漏れインダクタンス解析
理論:巻線の間にたまる磁気エネルギー
概要
フライバック電源のスイッチ素子に、オフした瞬間に大きな電圧のとげが出て、耐圧ぎりぎりです。トランスのせいでしょうか?
たぶん漏れインダクタンスだね。1次巻線が作る磁束のほとんどは鉄心を通って2次巻線とつながるけど、一部は巻線と巻線のすき間を通って、2次とはつながらない。この分は2次へエネルギーを渡せないので、スイッチが切れた瞬間に行き場を失って電圧のとげになる。値は巻線の並べ方とすき間でほぼ決まるから、トランスの巻き方で大きく変えられるんだ。
磁気エネルギーからの計算
$\mathcal{F}(x)$ は巻線の厚さ方向の位置 $x$ での起磁力(電流1 Aあたり)、MLTは巻線1回あたりの平均の長さ、$h_w$ は巻線の高さ。1次巻線の中で起磁力が増え、巻線の間で最大になり、2次巻線の中で0に戻る。この山の面積(2乗)が漏れインダクタンスを決める。
並べて巻いた場合の式
$g$ は巻線の間のすき間、$a_1, a_2$ は1次・2次の巻線の厚さ。すき間は全体が効き、巻線の厚さは1/3だけ効く。巻数の2乗に比例するので、巻数を増やすと急に大きくなる。
漏れ磁束は悪者とは限らない
漏れインダクタンスは損失やとげの原因として嫌われるが、わざと大きくして使う例もある。ネオン管や放電灯の変圧器は、漏れインダクタンスで電流を自然に制限するよう、1次と2次を離して巻いている。アーク溶接の変圧器も同じ考え方で、鉄心の一部を動かして漏れ磁束を調整し、溶接電流を変えるものがある。最近の共振型の電源(LLC)では、漏れインダクタンスを共振回路の部品として取り込み、部品を1つ減らしている。
計算例
例1:巻線の配置とすき間
1次20回巻き、平均周長60 mm、巻線の高さ20 mm、1次・2次の巻線の厚さを各2 mmとした場合(1次側に換算)。
| 巻線間のすき間 | 1次|2次 | 1次半分|2次|1次半分 | 比 |
|---|---|---|---|
| 0.5 mm | 2.76 μH | 0.88 μH | 0.32 |
| 1.0 mm | 3.52 μH | 1.26 μH | 0.36 |
| 2.0 mm | 5.03 μH | 2.01 μH | 0.40 |
1次を2つに分けて2次を挟むだけで、1/3くらいになるんですね。
そう。挟むと起磁力の山が2つに分かれて、それぞれの高さが半分になる。エネルギーは高さの2乗で効くから、全体として大きく減る。ただしすき間が2か所に増えるので、すき間が広いと効果は薄れる(2 mmで0.40)。安全規格で1次と2次の間に絶縁の距離が必要な電源では、すき間を狭くできないぶん、挟む構成の効果が小さくなることも覚えておこう。
例2:フライバックでの損失
| 条件(2.76 μH) | 漏れインダクタンスの損失 |
|---|---|
| ピーク5 A、100 kHz | 3.5 W |
| ピーク5 A、200 kHz | 6.9 W |
| ピーク10 A、100 kHz | 13.8 W |
フライバックでは、スイッチが切れるたびに漏れインダクタンスのエネルギーが2次へ渡らず、スナバ回路で熱になる(回収する回路を使わない場合)。周波数と電流の2乗に比例するので、50 W級の電源で数Wになるのは珍しくない。漏れインダクタンスを1/3にすれば、この損失も1/3になる。
解析と測定
解析の進め方
- まず上の式で見積もり、巻線の配置の案を比べる。
- 2次元の磁界解析(軸対称)で、2次を短絡し1次に電流を流したときの磁気エネルギーから求める。
- 巻線の端や鉄心の外に出る部分は3次元の解析で補正する。
- 周波数が高いと巻線内の電流分布が偏り、漏れインダクタンスはわずかに下がる。必要なら周波数を指定して解く。
測定
2次巻線を短絡して1次側のインダクタンスを測ると、ほぼ漏れインダクタンスになる。短絡の線が長いと、その分のインダクタンスが加わるので、太く短い線で短絡する。
「試作と量産で漏れインダクタンスが違う」
手巻きの試作では漏れインダクタンスが小さかったのに、量産品では2倍になってスナバが焼けた——こんな例がある。巻線の間の絶縁テープの枚数や、巻線の端のそろい方が変わると、すき間 $g$ と巻線の高さ $h_w$ が変わる。式のとおり、すき間は全体が効くので、0.5 mmが1 mmになるだけで3割近く増える。量産図面ではすき間と巻き方を明記し、抜き取りで短絡インダクタンスを測って管理するのが確実だ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 巻線間のすき間を管理しない | 漏れが量産でばらつく | 図面に明記し測定 |
| 短絡線の長い測定 | 漏れを過大に測る | 太く短く短絡 |
| スナバを漏れの見積もりなしで設計 | スナバが過熱 | ½LI²fで損失を見積もる |
| インターリーブの容量増を無視 | ノイズやリンギング | 容量も同時に評価 |
| 2次元の値をそのまま使う | 端部の分を見落とす | 3次元で補正 |
トランスやフライバックの計算を自分でも試したいです。
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