TDR解析によるPCBシグナルインテグリティ評価
理論:反射からインピーダンスを読む
概要
高速信号の基板で、TDRの測定とシミュレーションのビアのインピーダンスが合いません。どちらかが間違っているんでしょうか?
どちらも正しいかもしれない。TDRは速いステップを入れて、インピーダンスが変わる場所からの反射を時間で見る方法だ。長い配線なら、反射の大きさからインピーダンスがそのまま読める。でもビアのように、ステップの立ち上がりの間に通り過ぎてしまう短い不連続は、立ち上がり時間でぼやけて見える。つまり、同じビアでも、立ち上がり時間が違うTDRでは違うインピーダンスに見えるんだ。比べるときは、測定と計算の立ち上がり時間をそろえることが大事だよ。
反射係数と分解能
$\Gamma$ はインピーダンスが $Z_1$ から $Z_2$ に変わる所での反射係数、$\rho(t)$ はTDRで測る反射の割合、$t_r$ はステップの立ち上がり時間、$\varepsilon_{eff}$ は実効比誘電率。
短い容量性の不連続
並列の寄生容量 $C$ による反射の深さは、立ち上がり時間に反比例する。立ち上がりが速いほど、同じビアが深い落ち込みとして見える。
ケーブルの故障探しから基板へ
反射を使って伝送線路の異常の場所を探す考え方は、電信や電話のケーブルの故障探しにさかのぼる。レーダーの技術が発達した第二次世界大戦後、速いパルスで反射を時間で測る装置が作られ、1960年代にはサンプリングオシロスコープと組み合わせたTDRが実用になった。デジタル回路の速度が上がり、基板の配線そのものが伝送線路として振る舞うようになると、TDRは基板のインピーダンスの管理に欠かせない道具になった。いまは電磁界シミュレーションで同じ波形を計算し、測定と突き合わせるのが普通だ。
計算例
例1:マイクロストリップ線路
FR-4(比誘電率4.3)、誘電体の厚さ0.2 mm、銅の厚さは無視した簡単な式で求めた。
| 配線の幅 | 特性インピーダンス | 実効比誘電率 | 伝わる速さ |
|---|---|---|---|
| 0.20 mm | 71.5 Ω | 3.11 | 1.70×10⁸ m/s |
| 0.35 mm | 53.5 Ω | 3.24 | 1.67×10⁸ m/s |
| 0.50 mm | 42.9 Ω | 3.34 | 1.64×10⁸ m/s |
幅0.35 mmの配線の途中が0.2 mmに細くなると、反射係数は0.145。分解能の目安は立ち上がり35 psで2.9 mm、100 psで8.3 mm。
例2:0.3 pFのビアの見え方
| 立ち上がり時間 | 反射の最小値(式) | 反射の最小値(時間の計算) | 見かけのインピーダンス |
|---|---|---|---|
| 35 ps | −0.214 | −0.212 | 32.5 Ω |
| 100 ps | −0.075 | −0.075 | 43.0 Ω |
同じビアなのに、32 Ωにも43 Ωにも見えるんですね。どちらが本当ですか?
ビアに『1つのインピーダンス』はないと考えたほうがいい。ビアは短すぎて、寄生容量0.3 pFという性質しか持っていない。TDRで見えるインピーダンスの落ち込みは、その容量と立ち上がり時間の組み合わせで決まる。大事なのは、実際に流れる信号の立ち上がり時間で、どれだけの反射が出るかだ。信号の立ち上がりが100 psなら、35 psのTDRの32 Ωを見て慌てる必要はない。シミュレーションと測定を比べるときは、計算にも同じ立ち上がり時間のフィルターをかけよう。
評価の進め方
- 基板の層構成(厚さ・誘電率・銅の厚さ)から配線のインピーダンスを計算する。
- ビア・コネクター・パッドを含めて3次元の電磁界解析でSパラメータを求める。
- Sパラメータから、実際の信号の立ち上がり時間でTDRの波形を計算する。
- 試作基板のTDR測定と、同じ立ち上がり時間で比べる。
- 反射の大きな所をアイダイアグラムでも確かめ、配線の形や層構成を見直す。
「製造後に全部5 Ω高い」
設計どおり50 Ωで作った基板をTDRで測ったら、どの配線も55 Ω前後だった——という例がある。調べると、エッチングで配線の幅が設計より細くなり、しかも断面が台形になっていた。さらに、基板の材料の比誘電率が、カタログの1 MHzの値より高い周波数では少し低かった。実際の幅と台形の断面、周波数に応じた誘電率を入れて計算し直すと、測定とよく合った。インピーダンスの計算では、設計の寸法だけでなく製造後の形と材料のデータを使うことが大事だ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 立ち上がり時間をそろえずに比較 | 見かけの不一致 | 同じ立ち上がりでフィルター |
| 短い不連続の値をそのまま読む | 影響の過大・過小評価 | 容量・インダクタンスで評価 |
| 設計の寸法で計算 | 製造後と合わない | 実際の断面形状 |
| 誘電率を1 MHzの値で | 高周波でずれる | 周波数に応じた値 |
| 多重反射を無視 | 後ろの不連続を誤読 | 層ごとに分離して解析 |
関連する計算を試したいです。
関連トピック
なった
詳しく
報告