎる気がします。
それはマランゴニ対流の可能性が高いね。油の表面張力は温度が高いほど小さいから、表面に温度のむらがあると、熱い所から冷たい所へ表面が引っ張られて流れが生まれる。浮力による対流は厚い層ほど起きやすく、厚さの3乗で効くけれど、表面張力による対流は厚さに比例するだけだ。だから薄い層では、浮力よりずっと小さな温度差で表面張力の対流が先に始まる。有名なベナールの六角形の模様も、実は多くの場合マランゴニ対流によるものなんだ。
マランゴニ数とレイリー数
$\partial\sigma/\partial T$ は表面張力の温度係数、$d$ は液層の厚さ。マランゴニ数が約80、レイリー数が約669(下が固体壁・上が自由表面)を超えると対流が始まる目安。両者の比は厚さの2乗に比例する。
自由表面の境界条件
CFDでは、自由表面のせん断応力を表面張力の勾配とつり合わせる境界条件でマランゴニ効果を入れる。$s$ は表面に沿った方向。
ワインの涙
グラスに注いだワインの内側に、液が這い上がっては涙のように流れ落ちる『ワインの涙』は、1855年にトムソン(ケルビン卿の兄)が表面張力の差で説明した。アルコールが蒸発して壁の薄い液膜の表面張力が大きくなり、液が引き上げられるのだ。1865年にイタリアのマランゴニがこの現象を詳しく研究し、名前が残った。20世紀には、ベナールの六角形の対流の多くが浮力ではなく表面張力によるものだとピアソンが1958年に示し、宇宙実験や結晶成長、溶接の研究へと広がった。
計算例
例1:対流が始まる温度差
下から温めた液層で、マランゴニ対流と浮力の対流が始まる温度差を比べた。
| 液体・厚さ | マランゴニ | 浮力 | 先に始まる |
|---|---|---|---|
| シリコーンオイル 1 mm | 0.94 K | 55 K | マランゴニ |
| シリコーンオイル 2 mm | 0.47 K | 6.9 K | マランゴニ |
| シリコーンオイル 5 mm | 0.19 K | 0.44 K | マランゴニ |
| シリコーンオイル 10 mm | 0.094 K | 0.055 K | 浮力 |
| 水 2 mm | 0.038 K | 5.8 K | マランゴニ |
| 水 10 mm | 0.008 K | 0.046 K | マランゴニ |
境目の厚さはシリコーンオイルで7.6 mm、水で24.7 mm。ただし水の表面は汚れ(界面活性物質)で表面張力の差が打ち消されやすく、実際にはマランゴニ対流が弱まることが多い。
例2:溶接の溶融池
鋼の溶融池で、表面張力の温度係数4×10⁻⁴ N/mK、表面の温度差1,000 K、池の大きさ2 mmとすると、表面のせん断応力は200 Pa、流速の目安は約1.2 m/s。熱の運ばれ方を表すペクレ数は約400で、熱は伝導より流れで運ばれる。
溶融池の中は、こんなに速く流れているんですね。
そう、だから溶け込みの形は流れで決まる。純粋な鉄に近いと、表面張力は温度が高いほど小さいので、表面は中心から外へ流れ、熱が外に運ばれて浅く広い溶け込みになる。ところが硫黄や酸素がわずかに入ると、表面張力の温度係数の符号が逆になり、表面が外から中心へ流れて、熱が下に運ばれ深く狭い溶け込みになる。同じ条件で溶接しても、材料のロットで溶け込みが変わる原因の一つだ。溶接や金属の積層造形のCFDでは、この境界条件の入れ方が結果を大きく左右するよ。
解析の進め方
- 表面張力の温度係数(符号を含む)と、表面の汚れや不純物の影響を調べる。
- マランゴニ数とレイリー数を比べ、どちらが主になるかを見極める。
- 自由表面にせん断応力の境界条件を入れ、表面の近くの格子を細かくする。
- 表面の変形が大きい場合は、自由表面の追跡(VOFなど)も組み合わせる。
- 表面の流速や温度分布を、トレーサー粒子や赤外線カメラで確かめる。
「同じ条件なのに溶け込みが違う」
自動のTIG溶接で、条件を変えていないのに、ある日から溶け込みが浅くなった——という例がある。調べると、ステンレス鋼の材料のロットが変わり、硫黄の含有量が以前より少なかった。硫黄が少ないと表面張力の温度係数が負になり、溶融池の表面の流れが外向きになって溶け込みが浅く広がる。CFDで表面張力の温度係数の符号を変えて計算すると、この違いがよく再現された。材料の成分表の小さな数字が、流れの向きを通して溶接の品質を変える。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 薄い層で浮力だけを考える | 流れを見落とす | マランゴニ数を計算 |
| 温度係数の符号を一定に | 溶け込みの形を誤る | 成分の影響を入れる |
| 表面の汚れを無視 | 流れを過大評価 | 実験で確かめる |
| 表面の格子が粗い | 表面の速度を過小評価 | 表面近くを細かく |
| 自由表面を平らと仮定 | 変形の大きい場合に誤差 | VOFなどで追跡 |
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