マイクロチャネル冷却
理論:細い流路ほど熱をよく運ぶ
概要
1 cm²のチップで100 Wを冷やす必要があります。普通の水冷板では足りないと言われましたが、マイクロチャネルなら何が違うんですか?
流路の太さだ。細い流路の流れは層流になり、壁から流れの中心までの距離が短いので、熱が速く流体に移る。ヌセルト数がほぼ一定だから、熱伝達係数は流路の太さに反比例して大きくなる。100 W/cm²は1 m²あたり1 MWだから、熱伝達係数が数kW/(m²·K)では壁と水の温度差が数百Kになってしまう。数十kW/(m²·K)まで上げるには、流路を100 μm前後まで細くする必要があるんだ。そのかわり、圧力損失が急に大きくなる。
熱伝達係数
$D_h$ は水力直径(4×断面積÷周長)、$k$ は流体の熱伝導率。正方形の流路で、流れと温度が十分発達した層流の値。入口付近では境界層が薄いのでさらに大きく、短い流路ではこの効果が無視できない。流路の縦横比でヌセルト数は変わる。
圧力損失
$f$ は管摩擦係数、$Re$ はレイノルズ数、$L$ は流路の長さ、$u$ は平均流速。層流では $f\,Re$ が一定なので、同じ流速なら圧力損失は水力直径の2乗に反比例する。熱伝達は1乗でしか増えないので、細くするほど圧力損失の増え方が上回る。
1981年、790 W/cm²の実験
マイクロチャネル冷却は1981年、スタンフォード大学のタッカーマンとピーズが、シリコンのチップの裏に幅約50 μmの溝を掘って水を流し、790 W/cm²を冷やしてみせた論文で一気に注目された。当時の空冷の数十倍の熱流束だった。その後、微細な流路では従来の式が合わないのではないかという議論が続いたが、入口の効果や壁の熱伝導、測定の誤差を丁寧に扱えば、通常の層流の理論でほぼ説明できることがわかってきた。現在はデータセンターの高性能チップの直接水冷にも応用されている。
計算例
例1:流路の太さと熱伝達・圧力損失
水、正方形の流路、流路長10 mm、平均流速1 m/sの場合。
| 水力直径 | 熱伝達係数 | 圧力損失 | レイノルズ数 |
|---|---|---|---|
| 1 mm | 2.2 kW/(m²·K) | 0.3 kPa | 998 |
| 200 μm | 10.8 kW/(m²·K) | 7.1 kPa | 200 |
| 50 μm | 43.3 kW/(m²·K) | 114 kPa | 50 |
例2:100 W/cm²での壁と水の温度差
チップの面積に対して、流路の濡れる面積が2倍(流路と壁の幅が同じ正方形の流路で、壁のフィン効率を1とした簡単な仮定)とすると、壁と水の温度差は、1 mmで約231 K、200 μmで約46 K、50 μmで約12 Kになる。
50 μmなら温度差は小さいけど、圧力損失が114 kPaもあるんですね。
そう。熱伝達は20倍、圧力損失は400倍。だから実際には100〜300 μmあたりで釣り合いをとり、流路を短くする工夫をする。たとえば冷却水をチップの中央から入れて両側へ流すと、流路の長さが半分になり、圧力損失も半分になる。流速を下げれば圧力損失は下がるけど、水の温度上昇が増えて出口側が熱くなる。流量、流路の太さ、長さ、許せる圧力の4つを一緒に決めるのが設計の中心だよ。
例3:必要な流量
| 発熱 | 水の温度上昇10 K | 20 K |
|---|---|---|
| 100 W | 144 mL/min | 72 mL/min |
| 300 W | 431 mL/min | 216 mL/min |
解析の進め方
解析の注意点
- 固体と流体の連成:壁(シリコンや銅)の中の熱の広がりが大きいので、流体だけでなく固体も一緒に解く(共役熱伝達)。
- 入口の効果:短い流路では入口付近の大きな熱伝達が平均を押し上げる。十分発達した値だけで評価すると控えめになる。
- 流量の配分:並んだ流路の入口と出口の配管(マニホールド)で流量が偏り、一部の流路だけ熱くなる。
- 物性の温度変化:水の粘度は温度で大きく変わる(20 ℃→60 ℃で約半分)。圧力損失の評価に効く。
「数か月で性能が落ちた」
試験では目標どおり冷えたマイクロチャネルの冷却板が、数か月の運転でチップの温度が10 K以上上がった——原因は流路の詰まりだった。冷却水の中の微粒子、腐食の生成物、微生物の膜が、数十μmの流路では無視できない。一部の流路が詰まると、残りの流路の流量は増えるが、詰まった流路の下は局所的に高温になる。フィルタ、水質の管理、流路の太さに余裕を持たせる設計が欠かせない。解析では、流路の一部が詰まった場合の温度も確かめておくとよい。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 熱伝達だけで流路を細くする | ポンプが足りない | 圧力損失と同時に評価 |
| 乱流の式を使う | 熱伝達を誤る | 層流の式(Re確認) |
| 流体だけ解析 | 壁の熱の広がりを無視 | 共役熱伝達 |
| 流量を均等と仮定 | 一部の流路が過熱 | マニホールドも解析 |
| 詰まりを考えない | 長期で性能低下 | 余裕と水質管理 |
強制対流や流路の計算を自分でも試したいです。
強制対流シミュレーターで熱伝達、管内流れの計算で圧力損失、熱交換器(NTU法)で熱交換の効率を試せるよ。関連する冷却の方式は助走区間、噴流衝突冷却、ピンフィン、コンパクト熱交換器の記事にまとめてある。
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