アキシャルフラックスモータの電磁界シミュレーション
理論:磁束の向きと、トルクを生む面
概要
電動バイクのインホイールモータで、薄い円板型のアキシャルフラックスモータが候補に挙がっています。普通のモータと何が違うんですか?
普通のモータ(ラジアル型)は、円筒のロータのまわりをステータが囲み、磁束が半径方向に流れる。アキシャル型はロータとステータが円板で、軸方向に向かい合い、磁束が軸と同じ向きに流れる。トルクは『すき間の面にかかる接線方向の力×半径』で決まるので、外側の大きな半径の部分がよく働く。薄くて外径が大きい場所なら、アキシャル型は面積も半径も稼げて有利になるんだ。
トルクの見積もり
$\sigma$ はすき間の面にかかる平均のせん断応力(磁気的な接線方向の力÷面積)で、冷却方式によって数十kPa程度。アキシャル型は内径 $R_i$ から外径 $R_o$ の円環がトルクを生み、ラジアル型はロータ半径 $r$ と鉄心の長さ $L$ の円筒面が生む。アキシャル型のトルクは外径の3乗に比例する。
磁気吸引力
$B_g$ はすき間の磁束密度、$A$ は向かい合う面積。磁石とステータの鉄心は強く引き合い、ラジアル型では周方向に打ち消し合うが、アキシャル型では軸方向の力としてそのまま現れる。ロータを2枚のステータで挟む、またはステータを2枚のロータで挟む構造にすると、両側の力が打ち消し合う。
最初のモータは円板型だった
1821年にファラデーが示した電磁回転や、1831年の円板発電機(ファラデー円板)は、実は磁界の中で円板が回る「アキシャル型」の配置だった。その後、鉄心を積み重ねて作りやすい円筒型のラジアル型が主流になり、アキシャル型はしばらく特殊な用途に限られていた。高性能な希土類磁石と、複雑な鉄心を作れる圧粉磁心や積層技術、そして3次元の電磁界解析がそろった2000年代以降、軽くて薄いモータが求められる電動車両や航空機で再び注目されている。
計算例
例1:外径200 mmでのトルク比較
以下は傾向を示すための仮想の例。すき間のせん断応力を25 kPaとし、アキシャル型はすき間2面(ステータ1枚をロータ2枚で挟む)、ラジアル型はステータ外径200 mmに対しロータ半径70 mmとした。
| 形式 | 条件 | トルク |
|---|---|---|
| アキシャル(2面) | 内径比0.5 | 91.6 N·m |
| アキシャル(2面) | 内径比0.6 | 82.1 N·m |
| アキシャル(2面) | 内径比0.7 | 68.8 N·m |
| ラジアル | 鉄心長60 mm | 46.2 N·m |
| ラジアル | 鉄心長100 mm | 77.0 N·m |
| ラジアル | 鉄心長150 mm | 115.5 N·m |
鉄心が長くできるなら、ラジアル型のほうがトルクが出るんですね。
そう。この例ではラジアル型の鉄心が約107 mmでアキシャル型の82 N·mに並ぶ。だからアキシャル型が効くのは、ホイールの中や航空機のプロペラの付け根のように、軸方向に短く外径が大きい場所だ。内径比を小さくすると面積が増えてトルクは上がるけど、内側では巻線を置く場所が狭くなり、電流を流せる量が減る。実際には巻線の入る量まで含めて最適な内径比を選ぶ(0.6前後がよく使われる目安)。
例2:軸方向の吸引力
| すき間の磁束密度 | 磁気圧力 | 円環(外径200 mm・内径比0.6)の力 |
|---|---|---|
| 0.7 T | 195 kPa | 3.9 kN |
| 0.9 T | 322 kPa | 6.5 kN |
| 1.1 T | 481 kPa | 9.7 kN |
片側のすき間だけで、自動車1台を持ち上げられるほどの力が軸方向に働く。両側で打ち消し合う構造でも、すき間が片側0.8 mm・反対側1.2 mmとずれると、磁石5 mm・残留磁束密度1.2 Tの簡単な見積もりで両側の力に約13%の差が出て、1 kN近い正味の力が残る。組立の精度、円板の剛性、軸受の容量は、電磁界解析と構造解析を合わせて決める。
解析の進め方
解析の手法
- 3次元の電磁界解析:磁束は軸方向に流れ、半径によって磁極の幅や速度が変わる。2次元の断面では表せないので、基本は3次元で解く。
- 準3次元の手法:半径方向に何枚かの円筒断面に切り、それぞれを2次元のラジアル型として解いて足し合わせる。設計の初期に速く比べるのに使う。
- 構造・熱との連成:吸引力による円板のたわみはすき間を変え、トルクと力を変える。ステータの冷却は薄い構造ほど難しい。
「回したら円板が擦れた」
試作のアキシャルフラックスモータで、止まっている状態では問題なかったのに、組み立てて回したらロータがステータに擦れた、という話がある。原因は磁気吸引力による円板のたわみだった。外周に近いほど磁石の面積が大きく、力も大きくなるうえ、片持ちの円板は外周ほどたわみやすい。0.1 mmのたわみでも、1 mm前後のすき間には大きな割合で、すき間が狭まるとさらに吸引力が増す。電磁界で求めた力を構造解析に渡し、変形したすき間でもう一度電磁界を解く、という反復で確かめる必要がある。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 2次元の断面だけで解析 | トルクや損失を誤る | 3次元または準3次元 |
| 軸方向の力を無視 | 軸受の損傷・接触 | 磁気圧力で力を確認 |
| すき間のばらつきを考えない | 正味の力が残る | 公差を入れた解析 |
| 内径比を面積だけで決める | 巻線が入らない | 巻線の量も含め最適化 |
| 冷却を後回し | 薄いステータが過熱 | 熱解析を同時に |
モータのトルクや設計を自分でも試したいです。
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