リッツ線
リッツ線の理論基礎
リッツ線の原理
先生、リッツ線はなぜAC損失を低減できるんですか?
複数の細い絶縁素線を撚り合わせることで、各素線の径を表皮深さ$\delta$より小さくして表皮効果と近接効果を抑制する。
各素線の径$d_{strand}$が$\delta$より十分小さければ:
撚り方も重要なんですか?
撚りの目的は各素線が導体断面内で均等に全ての位置を通ること(トランスポジション)。不完全な撚りでは素線間で電流が不均等になり(循環電流)、損失が増大する。バンドル撚り(Type 1, 2, 3)の階層構造が重要。
まとめ
リッツ線の発明——20世紀初頭の無線電信を支えた細線の束
リッツ線(Litz wire)はドイツ語の"Litzendraht"(より線)に由来し、1900年代初頭の高周波無線通信(スパーク送信機)の送信コイルに使われたことが起源だ。表皮効果による高周波抵抗増大を抑えるために細い線を絶縁して撚り合わせた発想は、マルコーニ無線電信時代の実用上の必要性から生まれた。現代のワイヤレス給電(WPT)や高周波インダクタへの応用は、100年前の技術が形を変えて最先端に戻ってきた例だ。
リッツ線の数値計算手法
FEMでのリッツ線モデリング
数百本の素線を全部モデル化するのは大変ですよね?
個別素線モデルは精度が高いが計算コストが膨大。実用的には均質化モデルを使う。
- JMAG: FEM Coil機能でリッツ線の等価特性を自動計算
- COMSOL: Homogenized Multi-Turn Coilで等価導電率を設定
- Dowell式の拡張: 素線径、素線数、撚りピッチからAC抵抗係数$F_r$を解析的に計算
循環電流損はどう扱いますか?
撚りが不完全な場合の循環電流損は均質化モデルでは捉えにくい。JMAGでは代表的な数本の素線を個別にモデル化する「部分モデル」で循環電流を評価する手法がある。
まとめ
リッツ線のFEM——何万本もの細線をどうモデル化するか
リッツ線は数十〜数万本の細線を束ねた構造で、全細線を忠実にモデル化するとメッシュが膨大になり計算が破綻する。実用的なアプローチは「均質化法」で、細線の体積充填率と配向を考慮した等価異方性導電率テンソルに置き換え、マクロなFEMで解析するものだ。この均質化モデルの精度は細線本数・撚り回数・周波数に依存し、高周波では均質化の誤差が増大するため、注意深い適用範囲の見極めが必要だ。
リッツ線の実務適用
実務でのリッツ線選定
高周波トランス(LLC共振コンバータ等)、ワイヤレス給電コイル(85 kHz)、誘導加熱コイルが主な用途。
実務チェックリスト
ワイヤレス給電コイルのリッツ線設計——最適ストランド径の選び方
スマートフォンや電気自動車のワイヤレス給電(85kHz〜MHz帯)では、表皮深さが銅で0.2〜0.5mm程度になるため、それ以下のストランド径のリッツ線が必要だ。ただし細すぎると抵抗が増え、太すぎると表皮効果が顕在化するため、最適ストランド径は使用周波数の関数として決まる。IEC 61980(EV用WPT)準拠の設計では、コイルのQ値100以上を達成するためにリッツ線の選定と巻き方の最適化をFEMで検証することが業界の実務標準になっている。
リッツ線のソフトウェア比較
ツール
| ツール | 特徴 |
|---|---|
| JMAG | FEM Coilでリッツ線損失計算。均質化+部分モデル |
| COMSOL AC/DC | Homogenized Multi-Turn Coil。パラメトリック最適化 |
| Ansys Maxwell | Stranded Conductor。Eddy Current Solver |
| Gecko Magnetics | 磁性部品設計専用。リッツ線損失の自動計算 |
リッツ線サプライヤとシミュレーション——PACK社とFurukawa Electricの技術
リッツ線の世界的サプライヤとして知られるPACK(ドイツ)とその日本代理店、また古河電気工業・住友電工のような国内メーカーが高精度リッツ線を供給している。サプライヤ各社はユーザーの設計周波数・電流・巻き数に対して最適ストランド径・本数を提案するデータシートを提供しており、COMSOLやJMAGの解析結果と比較検証した事例を公開している。「メーカーのデータシートがFEMより信頼できる」というケースもあり、実測値との照合が常に重要だ。
リッツ線の先端研究
先端技術
GaNインバータ時代のリッツ線——1MHz超での設計課題
GaN半導体インバータが1MHz超で動作するようになると、リッツ線のストランド径は20μm以下が必要になり、加工・絶縁・半田付けが困難になる。この周波数帯では薄膜コイル(プリント基板パターン)やACF(無電解銅箔)コイルとの競争関係が生まれており、リッツ線の適用上限周波数が設計上の重要なトレードオフポイントになっている。1MHz対応リッツ線のFEM解析は、均質化モデルの精度限界に近い領域であり、モデル高度化が活発に研究されている。
リッツ線のトラブル対応
トラブル
リッツ線の「思ったより損失が多い」——束ねた後の近接効果の見落とし
リッツ線の最大の落とし穴は、細線化して表皮効果を抑えても束全体では近接効果が残ることだ。各細線が隣の細線の磁界を受けて電流分布が非一様になり、設計値より損失が大きくなるケースがある。この「束近接効果」はDowell法や3D FEMで解析できるが、実務では経験則で逃げることが多く、「リッツ線に変えても思ったほど損失が下がらなかった」というトラブルになる。最適ストランド数と撚り構造の設計にはFEMが不可欠だ。
関連トピック
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