基板レベル熱解析
理論:基板は熱を広げる板
概要
基板の熱解析で、銅の配線やベタパターンまで細かくモデル化する必要がありますか?
多くの場合は、層ごとの銅の量を反映した『実効熱伝導率』で十分だ。ただし基板は面方向と厚さ方向で熱伝導率がまったく違うので、異方性として扱うことが必須だ。銅は面方向には熱をよく広げるが、厚さ方向はFR-4の層を通るしかない。銅の層の数で、発熱部品のまわりに熱がどれだけ広がるかが決まり、部品の温度が大きく変わる。50 mm角の基板に1 Wの部品をのせて計算してみよう。
実効熱伝導率
面方向は並列、厚さ方向は直列。銅(390 W/mK)が厚さのわずか数%でも、面方向の熱伝導率は何十倍にもなるが、厚さ方向はFR-4(0.3 W/mK)でほぼ決まる。
板としての熱の広がり
基板を、両面から熱を逃がす薄い板(フィン)として2次元で解く。基板全体が一様な温度になったときの上昇 $\Delta T_{min}$ が、どれだけ熱を広げても下回れない下限になる。
基板が熱の道になった時代
かつての電子機器では、部品の熱は主に部品のまわりの空気へ逃げていた。表面実装部品が小さくなり、裏面の放熱パッドを基板にはんだ付けする設計が増えると、熱の大部分は基板へ流れるようになった。基板の熱設計では、電気のために置かれた銅ベタ(電源やグランドの層)が、そのまま放熱の主役にもなる。熱解析のために、基板の層構成と銅の量を正しく入れることが重要になった。
計算例:50 mm角の基板の中央に1 W
厚さ1.6 mm、FR-4は面方向0.8・厚さ方向0.3 W/mK、銅35 µm。5 mm角・1 Wの部品、両面から周囲25℃へ放熱、厚さ方向の温度差は無視した2次元の板として解いた。
| 層構成 | 面方向 | 厚さ方向 | 最高温度上昇 h = 10 | 最高温度上昇 h = 30 |
|---|---|---|---|---|
| 2層・表面銅30% | 5.9 W/mK | 0.31 W/mK | 61.7 K | 42.4 K |
| 2層・表面全面銅 | 17.8 W/mK | 0.31 W/mK | 36.8 K | 20.5 K |
| 4層・内層ベタ2枚 | 22.9 W/mK | 0.33 W/mK | 33.9 K | 17.8 K |
| 6層・内層ベタ4枚 | 40.0 W/mK | 0.35 W/mK | 29.6 K | 13.7 K |
熱伝達率の単位は W/m²K。基板全体が一様な温度になったと仮定した下限は、h = 10で20 K、h = 30で6.7 K。
自然対流では、6層にしても30 Kまでしか下がらず、下限の20 Kにも近づいているんですね。
基板の温度上昇は、部品のまわりで熱を広げる段階と、基板の表面から空気へ逃がす段階の2つで決まる。銅の層を増やすと前の段階が改善し、表面30%の2層からの62 Kが30 Kまで下がる。でも後の段階は基板の面積と熱伝達率だけで決まり、自然対流の10 W/m²Kでは、熱が完全に広がっても20 K上がる。そのため6層の基板では、残り10 Kの改善の余地しかない。風を当てて h = 30 にすると、どの層構成でも大きく下がり、6層では14 Kになる。どこがボトルネックかを見極めるのが熱設計の第一歩だ。
解析のポイント
- 層ごとの銅の厚さと残銅率から、面方向と厚さ方向の実効熱伝導率を求める。
- 発熱部品の下は、サーマルビアとパッドを細かくモデル化する。
- 基板全体が一様な温度になった場合の下限と比べ、ボトルネックを見つける。
- 筐体内では周囲の空気温度が上がるので、内部の空気温度を使う。
- 隣の部品どうしの熱の重なりも含め、基板全体で解く。
「電源の層を分割したら熱くなった」
ある基板の改版で、電源の種類を増やすために内層のベタを細かく分割したところ、発熱部品の温度が10 K以上上がった。電気の上では問題のない変更だったが、ベタが切れ切れになったことで、熱を面方向に広げる道が途切れてしまったのだ。分割の位置を発熱部品から離し、熱の通り道を確保するように配置し直すと、温度は元に戻った。基板の配線変更は、熱にも影響することを忘れてはいけない。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 基板を等方性で扱う | 厚さ方向を過大評価 | 異方性を入れる |
| FR-4だけの熱伝導率 | 温度を過大評価 | 銅層を反映 |
| 残銅率を100%と仮定 | 温度を過小評価 | 実際の残銅率 |
| 空気側を無視して銅を増やす | 効果が頭打ち | 下限と比較 |
| ベタの分割を無視 | 局所の高温 | 実パターンを反映 |
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