電磁超音波探触子(EMAT)解析
理論:試験体の表面に音源をつくる
概要
300 ℃の配管の肉厚を運転中に測りたいのですが、普通の超音波探触子は熱くて当てられません。EMATなら大丈夫ですか?
EMATの得意分野だね。普通の探触子は圧電素子の振動を、水やゲルの接触媒質を通して試験体に伝える。EMATはコイルに高周波の電流を流して試験体の表面に渦電流をつくり、そこに磁石の磁界をかける。渦電流が磁界から力(ローレンツ力)を受けて、表面そのものが振動の源になるんだ。接触も媒質も要らない。代わりに、変換の効率が低く、コイルと表面のすき間に敏感なのが弱点だよ。
ローレンツ力と表皮深さ
$\mathbf{J}_e$ は渦電流の密度、$\mathbf{B}_0$ は磁石の静磁界、$\delta$ は渦電流が流れる深さの目安(表皮深さ)。渦電流は表面から $\delta$ 程度に集まるので、力もその薄い層に生じる。強磁性体では磁歪による力も加わり、材料の磁気的な状態で効率が大きく変わる。
すき間(リフトオフ)の影響
$D$ はミアンダ(つづら折り)コイルなどの空間的な周期、$g$ はすき間。周期的な磁界は周期に比べた距離で指数関数的に弱まる。送信と受信の両方で効くので、dB数は2倍になる。これは周期的な成分の理想的な減衰の見積もりで、実際のコイルでは形状の影響も加わる。
鉄道のレールと製鉄所の熱い鋼板
電磁的に超音波を起こす現象は20世紀半ばから知られていたが、実用化が進んだのは1970年代以降だ。接触媒質が要らないため、製鉄所で圧延直後の数百℃の鋼板の厚さを測る、走る検査車からレールの傷を探す、といった『触れられない』対象で使われるようになった。強力な希土類磁石と、微弱な信号を拾う低雑音の増幅器の進歩が、効率の低さを補って実用の範囲を広げた。
計算例
例1:表皮深さと波長
| 材料 | 周波数 | 表皮深さ | 横波の波長 | 比 |
|---|---|---|---|---|
| アルミ | 2 MHz | 0.060 mm | 1.55 mm | 0.04 |
| オーステナイト系ステンレス | 2 MHz | 0.30 mm | 1.55 mm | 0.19 |
| 炭素鋼(比透磁率100と仮定) | 2 MHz | 0.015 mm | 1.61 mm | 0.009 |
| オーステナイト系ステンレス | 0.5 MHz | 0.60 mm | 6.2 mm | 0.10 |
多くの場合、表皮深さは波長の数%〜十数%で、力は表面に集中していると考えてよい。ただし導電率の低いステンレスでは波長の2割近くになり、力の深さ方向の分布を入れたほうが正確になる。炭素鋼は透磁率が磁界の強さで大きく変わるので、表皮深さも磁石の条件によって変わる。
例2:すき間による感度の低下
| すき間 | コイル周期6 mm | コイル周期3 mm |
|---|---|---|
| 0.2 mm | −3.6 dB | −7.3 dB |
| 0.5 mm | −9.1 dB | −18.2 dB |
| 1.0 mm | −18.2 dB | −36.4 dB |
| 2.0 mm | −36.4 dB | −72.8 dB |
1 mm離れるだけで信号が1/8になるんですね。高温の配管には保護材を挟みたいのですが…。
保護材の厚さはそのまますき間になるから、厚さと感度のかね合いになる。コイルの周期を大きくすればすき間の影響は小さくなるけど、周期は発生させたい波の波長と結びついているので自由には選べない。表面の酸化皮膜や凹凸、配管の曲率もすき間を変えるから、解析では最悪のすき間で信号が雑音に埋もれないかを確かめる。温度が上がると磁石の磁力も下がるので、磁石の温度管理も合わせて考えよう。
解析の進め方
手順
- 磁石の静磁界を解く。強磁性体の試験体では、磁化の状態と透磁率を求める。
- コイルの高周波電流による渦電流を、表皮深さを数層のメッシュで分けて解く。
- ローレンツ力(と磁歪の力)を求め、弾性波の解析に表面の力として渡す。
- 弾性波の解析で、欠陥や底面からの反射を求める。1波長に10〜20点以上のメッシュを入れる。
- 受信は逆の過程として、表面の振動からコイルの電圧を求める。
「同じ鋼なのに信号の大きさが違う」
同じ材質の炭素鋼の配管で、場所によってEMATの信号の大きさが倍以上違う、ということがある。炭素鋼では磁歪による力がローレンツ力と同じくらい効き、その大きさは材料の残留磁化や応力、組織によって変わるからだ。溶接部の近くや、以前に磁粉探傷で磁化された場所では特に変わりやすい。肉厚の測定では信号の到達時間を使うので大きさの違いは問題になりにくいが、欠陥の大きさを信号の強さで推定する場合は、この変動を見込んでおく必要がある。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 表皮深さを粗いメッシュで | 力の大きさを誤る | 表皮深さに数層 |
| すき間を理想値で評価 | 実機で信号が足りない | 最悪のすき間で確認 |
| 強磁性体で磁歪を無視 | 効率を大きく誤る | 磁歪の力を加える |
| 弾性波のメッシュが粗い | 波形がくずれる | 1波長10〜20点以上 |
| 磁石の温度特性を無視 | 高温で感度低下 | 温度での磁力を評価 |
弾性波や表皮深さを自分でも試したいです。
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