変圧器のホットスポット解析
理論:損失から温度、温度から寿命へ
概要
変圧器を定格より少し多めに使うと、寿命にどれくらい影響しますか?
思っている以上に大きい。変圧器の寿命は、巻線を包む絶縁紙が熱で劣化してもろくなる速さで決まり、その速さは温度に指数関数的に依存する。熱的に改良していない紙では、6 K上がるごとに劣化は2倍になる。負荷を増やすと、巻線の銅損は電流の2乗で増え、油の温度と、巻線と油の温度差の両方が上がる。最も熱い点(ホットスポット)の温度を計算すれば、どれくらい速く寿命を使うかがわかる。電磁界解析で損失の分布を、熱流体解析で油の流れと温度を求めるのが詳細な方法だが、まずはIEC 60076-7の式で全体の感覚をつかもう。
ホットスポット温度と劣化速度
θ_a は周囲温度、Δθ_or は定格の上部油温上昇(52 K)、R は定格での負荷損と無負荷損の比(6)、K は負荷率、H はホットスポット係数(1.3)、g_r は定格の巻線と油の平均温度差(20 K)、x = 0.8、y = 1.3(自然循環の油・自然空冷の例)。V は熱的に改良していない絶縁紙の相対劣化速度。
6 Kで2倍という経験則
絶縁紙の劣化が温度で加速されることは、1930年代にモンシンガーが実験で示し、およそ6〜8 Kごとに寿命が半分になるという経験則が広まった。これは化学反応の速さが温度で指数的に増えるアレニウスの式の考え方に基づいている。現在のIEC 60076-7では、熱的に改良していない紙で98℃を基準に6 Kで2倍という関係が使われ、熱的に改良した紙では基準温度がより高い別の式が用いられる。
計算例
例1:周囲20℃
| 負荷率 K | 上部油温 | 巻線と油の温度差 | ホットスポット | 劣化速度 V |
|---|---|---|---|---|
| 0.8 | 58.7 ℃ | 19.5 K | 78.2 ℃ | 0.10 |
| 1.0 | 72.0 ℃ | 26.0 K | 98.0 ℃ | 1.00 |
| 1.2 | 87.2 ℃ | 33.0 K | 120.1 ℃ | 12.9 |
| 1.5 | 113.1 ℃ | 44.0 K | 157.2 ℃ | 929 |
例2:周囲30℃
| 負荷率 K | ホットスポット | 劣化速度 V |
|---|---|---|
| 0.8 | 88.2 ℃ | 0.32 |
| 1.0 | 108.0 ℃ | 3.17 |
| 1.2 | 130.1 ℃ | 40.9 |
| 1.5 | 167.2 ℃ | 2,950 |
負荷1.5倍だと、1日で2年半分も寿命を使うんですね。そんな運転は許されないのでは?
この計算は、1.5倍の負荷をずっと続けたときの定常状態の値だ。実際の油の温度は数時間の時定数でゆっくり上がるので、短い時間の過負荷ではホットスポットはここまで上がらない。だからIECの指針では、温度の時間変化を計算し、1日のうち劣化速度の低い時間と高い時間を足し合わせて、寿命の消費を評価する。夜間に負荷率0.8で劣化速度0.1の時間があれば、昼間の少しの過負荷を相殺できる。ただし、ホットスポットが高くなりすぎると、劣化とは別に、絶縁紙の水分から気泡が出て絶縁破壊を招くおそれがあるので、温度そのものにも上限がある。周囲温度の影響も大きく、30℃の日は定格負荷でも劣化が3倍になる。
解析の進め方
- 温度上昇試験の結果から、定格の油温上昇と巻線の温度差を決める。
- 電磁界解析で巻線の渦電流損失の分布を求め、ホットスポットの位置を見積もる。
- 熱流体解析で油の流れと巻線の温度分布を求め、ホットスポット係数を確かめる。
- 1日の負荷と気温の変化から、温度の時間変化と寿命の消費を計算する。
- 光ファイバ温度計の実測と比べ、モデルを校正する。
「上部の油温は正常だったのに」
ある変圧器で、上部の油温は監視の上限を下回っていたのに、点検で巻線上部の絶縁紙が予想以上に劣化していた。熱流体解析を行うと、巻線のある区間で油の流路が狭く、油がほとんど流れていなかった。そこでは巻線と油の温度差が設計の想定より大きく、ホットスポット係数は1.3ではなく約1.6に相当していた。油の流路を整える部品を追加し、光ファイバ温度計でホットスポットを直接監視するようにした。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 上部油温だけで判断 | ホットスポットを見逃す | ホットスポットを計算・監視 |
| 定常の式で短時間過負荷を評価 | 劣化を過大評価 | 過渡で計算 |
| 周囲温度を一定にする | 夏の劣化を見逃す | 季節の変化を入れる |
| ホットスポット係数を固定値で | 局所の高温を見逃す | 熱流体解析で確認 |
| 改良紙と非改良紙の混同 | 寿命を誤る | 紙の種類で式を選ぶ |
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