TDR解析によるPCBシグナルインテグリティ評価

カテゴリ: 電磁気・シグナルインテグリティ | 2026-10-01 改稿
TDR impedance profile showing via discontinuity and connector parasitic on PCB trace
TDR波形によるPCB配線のインピーダンスプロファイル。ビアやコネクタの不連続がステップ応答の反射として可視化される。

理論:反射からインピーダンスを読む

概要

🙋

高速信号の基板で、TDRの測定とシミュレーションのビアのインピーダンスが合いません。どちらかが間違っているんでしょうか?

🎓

どちらも正しいかもしれない。TDRは速いステップを入れて、インピーダンスが変わる場所からの反射を時間で見る方法だ。長い配線なら、反射の大きさからインピーダンスがそのまま読める。でもビアのように、ステップの立ち上がりの間に通り過ぎてしまう短い不連続は、立ち上がり時間でぼやけて見える。つまり、同じビアでも、立ち上がり時間が違うTDRでは違うインピーダンスに見えるんだ。比べるときは、測定と計算の立ち上がり時間をそろえることが大事だよ。

反射係数と分解能

$$ \Gamma = \frac{Z_2 - Z_1}{Z_2 + Z_1}, \qquad Z(t) = Z_0\,\frac{1 + \rho(t)}{1 - \rho(t)}, \qquad \Delta x \approx \frac{v\,t_r}{2},\ \ v = \frac{c}{\sqrt{\varepsilon_{eff}}} $$

$\Gamma$ はインピーダンスが $Z_1$ から $Z_2$ に変わる所での反射係数、$\rho(t)$ はTDRで測る反射の割合、$t_r$ はステップの立ち上がり時間、$\varepsilon_{eff}$ は実効比誘電率。

短い容量性の不連続

$$ \rho_{min} \approx -\frac{Z_0\,C}{2\,t_r} \quad (t_r \gg Z_0 C/2) $$

並列の寄生容量 $C$ による反射の深さは、立ち上がり時間に反比例する。立ち上がりが速いほど、同じビアが深い落ち込みとして見える。

Coffee Break よもやま話

ケーブルの故障探しから基板へ

反射を使って伝送線路の異常の場所を探す考え方は、電信や電話のケーブルの故障探しにさかのぼる。レーダーの技術が発達した第二次世界大戦後、速いパルスで反射を時間で測る装置が作られ、1960年代にはサンプリングオシロスコープと組み合わせたTDRが実用になった。デジタル回路の速度が上がり、基板の配線そのものが伝送線路として振る舞うようになると、TDRは基板のインピーダンスの管理に欠かせない道具になった。いまは電磁界シミュレーションで同じ波形を計算し、測定と突き合わせるのが普通だ。

計算例

例1:マイクロストリップ線路

FR-4(比誘電率4.3)、誘電体の厚さ0.2 mm、銅の厚さは無視した簡単な式で求めた。

配線の幅特性インピーダンス実効比誘電率伝わる速さ
0.20 mm71.5 Ω3.111.70×10⁸ m/s
0.35 mm53.5 Ω3.241.67×10⁸ m/s
0.50 mm42.9 Ω3.341.64×10⁸ m/s

幅0.35 mmの配線の途中が0.2 mmに細くなると、反射係数は0.145。分解能の目安は立ち上がり35 psで2.9 mm、100 psで8.3 mm。

例2:0.3 pFのビアの見え方

立ち上がり時間反射の最小値(式)反射の最小値(時間の計算)見かけのインピーダンス
35 ps−0.214−0.21232.5 Ω
100 ps−0.075−0.07543.0 Ω
🙋

同じビアなのに、32 Ωにも43 Ωにも見えるんですね。どちらが本当ですか?

🎓

ビアに『1つのインピーダンス』はないと考えたほうがいい。ビアは短すぎて、寄生容量0.3 pFという性質しか持っていない。TDRで見えるインピーダンスの落ち込みは、その容量と立ち上がり時間の組み合わせで決まる。大事なのは、実際に流れる信号の立ち上がり時間で、どれだけの反射が出るかだ。信号の立ち上がりが100 psなら、35 psのTDRの32 Ωを見て慌てる必要はない。シミュレーションと測定を比べるときは、計算にも同じ立ち上がり時間のフィルターをかけよう。

評価の進め方

  1. 基板の層構成(厚さ・誘電率・銅の厚さ)から配線のインピーダンスを計算する。
  2. ビア・コネクター・パッドを含めて3次元の電磁界解析でSパラメータを求める。
  3. Sパラメータから、実際の信号の立ち上がり時間でTDRの波形を計算する。
  4. 試作基板のTDR測定と、同じ立ち上がり時間で比べる。
  5. 反射の大きな所をアイダイアグラムでも確かめ、配線の形や層構成を見直す。
Coffee Break よもやま話

「製造後に全部5 Ω高い」

設計どおり50 Ωで作った基板をTDRで測ったら、どの配線も55 Ω前後だった——という例がある。調べると、エッチングで配線の幅が設計より細くなり、しかも断面が台形になっていた。さらに、基板の材料の比誘電率が、カタログの1 MHzの値より高い周波数では少し低かった。実際の幅と台形の断面、周波数に応じた誘電率を入れて計算し直すと、測定とよく合った。インピーダンスの計算では、設計の寸法だけでなく製造後の形と材料のデータを使うことが大事だ。

よくある間違い

間違いと対策

間違い起きること対策
立ち上がり時間をそろえずに比較見かけの不一致同じ立ち上がりでフィルター
短い不連続の値をそのまま読む影響の過大・過小評価容量・インダクタンスで評価
設計の寸法で計算製造後と合わない実際の断面形状
誘電率を1 MHzの値で高周波でずれる周波数に応じた値
多重反射を無視後ろの不連続を誤読層ごとに分離して解析
🙋

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