磁歪解析
理論:磁化で生じるひずみ
概要
変圧器のブーンという音は、電線の振動ですか?
主な原因は鉄心の磁歪だ。鉄心の電磁鋼板は、磁化されるたびにほんのわずか伸び縮みする。磁歪は磁化の向きがプラスでもマイナスでも同じように伸びるので、交流の1周期に2回伸び縮みし、音の基本の周波数は電源の2倍になる。ひずみは1 ppm程度とごく小さいが、大きな鉄心では振動の振幅が μm の単位になり、油やタンクを伝わって音になる。一方、この現象を逆に利用して、磁歪の大きな材料で精密なアクチュエータや強力な水中の音源を作ることもできる。磁場と構造の変形を連成させて解くのが磁歪解析だ。
変位・力・磁界
λ は磁歪ひずみ、L は棒の長さ、E^H は磁界一定でのヤング率、A は断面積、N は巻数、I は電流。磁歪は磁束密度の向きによらないので、交流では電源の2倍の周波数で振動する。
ジュールの発見と巨大磁歪
磁歪は1842年、ジュールが鉄の棒を磁化すると長さが変わることを測って発見した。鉄やニッケルの磁歪は小さいが、第二次世界大戦の頃にはニッケルの磁歪を使ったソナーが作られた。1970年代にアメリカの海軍研究所で、テルビウムやジスプロシウムといった希土類と鉄の合金が、ニッケルの数十倍の磁歪を示すことが見つかり、テルフェノールDと名付けられた。名前は元素名(Te は Terbium、Fe は鉄)と研究所(NOL)に由来する。
計算例
例1:材料ごとの飽和磁歪と100 mmの棒の変位
| 材料 | 飽和磁歪 | 100 mmの棒の変位 |
|---|---|---|
| 鉄 | 約10 ppm | 1.0 μm |
| ニッケル | −33 ppm | 3.3 μm |
| ガルフェノール(Fe-Ga) | 250 ppm | 25 μm |
| テルフェノールD | 1,600 ppm | 160 μm |
例2:テルフェノールDのアクチュエータ(長さ100 mm、直径10 mm、ひずみ1,000 ppm)
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 変位 | 100 μm |
| ブロッキング力(ヤング率30 GPa) | 2,356 N |
| 剛性 | 2.36×10⁷ N/m |
| 必要な磁界 | 80 kA/m |
| 起磁力(500巻きなら電流) | 8,000 AT(16 A) |
| 仕事の密度(1/2·E·λ²) | 15 kJ/m³ |
同じ考え方で、前の圧電の例(PZT積層、1.5 kV/mmで890 ppm、ヤング率48 GPa)の仕事の密度は19 kJ/m³で、同じ程度の大きさになる。
圧電と同じくらいの力が出るのに、16 Aもの電流が必要なんですね。
磁歪のアクチュエータは磁界で動かすので、コイルに大きな電流を流す必要がある。圧電は電圧で動かし、静止しているときにはほとんど電流が要らないのに対して、磁歪はコイルの抵抗で常に発熱し、それが温度を上げて特性を変える。その代わり、低い電圧で駆動でき、材料が丈夫で大きな力や大きな振幅の振動に強い。だから水中の強力な音源や、大きな力の振動を出す装置に向いている。また、磁歪材料は圧縮の予荷重をかけると磁区がそろいやすくなって伸びが大きくなるので、ばねで押さえて使うのが普通だ。解析では、磁歪の非線形性と予荷重、渦電流、発熱を連成させる。
解析の進め方
- 磁界解析で、コイルの電流から材料内の磁界分布を求める。
- 磁界と応力に依存する磁歪の特性(非線形)を入力する。
- 磁歪ひずみを構造解析に渡し、変位と応力を求める。必要なら逆の影響も戻す。
- 交流駆動では渦電流と発熱を入れ、温度による特性の変化を考える。
- 変圧器の騒音では、鉄心の振動からタンクの振動と音の放射まで解析する。
「静かなはずの変圧器」
ある変電所で、低騒音型として設計した変圧器が、設置後に予想より大きな音を出した。音の周波数を調べると、200 Hzの成分が特に強かった。磁歪による鉄心の振動は100 Hzとその整数倍の周波数を含み、その中の200 Hzが、タンクの壁の固有振動数とほぼ一致して共振していた。鉄心だけの解析では振動は小さかったが、タンクの振動まで連成させた解析で原因が再現できた。タンクに補強を追加して固有振動数をずらし、騒音は目標値に下がった。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 振動を電源周波数で評価 | 周波数を誤る | 2倍の周波数 |
| 磁歪を線形とみなす | 変位を誤る | 非線形データを使う |
| 予荷重を無視 | 伸びを過小評価 | 予荷重の依存を入れる |
| コイルの発熱を無視 | 温度で特性が変わる | 熱を連成 |
| 鉄心だけで騒音を評価 | タンクの共振を見逃す | タンクまで解析 |
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