矩形板のNavier解(4辺単純支持)
理論:二重フーリエ級数による厳密解
概要
シェル要素のFEMモデルを作ったんですが、結果が正しいか確かめる方法はありますか?
板の曲げなら、まずNavier解と比べるのが定番だよ。4辺を単純支持した矩形板に等分布荷重をかけた問題は、1820年にナヴィエが二重フーリエ級数で厳密に解いている。答えがはっきりわかっているから、要素の種類、メッシュの細かさ、境界条件の与え方が正しいかを一度に確かめられる。実務のモデルに入る前の「腕試し」にちょうどいいんだ。
支配方程式と解
キルヒホッフの薄板理論による。$D$ は曲げ剛性、$h$ は板厚。辺長 $a \times b$、4辺単純支持で等分布荷重 $q_0$ のとき、sin の積で境界条件が自動的に満たされ、解は次の級数になる($m, n$ は奇数のみ)。
係数表(ポアソン比0.3)
| 辺長比 b/a | たわみ係数 α | モーメント係数 β(短辺方向) |
|---|---|---|
| 1.0 | 0.00406 | 0.0479 |
| 1.5 | 0.00772 | 0.0812 |
| 2.0 | 0.01013 | 0.1017 |
| 3.0 | 0.01223 | 0.1189 |
$a$ は短辺。辺長比が大きくなると、短辺方向に架け渡した梁($\alpha = 5/384 \approx 0.01302$、$\beta = 1/8$)に近づいていく。
ナヴィエは橋を架けようとしていた
クロード=ルイ・ナヴィエは、流体のナヴィエ–ストークス方程式で知られるが、本業は橋梁技術者だった。1820年の板の解析もその延長にある。一方で彼がパリのセーヌ川に計画した吊り橋は、完成間近の1826年に基礎の不具合をきっかけに撤去されてしまった。理論の正確さと実物の成功は別物だという教訓として、今も語られることがある。解析解は「モデルが正しく作れているか」を確かめる道具であって、「設計が安全か」を保証するものではない。
計算例:級数の収束とメッシュの収束
何項とれば足りるか
| とった項(m, n の上限) | たわみ係数 α | モーメント係数 β |
|---|---|---|
| 1 | 0.004161 (+2.4 %) | 0.05338 (+11.5 %) |
| 3 | 0.004055 | 0.04692 |
| 5 | 0.004064 | 0.04823 |
| 9 | 0.004062 | 0.04797 |
| 19 | 0.004062 | 0.04788 |
| 収束値 | 0.004062 | 0.04789 |
たわみは5項くらいで決まるのに、モーメントはなかなか落ち着かないんですね。
モーメントはたわみを2回微分した量だから、各項に $m^2$ や $n^2$ が掛かって高次の項の寄与が大きくなるんだ。せん断力は3回微分だからもっと遅い。これはFEMでも同じで、同じメッシュでもたわみは合っているのに応力はまだ収束していない、ということがよく起きる。検証では必ず「たわみ」と「応力」の両方を比べよう。
鋼板の例
1 m × 1 m、板厚10 mm の鋼板($E = 206$ GPa、$\nu = 0.3$)に5 kPa の等分布荷重をかけると、$D \approx 18{,}900$ N·m、中央のたわみは約1.08 mm(板厚の11%)、最大曲げ応力は約14 MPa。たわみが板厚に比べて十分小さいので、線形の薄板理論が使える範囲にある。
差分法によるメッシュ収束の例
単純支持の板は、2つのポアソン方程式に分けて解ける。正方形板を $N \times N$ の格子の差分法で解き、中央のたわみ係数を収束値と比べた。
| 格子 | たわみ係数 α | 誤差 |
|---|---|---|
| 4 × 4 | 0.004028 | −0.84 % |
| 8 × 8 | 0.004055 | −0.19 % |
| 16 × 16 | 0.004061 | −0.04 % |
| 32 × 32 | 0.004062 | −0.01 % |
格子を2倍にするごとに誤差がほぼ1/4になっていて、2次精度の手法として期待どおりに収束している。FEMでも、3段階以上のメッシュで誤差の減り方を確かめると、要素が正しく働いているかがわかる。
FEMと比較するときの注意
単純支持の与え方
- 縁に沿って面外変位 $w = 0$ だけを拘束する。縁の回転まで拘束すると固定支持になり、たわみは約0.3倍まで小さくなってしまう。
- 面内変位は剛体移動を止める最小限だけ拘束する。縁全体の面内変位を止めると、たわみに伴って膜力が生じ、特に大きなたわみで結果がずれる。
- Navier解では四隅に下向きの集中反力が生じ、支えがなければ隅が浮き上がる。FEMで支点を圧縮のみの接触にすると隅が浮き、解と一致しなくなる。
要素と板厚の選び方
- せん断ロッキング:完全積分の1次要素は薄い板で硬くなりすぎ、たわみを大きく過小評価する。低減積分要素やロッキング対策のある要素を使う。
- 厚い板:Navier解は薄板理論なので、板厚が辺長の1/10を超えるとせん断変形の分だけFEM(ミンドリン理論)のたわみが大きくなる。比較には板厚の薄いモデルを使う。
- 大たわみ:たわみが板厚の数割を超えると膜作用で実際のたわみは線形解より小さくなる。線形解析どうしで比べ、非線形の効果は別に評価する。
検証の手順
- 板厚を辺長の1/100程度にした正方形板を作り、4辺で $w = 0$ のみ拘束、等分布荷重をかける。
- 3段階以上のメッシュで、中央のたわみと曲げモーメント(または表面応力)を係数表と比べる。
- たわみと応力の両方が1〜2%以内に収束することを確認してから、同じ要素・メッシュ密度を実務のモデルに使う。
「応力が合わない」の多くは評価位置のずれ
シェル要素の応力は、要素の中心や積分点で計算され、節点の値は周囲の要素から平均して作られることが多い。板の中央にちょうど節点がないメッシュや、表示を節点平均にしたまま比べると、同じモデルでも数%の差が出る。係数表の $\beta$ は板の中央、板の表面での値なので、比較するときは位置(中央)と面(上面か下面か)、そして表示の平均方法をそろえることが大切だ。
よくある間違い
間違いと対策
| 間違い | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 縁の回転も拘束する | 固定支持になり、たわみが約0.3倍 | $w = 0$ のみ拘束 |
| 完全積分の1次要素 | せん断ロッキングで過剛 | 低減積分・ロッキング対策要素 |
| たわみだけで収束を判断 | 応力が未収束のまま | 応力も3段階のメッシュで確認 |
| 厚い板で比較 | せん断変形の分だけずれる | 板厚を辺長の1/100程度に |
| ポアソン比の違う係数表を使う | モーメントが数%ずれる | 材料と同じ $\nu$ で係数を計算 |
ほかの検証用の問題も知りたいです。
軸対称なら円板の曲げ、1次元なら単純支持梁の等分布荷重が同じように使えるよ。板の座屈は平板の座屈・臨界応力計算、積層板の剛性は複合材料積層板シミュレーターで試せる。
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