マイクロ波加熱のシミュレーション

カテゴリ: 電磁・熱連成 | 2026-10-01 改稿
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理論と物理の世界へ

理論:誘電損失で熱が生まれる

概要

🙋

工業用のマイクロ波乾燥炉を設計しています。電磁界の解析と熱の解析はどうつなげればいいですか?

🎓

マイクロ波は、材料の中の分子(特に水)を電界で揺さぶり、誘電損失として熱を生む。電磁界の解析で電界の分布を求め、そこから発熱の分布を出して熱の解析に渡すのが基本の流れだ。ただし、材料の誘電率は温度や水分で変わるから、温まると発熱の分布も変わる。この双方向のつながりを入れるかどうかで結果が大きく変わる場合がある。まずは、どれくらいの深さまで届くか、どんな模様で温まるか、温度とともに吸収が増えて暴走しないか、の3点を押さえよう。

発熱と浸透深さ

$$ P = 2\pi f\,\varepsilon_0\,\varepsilon''\,E_{rms}^2, \qquad D_p = \frac{\lambda_0}{2\pi\sqrt{2\varepsilon'}}\left[\sqrt{1 + \left(\frac{\varepsilon''}{\varepsilon'}\right)^2} - 1\right]^{-1/2} $$

$\varepsilon'$ は比誘電率、$\varepsilon''$ は誘電損失率、$E_{rms}$ は電界の実効値、$\lambda_0$ は真空中の波長。$D_p$ は電力が1/eに減る深さで、これより厚い材料では中心が温まりにくい。

熱暴走の簡単なモデル

$$ \rho c_p V\,\frac{dT}{dt} = V P_0\,e^{\,b\,(T - T_0)} - hA\,(T - T_0), \qquad P_{0,crit} = \frac{hA}{V\,b\,e} $$

誘電損失が温度とともに指数関数的に増えるとすると、発熱の曲線と放熱の直線が接するときが境目になる。それを超えると定常の温度がなくなり、温度は上がり続ける。

Coffee Break よもやま話

溶けたチョコレートから生まれた調理器

電子レンジの始まりとしてよく語られるのは、1945年ごろ、アメリカのレイセオン社の技術者パーシー・スペンサーが、レーダー用のマグネトロンのそばで作業していたとき、ポケットのチョコレートバーが溶けていたのに気づいたという話だ。彼はポップコーンや卵で試し、マイクロ波で食品を温められることを確かめた。最初の製品は冷蔵庫ほどの大きさだったが、1960〜70年代に家庭用として小型化され、世界中に広まった。いまでは食品のほか、木材や医薬品の乾燥、ゴムの加硫、セラミックの焼結など、工業でも広く使われている。

計算例

例1:浸透深さ

材料(ε′, ε″)2.45 GHz915 MHz
水(78, 10)17.2 mm46.1 mm
牛肉(52, 17)8.4 mm22.4 mm
氷(3.2, 0.003)11.6 m31.1 m

誘電率は代表値で、915 MHzでも同じ値と仮定した(実際は周波数で変わる)。電界1 kV/mで水が吸収する電力は1.36×10⁶ W/m³、温度上昇は毎秒0.33 K。空気中の半波長は6.1 cm、水の中では0.69 cm、牛肉の中では0.85 cmで、定在波の強弱はこの間隔で並ぶ。

🙋

氷は11 mも届くのに、ほとんど温まらないんですか?

🎓

深く届くのは、ほとんど吸収されないからなんだ。氷の誘電損失率は水の3,000分の1ほどしかない。だから冷凍食品を温めると、先に溶けた部分だけが水になって急に吸収が増え、そこだけ熱くなる。溶けた部分がさらに温まって周りを溶かしていく『ランナウェイ解凍』で、中は凍ったまま外が煮えることもある。電子レンジの解凍モードが出力を断続的にして休ませるのは、熱が伝わって全体がそろうのを待つためだよ。

例2:熱暴走

体積10 cm³、表面積26 cm²、熱伝達率20 W/m²Kの試料で、誘電損失率を25 ℃で0.01、温度が100 K上がるごとにe倍になるとした(2.45 GHz)。境目の電界は11.8 kV/m。

電界結果
10 kV/m64 ℃で定常
11.5 kV/m94 ℃で定常
12 kV/m定常なし(3時間で142 ℃、上がり続ける)
13 kV/m約66分で300 ℃を超える

電界を4%上げただけで、落ち着く温度があるかないかが変わる。セラミックの焼結のように誘電損失が温度とともに増える材料では、電界の分布のわずかな偏りが局所的な熱暴走を起こし、割れや溶けの原因になる。

解析の進め方

  1. 材料の誘電率と誘電損失率を、温度・水分・周波数の関数として測る(または文献から集める)。
  2. 庫内(キャビティ)と導波管を含めて電磁界を解き、発熱の分布を求める。
  3. 熱の解析に発熱を渡し、温度で誘電率を更新して電磁界を解き直す(双方向の連成)。
  4. ターンテーブルやかくはん羽根、コンベアの動きを入れて平均化を評価する。
  5. 熱電対や光ファイバー温度計、赤外線カメラで検証する(金属の熱電対は電界を乱すので注意)。
Coffee Break よもやま話

「試作品だけ角が焦げる」

食品の工業用マイクロ波加熱で、四角いトレーに入れた製品だけ角が焦げる——という問題がある。電磁界の解析をすると、角や辺では電界が集中し、2方向や3方向から入った波が重なって発熱が大きくなっていた。水分が抜けて温度が上がると誘電損失も変わり、さらに偏る。トレーの角を丸くし、配置と出力を調整したところ改善した。形状の角は、マイクロ波加熱では局所的な過熱の起点になりやすい。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
誘電率を一定に熱暴走・加熱むらを見落とす温度・水分の関数に
電磁界を1回だけ解く発熱の分布がずれる温度で更新して解き直す
格子が波長に対して粗い定在波が再現できない材料内の波長の1/10以下
金属の熱電対で測る電界が乱れる光ファイバー温度計
出力だけで温度を決める境目を越えて暴走温度で出力を制御
🙋

関連する内容も知りたいです。

🎓

表皮深さの計算とマイクロ波伝送のシミュレーターで電磁波の基本を確かめられるよ。関連する加熱の解析はマイクロ波加熱の基礎、誘電加熱、高周波加熱、誘導加熱が参考になる。

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