巻線損失解析(交流銅損)
理論:電流は導体の中で偏る
概要
スイッチング電源のトランスが熱いので、巻線を太い箔に変えたら、もっと熱くなったんです。銅を増やしたのに、どうしてですか?
高い周波数では、電流は導体の断面全体を流れなくなるんだ。自分のつくる磁界で表面に押しやられる表皮効果と、隣の層がつくる磁界で片側に寄せられる近接効果がある。層を重ねた巻線では近接効果が特に強くて、導体を厚くすると、逆向きの渦電流が大きくなって損失が増えることがある。直流抵抗だけで巻線を選ぶと、このわなにはまるんだよ。
表皮深さ
| 周波数 | 銅の表皮深さ(20 ℃) |
|---|---|
| 50 Hz | 9.3 mm |
| 1 kHz | 2.1 mm |
| 10 kHz | 0.66 mm |
| 100 kHz | 0.21 mm |
| 1 MHz | 0.066 mm |
$h$ は箔の厚さ(丸線では直径から換算した等価な厚さ)、$\Delta$ は厚さと表皮深さの比。温度が上がると抵抗率が大きくなるので、表皮深さも少し深くなる。
Dowellの式
| Δ | 1層 | 2層 | 4層 | 6層 |
|---|---|---|---|---|
| 0.5 | 1.01 | 1.03 | 1.11 | 1.25 |
| 1.0 | 1.09 | 1.41 | 2.69 | 4.82 |
| 1.5 | 1.38 | 2.78 | 8.38 | 17.7 |
| 2.0 | 1.90 | 5.15 | 18.1 | 39.8 |
| 3.0 | 3.01 | 9.54 | 35.7 | 79.2 |
$m$ は巻線の中で磁界が0から最大まで増えていく区間の層数。第1項が表皮効果、第2項が近接効果で、層数が多いほど第2項が $m^2$ に比例して大きくなる。1層なら Δ = 2 でも1.9倍で済むが、6層では約40倍になる。
ダウエルの1966年の論文
この式は、英国のP. L. ダウエル(Dowell)が1966年に発表した論文に由来する。巻線を層ごとに1次元の導体板とみなし、各層の両側の磁界の強さから電流分布を解析的に求めた。計算機が一般的でなかった時代に、1本の式で多層巻線の交流抵抗を見積もれるようにしたことで、スイッチング電源の磁気部品設計の標準的な道具になった。丸線やリッツ線、層の間のすき間を扱うための拡張は、その後の研究で数多く提案されている。
計算例:100 kHz の箔巻線
箔の厚さを変える
4層の箔巻線(同じ巻数・同じ幅)で、箔の厚さを変えたときの交流抵抗係数と、0.1 mm 箔の直流抵抗を1としたときの交流抵抗を比べた(100 kHz、表皮深さ0.209 mm)。
| 箔の厚さ | Δ | F_R | 交流抵抗(0.1 mm 箔の直流を1) |
|---|---|---|---|
| 0.1 mm | 0.48 | 1.09 | 1.09 |
| 0.2 mm | 0.96 | 2.43 | 1.22 |
| 0.3 mm | 1.44 | 7.39 | 2.46 |
| 0.5 mm | 2.40 | 26.1 | 5.23 |
0.5 mm にすると銅は5倍なのに、損失は5倍になるんですね。冒頭のトランスはまさにこれか…
そう。この条件では0.1〜0.2 mm あたりが一番損失が小さい。厚さを表皮深さ程度(Δ ≈ 1)より大きくしないのが、多層巻線の基本の考え方なんだ。ただし最適な厚さは層数と周波数で変わるし、実際の電流には高調波も含まれるから、波形のスペクトルごとに損失を足し合わせる必要がある。
インターリーブ巻の効果
一次巻線4層と二次巻線4層を「一次4層→二次4層」と巻くと、磁界は一次の4層分かけて最大まで増える($m = 4$)。「一次2層→二次4層→一次2層」のように交互に巻くと、磁界の最大値が半分になり、各区間は $m = 2$ として扱える。0.2 mm 箔の例では、$F_R$ が2.43から1.34に下がり、巻線の交流損失はほぼ半分になる。漏れインダクタンスも小さくなるが、巻線間の容量は増える。
FEMでの評価
解析の要点
- 表皮深さを解像するメッシュ:導体の表面から表皮深さの中に、少なくとも2〜3層の要素を入れる。100 kHz の銅なら要素は0.05〜0.1 mm 程度になる。
- 2次元断面で十分なことが多い:変圧器の窓の断面を軸対称または平面の2次元でモデル化し、周波数領域の渦電流解析で各導体の損失を求める。コイルの端部の影響が大きいときだけ3次元にする。
- 高調波ごとに解く:矩形波に近い電流では、基本波と主な高調波の周波数で別々に解き、各周波数の損失を電流の2乗で重みづけして足す。
- リッツ線:素線を1本ずつモデル化するのは現実的でないので、素線径から求めた等価な複素透磁率・導電率を与える均質化モデルがよく使われる。
リッツ線でも損失が減らないことがある
リッツ線は細い素線をより合わせて、表皮効果と近接効果を抑える線だ。ところが、素線が細すぎたり本数が多すぎたりすると、絶縁被膜が増えて銅の占める割合が下がり、直流抵抗の増加が交流の改善を上回ることがある。また、より方が不十分だと素線どうしの電流が均等にならず、太い線と変わらなくなる。素線径は表皮深さの半分程度を目安に、実際の周波数と巻き方で損失を比べて選ぶのが確実だ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 直流抵抗だけで銅損を計算 | 高周波で損失を大幅に過小評価 | Dowellの式かFEMで交流抵抗 |
| 導体を厚くすれば良いと考える | 近接効果で損失が増える | Δ ≈ 1 を目安に層数と一緒に決める |
| 基本波だけで評価 | 高調波の損失を見落とす | 主な高調波ごとに足し合わせる |
| 表皮深さより粗いメッシュ | 渦電流損失を過小評価 | 表皮深さに2〜3層の要素 |
| 温度による抵抗率の上昇を無視 | 運転温度で損失が増える | 運転温度の抵抗率で計算 |
周波数や導体の厚さを変えて試したいです。
表皮深さ計算と表皮効果シミュレーターで表皮深さと電流分布、変圧器設計シミュレーターと変圧器効率シミュレーターで変圧器全体の損失の配分を確かめられるよ。鉄心側の損失はシュタインメッツ方程式(鉄損)、高周波設計の全体像は高周波トランス、巻き方と漏れの関係は漏れインダクタンスの記事にまとめてある。
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