電子機器用ヒートパイプ

カテゴリ: 熱解析・電子機器冷却 | 2026-10-01 改稿
CAE visualization for heat pipe electronics theory - technical simulation diagram
電子機器用ヒートパイプ

理論:潜熱で運び、毛細管力で戻す

概要

🙋

ノートパソコンのCPUの熱を、なぜ銅の板ではなくヒートパイプで運ぶんですか?

🎓

薄い機器の中では、熱を運ぶ断面積が小さく、距離は長い。銅は金属の中では熱をよく通すが、それでも細い棒で数十ワットを運ぼうとすると、両端に数百Kの温度差が必要になってしまう。ヒートパイプは中の水を蒸発させ、蒸気として運んで凝縮させるので、潜熱の大きさと蒸気の流れの速さを使える。温度差はほんの数Kで済む。ただし液体を戻すのは内壁のウィックの毛細管力だけなので、運べる熱には上限があり、向きによっても変わる。設計ではこの上限を見積もることが大事だ。

毛細管限界

$$ \Delta P_{cap} = \frac{2\sigma}{r_{eff}} \;\ge\; \Delta P_l + \Delta P_g,\qquad \Delta P_l = \frac{\mu_l L_{eff}\,Q}{\rho_l K A_w h_{fg}},\qquad \Delta P_g = \rho_l g L \sin\theta $$
$$ Q_{max} = \left(\frac{2\sigma}{r_{eff}} - \rho_l g L\sin\theta\right)\frac{\rho_l K A_w h_{fg}}{\mu_l L_{eff}},\qquad k_{eff} = \frac{L}{R_{hp}A} $$

σ は表面張力、r_eff はウィックの実効的な孔の半径、K は透過率、A_w はウィックの断面積、h_fg は蒸発潜熱、L_eff は実効長さ、θ は蒸発部が上になる傾き。蒸気側の圧力損失は無視した。

Coffee Break よもやま話

宇宙から机の上へ

ヒートパイプの原理は1940年代に特許が出されたが、本格的に開発されたのは1960年代、ロスアラモス研究所のグローバーらによってだった。重力のない宇宙でも液体を毛細管力で戻せることから、人工衛星の温度管理に使われた。その後、1990年代にノートパソコンが普及すると、薄い筐体の中でCPUの熱をファンまで運ぶ部品として大量に使われるようになり、今ではスマートフォンにも薄いベーパーチャンバーが入っている。

計算例

例1:銅棒とヒートパイプ(直径6 mm・長さ200 mm・30 W)

項目銅棒ヒートパイプ
熱抵抗17.7 K/W0.15 K/W
30 Wでの温度差531 K4.5 K
実効熱伝導率400 W/mK約47,000 W/mK

例2:傾きと最大熱輸送量(焼結ウィック)

傾き(蒸発部が上を正)重力による損失最大熱輸送量水平との比
−90°−1,929 Pa58.3 W173%
0°0 Pa33.7 W100%
+15°499 Pa27.4 W81%
+30°964 Pa21.4 W64%
+60°1,670 Pa12.5 W37%
+90°1,929 Pa9.2 W27%

条件:水60℃(表面張力0.0662 N/m、粘度4.67×10⁻⁴ Pa·s、密度983 kg/m³、潜熱2,358 kJ/kg)、ウィック厚さ0.5 mm(断面積7.7×10⁻⁶ m²)、透過率5×10⁻¹¹ m²、孔半径50 μm(毛細管圧2,648 Pa)、実効長さ0.15 m。

🙋

蒸発部が下だと、水平の1.7倍も運べるんですね。

🎓

毛細管限界だけで見るとそうなる。重力が液を蒸発部へ押し戻すからだ。ただし実際には、蒸発部で沸騰が激しくなりすぎる沸騰限界や、速い蒸気が液を巻き上げる飛散限界など、ほかの限界が先に来ることがあるので、必ずしもこの値まで使えるわけではない。設計で問題になるのは逆の向きで、ノートパソコンを立てて使ったり、CPUがファンより上にくる配置だったりすると、性能が大きく落ちる。孔を細かくすれば毛細管力は上がるが、同時に透過率が下がって液が流れにくくなるので、ウィックの設計はこのかね合いで決まる。

設計と解析の進め方

  1. 運ぶ熱量と、使われうる最悪の向き(蒸発部が上)を決める。
  2. 毛細管・沸騰・飛散・音速などの限界を見積もり、最も低いものを上限とする。
  3. 熱解析ではヒートパイプを高い実効熱伝導率の棒や熱抵抗でモデル化する。
  4. 曲げ・扁平加工による性能低下を考慮する。
  5. 実機の向きを変えて温度を測り、上限に余裕があるか確かめる。
Coffee Break よもやま話

「立てて使うと熱くなるタブレット」

あるタブレット端末で、机に置いて使う試験では問題なかったのに、スタンドで立てて動画を長時間再生すると処理速度が落ちる不具合が出た。プロセッサがヒートパイプの上側にあり、立てると蒸発部が凝縮部より上になっていた。計算すると、この向きでは最大熱輸送量が水平の3割程度まで下がり、発熱を運びきれていなかった。ウィックを細かい孔のものに替え、ヒートパイプの経路を変えて蒸発部が下になるようにして解決した。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
水平だけで評価向きで性能不足最悪の向きで確認
毛細管限界だけを見る他の限界を超える全限界の最小値
曲げ・扁平を無視能力を過大評価加工後の値を使う
無限大の熱伝導率で扱う温度差を見落とす熱抵抗を入れる
低温の起動を考えない凍結・起動不良作動温度範囲を確認
🙋

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