地震時刻歴応答解析

カテゴリ: 構造解析 | 統合版 2026-04-06
CAE visualization for seismic time history theory - technical simulation diagram
地震時刻歴応答解析

地震時刻歴応答の理論基礎

地震時刻歴応答解析とは

🧑‍🎓

先生、地震の時刻歴応答解析って応答スペクトル法とどう違いますか?


🎓

応答スペクトル法は最大応答のみを求める。時刻歴応答解析は時間の経過に沿った応答の全履歴(変位、速度、加速度の時刻歴)を計算する。塑性変形やエネルギー吸収の評価には時刻歴解析が不可欠。


運動方程式

🎓

基礎加振としての地震入力:


$$ [M]\{\ddot{u}\} + [C]\{\dot{u}\} + [K]\{u\} = -[M]\{1\} \ddot{u}_g(t) $$

$\ddot{u}_g(t)$ は地震の加速度時刻歴(地震波形)。$\{u\}$ は基礎に対する相対変位。


🧑‍🎓

地震波形をそのまま入力するんですね。


🎓

設計用地震波形として:

  • 観測波 — エルセントロ(1940年)、兵庫県南部地震(1995年)等の実観測記録
  • 模擬地震波 — 設計用応答スペクトルに適合するよう人工的に生成
  • サイト波 — 地盤応答解析で地表面の波形を生成

線形 vs. 非線形

🎓
手法材料解析手法設計コードの位置づけ
弾性時刻歴弾性モード法 or 直接法レベル1地震
弾塑性時刻歴弾塑性直接法(Newmark法レベル2地震
🧑‍🎓

レベル2地震(大地震)では弾塑性解析が必要なんですね。


🎓

レベル2地震(兵庫県南部地震クラス)では構造が降伏するため、塑性ヒンジの形成、エネルギー吸収、残留変形を追跡する弾塑性時刻歴解析が必須。


まとめ

🎓

要点:


  • 地震波形を直接入力して応答の全時刻歴を計算
  • $[M]\{\ddot{u}\} + [C]\{\dot{u}\} + [K]\{u\} = -[M]\ddot{u}_g$ — 基礎加振
  • 弾性時刻歴はモード法、弾塑性は直接法 — Newmark/HHT-α
  • 観測波 or 模擬地震波を入力 — 設計コードで規定
  • レベル2地震は弾塑性時刻歴が必須 — 塑性変形とエネルギー吸収

Coffee Break よもやま話

地震の時刻歴解析は1970年代の電算化で普及

地震時刻歴応答解析は1940年のEl Centro地震波(加速度計記録0.319g)を使ったCAL16コードによる計算(1971年)が実用化の嚆矢とされる。その後1978年の宮城県沖地震を受けた日本建築基準法改正(1981年・新耐震基準)で、高さ60m超の建物に時刻歴解析を用いた超高層設計が義務付けられ、NTTデータなどのコンピュータセンターがバッチ処理で計算サービスを提供し始めた。

地震時刻歴応答の数値計算手法

地震波形の入力

🧑‍🎓

地震波形をFEMにどう入力しますか?


Nastran

```

SOL 109 $ 直接法時刻歴

CEND

DLOAD = 100

BEGIN BULK

TLOAD1, 100, 200, , 0, 300

TABLED1, 300, , ,

, 0.0, 0.0, 0.01, 1.23, 0.02, -0.56, ... $ 加速度時刻歴

```

加速度をTABLED1テーブルで定義し、基礎のSPC点に作用させる。

Abaqus

```

*AMPLITUDE, NAME=earthquake

0.0, 0.0

0.01, 1.23

0.02, -0.56

...

*STEP

*DYNAMIC

0.01, 40.0 $ dt=0.01s, 40秒間

*BASE MOTION, DOF=1, AMPLITUDE=earthquake

*END STEP

```

Ansys

```

/SOLU

ANTYPE, TRANSIENT

DELTIM, 0.01

TIME, 40.0

ACEL, , 9.81*amp(t) ! 加速度入力

SOLVE

```

🧑‍🎓

Abaqusの*BASE MOTIONが最もシンプルですね。


🎓

*BASE MOTIONは基礎加振を直接定義する。方向(DOF)と波形(AMPLITUDE)を指定するだけ。


弾塑性モデル

🎓

地震の弾塑性解析で使われる材料/要素モデル:


構造タイプモデル特徴
RC造柱ファイバーモデル(OpenSees)断面の塑性化を追跡
S造梁塑性ヒンジ(集中塑性)端部にヒンジ要素
免震装置バイリニアばね降伏力と2次剛性
制振ダンパーマクスウェルモデル粘性+弾性

まとめ

🎓
  • Abaqus *BASE MOTIONが最もシンプルな入力 — 方向と波形を指定
  • 弾塑性モデルは構造タイプに応じて選択 — RC: ファイバー、S造: ヒンジ
  • $\Delta t = 0.005 \sim 0.01$ s が地震応答の標準 — 30 Hzまでカバー

  • Coffee Break よもやま話

    地震波は3波平均が日本の審査基準

    日本の超高層建築物の構造審査では、告示第457号により「告示波・サイト固有波・観測波の3波以上の平均で各応答値が目標値以内」という要件がある。解析手法は直接積分法(Newmark-β・HHT-α)またはモード重ね合わせで、非線形解析の場合は復元力特性にトリリニア・スリップ型などを採用する。時刻歴解析1回分のコストは超高層建物(100層・3万自由度程度)で約30分〜2時間。

    地震時刻歴応答の実務適用

    地震時刻歴の実務

    🎓

    建築基準法の「限界耐力計算法」や「時刻歴応答解析」で使われる。


    地震波形の選定

    🎓

    設計コードで規定される地震波:


    コード地震波の選定
    日本(告示)3波以上の観測波 + サイト波。極めて稀に発生する地震動
    ユーロコード8応答スペクトル適合の模擬地震波。最低3波
    ASCE 77波以上。地盤特性に適合したスペクトル
    NRC(原子力)SSE(安全停止地震)適合波。確率論的ハザード
    🧑‍🎓

    最低3波の地震波で解析するんですね。


    🎓

    3波で平均、7波で各波の最大値を使用(ASCE 7)。複数の地震波で結果のばらつきを評価するのが基本。


    結果の評価

    🎓

    地震時刻歴の主な評価項目:


    項目弾性解析弾塑性解析
    層間変形角1/200以下1/100〜1/50以下
    最大加速度応答加速度
    塑性率$\mu = \delta_{max}/\delta_y$
    残留変形安全確認
    エネルギー吸収制振ダンパーの効果評価

    実務チェックリスト

    🎓
    • [ ] 地震波形が設計コードに準拠しているか(3波以上)
    • [ ] 入力方向(水平2方向+鉛直)が正しいか
    • [ ] $\Delta t$ が地震波のサンプリング間隔以下か
    • [ ] 減衰(レイリー or モード)が設定されているか
    • [ ] 弾塑性の場合、材料モデル(ヒンジ、ファイバー)が正しいか
    • [ ] 層間変形角が許容値以内か
    • [ ] エネルギーバランスが保存されているか

    • 🧑‍🎓

      「複数の地震波で評価する」のが地震解析の特徴ですね。


      🎓

      地震は確率的な現象。1つの波形だけでは不十分。複数波形の結果を統計的に評価する。


      Coffee Break よもやま話

      東日本大震災後に長周期地震動が改訂

      2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震では、100km以上離れた仙台・東京の超高層ビルが長周期(2〜10秒)成分で大きく揺れた。国交省は2016年に建築基準法告示改正で長周期地震動クラスLC1〜3を新設し、既存超高層への適合検証義務化(2025年目標)が決まった。検証には実測地震波を使った非線形時刻歴解析が必須となり、全国500棟超の超高層が対象となっている。

      地震時刻歴応答のソフトウェア比較

      地震時刻歴のツール

      🎓
      ツール特徴
      OpenSees地震工学の研究標準。ファイバーモデル。無料
      SS3/SuperBuild日本の建築一貫計算。弾塑性時刻歴対応
      ETABS/SAP2000米国の建築設計。弾塑性ヒンジ
      Nastran SOL 109/129汎用FEM。直接法時刻歴
      Abaqus *DYNAMIC汎用FEM。弾塑性接触
      PERFORM-3D弾塑性時刻歴の専用ツール

      選定ガイド

      🎓
      • 建築の弾塑性時刻歴(日本) → SS3/SuperBuild or OpenSees
      • 建築(米国) → ETABS + PERFORM-3D
      • 原子力の地震解析Abaqus or Nastran(詳細3Dモデル)
      • 研究 → OpenSees(無料、高い自由度)
      • 免震・制振装置の評価 → OpenSees or PERFORM-3D

      • 🧑‍🎓

        OpenSeesが研究の標準なんですね。


        🎓

        UCバークレーで開発された無料のFEMコード。地震工学に特化したファイバーモデルと弾塑性ヒンジが充実。世界中の地震工学研究者が使用。


        Coffee Break よもやま話

        日本の地震時刻歴解析ソルバー勢力図

        日本の建築構造実務では大林組・竹中工務店などゼネコン各社が自社開発コードを長年使ってきたが、2010年代以降はSAP2000(CSI Japan)・SLANS・SNAP(Kozo System)が設計事務所に普及している。原子力プラントではANSYS MechanicalとMSC Nastranが官庁審査実績から採用され、土木インフラではFRAME3D・Dr.TRANSなど専門コードが使われる。国際標準化の観点からOpenSeesの利用も学術・研究機関で拡大している。

        地震時刻歴応答の先端研究

        確率論的地震応答

        🎓

        地震のばらつき(入力の不確かさ)と構造のばらつき(材料、施工誤差)を同時に考慮した確率論的地震応答解析。フラジリティカーブ(脆弱性曲線)で「この地震動に対して構造が崩壊する確率」を定量化。


        3次元詳細モデル

        🎓

        RC造や鋼構造の3次元詳細FEMモデル(ソリッド要素+鉄筋モデル+接触)で地震時刻歴解析。柱-梁接合部のディテール(配筋、溶接)が耐震性能に与える影響を直接評価。


        AI地震応答予測

        🎓

        地震波形のパラメータ(PGA、スペクトル特性)から構造の最大応答をニューラルネットワークで瞬時に予測。FEMの数千ケースで学習し、新しい地震波に対してリアルタイムで応答を評価。


        まとめ

        🎓
        • フラジリティカーブ — 地震強度 vs. 崩壊確率
        • 3次元詳細FEM — 接合部ディテールの直接評価
        • AI予測 — 地震波→応答の瞬時予測

        • Coffee Break よもやま話

          確率論的地震ハザードがFEMの入力を変える

          従来の「設計用地震波」から、サイト固有の確率論的地震ハザード解析(PSHA)に基づく条件付き平均スペクトル(CMS)適合波を入力とする手法が最先端となっている。NIEDが公開するK-NET・KiK-netデータを使ったサイト増幅評価と組み合わせ、再現期間2475年(超過確率2%/50年)の地震動を統計的に生成してFEM時刻歴解析を複数回実行する確率論的リスク評価(PRA)が原発耐震設計で義務付けられている。

          地震時刻歴応答のトラブル対応

          応答が過大/過小

          🎓
          • 過大 → 減衰が小さすぎる($\zeta$を確認)。または共振
          • 過小 → 減衰が大きすぎる。または入力波形の振幅が間違い

          • 弾塑性で収束しない

            🎓
            • $\Delta t$ を小さくする(0.01→0.005→0.001 s)
            • 自動時間刻みを有効化
            • 材料モデルの軟化域を滑らかにする
            • 必要に応じて陽解法に切り替え

            • 入力方向の間違い

              🎓

              地震波の主方向(強軸/弱軸)を間違えると応答が大きく変わる。建物の主軸方向と地震波の方向の対応を確認。


              まとめ

              🎓
              • 応答の過大/過小 → 減衰と入力振幅を確認
              • 収束困難 → $\Delta t$を小さく。自動時間刻み
              • 入力方向 → 建物の主軸と地震波の方向を対応
              • 複数波形で結果を比較 — 1波だけでは不十分

              • Coffee Break よもやま話

                応答値の「発散」は時間刻みが粗すぎるサイン

                地震時刻歴解析で途中から変位が急増・発散する場合、時間刻みの粗さで高周波数モードが不安定化している可能性がある。解決策は時間刻みをΔt→Δt/10に細分化するか、HHT-αのαを−0.1〜−0.2に設定して高周波を数値減衰させる。また非線形解析でひびわれ等の剛性急変が発散を誘発する場合は、線形増分ステップを小さくするアダプティブタイムステッピング(Abaqusの*CONTROLS,ANALYSIS TYPE=STABILIZE等)が有効。

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                Written by NovaSolver Contributors
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