ダイポールアンテナの理論・数値解析・実践ガイド
理論:線を流れる電流が電波を出す
概要
アンテナの教科書にはいつも最初にダイポールが出てきますが、実際の製品でもそんなに使われているんですか?
形を変えてたくさん使われているよ。2本の線を一直線に並べて真ん中から給電するのがダイポールで、半波長の長さにすると入力抵抗が約73 Ωになって給電線と整合しやすい。テレビの八木アンテナの給電部、無線LANのルーターの棒状アンテナの中身、基板の上に印刷した線状のアンテナも、多くはダイポールかその変形だ。どんなアンテナを解析するときも、ダイポールの値が正しく出るかでソルバーの設定を確かめられるから、基準としても大事なんだ。
放射パターン
線に沿って正弦波の形の電流が流れると仮定したときの遠方の電界。$\theta$ は線の軸からの角度、$k = 2\pi/\lambda$、$L$ は全長。線の真横($\theta$ = 90°)に最も強く出て、軸の方向には出ない、ドーナツ形のパターンになる。
放射抵抗と指向性
$P_{rad}$ は放射される全電力で、パターンを全方向で積分して求める。$R_{rad}$ は電流の最大値 $I_0$ に対する放射抵抗、$D$ は最も強い方向の強さを全方向の平均で割った指向性。給電点が電流の最大の位置にない長さでは、入力抵抗は $R_{rad}$ と異なる。
ヘルツの実験装置はダイポールだった
1887〜88年、ヘルツは2本の金属棒の間に火花を飛ばして電磁波を出し、離れた場所の輪の小さなすき間に火花が飛ぶことで受信を確かめた。この送信側の装置が、まさにダイポールアンテナだった。マクスウェルが理論で予言した電磁波が実在することを示した実験で、周波数の単位ヘルツの由来でもある。本人は『これは何の役にも立たない』と語ったと伝えられるが、わずか十数年後にはマルコーニが大西洋を越える無線通信に成功している。
計算例
例1:長さによる変化
細い線、正弦波の電流分布として、放射パターンを数値積分して求めた。
| 全長 | 入力抵抗 | 指向性 |
|---|---|---|
| 0.1波長 | 2.0 Ω | 1.50 (1.78 dBi) |
| 0.5波長 | 73.1 Ω | 1.64 (2.15 dBi) |
| 1.0波長 | 非常に大きい(給電点で電流0) | 2.41 (3.82 dBi) |
| 1.25波長 | 213 Ω | 3.28 (5.16 dBi) |
| 1.5波長 | 105 Ω | 2.23 (3.48 dBi) |
短いダイポールでも指向性はあまり変わらないんですね。
そう、0.1波長でも1.78 dBiで、半波長の2.15 dBiとほとんど同じ。パターンの形はあまり変わらないんだ。変わるのは入力抵抗で、0.1波長では約2 Ωしかない。放射抵抗が小さいと、整合回路や導体のわずかな損失でも効率が大きく落ちる。1.25波長で指向性が最大の5.16 dBiになり、それより長くするとビームが割れて下がる。長くすれば利得が上がる、というわけではないんだ。
例2:短いダイポールの効率
10 MHz(波長30 m)で長さ3 m(0.1波長)、半径1 mmの銅線のダイポールでは、放射抵抗1.97 Ωに対し、表皮効果を考えた導体の損失抵抗は約0.13 Ωで、効率は約94%。導体だけなら悪くないが、実際には入力のリアクタンスを打ち消すコイルの損失が加わり、効率はずっと下がることが多い。小型アンテナの設計は、この損失との戦いになる。
例3:実際の共振長
| 周波数 | 半波長 | 共振長の目安(0.47〜0.48波長) |
|---|---|---|
| 433 MHz | 346 mm | 326–333 mm |
| 2.4 GHz | 62.5 mm | 59–60 mm |
線が太いほど端効果が大きく、共振長は短くなる。基板に印刷したアンテナでは、基板の誘電体の影響でさらに短くなる。最終的な長さは、電磁界解析で入力インピーダンスを求めて決め、試作で合わせ込む。
解析の進め方
解析の手法と注意点
- モーメント法:線状のアンテナには、線を細かく分けて電流を求めるモーメント法が効率的。半波長ダイポールの73 Ω前後が出るかで設定を確かめる。
- 給電部のモデル:給電のすき間の大きさで入力インピーダンスが変わる。すき間は線の太さ程度に小さくする。
- 周りの物:筐体、ケーブル、人体、地面はパターンと共振を大きく変える。実際の取り付け状態で解析する。
- バラン:ダイポールは平衡型なので、同軸ケーブルでそのまま給電すると外側に電流が流れてパターンが崩れる。
「ケーブルもアンテナになっていた」
ダイポールの測定で、ケーブルを動かすたびに入力インピーダンスや放射パターンが変わる——同軸ケーブルの外側に電流が漏れて、ケーブル自体がアンテナの一部になっているときの典型的な症状だ。ダイポールは左右対称に電流を流す平衡型のアンテナだが、同軸ケーブルは片側が外にある不平衡型で、そのままつなぐと釣り合いが崩れる。バラン(平衡・不平衡の変換器)やフェライトのコアを給電点の近くに入れると改善する。解析でもケーブルを含めると、この現象を再現できる。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| ちょうど半波長で作る | 共振が低い周波数にずれる | 0.47〜0.48波長から調整 |
| 長いほど利得が上がると考える | ビームが割れる | パターンで確認 |
| 短いダイポールの損失を無視 | 効率を過大評価 | 整合回路の損失も入れる |
| 同軸で直接給電 | ケーブルが放射 | バランを入れる |
| 自由空間だけで解析 | 取り付け後に特性が変わる | 筐体・地面を含める |
アンテナの計算を自分でも試したいです。
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