垂直流路の自然対流
理論:狭い流路では流れが詰まる
概要
ファンのないヒートシンクは、フィンをたくさん並べるほど冷えるんですよね?
ある所まではそうだが、詰めすぎると逆効果になる。自然対流では、フィンの間の空気は温められて自分で上昇する。間隔が狭いと、両側の壁の境界層がぶつかって空気が流れにくくなり、熱伝達率が急に下がる。一方で間隔が広いと枚数が減って面積が足りなくなる。その間に放熱量が最大になる最適な間隔がある。垂直な平板の間の自然対流の式を使って、高さ100 mmのヒートシンクで最適な間隔を求めてみよう。
Bar-CohenとRohsenowの式
両側の板が同じ温度(対称・等温)の場合。El が小さい(狭い)と $Nu_S \approx El/24$ で流路の中の十分発達した流れ、El が大きい(広い)と $Nu_S \approx 0.59\,El^{1/4}$ で1枚の平板と同じになる。
最適なフィン間隔の目安
エレンバースの実験
1942年、オランダのフィリップス社のエレンバースは、真空管や電球の放熱を考えるなかで、向かい合う垂直な板の間の自然対流を測定し、板の間隔と高さを含む無次元数で結果を整理した。この数は今も『エレンバース数』と呼ばれる。1984年にはアメリカのバー・コーエンとローゼナウが、狭い極限と広い極限をつなぐ式にまとめ、電子機器の自然空冷ヒートシンクの設計で広く使われるようになった。
計算例:自然空冷ヒートシンク
フィンの高さ100 mm・奥行き50 mm・厚さ1 mm、ベース幅100 mm、フィンと周囲の温度差40 K(空気、膜温度40℃)。フィンは一様な温度とみなした。Ra_L = 3.07×10⁶。
| フィン間隔 | フィン枚数 | エレンバース数 | 熱伝達率 | 放熱量 |
|---|---|---|---|---|
| 2 mm | 34 | 0.5 | 0.28 W/m²K | 3.7 W |
| 4 mm | 20 | 7.9 | 2.11 W/m²K | 16.0 W |
| 6 mm | 15 | 40 | 4.99 W/m²K | 28.0 W |
| 8 mm | 12 | 126 | 6.26 W/m²K | 27.6 W |
| 10 mm | 10 | 307 | 6.57 W/m²K | 23.7 W |
| 15 mm | 7 | 1,556 | 6.68 W/m²K | 16.0 W |
| 20 mm | 5 | 4,916 | 6.69 W/m²K | 10.7 W |
0.05 mm刻みで探した最適間隔は6.60 mm(28.9 W)で、目安の式の6.48 mmと2%で一致した。フィンのない平らなベースだけなら約1.3 Wにとどまる。
2 mm間隔だと枚数は一番多いのに、放熱量は最適の8分の1しかないんですね。
2 mmではエレンバース数が0.5しかなく、流路の中の空気がほとんど動かない。熱伝達率は0.28 W/m²Kで、最適間隔の約20分の1だ。面積は2倍以上あっても、それでは取り返せない。逆に間隔を広げていくと、熱伝達率は1枚の平板の値(約6.7 W/m²K)で頭打ちになり、それ以上は枚数が減る分だけ放熱量が下がる。強制空冷用のヒートシンクはフィンが1〜2 mm間隔と密なことが多いので、ファンが止まると自然対流ではほとんど冷えない。ファンの故障時も安全かどうかは、この計算で確かめられる。
設計のポイント
- まず S_opt ≈ 2.714·L·Ra_L^(−1/4) で間隔の目安をつける。
- フィンは縦向きに置き、空気が下から入って上へ抜ける道をふさがない。
- フィン効率(フィンの先端温度の低下)も考える。薄く長いフィンでは効率が下がる。
- 放射も加える。自然空冷では放熱量の2〜3割になることがある。
- 筐体に入れる場合は、上下の通気口の大きさで流れが制限されないか確かめる。
「ファンが止まったら過熱した」
ある屋外の通信機器で、夏にファンが故障したとき、機器がすぐに過熱して停止した。設計では、ファンが止まっても自然対流でしばらくはもつと考えていたが、ヒートシンクのフィン間隔は強制空冷用の2 mmだった。自然対流ではフィンの間の空気がほとんど動かず、放熱量は予想の数分の1だった。改良版では、フィン間隔を自然空冷でも働く7 mm程度に広げ、フィンを高くして面積を補った。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 単独平板の式を流路に使う | 狭い間隔で過大評価 | 流路の式を使う |
| 強制空冷の間隔を流用 | 自然空冷で冷えない | S_optで設計 |
| 放射を無視 | 放熱量を過小評価 | 放射を加える |
| フィン効率を1とする | 過大評価 | フィン効率を計算 |
| 通気口の抵抗を無視 | 流量を過大評価 | 筐体ごと解く |
関連する内容も知りたいです。
ヒートシンクのシミュレーターと自然対流ツールで試せるよ。関連するページは垂直平板の自然対流、密閉空間の自然対流、ヒートシンク設計が参考になる。
なった
詳しく
報告