液浸冷却
理論:液体の熱容量と沸騰
概要
データセンターでサーバーを液体に沈めて冷やす話を聞きました。本当にそんなに冷えるんですか?
空気と液体では、熱を運ぶ力が桁違いだ。体積あたりの熱容量は、絶縁油で空気の約1,500倍ある。だから少ない流量で大量の熱を運べ、ファンの電力もいらない。さらにフッ素系の液体を沸騰させる二相液浸では、潜熱を使うので部品の温度をほぼ沸点に保てる。ただし沸騰には限界熱流束という上限があり、フッ素系液体では水よりずっと低い。空気・油・フッ素系液体を、熱容量・自然対流・沸騰の3つの面から比べてみよう。
熱容量と自然対流
上は熱量 $\dot Q$ を温度上昇 $\Delta T$ で運ぶのに必要な体積流量、下は垂直な面の自然対流(Churchill-Chuの式)。
沸騰の限界熱流束
スーパーコンピュータから始まった
電子機器を液体に沈めて冷やす方法は新しくない。1985年のスーパーコンピュータCray-2は、回路基板をフッ素系の不活性液体に浸して冷やしていた。その後は空冷が主流に戻ったが、2010年代後半から、AIの計算でサーバー1台あたりの発熱が急増し、データセンターで液浸冷却が再び注目されるようになった。ファンの電力が不要になり、冷却に使うエネルギーを大きく減らせるからだ。
計算例
例1:30 kWのラックを温度上昇10 Kで冷やす流量
| 冷媒 | 体積あたりの熱容量 | 必要な流量 |
|---|---|---|
| 空気 | 1.17 kJ/m³K | 2.57 m³/秒 |
| 絶縁油 | 1.70 MJ/m³K | 106 L/分 |
| 水(参考) | 4.16 MJ/m³K | 43 L/分 |
例2:高さ30 mmの面の自然対流(温度差20 K)
| 液体 | プラントル数 | 熱伝達率 | 熱流束 |
|---|---|---|---|
| 空気 | 0.7 | 6.7 W/m²K | 0.01 W/cm² |
| 絶縁油 | 262 | 121 W/m²K | 0.24 W/cm² |
| フッ素系液体(単相) | 9.2 | 277 W/m²K | 0.55 W/cm² |
例3:二相液浸の限界熱流束
| 液体 | 限界熱流束(Zuber) |
|---|---|
| フッ素系液体(FC-72相当) | 16.2 W/cm² |
| 水(参考、大気圧) | 125.9 W/cm² |
2 cm角のチップで限界熱流束の70%を上限とすると、フッ素系液体では約45 W。
フッ素系液体の沸騰は、水の8分の1しか熱を運べないんですね。それでも使われるのはなぜですか?
水は電気を通すので、電子回路を直接沈められない。フッ素系液体は絶縁性が高く、化学的に安定で、沸点を50℃前後に選べる。部品の表面温度をほぼ沸点に保てるので、温度のむらが小さい。限界熱流束が低い弱点は、チップの上に銅のヒートスプレッダーを付けて沸騰する面積を広げたり、表面に細かい凹凸をつけて沸騰を促したりして補う。単相の油は沸騰しないので限界熱流束の心配はないが、自然対流の熱伝達率は120 W/m²K程度と小さく、高発熱の部品にはヒートシンクを付けたり、ポンプで流したりする。
設計のポイント
- 単相か二相かを、部品の熱流束と温度の要求で選ぶ。
- 二相では、最も熱流束の高い部品で限界熱流束に余裕があるかを確かめる。
- 単相では槽内の流れを解き、温まった液が部品のまわりに滞らないようにする。
- 液体と部品・ケーブル・パッキンの材料の相性(膨潤・劣化)を確かめる。
- 二相では蒸気の凝縮器の能力と、液の蒸発損失の管理を考える。
「GPUだけが熱かった」
ある二相液浸の試験で、CPUは問題なく冷えたのに、高性能のGPUだけが温度の上限に近づいた。GPUのチップは面積あたりの発熱が大きく、表面の熱流束がフッ素系液体の限界熱流束に近づいていたのだ。チップの上に沸騰を促す多孔質の被膜を付けた銅板を取り付けて沸騰面積を広げると、温度は大きく下がった。液浸冷却でも、局所の熱流束を見ることが大切だ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 平均の熱流束で判断 | 局所でCHFを超える | 最大の熱流束で確認 |
| 水のCHFを流用 | 能力を8倍過大評価 | 液体の物性で計算 |
| 槽内の流れを無視 | 局所の高温 | 流れを解析 |
| 材料の相性を見ない | 部品の劣化 | 浸漬試験 |
| 油の粘度の温度変化を無視 | 熱伝達を誤る | 温度依存の物性 |
関連する内容も知りたいです。
関連するページは沸騰熱伝達、電子機器のヒートパイプ、ジャンクション温度、ベーパーチャンバー、バッテリー熱管理が参考になる。
なった
詳しく
報告