パラメータ設定
球接触の中心軸(r=0)上の弾性応力解(Johnson, Contact Mechanics)。表面 z=0 で σz=−p_max。
計算結果
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τ_max ピーク深さ z*/a (ν=0.3)
中心軸上の応力深さ分布 σ_z, σ_r, τ_max
横軸=z/a / 縦軸=stress/p_max(赤=σ_z、青=σ_r、緑=τ_max、橙破線=τ_max ピーク位置 0.48、黄破線=現在の評価深さ)
理論・主要公式
Hertz 球接触の中心軸(r=0)上の応力。a は接触半径、p_max は表面最大接触応力、ν はポアソン比、z は深さ:
$$\frac{\sigma_z}{p_{\max}} = -\frac{1}{1+(z/a)^2}$$
径方向(=円周方向)応力:
$$\frac{\sigma_r}{p_{\max}} = (1+\nu)\!\left[\frac{z}{a}\arctan\!\frac{a}{z}-1\right] + \frac{1}{2}\frac{1}{1+(z/a)^2}$$
中心軸上の最大せん断応力(主応力差の半分):
$$\tau_{\max} = \frac{|\sigma_z - \sigma_r|}{2}$$
ν=0.3 では τ_max/p_max ≈ 0.31 が深さ z*/a ≈ 0.48 で発生し、ここが転がり接触疲労(ピッチング・スポーリング)の起点となります。
Hertz接触サブサーフェス応力シミュレーターとは
🙋
軸受の玉が転がるとき、表面が一番強く押されてるんですよね?じゃあ壊れるのも表面からなんじゃないですか?
🎓
直感ではそう思いがちだけど、実は違うんだ。確かに圧縮応力 σz は表面(z=0)で最大の −p_max になる。でも材料を引き裂く「せん断応力」は、表面からちょっと潜ったところで最大になる。上のシミュレーターで p_max=1500 MPa、a=0.5 mm、ν=0.3、z/a=0.5 の初期状態を見て。σ_z = −1200 MPa、σ_r = −270 MPa、τ_max = 465 MPa と表示されているはずだ。グラフの緑線(τ_max)の山のてっぺんが z/a≈0.48 のところに見えるだろう。これが地下せん断応力ピークだよ。
🙋
なんで深さ 0.48a で最大になるんですか?式から自然に出てくるんですか?
🎓
そう、Johnson "Contact Mechanics" の弾性解から自然に出てくる。中心軸上では σz と σ_r=σ_θ がそれぞれ違う深さプロファイルを持つ。表面では両者がほぼ等しい(差が小さい)から τ_max は小さい。でも少し潜ると σ_z はゆっくり下がる一方で σ_r は急速にゼロに近づく。だから両者の差(τ_max=|σ_z−σ_r|/2)が中間でピークを取るんだ。「ν」のスライダーを動かすと σ_r 側だけが変わって、ピーク位置も少しずれる。ν=0.5 だと 0.55a 付近、ν=0 だと 0.38a 付近になるよ。
🎓
転がり接触疲労(RCF)の起点になるんだよ。玉が一回通るたびに表面下の 0.48a 付近でせん断応力がパルス状に立ち上がる。これが 10^6〜10^9 回繰り返されると、その深さで微小亀裂が発生する。亀裂は表面に向かって進展し、最終的に金属片がペロッと剥がれる——これが軸受の「フレーキング」、歯車の「ピッチング」だ。実務では p_max を 1.5〜3 GPa 以下に抑え、τ_max が降伏応力の半分を超えないようにする。あと、その深さに非金属介在物(MnS とか)があると亀裂発生を加速するから、清浄度の高い軸受鋼(VIM-VAR 等)が高寿命用に使われるんだ。
よくある質問
違います。球接触では τmax/p_max ≈ 0.31 が z/a ≈ 0.48 で発生するのに対し、円柱の線接触(2次元 Hertz)では τmax/p_max ≈ 0.30 が深さ z/b ≈ 0.78(b は接触半幅)で発生します。線接触の方が深い位置にせん断ピークが現れるため、軸受ローラーの破壊起点は球軸受より深い場所にあるのが一般的です。本ツールは球接触専用ですので、線接触は別途専用ツール(hertz-contact.html の円柱モード)を参照してください。
純粋転がり(摩擦ゼロ)の理想 Hertz 解ではピークは z/a≈0.48 ですが、すべりや接線力(牽引力)が加わると最大せん断応力位置が表面側へ移動します。摩擦係数 μ≈0.3 程度では τmax が表面に達し、「サーフェスオリジン」のピッチングや微小ピッチング(マイクロピッチング)の原因になります。歯車設計では潤滑膜厚比 Λ で表面下/表面起点のどちらが支配的かを判定します。
伝統的な RCF 寿命理論(Lundberg–Palmgren)では最大せん断応力 τmax あるいは直交せん断応力 τ0 が使われてきました。最近の理論(Ioannides–Harris, ISO 281 寿命修正係数)ではフォン・ミーゼス応力や応力体積積分が採用されています。設計の第一近似として τmax/p_max ≈ 0.31(球接触, ν=0.3)を抑えれば、フォン・ミーゼスでも約 0.62·p_max 以下となり、降伏応力の安全側に収まります。本ツールは最も基本的な τmax を表示しています。
実世界での応用
転がり軸受の寿命設計:玉軸受やローラー軸受では、転動体と内外輪の接触で発生する地下せん断応力 τmax が疲労亀裂の起点となります。Lundberg–Palmgren 理論や ISO 281 では τmax(あるいは τ0)の深さ分布と回転回数から L10 寿命を予測します。本ツールで p_max を変えながら τmax を確認すれば、設計接触応力がどの程度寿命に効くかを直感的に把握できます。
歯車歯面のピッチング評価:歯車のかみ合い面では、線接触に近い Hertz 応力が繰り返し作用します。深さ 0.5b 付近に発生するせん断応力ピークが、典型的なピッチング(ピット状の表面剥離)の起点になります。AGMA / JIS 歯車強度計算では、表面圧(接触応力)と材料の疲労強度を比較する形で安全率を算出しますが、その背後には本ツールが示す地下応力の理論があります。
カム・フォロワ機構の摩耗解析:内燃機関のカムとロッカーアーム、メカニカルプレスのカム機構など、繰り返し線接触する機械要素ではすべりと転がりが混在し、表面起点と地下起点の両方の損傷モードが現れます。地下応力解析を出発点に、潤滑膜厚や表面粗さの影響を重ね合わせて損傷予測を行います。
鉄道車輪・レール接触:車輪踏面とレール頭部の接触は典型的な Hertz 接触で、p_max は 1〜2 GPa に達します。レール頭頂面下数 mm に τmax が発生し、これがレールの内部疲労破壊(detail fracture, transverse defect)の起点になります。レール寿命予測と保守計画の根拠として、本ツールと同等の応力解析が日常的に使われています。
よくある誤解と注意点
最も多い誤解は、「最大応力=最大破壊リスク」と短絡してしまうことです。確かに最大圧縮応力 σz=−p_max は表面 z=0 で発生しますが、純粋圧縮は金属の破壊にほとんど寄与しません。延性金属を破壊するのは「せん断」であり、せん断応力 τmax は表面より少し潜った z≈0.48a で最大になります。シミュレーターの緑曲線をよく観察してください——表面で τ_max は小さく、深さ 0.48a で山を作り、その後ゆっくり減衰します。「どこが一番強く押されているか」ではなく「どこが一番強くせん断されているか」が疲労破壊の起点を決めます。
次に、本ツールは「中心軸上 (r=0)」だけの応力であることを忘れないでください。実際の接触応力場は 3 次元で、接触円の縁 (r=a, z=0) には引張応力(最大引張は表面、半径方向に伸びる)が発生し、これがコーンクラック(陶磁器・ガラスの破壊モード)や表面起点疲労の原因になります。また転がりやすべりがある場合は τmax が表面側へ移動します。本ツールが示すのは「純粋転がり・摩擦ゼロ・中心軸上」の理想ケースであり、実機ではこれに摩擦・すべり・残留応力・材料介在物が重なります。
最後に、Hertz 弾性解の適用限界を意識してください。Hertz 理論は完全弾性体・滑らかな表面・接触面が小さい(a≪R)を前提とします。p_max が降伏応力の約 1.6 倍(球接触の塑性開始条件 p_max ≈ 1.60·σ_y、Tabor)を超えると材料が降伏し、応力分布が再分配されます。鋼の場合 p_max > 4〜5 GPa は塑性域に入る目安です。本ツールで p_max を 5000 MPa まで上げられますが、構造用鋼であれば実機ではこの値は降伏領域に到達しているため、結果は「もし完全弾性なら」という参考値として読み解いてください。