RNG k-εモデル
理論と物理
概要
先生! RNG k-εモデルって標準k-εモデルとどう違うんですか?
RNG k-εモデルはYakhot & Orszag (1986)が繰り込み群(Renormalization Group)理論を使って統計力学的に導出したモデルだ。標準k-εモデルのモデル定数が経験的に決められているのに対し、RNG版では理論的に導出される点が大きな違いだよ。
理論的に導出されるって、それだけで精度が上がるんですか?
定数の値自体はそこまで変わらないが、重要なのは $\varepsilon$ 方程式に追加されるRアイテム(Additional Rate-of-Strain Term)だ。これにより、急速にひずむ流れや旋回流での精度が改善される。
支配方程式
具体的な方程式を教えてください。
k方程式は標準k-εとほぼ同じだ。
ε方程式にRNG特有のR項が追加される。
ここで修正された散逸係数は:
RNG定数: $C_{\varepsilon 1}=1.42$、$C_{\varepsilon 2}=1.68$、$C_\mu=0.0845$、$\eta_0=4.38$、$\beta=0.012$。
この $\eta$ というパラメータが鍵なんですね。
そう。$\eta > \eta_0 \approx 4.38$ のとき(急速ひずみ流)、分子の $(1-\eta/\eta_0)$ が負になり、$C_{\varepsilon 2}^*$ が増大する。これは $\varepsilon$ の散逸を増やし、結果として乱流粘性 $\mu_t = \rho C_\mu k^2/\varepsilon$ が減少する。つまり、急速にひずむ流れで過剰な乱流粘性を抑制する効果がある。
標準k-εで旋回流が過剰拡散する問題を緩和するわけですね。
正解。ただし、R項は $\eta$ が大きいところでのみ顕著に効くため、すべてのケースで劇的に改善するわけではない。
「繰り込み群」って何者?——物理学の技法がCFDに来た日
RNG(Renormalization Group)という名前を聞いて「なんだその難しそうな名前は」と思うのは当然です。もともと繰り込み群は素粒子物理学で発展した数学的手法で、異なるスケールの現象を系統的に扱うための道具。Yakhot と Orszagが1986年に「乱流のスケール間エネルギー移動にも使えるのでは」と気づいてCFDへ持ち込んだのが始まりです。高ひずみ域での修正εは、この群論的操作から自然に導出される。「物理学の道具を工学に転用する」という発想の大胆さが、RNG k-εの面白いところです。
各項の物理的意味
- 時間項 $\partial(\rho\phi)/\partial t$:蛇口をひねった瞬間を思い浮かべてください。最初は水がバタバタと不安定に出て、しばらくすると安定した流れになりますよね? この「変化している最中」を記述するのが時間項です。心臓の拍動で血流が脈打つのも、エンジンのバルブが開閉するたびに流れが変動するのも、すべて非定常現象。では定常解析とは? 「十分時間が経って流れが落ち着いた後」だけを見る——つまりこの項をゼロにする。計算コストが大幅に下がるため、まず定常で解いてみるのがCFDの基本戦略です。
- 対流項 $\nabla \cdot (\rho \mathbf{u} \phi)$:川に落ち葉を落としたらどうなりますか? 流れに乗って下流に運ばれますよね。これが「対流」——流体の動きが物を運ぶ効果です。暖房の温風が部屋の端まで届くのも、空気という「運び屋」が熱を対流で輸送しているから。ここが面白いところ——この項は「速度×速度」を含むため非線形です。つまり、流れが速くなるとこの項が急激に強くなり、制御が難しくなる。これが乱流の根本原因です。よくある勘違い:「対流と伝導は同じようなもの」→ 全然違います! 対流は流れが運ぶ、伝導は分子が伝える。桁違いの効率差があります。
- 拡散項 $\nabla \cdot (\Gamma \nabla \phi)$:コーヒーにミルクを入れて放置したことはありますか? かき混ぜなくても、しばらく経つと自然に混ざりますよね。あれが分子拡散です。では次の質問——ハチミツとお水、どちらが流しやすいですか? 当然お水ですよね。ハチミツは粘性($\mu$)が高いから流れにくい。粘性が大きいと拡散項が強くなり、流体は「もったりした」動きになります。レイノルズ数が小さい流れ(ゆっくり、ドロドロ)では拡散が支配的。逆にRe数が大きい流れでは対流が圧倒し、拡散は脇役になります。
- 圧力項 $-\nabla p$:注射器のピストンを押すと、液体が針先から勢いよく出ますよね? なぜでしょう? ピストン側が高圧、針先が低圧——この圧力差が流体を押す力になるからです。ダムの放水も同じ原理。天気図で等圧線がギュッと密になっている場所では? そう、強風が吹きます。「圧力差があるところに流れが生まれる」——これがナビエ-ストークス方程式の圧力項の物理的意味。ここでの勘違いポイント:CFDの「圧力」は絶対圧ではなくゲージ圧のことが多い。圧縮性解析に切り替えたとたんに結果がおかしくなる場合、絶対圧/ゲージ圧の混同が原因かもしれません。
- ソース項 $S_\phi$:暖められた空気が上に昇る——なぜでしょう? 周囲より軽く(密度が低く)なったから、浮力で押し上げられるのです。この浮力はソース項として方程式に追加されます。他にも、ガスコンロの炎で化学反応熱が発生する、工場の電磁ポンプで金属溶湯にローレンツ力がかかる…これらはすべて「外部から流体にエネルギーや力を注入する」作用であり、ソース項で表現します。ソース項を忘れるとどうなるか? 自然対流の解析で浮力を入れ忘れると、流体は一切動かない——冬の部屋で暖房をつけたのに暖かい空気が上に行かない、という物理的にありえない結果になります。
仮定条件と適用限界
- 連続体仮定:クヌッセン数 Kn < 0.01(分子平均自由行程 ≪ 代表長さ)で成立
- ニュートン流体仮定:せん断応力と歪み速度が線形関係(非ニュートン流体では粘度モデルが必要)
- 非圧縮性仮定(Ma < 0.3の場合):密度を一定として扱う。マッハ数0.3以上では圧縮性効果を考慮
- ブシネスク近似(自然対流):密度変化を浮力項のみで考慮し、他の項では一定密度を使用
- 適用外ケース:希薄気体(Kn > 0.1)、超音速・極超音速流れ(衝撃波捕捉が必要)、自由表面流れ(VOF/Level Set等が必要)
次元解析と単位系
| 変数 | SI単位 | 注意点・換算メモ |
|---|---|---|
| 速度 $u$ | m/s | 入口条件で体積流量から換算する際、断面積の単位に注意 |
| 圧力 $p$ | Pa | ゲージ圧と絶対圧の区別。圧縮性解析では絶対圧を使用 |
| 密度 $\rho$ | kg/m³ | 空気: 約1.225 kg/m³@20°C、水: 約998 kg/m³@20°C |
| 粘性係数 $\mu$ | Pa·s | 動粘性係数 $\nu = \mu/\rho$ [m²/s] との混同に注意 |
| レイノルズ数 $Re$ | 無次元 | $Re = \rho u L / \mu$。層流/乱流遷移の判定指標 |
| CFL数 | 無次元 | $CFL = u \Delta t / \Delta x$。時間刻みの安定性に直結 |
数値解法と実装
数値実装
RNG k-εを実装する上で標準k-εとの違いは何ですか?
ソルバーの観点では、k方程式の離散化は同一で、ε方程式のソース項に $R$ 項が追加されるだけだ。ただし、$R$ 項は $\eta = Sk/\varepsilon$ に依存し、$\varepsilon$ 自身にも依存するため、陰的な処理が必要になる。
R項の線形化
陰的処理って具体的にどうするんですか?
$R$ 項を $\varepsilon$ について線形化する。$R = \frac{C_\mu \rho \eta^3(1-\eta/\eta_0)}{(1+\beta\eta^3)} \frac{\varepsilon^2}{k}$ なので、$\eta < \eta_0$ のとき $R > 0$(ソース項)、$\eta > \eta_0$ のとき $R < 0$(シンク項)となる。
シンク項の場合は対角項に加算して暗黙的に処理し、ソース項の場合はソースベクトルに加算する。この分離により数値安定性が向上する。
壁面処理
壁面近傍はどう扱いますか?
RNG k-εモデルは本来高Re数モデルだから壁関数を使う。ただしFluentやCFXでは「Enhanced Wall Treatment」オプションがあり、低Re数領域を2層モデルで処理できる。
| 壁面処理 | 必要な$y^+$ | 精度 | 用途 |
|---|---|---|---|
| 標準壁関数 | $30 < y^+ < 300$ | 中 | 産業用途一般 |
| Non-equilibrium壁関数 | $30 < y^+ < 300$ | 中-高 | 剥離・再付着流れ |
| Enhanced Wall Treatment | $y^+ \approx 1$ | 高 | 熱伝達、剥離予測 |
OpenFOAMでの設定
OpenFOAMでRNG k-εを使うにはどうしますか?
constant/turbulenceProperties で以下のように設定する。
```
RAS
{
RASModel RNGkEpsilon;
turbulence on;
printCoeffs on;
}
```
壁関数は 0/ ディレクトリの各変数ファイルで指定する。例えば nut には nutkWallFunction、epsilon には epsilonWallFunction を使う。
Fluentでの設定
Fluentでは?
Models → Viscous → k-epsilon → RNG を選択。オプションで:
- Differential Viscosity Model: 低Re数効果を含む有効粘性の式を使用
- Swirl Dominated Flow: 旋回修正を追加(旋回数が大きい場合に有効)
これらのオプションは標準k-εにはないRNG固有の機能だ。
旋回燃焼器でRNG k-εが輝く理由
ガスタービンの燃焼器設計では、旋回(スワール)流れを使って燃料と空気を混合します。標準k-εはこの強い旋回に対して渦粘性を過大評価し、スワール強度が実験より早く減衰するという問題が知られています。RNG k-εの高ひずみ修正項はこの問題を軽減するため、ガスタービンメーカーでは燃焼器初期設計にRNG k-εを使い、詳細設計でRSMに移行するという手順が定着しています。計算コストとモデル精度のバランスを取った現実的な選択です。
風上差分(Upwind)
1次風上: 数値拡散が大きいが安定。2次風上: 精度向上するが振動のリスク。高レイノルズ数流れでは必須。
中心差分(Central Differencing)
2次精度だが、Pe数 > 2で数値振動が発生。低レイノルズ数の拡散支配流れに適する。
TVDスキーム(MUSCL、QUICK等)
リミッタ関数により数値振動を抑制しつつ高精度を維持。衝撃波や急勾配の捕捉に有効。
有限体積法 vs 有限要素法
FVM: 保存則を自然に満足。CFDの主流。FEM: 複雑形状・マルチフィジックスに有利。SPH等のメッシュフリー法も発展中。
CFL条件(クーラン数)
陽解法: CFL ≤ 1が安定条件。陰解法: CFL > 1でも安定だが、精度と反復回数に影響。LES: CFL ≈ 1を推奨。物理的意味: 1タイムステップで情報が1セル以上進まないこと。
残差モニタリング
連続の式・運動量・エネルギーの各残差が3〜4桁低下で収束と判断。質量保存の残差は特に重要。
緩和係数
圧力: 0.2〜0.3、速度: 0.5〜0.7が一般的な初期値。発散する場合は緩和係数を下げる。収束後は上げて加速。
非定常計算の内部反復
各タイムステップ内で定常解に収束するまで反復。内部反復数: 5〜20回が目安。残差がタイムステップ間で変動する場合は時間刻みを見直す。
SIMPLE法のたとえ
SIMPLE法は「交互に調整する」手法。まず速度を仮に求め(予測ステップ)、その速度で質量保存が満たされるよう圧力を補正し(補正ステップ)、補正された圧力で速度を修正する——このキャッチボールを繰り返して正解に近づく。2人で棚を水平にする作業に似ている:片方が高さを合わせ、もう片方がバランスを取り、これを交互に繰り返す。
風上差分のたとえ
風上差分は「川の流れに立って上流の情報を重視する」手法。川の中にいる人が下流を見ても水の出所は分からない——上流の情報が下流を決めるという物理を反映した離散化手法。精度は1次だが、流れの方向を正しく捕捉するため安定性が高い。
実践ガイド
実践ガイド
RNG k-εが活きる実務的な場面を教えてください。
RNG k-εが標準k-εより明確に優れるケースがある。
適用推奨ケース
| 流れの種類 | RNGの優位性 | 理由 |
|---|---|---|
| 室内空調のCFD | 高 | 複数の噴流が干渉する複雑な流れ場で過剰拡散を抑制 |
| サイクロン分離器 | 中-高 | 旋回流でのε過剰生成を抑制 |
| 後ろ向きステップ | 中 | 再付着長さの予測改善 |
| 噴流の拡がり | 中 | Round-jet anomaly問題の緩和 |
| 管路の乱流 | 低 | 標準k-εで十分 |
空調シミュレーションで使われるって聞いたことがあります。
そう。建築分野のCFDでは空調吹出し口からの噴流が天井・壁で曲がりながら拡がるため、急速ひずみの効果が重要になる。Realizable k-εも人気だが、RNG k-εも依然としてよく使われている。
モデル選定フローチャート
どういう判断でモデルを選べばいいですか?
以下の判断基準で考えよう。
1. 壁面境界層の剥離が重要 → k-omega SST を第一候補
2. 強い旋回や曲率がある → RNG k-ε(旋回修正付き)or SST-RC
3. 複雑な室内気流 → RNG k-ε or Realizable k-ε
4. 単純な内部流れ → 標準k-εで十分
5. 計算コストを抑えたい → SA(1方程式)
RNG k-εとRealizable k-εの使い分けは?
Realizable k-εは $C_\mu$ を変数化して実現可能性(Realizability)を保証する。回転流・噴流・拡散にやや強い。一方RNG k-εは理論的基盤が明確で、建築空調やHVAC分野で実績が多い。実務的にはどちらかを使って検証し、実験データとの一致が良い方を選ぶのが現実的だ。
入口境界条件の設定
入口の乱流条件はどう設定しますか?
室内気流シミュレーションのデファクト——RNG k-εと建築CFD
空調・換気設計のCFD業界では、室内気流解析にRNG k-εが長年にわたって標準モデルとして使われてきました。標準k-εより低Reynolds数域での精度が高く、空調吹き出し口付近のような複雑な気流パターンをある程度捉えられるためです。日本の空調設計では「建物省エネ法」に基づくCFD評価が求められますが、その検証ガイドラインに掲載されているベンチマーク計算の多くがRNG k-εで行われており、実績ベースの信頼感が強い。室内熱環境解析を始めるなら、まずRNG k-εが現場の標準的出発点です。
解析フローのたとえ
CFDの解析フローは「水族館の水槽を設計する」感覚で考えてみてください。まず水槽の形を決め(計算領域)、水の入り口と出口を設計し(境界条件)、ポンプの強さを設定する(流量条件)。魚がどう泳ぐか見たければ粒子追跡。水温が気になれば熱解析を追加。…どうですか? 意外と直感的ではありませんか?
初心者が陥りやすい落とし穴
「y+って何ですか?」——この質問が出たら要注意。壁面近くのメッシュ解像度を表すy+は、CFDの結果精度を左右する最重要パラメータの1つ。壁関数を使うなら30〜300、壁を完全に解像するなら1以下。これを確認せずに「摩擦抵抗が合わない!」と悩む人がとても多い。体温計の先端をちゃんと脇に挟まないで「熱がないのに37.5度って出た!」と慌てているようなものです。
境界条件の考え方
入口の境界条件は「蛇口をどのくらい開けるか」と同じ。ちょろちょろ出すか(低速)、全開にするか(高速)。でもCFDではもう一つ——「どのくらい暴れた水を出すか」(乱流強度)も指定する必要があります。蛇口の開け方を間違えると、下流のシンク全体の流れが変わりますよね? CFDでも入口条件のミスは下流全体に波及します。
ソフトウェア比較
商用ツールの実装比較
各ソフトでRNG k-εの実装に違いはありますか?
基本方程式は同じだが、壁面処理とオプション機能で差がある。
| 機能 | Fluent | CFX | STAR-CCM+ | OpenFOAM |
|---|---|---|---|---|
| RNG k-ε基本 | ○ | ○ | ○ | ○ |
| Differential Viscosity | ○ | - | - | - |
| Swirl修正 | ○ | - | ○ | カスタム実装 |
| Enhanced Wall Treatment | ○ | Automatic Wall | All y+ | nutUSpaldingWallFunction |
| 圧縮性補正 | ○ | ○ | ○ | ○ |
Fluentの独自オプション
FluentにしかないDifferential Viscosity Modelって何ですか?
RNG理論から導出される有効粘性の微分方程式を使う。通常の $\mu_t = \rho C_\mu k^2/\varepsilon$ の代わりに、分子粘性から乱流粘性への遷移をスムーズに表現する。低Re数領域でも使えるようになるが、計算コストがやや増える。
Swirl修正はFluentの旋回流オプションで、乱流粘性を旋回数に応じて修正する。
$\alpha_s$ はSwirl定数(デフォルト0.07)。サイクロンやスワールバーナに有効。
ライセンスとコスト
RNG k-εは追加ライセンスが必要ですか?
RNG k-εはすべての主要ソルバーで基本ライセンスに含まれている。追加費用はかからない。
| ソルバー | 含まれるライセンス | 備考 |
|---|---|---|
| Fluent | Fluent基本 | 全壁面処理含む |
| CFX | CFX基本 | |
| STAR-CCM+ | 基本ライセンス | |
| OpenFOAM | GPL(無償) | ソースコード改変自由 |
選定指針
どのソルバーが一番いいですか?
RNG k-εに限れば、Fluentの実装が最も多機能だ(Differential Viscosity + Swirl修正)。ただし、モデルの質よりもメッシュ品質と境界条件の適切さの方が結果に大きく影響する。どのソルバーでも適切に使えば同等の結果が得られる。
OpenFOAMでRNG k-εを使うとき気をつけること
OpenFOAMでRNG k-εを選ぶと、kOmegaRNG という名称ではなく RNGkEpsilon という名前で登録されています。初めて使う人は「どこにあるの?」と迷いがち。また、Fluent版との差異として、OpenFOAMではデフォルトのεモデル定数がFluent/STAR-CCM+と微妙に異なるケースがあり、別ソルバーで検証した結果と比べるときに注意が必要です。ソルバー移行プロジェクトでは、まず単純な管内流れでクロスチェックしてから本番解析に進む手順を強くお勧めします。
選定で最も重要な3つの問い
- 「何を解くか」:RNG k-εモデルに必要な物理モデル・要素タイプが対応しているか。例えば、流体ではLES対応の有無、構造では接触・大変形の対応能力が差になる。
- 「誰が使うか」:初心者チームならGUIが充実したツール、経験者ならスクリプト駆動の柔軟なツールが適する。自動車のAT車(GUI)とMT車(スクリプト)の違いに似ている。
- 「どこまで拡張するか」:将来の解析規模拡大(HPC対応)、他部門への展開、他ツールとの連携を見据えた選択が長期的なコスト削減につながる。
先端技術
先端トピック
RNG k-εモデルの研究は今も続いているんですか?
RNG k-ε自体は成熟したモデルだが、その派生や応用で新しい展開がある。
RNG理論の再訪
繰り込み群理論って物理のやつですよね?
そう。場の量子論の手法を乱流に応用したものだ。Yakhot-Orszagの導出では小スケール渦を逐次的に粗視化(繰り込み)して、有効粘性の方程式を導く。物理的にはエネルギーカスケードを直接反映したモデルと言える。
最近ではWilson-Kadanoff型の繰り込み群に基づく改良版(Functional RNG)や、Kraichnanの直接相互作用近似(DIA)との統合が試みられている。
非平衡効果の考慮
非平衡って何ですか?
標準的なRANSモデルは局所平衡仮説(生成≒散逸)に基づくが、実際の流れでは輸送効果により局所平衡が成り立たない領域がある。RNG k-εのR項は非平衡の一つの表現だが、より一般的な非平衡補正として:
ここで $\xi = \Omega k/\varepsilon$(回転パラメータ)を追加する拡張がある。これはRealizable k-εの考え方に近い。
浮力流れへの適用
自然対流や混合対流では?
RNG k-εは建築空調のCFDで自然対流の計算によく使われる。浮力項の扱いが重要で:
乱流Prandtl数 $Pr_t$ はRNG理論から $Pr_t \approx 0.85$ と導出される(標準k-εの経験値と近い)。Boussinesq近似の適用範囲($\Delta T / T_{ref} < 0.1$)を超える場合は、完全圧縮性解法や密度ベースの浮力モデルが必要だ。
マルチフィジックスとの連成
他の物理との連成ではどうですか?
RNG k-εは以下の連成解析で使われている。
- 共役熱伝達: 電子機器冷却、ビル外壁の熱環境
- 粒子追跡: サイクロン分離器での粒子分離効率
- 化学反応: 燃焼シミュレーション(Eddy Dissipation Modelとの組み合わせ)
- 多相流: Euler-Euler法での分散相の乱流変調
特に粒子追跡ではラグランジュ法の乱流拡散モデルに $k$ と $\varepsilon$ が直接使われるため、これらの予測精度がそのまま粒子軌道の精度に直結する。
RNG k-εと「モデル定数の再導出」論争
RNG k-εが発表された1986年以降、定数の正当性をめぐる議論が研究コミュニティで続きました。Yakhotらの導出は数学的に厳密ではない近似を含むという批判があり、「理論的に導いたとは言えない」と指摘する研究者も少なくない。一方で実用上の精度改善は多くの実験と比較で確かめられており、「なぜ効くのかは完全には分からないが、効くのは事実」という状況が長く続いています。こういった「理論的根拠が曖昧でも実績がある」モデルを使う場面は工学CFDでは珍しくなく、ある意味で乱流モデリングの正直な姿とも言えます。
トラブルシューティング
トラブルシューティング
RNG k-εを使っていてハマりやすい問題を教えてください。
実務でよく遭遇する問題を整理しよう。
1. 壁関数の$y^+$違反
壁関数を使っているのに $y^+ < 10$ のセルがあると警告が出ます。
症状: 壁面近傍で渦粘性が不正確になり、壁面摩擦や熱伝達が狂う。
対策:
- メッシュの第1層高さを調整して $30 < y^+ < 300$ に収める
- FluentのEnhanced Wall Treatmentに切り替える($y^+$ に鈍感)
- OpenFOAMでは
nutUSpaldingWallFunctionを使う(全 $y^+$ 対応)
$y^+$ の事前推定: $y = \frac{y^+ \mu}{u_\tau \rho}$、$u_\tau \approx \sqrt{\tau_w/\rho} \approx U \sqrt{C_f/2}$
2. Round-jet anomaly
丸噴流の拡がり率が実験より大きく出ます。
原因: k-εモデル全般の問題。丸噴流と平面噴流で同じ $\varepsilon$ 方程式を使うと、丸噴流の拡がりを過大予測する。
対策:
- RNG k-εのR項で多少改善するが完全ではない
- FluentのSwirl修正を有効にする
- Pope補正($\varepsilon$ 方程式のソース項にvortex stretching項を追加)の利用
- より精度が必要ならRSMやLESを検討
3. 発散(Divergence)
計算開始直後にkやεが発散します。
原因と対策:
- 初期値が不適切: $k$ と $\varepsilon$ の初期値に物理的に妥当な値を設定。$k = 1.5(U I)^2$、$\varepsilon = C_\mu^{0.75} k^{1.5}/l$
- Under-Relaxation Factor (URF): デフォルト値(k: 0.7, ε: 0.7)から 0.3-0.5 に下げる
- kとεの下限値クリッピング: 各ソルバーで $k_{min}$、$\varepsilon_{min}$ が設定されている。極端に小さい値でゼロ除算が起きないか確認
- メッシュ品質: 歪んだセルで速度勾配が異常値を取りR項が暴走する
4. 逆流境界での不安定
出口境界に逆流があるとkが爆発します。
対策:
- 出口境界を十分下流に移動(入口条件の影響が消えるまで)
- Fluentでは「Backflow Turbulent Intensity」を適切に設定
- 圧力出口の代わりにOutflow条件を使う(完全発達流の仮定が成り立つ場合)
- 出口領域にバッファゾーン(メッシュを粗くした領域)を設ける
初期値とメッシュ品質が鍵なんですね。
k-εモデルは2方程式モデルの中では最もロバストだが、$\varepsilon$ の方程式は数値的に敏感だ。発散したらまず初期条件とURFを見直し、次にメッシュ品質、最後に境界条件を点検する。
高ひずみ域で負の渦粘性——RNG k-εの珍トラブル
RNG k-εの修正εソース項は高ひずみ域で負値を取ることがあり、その結果として実効渦粘性μ_tが負になるという奇妙な状況が生じることがあります。渦粘性が負になると拡散項が負符号になり、計算が指数的に発散します。この現象は急激な縮流・膨張を伴う高Reynolds数流れ(例えばエジェクタやジェット噴流)で報告されています。対処法はエプシロンソース項にリミッタを設けることですが、ソルバーによって実装が異なるため、マニュアルのlimiters設定をよく確認することが重要です。
「解析が合わない」と思ったら
- まず深呼吸——焦って設定をランダムに変えると、問題がさらに複雑になる
- 最小再現ケースを作る——RNG k-εモデルの問題を最も単純な形で再現する。「引き算のデバッグ」が最も効率的
- 1つだけ変えて再実行——複数の変更を同時に行うと、何が効いたか分からなくなる。科学実験と同じ「対照実験」の原則
- 物理に立ち返る——計算結果が「重力に逆らって物が浮く」ような非物理的な結果なら、入力データの根本的な間違いを疑う
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