WBGデバイス(SiC/GaN)シミュレーション

カテゴリ: 電磁界解析・パワーエレクトロニクス | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for wbg device simulation theory - technical simulation diagram
WBGデバイス(SiC/GaN)シミュレーション

理論:耐圧とオン抵抗のかね合い

概要

🙋

SiCのMOSFETは、同じ耐圧のSiの素子よりずっと小さいと聞きました。どうしてですか?

🎓

パワー素子は、オフのときに高い電圧をドリフト層という部分で受け止める。この層は、電界が材料の絶縁破壊電界を超えないように、十分に厚く、不純物を薄くしなければならない。ところがオンのときには、電流がこの厚くて不純物の薄い層を通るので、抵抗が大きくなる。SiCやGaNは絶縁破壊電界がSiの約10倍あるので、同じ耐圧でも層を約10分の1に薄く、不純物を約60倍濃くできる。両方が効いて、抵抗は絶縁破壊電界の3乗に反比例して小さくなる。これを式にしたのがバリガの限界式で、材料を選ぶときの最初の目安になる。

バリガの限界式

$$ R_{on,sp} = \frac{4\,BV^2}{\varepsilon\,\mu_n E_c^3},\qquad W_D = \frac{2\,BV}{E_c},\qquad N_D = \frac{\varepsilon E_c^2}{2\,q\,BV} $$

BV は耐圧、ε は誘電率、μ_n は電子の移動度、E_c は絶縁破壊電界、W_D はドリフト層の厚さ、N_D は不純物濃度。物性:Si(比誘電率11.7、移動度1,350 cm²/Vs、0.3 MV/cm)、4H-SiC(9.7、900、2.5 MV/cm)、GaN(9.0、1,200、3.3 MV/cm)。

Coffee Break よもやま話

バリガの性能指数

1982年、バリガはパワー半導体の材料を比べる指標として、ε·μ·E_c³ を提案した。これがバリガの性能指数で、ドリフト層の抵抗の限界がこれに反比例する。当時はSiのパワー素子が主流だったが、この指標はSiCやGaNが原理的に大きく優れることを示していた。結晶の品質やMOS界面の問題で実用化には時間がかかったが、2010年代にSiC MOSFETやGaNトランジスタが量産され、電気自動車や電源の効率を大きく高めた。

計算例

例1:耐圧ごとのドリフト層の限界

耐圧材料単位面積抵抗(mΩ·cm²)ドリフト層の厚さ不純物濃度(cm⁻³)
650 VSi44.843 μm4.5×10¹⁴
650 V4H-SiC0.145.2 μm2.6×10¹⁶
650 VGaN0.0493.9 μm4.2×10¹⁶
1,200 VSi15380 μm2.4×10¹⁴
1,200 V4H-SiC0.489.6 μm1.4×10¹⁶
1,200 VGaN0.177.3 μm2.3×10¹⁶
3,300 V4H-SiC3.626 μm5.1×10¹⁵

例2:20 mΩの1,200 V素子に必要な面積(ドリフト層だけで決まる場合)

材料面積一辺Siとの性能指数比
Si7.63 cm²27.6 mm1
4H-SiC0.024 cm²1.54 mm320
GaN0.0084 cm²0.92 mm910
🙋

GaNのほうが限界は低いのに、1,200 VではSiCがよく使われるのはなぜですか?

🎓

限界の式は材料の理想的な性能で、実際の素子は構造と製造で決まる。GaNのトランジスタの多くはシリコンなどの基板の上に薄いGaNを成長させた横型の構造で、電流は表面に沿って流れる。耐圧を上げるには電極の間隔を広げる必要があり、高い耐圧では面積の利点が小さくなる。また厚いGaNを欠陥少なく作るのが難しい。SiCは同じ材料の基板の上に厚いドリフト層を成長させた縦型の構造が作れ、高い耐圧と大きな電流に向く。そのため650 V以下の高速の電源ではGaN、1,200 V以上の自動車や産業用ではSiCが中心になっている。ただし実際のSiC MOSFETの単位面積抵抗は、チャネルや基板の抵抗が加わって、1,200 Vで限界の数倍になる。デバイスシミュレーションでは、こうした抵抗の内訳を求めて、どこを改善すべきかを決める。

デバイスシミュレーションの進め方

  1. バリガの式で、耐圧に必要なドリフト層の厚さと濃度の目安を出す。
  2. TCADで素子の断面を作り、ポアソン方程式と電流連続の式を解く。
  3. SiCの界面欠陥や不完全イオン化など、材料に特有のモデルを入れる。
  4. 終端構造で端部の電界集中を抑え、耐圧を確かめる。
  5. 試作素子の特性と比べて、パラメータを合わせる。
Coffee Break よもやま話

「計算どおりの耐圧が出ない」

ある1,200 VのSiCダイオードの試作で、ドリフト層の厚さと濃度は1次元の計算で十分な余裕があったのに、実際の耐圧は900 V程度にとどまった。TCADで素子の端の部分を含めて計算すると、電極の端で電界が集中し、そこで先に破壊していた。端の周りに電界をなだらかにする終端構造(ガードリング)を追加して計算し直し、その設計で試作すると、耐圧は1,300 Vを超えた。1次元の式は中央部分の性能しか表さないので、端の設計はシミュレーションで確かめる。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
限界値を実際の素子とみなす抵抗を過小評価チャネル・基板を加える
1次元だけで耐圧を設計端で破壊終端を解析
Siのモデルを流用特性が合わない材料固有のモデル
温度依存を無視高温で特性が変わる温度を変えて計算
不完全イオン化を無視キャリア濃度を誤るSiCでは考慮
🙋

関連する内容も知りたいです。

関連シミュレーター

この分野のインタラクティブシミュレーターで理論を体感しよう

シミュレーター一覧

関連する分野

連成解析構造解析熱解析
この記事の評価
ご回答ありがとうございます!
参考に
なった
もっと
詳しく
誤りを
報告
参考になった
0
もっと詳しく
0
誤りを報告
0