電気活性高分子(EAP)解析
概要
先生! 今日は電気活性高分子(EAP)解析の話なんですよね? どんなものなんですか?
理論:電極が引き合って膜をつぶす
概要
人工筋肉に使われる誘電エラストマーは、どういう仕組みで動くんですか?
ゴムのように柔らかい膜の両面に、膜と一緒に伸び縮みできる電極を塗る。電圧をかけると、両面にたまったプラスとマイナスの電荷が引き合い、膜を厚さ方向に押しつぶす。ゴムは体積がほとんど変わらないので、薄くなった分だけ面内に広がる。この押しつぶす圧力(マクスウェル応力)は電界の2乗に比例する。膜は非常に柔らかいので、圧電材料よりはるかに大きな変形が得られるが、そのために数十 V/μm という強い電界が必要になる。さらに、膜が薄くなると同じ電圧でも電界が強まり、圧力が増えるという正のフィードバックがあり、ある点で一気につぶれてしまう。これを見積もるのが連成解析の重要な役割だ。
マクスウェル応力と厚さのひずみ
t₀ は元の厚さ(50 μm)、Y はヤング率、s は厚さ方向の縮みの割合。小さいひずみの線形近似。
引き込み不安定
電圧一定で膜が薄くなる効果を入れた釣り合い。線形のばねでは s = 1/3 で解がなくなる。
ペルリンの大ひずみ
ゴムの膜が電圧で変形することは19世紀にレントゲンも観察していたが、実用的な大きさの変形が示されたのは2000年、SRIインターナショナルのペルリンらによる。彼らはあらかじめ引き伸ばしたアクリル系やシリコーンの膜で、面積が100%以上も広がることを報告した。その後、ジャオとスオらが大変形の理論で引き込み不安定を説明し、事前に引き伸ばすことで不安定を避けられる理由を明らかにした。
計算例
例1:厚さ50 μmの膜を縮めるのに必要な電圧
| 材料 | 比誘電率 | ヤング率 | 10%に必要な電界 | 10%の電圧(薄化込み) | 20%の電圧(薄化込み) |
|---|---|---|---|---|---|
| アクリル系 | 4.7 | 1.0 MPa | 49 V/μm | 2.21 kV | 2.77 kV |
| シリコーン | 2.8 | 1.0 MPa | 64 V/μm | 2.86 kV | 3.59 kV |
| ポリウレタン | 7.0 | 17 MPa | 166 V/μm | 7.45 kV | 9.37 kV |
例2:引き込み不安定の電圧(線形近似)
| 材料 | 不安定の電圧 | その時の電界 |
|---|---|---|
| アクリル系 | 2.98 kV | 89 V/μm |
| シリコーン | 3.87 kV | 116 V/μm |
| ポリウレタン | 10.1 kV | 302 V/μm |
10%縮めたときに蓄えられるひずみエネルギーは、ヤング率1 MPaの膜で5 kJ/m³、ポリウレタン(17 MPa)で85 kJ/m³。
20%縮めるのに2.8 kVで、3 kVでつぶれてしまうなら、使える範囲はかなり狭いですね。
線形のばねで考えるとそうなる。実際には2つの工夫で範囲を広げる。1つは、ゴムが大きく伸びると急に硬くなる性質を使うことで、硬くなれば電界による押しつぶしに耐えられる。もう1つは、膜をあらかじめ面内に大きく引き伸ばしてから使うことで、こうすると膜は最初から硬い領域にあり、不安定が起きにくくなる。そのうえ膜が薄くなって同じ電圧でも電界が強くなり、少ない電圧で大きく変形できる。こうした効果は線形の式では表せないので、解析では超弾性の材料モデル(ネオ・フックやオグデンなど)と電界の式を連成させ、大変形のもとで釣り合いと安定性を調べる。もう一つ注意すべきは絶縁破壊で、必要な電界が膜の絶縁耐力に近いので、つぶれる前に破壊することもある。
解析の進め方
- 膜の超弾性特性を、単軸と二軸の試験から合わせる。
- 電極を膜とともに変形する境界として扱い、マクスウェル応力を連成させる。
- 事前の引き伸ばしと枠の拘束を入れて、電圧を少しずつ上げる。
- 釣り合いの解がなくなる点(不安定)と、電界が絶縁耐力を超える点を確認する。
- 粘弾性による遅れやクリープを、動的な使い方では考慮する。
「計算より低い電圧で破れた膜」
ある誘電エラストマーのアクチュエータで、線形の式で決めた設計電圧より低い電圧で膜が局所的に薄くなり、穴が開いて壊れた。調べると、電極の端の近くで膜がほかより薄くなっており、そこで電界が強まって局所的な引き込み不安定が起きていた。超弾性モデルとの連成解析で、端の近くの変形の集中を再現できた。膜を事前に引き伸ばし、電極の端に電界を緩める工夫をすると、設計電圧まで安定に動くようになった。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 膜の薄化を無視 | 電界を過小評価 | 変形後の厚さで計算 |
| 線形材料で大変形 | 不安定を誤る | 超弾性モデル |
| 事前の引き伸ばしを入れない | 性能を過小評価 | 引き伸ばしを入れる |
| 絶縁破壊を見ない | つぶれる前に破壊 | 耐電界と比べる |
| 電極端の電界集中を無視 | 局所的な破れ | 端の形状を工夫 |
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