熱変形を考慮した組立シミュレーション
理論:熱で広げて、冷えて締める
概要
焼きばめした歯車が、運転中に軸の上で滑ってしまいました。締めしろは計算どおりなのに、なぜですか?
焼きばめは、組み立てるときに熱で穴を広げ、冷えて縮むことで締め付ける。ところが同じ熱膨張が、運転中にも働く。歯車がかみ合いの摩擦などで軸より熱くなると、歯車の穴だけが広がり、締めしろが減る。締めしろは数十μmしかないので、数十Kの温度差でほとんどなくなってしまう。異なる材料を組み合わせた場合はもっと深刻で、全体が同じ温度でも熱膨張率の差で緩む。だから焼きばめの設計では、組立の温度だけでなく、運転中の温度分布を熱解析で求め、それを構造解析に渡して残る締めしろと面圧を確かめる。
面圧・トルク・組立の温度
同じ材料の中実軸とハブの場合。E はヤング率(鋼206 GPa)、δ は直径の締めしろ、D は軸の直径(50 mm)、D_o はハブの外径(100 mm)、L ははめあいの長さ(40 mm)、μ は摩擦係数(0.15)、c は組立のためのすき間、α は熱膨張率(鋼11.5×10⁻⁶ /K)。
温度による締めしろの減少
鉄道の車輪と大砲の砲身
焼きばめは古くからの技術で、木の車輪に鉄の輪(タイヤ)を熱してはめる方法は鍛冶屋の仕事だった。19世紀には大砲の砲身を何層もの焼きばめで作り、内側に圧縮の応力を残して破裂しにくくする方法が使われた。鉄道の車輪のタイヤも長く焼きばめで取り付けられてきたが、ブレーキの熱でタイヤが熱くなり緩む事故が知られていて、温度と締めしろの関係は昔から安全上の課題だった。
計算例
例1:鋼どうしの焼きばめ(軸50 mm、ハブ外径100 mm、長さ40 mm)
| 締めしろ | 接触面圧 | 伝達トルク | ハブ内面の周方向応力 |
|---|---|---|---|
| 0.02 mm | 30.9 MPa | 728 N·m | 52 MPa |
| 0.03 mm | 46.3 MPa | 1,092 N·m | 77 MPa |
| 0.05 mm | 77.2 MPa | 1,820 N·m | 129 MPa |
締めしろ0.03 mmにすき間0.03 mmを加えて組み立てるには、ハブを約104 K加熱する。軸を液体窒素で冷やす(20℃から−196℃)と約0.097 mm縮む。
例2:運転中の温度による締めしろの減少
| 条件 | 失われる締めしろ | 0.03 mmの締めしろに対して |
|---|---|---|
| 鋼どうし、ハブが軸より50 K熱い | 0.029 mm | ほぼ全部 |
| アルミのハブ・鋼の軸、一様に+50 K | 0.029 mm | ほぼ全部 |
| アルミのハブ・鋼の軸、一様に+100 K | 0.058 mm | 外れる |
アルミのハブ(ヤング率70 GPa)を鋼の軸に0.03 mmではめた場合、面圧は18.8 MPaと鋼どうしの約4割になる。
50 Kの温度差でほとんど緩むなら、締めしろを大きくすればいいんじゃないですか?
締めしろを大きくすれば面圧は増えるが、ハブの穴の周りの応力も比例して大きくなる。締めしろ0.05 mmではハブ内面の周方向応力が129 MPaになり、薄いハブや、歯の根元に穴が近い歯車では、運転の応力が重なって疲労やき裂の原因になる。また組み立てに必要な加熱温度も上がり、材料の焼き戻しなどの制約にかかる。だから締めしろは、運転中に最も締めしろが減る条件(ハブが最も熱い、軸が最も冷たい、遠心力でハブが広がる)でも必要なトルクが伝わり、組立と運転で最も締めしろが大きい条件でも応力が許容値に収まる範囲で決める。その範囲を求めるのが、熱解析と構造解析の連成だ。
組立シミュレーションの進め方
- 必要なトルクと、許容できる応力から締めしろの範囲を手計算で出す。
- 組立時の加熱・冷却の温度と時間を熱解析で確かめる。
- 運転中の温度分布(発熱、冷却、周囲温度)を熱解析で求める。
- 温度を構造解析に渡し、接触解析で残る締めしろと面圧を求める。
- 遠心力、公差のばらつき、表面の粗さによる締めしろの減少も加える。
「起動直後だけ滑るカップリング」
ある設備の軸継手が、運転を始めてしばらくの間だけ、軸の上でわずかに滑る跡を残していた。定常運転の温度では締めしろに余裕があり、計算上は問題なかった。過渡の熱解析を行うと、起動直後は継手の外側が摩擦熱で先に温まり、軸はまだ冷たいため、ハブと軸の温度差が一時的に40 K近くになっていた。そのときの締めしろはほぼなくなっていた。締めしろの下限を見直し、起動時の負荷を段階的に上げる運転方法に変えて解決した。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 組立温度だけで評価 | 運転中に緩む | 運転の温度分布を連成 |
| 定常だけで評価 | 起動時の滑り | 過渡で確認 |
| 異材の熱膨張差を無視 | 一様な温度でも緩む | 材料ごとのαを使う |
| 締めしろを大きくしすぎ | ハブの割れ | 応力の上限で制限 |
| 遠心力を無視 | 高速で緩む | 回転を入れて解析 |
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