垂直平板の自然対流
理論:温まった空気が板に沿って昇る
概要
ファンのない電源装置のケースを設計しています。側面の板からどれくらい熱が逃げるか見積もりたいです。
温かい板に触れた空気は軽くなって、板に沿って昇っていく。下から新しい冷たい空気が入ってきて、また温められる。この流れが自然対流で、板の下端から上へ向かって温度の境界層が厚くなっていくんだ。流れを起こす力が浮力だけなので流れは遅く、熱の運び方も強制対流よりずっと弱い。だから数字で押さえておくことが大事だよ。
レイリー数
$g$ は重力加速度、$\beta$ は体積膨張率(空気では絶対温度の逆数)、$\Delta T$ は板と周囲の温度差、$H$ は板の高さ、$\nu$ は動粘性係数、$\alpha$ は温度拡散率。浮力と粘性・熱拡散の比で、高さの3乗で効くのが特徴。約10⁹を超えると乱流へ移る。
Churchill–Chuの式
板全体で平均したヌッセルト数を、層流から乱流まで1つの式で与える。温度一定の板で、物性は板と周囲の平均温度(膜温度)で評価する。層流だけなら $\overline{Nu} = 0.59\,Ra^{1/4}$ という簡単な形もよく使われる。
暖房の放熱器から生まれた研究
垂直な板の自然対流は、20世紀初めから暖房用の放熱器や電気機器の冷却を背景に調べられてきた。1930年代には、板のそばの空気の温度と速度を細かく測り、境界層理論で説明する研究が行われた。その後、多くの実験データを1本の曲線にまとめたのが1975年のChurchillとChuの式で、層流から乱流まで使える手軽さから、今でも教科書と設計の標準になっている。「放熱器」と呼ばれる部屋の暖房器具も、実は熱の多くを放射ではなく自然対流で運んでいる。
計算例
例1:高さと温度差による熱伝達係数
周囲25 ℃の空気中で、温度一定の垂直平板についてChurchill–Chuの式で求めた(物性は膜温度で評価)。
| 温度差 | 高さ | レイリー数 | 熱伝達係数 | 熱流束 |
|---|---|---|---|---|
| 10 K | 0.05 m | 1.1×10⁵ | 5.0 W/(m²·K) | 50 W/m² |
| 10 K | 0.2 m | 7.0×10⁶ | 3.7 W/(m²·K) | 37 W/m² |
| 30 K | 0.05 m | 2.8×10⁵ | 6.5 W/(m²·K) | 194 W/m² |
| 30 K | 0.2 m | 1.8×10⁷ | 5.0 W/(m²·K) | 151 W/m² |
| 30 K | 1.0 m | 2.2×10⁹ | 4.3 W/(m²·K) | 129 W/m² |
| 60 K | 0.2 m | 2.9×10⁷ | 6.0 W/(m²·K) | 360 W/m² |
背の低い板のほうが熱伝達係数が大きいんですね。
層流では境界層が上へいくほど厚くなって、熱が通りにくくなるからね。平均の熱伝達係数は高さの−1/4乗に比例する。だから同じ面積なら、背の高い1枚の板より、背の低い板を横に並べたほうが少し有利。ただし、どれも3〜8 W/(m²·K)の範囲で、ファンで風を当てた場合の数十W/(m²·K)とは桁が違う。0.2 m角の板が温度差30 Kで出せる熱は、片面で約6 Wしかないんだ。
例2:乱流になる高さと境界層の厚さ
| 温度差 | Ra = 10⁹ になる高さ |
|---|---|
| 10 K | 1.05 m |
| 30 K | 0.76 m |
| 60 K | 0.65 m |
温度差30 Kの層流境界層の厚さは、下端から0.05 mの位置で約11 mm、0.2 mで約15 mm。板どうしの間隔がこの2倍より狭いと、両側の境界層がぶつかって流れが詰まり、熱伝達が落ちる。ヒートシンクのフィン間隔を決めるときの目安になる。
例3:放射との比較
| 温度差 | 放射(放射率0.9) | 自然対流(高さ0.2 m) |
|---|---|---|
| 10 K | 5.7 W/(m²·K) | 3.7 W/(m²·K) |
| 30 K | 6.3 W/(m²·K) | 5.0 W/(m²·K) |
| 60 K | 7.3 W/(m²·K) | 6.0 W/(m²·K) |
塗装した面(放射率0.9程度)では、放射が自然対流と同じかそれ以上の熱を運ぶ。磨いたアルミ(放射率0.05程度)では放射はほとんど効かない。ファンのない機器で表面を黒く塗装するのはこのためだ。
解析の進め方
CFDでの注意点
- 計算領域を広くとる:板の上に昇った温かい空気が境界から戻ってこないよう、上方と側方に十分な空間を置き、境界は周囲圧力で開放にする。
- 境界層を解像する:厚さ10 mm程度の境界層に、壁に垂直な方向で10層以上のセルを入れる。
- 浮力のモデル:温度差が小さければブシネスク近似でよいが、数十K以上では密度を温度の関数として与える。
- 放射を入れる:空気中の自然対流では放射を省略しない。
結果の確認
- まずChurchill–Chuの式で熱伝達係数を見積もり、CFDの平均値と比べる。
- 計算領域を広げても結果が変わらないことを確かめる。
- 熱の収支(発熱=対流+放射)が合っているか確かめる。
「箱に入れたら温度が上がった」
机の上では問題なかった基板を、通気口の小さい箱に入れたら10 K以上温度が上がった——自然対流ではよくある話だ。板のまわりの流れは、下から冷たい空気が入り、上から温かい空気が抜けることで成り立っている。入口と出口が小さいとこの流れが細り、箱の中に温かい空気がたまる。下に吸気口、上に排気口をとり、高さの差を大きくすると煙突効果で流れが強まる。解析では箱の外の空気まで含めて計算しないと、この効果は見えない。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 放射を省略 | 放熱量を半分近く過小評価 | 放射率を入れて計算 |
| 強制対流の熱伝達係数を使う | 温度を大きく過小評価 | 自然対流の式で3〜8 W/(m²·K)を確認 |
| 計算領域が狭い | 温かい空気が戻って温度が上がる | 上方を広くとり開放境界に |
| フィン間隔が狭すぎる | 境界層がぶつかり流れが詰まる | 境界層厚さの2倍程度を確保 |
| 物性を周囲温度で評価 | 数%の誤差 | 膜温度で評価 |
数値を変えて自分でも計算してみたいです。
自然対流シミュレーターとヌッセルト数の相関式ツールで熱伝達係数、グラスホフ数の計算で無次元数、フィン付きヒートシンク計算でフィンの効果を試せるよ。無次元数の意味はグラスホフ数とレイリー数、ほかの向きや形状は水平平板の自然対流と垂直流路の自然対流の記事にある。
なった
詳しく
報告