誘導加熱解析
理論:温度で変わる発熱
概要
誘導加熱の解析は、電磁界で発熱を求めて熱解析に渡せば終わりではないんですか?
それを1回だけやると大きく外れる。鋼は温まるにつれて電気抵抗率が数倍になり、約770℃のキュリー点を超えると磁性を失う。すると浸透深さが一気に広がって、同じコイル電流でも入る電力ががらりと変わる。だから温度を少し進めるたびに電磁界を解き直す連成解析が必要になる。直径100 mmの鋼の丸棒を1 kHzで1,200℃まで加熱する計算で、その違いを見てみよう。
電磁界側:浸透深さと表面の電力
$H_0$ は表面の磁界(実効値)、$F$ は丸棒の半径と浸透深さの比で決まる係数。表面磁界が一定なら、電力は抵抗率と透磁率の積の平方根に比例する。温度で抵抗率が上がれば電力は増え、キュリー点で透磁率が100から1になれば大きく下がる。
熱側:内部発熱と表面の放射
発熱は渦電流の分布 $J(r;T)$ で与え、表面からは放射で熱が逃げる。1,000℃を超えると放射の損失は0.1 MW/m²を超え、加熱の電力と比べて無視できなくなる。
鍛造ラインを変えた誘導加熱
鍛造前の鋼材はもともとガスや重油の炉で加熱していたが、1950〜60年代に誘導加熱が広まった。炉では材料を何十分も炉内に置く必要があり、表面が酸化してスケールが厚くつくが、誘導加熱なら数分で済み、スケールも少ない。コイルの中を材料が次々に通り抜ける連続加熱ラインでは、ラインの前半を磁性のある低温用、後半を非磁性の高温用として、周波数やコイルを分けることが多い。キュリー点での特性の変化は、ライン設計の出発点になっている。
計算例:直径100 mmの鋼の丸棒
長いコイルの中の丸棒を半径方向の1次元で解いた。比透磁率はキュリー点(770℃)以下で100、以上で1。抵抗率は常温2×10⁻⁷ Ω·mから800℃の1.2×10⁻⁶ Ω·mまで直線で増やした。熱伝導率35 W/mK・体積熱容量5.0×10⁶ J/m³Kは一定、表面の放射率0.8。電磁界の材料特性は表面温度で評価した簡略モデル。
浸透深さの変化
| 周波数 | 常温 | キュリー点以上(800℃) |
|---|---|---|
| 1 kHz | 0.71 mm | 17.4 mm |
| 5 kHz | 0.32 mm | 7.8 mm |
加熱条件と結果
| 条件 | キュリー点まで | 電力の変化 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 1 kHz・表面磁界一定(50 kA/m) | 33 秒 | 0.70 → 1.66 → 0.14 MW/m² | 2,000秒でも表面1,057℃で停滞 |
| 1 kHz・電力一定(0.70 MW/m²) | 98 秒 | 0.70 MW/m²のまま | 226秒で表面1,200℃、中心1,018℃ |
| 5 kHz・表面磁界一定(50 kA/m) | 7 秒 | 1.57 → 3.75 → 0.35 MW/m² | 372秒で表面1,200℃、中心1,133℃ |
電力一定の条件では、表面が1,200℃に達したあと表面を1,200℃に保つと、37秒後(加熱開始から263秒)に中心が1,150℃に達した。
磁界が同じなのに、キュリー点を超えたとたん電力が12分の1になって、そこから先は温まらなくなるんですね。
キュリー点の直前は抵抗率が上がり、透磁率も100あるので、電力は最初の2倍以上の1.66 MW/m²まで増える。そこで透磁率が1になると、電力は透磁率の平方根に比例するから一気に落ちる。1 kHzでは0.14 MW/m²となり、これは1,050℃ほどの表面から逃げる放射とほぼ同じ量だ。入る熱と出る熱がつり合って、温度はそこで止まる。一方、電力一定の制御では、キュリー点を超えたところでコイル電流を増やして電力を保つので、226秒で表面が1,200℃に届く。周波数を5 kHzに上げると、キュリー点以上でも0.35 MW/m²が入るので止まらずに加熱が進む。実機では、電源の電圧・電流の上限の中で、どの方法を使うかを決める。
連成解析の進め方
- 電磁界は周波数領域で解き、時間平均の発熱を熱解析へ渡す。
- 温度が一定量(例:20〜50 K)変わるごとに電磁界を解き直す。キュリー点付近は刻みを細かくする。
- 抵抗率・透磁率(B-H特性)・比熱・熱伝導率を温度の関数で与える。鋼の比熱はキュリー点付近で大きな山を持つ。
- 表面の放射と対流を入れる。1,000℃以上では放射が支配的になる。
- 電源の制御方式(電流一定・電力一定・温度制御)をモデルに反映する。
「解析では速く加熱できたのに」
ある設計で、常温の材料特性を使って電磁界を1回だけ解き、その発熱を一定として熱解析したところ、表面は4分足らずで1,200℃に達する結果になった。ところが試作機では、表面が1,000℃あたりで止まって上がらなかった。キュリー点を超えて電力が大きく落ちていたのに、解析はそれを含んでいなかったのだ。温度ごとに電磁界を解き直す連成解析に変えると試作機の挙動が再現でき、電源の容量と周波数を見直して解決した。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 電磁界を1回だけ解く | 昇温を過大評価 | 温度ごとに再計算 |
| キュリー点を無視 | 高温で電力を誤る | 透磁率を温度の関数に |
| 放射を無視 | 到達温度を過大評価 | 放射を入れる |
| 表面温度だけで判定 | 中心が未加熱 | 均熱時間を評価 |
| 電源の制御を無視 | 実機と合わない | 制御方式を再現 |
関連する内容も知りたいです。
なった
詳しく
報告