WBGデバイス(SiC/GaN)シミュレーション
理論:耐圧とオン抵抗のかね合い
概要
SiCのMOSFETは、同じ耐圧のSiの素子よりずっと小さいと聞きました。どうしてですか?
パワー素子は、オフのときに高い電圧をドリフト層という部分で受け止める。この層は、電界が材料の絶縁破壊電界を超えないように、十分に厚く、不純物を薄くしなければならない。ところがオンのときには、電流がこの厚くて不純物の薄い層を通るので、抵抗が大きくなる。SiCやGaNは絶縁破壊電界がSiの約10倍あるので、同じ耐圧でも層を約10分の1に薄く、不純物を約60倍濃くできる。両方が効いて、抵抗は絶縁破壊電界の3乗に反比例して小さくなる。これを式にしたのがバリガの限界式で、材料を選ぶときの最初の目安になる。
バリガの限界式
BV は耐圧、ε は誘電率、μ_n は電子の移動度、E_c は絶縁破壊電界、W_D はドリフト層の厚さ、N_D は不純物濃度。物性:Si(比誘電率11.7、移動度1,350 cm²/Vs、0.3 MV/cm)、4H-SiC(9.7、900、2.5 MV/cm)、GaN(9.0、1,200、3.3 MV/cm)。
バリガの性能指数
1982年、バリガはパワー半導体の材料を比べる指標として、ε·μ·E_c³ を提案した。これがバリガの性能指数で、ドリフト層の抵抗の限界がこれに反比例する。当時はSiのパワー素子が主流だったが、この指標はSiCやGaNが原理的に大きく優れることを示していた。結晶の品質やMOS界面の問題で実用化には時間がかかったが、2010年代にSiC MOSFETやGaNトランジスタが量産され、電気自動車や電源の効率を大きく高めた。
計算例
例1:耐圧ごとのドリフト層の限界
| 耐圧 | 材料 | 単位面積抵抗(mΩ·cm²) | ドリフト層の厚さ | 不純物濃度(cm⁻³) |
|---|---|---|---|---|
| 650 V | Si | 44.8 | 43 μm | 4.5×10¹⁴ |
| 650 V | 4H-SiC | 0.14 | 5.2 μm | 2.6×10¹⁶ |
| 650 V | GaN | 0.049 | 3.9 μm | 4.2×10¹⁶ |
| 1,200 V | Si | 153 | 80 μm | 2.4×10¹⁴ |
| 1,200 V | 4H-SiC | 0.48 | 9.6 μm | 1.4×10¹⁶ |
| 1,200 V | GaN | 0.17 | 7.3 μm | 2.3×10¹⁶ |
| 3,300 V | 4H-SiC | 3.6 | 26 μm | 5.1×10¹⁵ |
例2:20 mΩの1,200 V素子に必要な面積(ドリフト層だけで決まる場合)
| 材料 | 面積 | 一辺 | Siとの性能指数比 |
|---|---|---|---|
| Si | 7.63 cm² | 27.6 mm | 1 |
| 4H-SiC | 0.024 cm² | 1.54 mm | 320 |
| GaN | 0.0084 cm² | 0.92 mm | 910 |
GaNのほうが限界は低いのに、1,200 VではSiCがよく使われるのはなぜですか?
限界の式は材料の理想的な性能で、実際の素子は構造と製造で決まる。GaNのトランジスタの多くはシリコンなどの基板の上に薄いGaNを成長させた横型の構造で、電流は表面に沿って流れる。耐圧を上げるには電極の間隔を広げる必要があり、高い耐圧では面積の利点が小さくなる。また厚いGaNを欠陥少なく作るのが難しい。SiCは同じ材料の基板の上に厚いドリフト層を成長させた縦型の構造が作れ、高い耐圧と大きな電流に向く。そのため650 V以下の高速の電源ではGaN、1,200 V以上の自動車や産業用ではSiCが中心になっている。ただし実際のSiC MOSFETの単位面積抵抗は、チャネルや基板の抵抗が加わって、1,200 Vで限界の数倍になる。デバイスシミュレーションでは、こうした抵抗の内訳を求めて、どこを改善すべきかを決める。
デバイスシミュレーションの進め方
- バリガの式で、耐圧に必要なドリフト層の厚さと濃度の目安を出す。
- TCADで素子の断面を作り、ポアソン方程式と電流連続の式を解く。
- SiCの界面欠陥や不完全イオン化など、材料に特有のモデルを入れる。
- 終端構造で端部の電界集中を抑え、耐圧を確かめる。
- 試作素子の特性と比べて、パラメータを合わせる。
「計算どおりの耐圧が出ない」
ある1,200 VのSiCダイオードの試作で、ドリフト層の厚さと濃度は1次元の計算で十分な余裕があったのに、実際の耐圧は900 V程度にとどまった。TCADで素子の端の部分を含めて計算すると、電極の端で電界が集中し、そこで先に破壊していた。端の周りに電界をなだらかにする終端構造(ガードリング)を追加して計算し直し、その設計で試作すると、耐圧は1,300 Vを超えた。1次元の式は中央部分の性能しか表さないので、端の設計はシミュレーションで確かめる。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 限界値を実際の素子とみなす | 抵抗を過小評価 | チャネル・基板を加える |
| 1次元だけで耐圧を設計 | 端で破壊 | 終端を解析 |
| Siのモデルを流用 | 特性が合わない | 材料固有のモデル |
| 温度依存を無視 | 高温で特性が変わる | 温度を変えて計算 |
| 不完全イオン化を無視 | キャリア濃度を誤る | SiCでは考慮 |
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