キルン(窯炉)の熱解析
理論:窯の壁を通る熱
概要
セメント工場のロータリーキルンで、鉄皮の温度が一部だけ高くなっています。何が起きているんでしょう?
キルンの内側は耐火れんがで守られていて、焼成帯では内面が1400 ℃を超える。外側の鉄皮の温度は、れんがの厚さと、れんがの表面に付着したクリンカーの層(コーチング)でほぼ決まる。一部だけ熱いなら、そこでコーチングがはがれたか、れんがが薄くなったか、れんがが脱落した可能性がある。壁の伝熱を計算すると、鉄皮の温度から内側の状態を推定できるんだ。放熱の量は燃料の消費にも直結するから、窯の省エネにも大事な計算だよ。
壁の熱収支
内面から鉄皮までの各層(コーチング・れんが・鉄皮)の熱抵抗の和で、壁を通る熱流束が決まる。それが鉄皮の外側の対流と放射で出ていく熱と釣り合うように、鉄皮の温度が決まる。
回る窯の発明
セメントの原料を焼く窯は、19世紀までは縦に積んで焼く竪窯が主流で、一度に焼ける量が限られていた。1880年代にイギリスのランサムが回転する円筒の窯を考案し、20世紀初めにアメリカで実用化されると、原料を連続的に流して大量に焼けるようになった。長さ100 mを超えるキルンも作られたが、その後、排ガスの熱で原料を予熱するサスペンションプレヒーターが加わり、キルンは短く、燃料の消費は大きく減った。いまでは鉄皮の温度を走査するスキャナーが、窯の中の状態を見る目になっている。
計算例:焼成帯の壁
直径4.5 mのキルンの焼成帯で、内面1400 ℃、塩基性れんが(熱伝導率2.5 W/mK)、鉄皮30 mm。外側は対流15 W/m²Kと放射(放射率0.85)で20 ℃の周囲へ放熱する。
| 壁の状態 | 鉄皮温度 | 熱流束 | 1 mあたりの放熱 |
|---|---|---|---|
| れんが220 mm | 350 °C | 11.8 kW/m² | 167 kW/m |
| コーチング150 mm+れんが220 mm | 207 °C | 5.0 kW/m² | 71 kW/m |
| れんがが100 mmに減耗 | 485 °C | 22.5 kW/m² | 318 kW/m |
| れんがが60 mmに減耗 | 578 °C | 33.3 kW/m² | 471 kW/m |
コーチングがあるかないかで、放熱が半分以下になるんですね。
コーチングの熱伝導率はれんがより低いから、断熱材として効くんだ。焼成帯の20 mで比べると、コーチングなしは3.35 MW、ありは1.41 MWで、年間では約96,000 GJと41,000 GJになる。逆に、れんがが減って100 mmになると鉄皮は485 ℃になり、600 ℃近くでは鉄皮が赤熱して変形する危険がある。鉄皮の外側では、300 ℃のとき放射が放熱の54%を占めるから、放射を無視すると鉄皮温度を高く見積もってしまう。スキャナーの温度から内側を推定するには、放射と対流をきちんと入れた計算が要るよ。
解析の進め方
- 燃焼とガスの流れ、原料の層の温度をキルンの長さ方向に解き、内面の温度の分布を求める。
- 壁の各層(コーチング・れんが・鉄皮)の熱抵抗から鉄皮の温度と放熱を求める。
- 鉄皮の外側は、回転と風による対流と、放射の両方を入れる。
- 鉄皮の温度の測定(スキャナー)と照らし、れんがの残り厚さやコーチングの状態を推定する。
- 温度の分布から鉄皮とタイヤ(支持輪)の熱変形も確かめる。
「スキャナーの赤い帯」
キルンの鉄皮温度のスキャナー画面に、ある日、赤い帯のような高温部が現れた——という例がある。壁の伝熱の計算と照らすと、その温度はれんがが半分以下に減ったか、コーチングが大きくはがれた場合に相当した。燃焼の調整で火炎の位置を少し動かしてコーチングを付け直すと、温度は下がった。しかし数週間後に再び上がったため、定期停止でれんがを確認すると、実際に局所的に薄くなっていた。鉄皮温度の変化を計算と結びつけることで、停止の計画を立てやすくなる。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 鉄皮の放射を無視 | 鉄皮温度を過大評価 | 放射を入れる |
| コーチングを無視 | 放熱を過大評価 | 状態ごとに計算 |
| れんがの熱伝導率を一定に | 温度分布がずれる | 温度依存を入れる |
| 平均の鉄皮温度だけ見る | 局所の減耗を見落とす | 周方向・長さ方向の分布 |
| 熱変形を考えない | れんがの脱落を招く | 鉄皮・タイヤの変形を確認 |
関連する計算を試したいです。
炉の効率の計算、黒体放射のシミュレーター、放射ネットワークで試せるよ。関連する工程は工業炉のシミュレーション、乾燥工程、ガラスの成形が参考になる。
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