横座屈(曲げねじり座屈) — 理論と支配方程式

カテゴリ: 構造解析 | 2026-01-15
lateral-torsional-theory
理論と物理の世界へ

横座屈とは何か

🧑‍🎓

先生、「横座屈」って柱の座屈とは違うんですか?


🎓

全く違う。柱の座屈は圧縮力で起きるが、横座屈(lateral-torsional buckling, LTB)は曲げモーメントで起きる。梁の曲げ問題で発生する座屈だ。


🧑‍🎓

曲げで座屈? 梁が折れるのとは違うんですか?


🎓

違う。曲げを受けるH形鋼の梁を想像してみよう。曲げモーメントにより、上フランジに圧縮、下フランジに引張が生じる。この圧縮フランジが横方向に逃げようとするのが横座屈だ。同時にねじり変形も伴うから「曲げねじり座屈」とも呼ぶ。


🧑‍🎓

あ、圧縮フランジだけが座屈するんですか。引張フランジは安定している?


🎓

その通り。引張フランジは安定だが、圧縮フランジが横に倒れようとする。その結果、梁全体が横方向のたわみとねじり角の複合変形を起こす。これが横座屈の基本的なメカニズムだ。


支配方程式

🧑‍🎓

横座屈の数式はどうなりますか?


🎓

等モーメントを受ける両端単純支持(横方向とねじりが拘束)のH形鋼梁の弾性横座屈モーメントは:


$$ M_{cr} = \frac{\pi}{L} \sqrt{EI_z GJ + \left(\frac{\pi E}{L}\right)^2 I_z C_w} $$

ここで:

  • $I_z$ — 弱軸まわりの断面二次モーメント
  • $GJ$ — サン・ブナンねじり剛性
  • $C_w$ — ワーピング定数(そり拘束ねじり剛性)
  • $L$ — 横拘束間距離

🧑‍🎓

$I_z$ と $GJ$ と $C_w$ の3つが入っている…。柱座屈の $EI$ だけの式より複雑ですね。


🎓

横座屈は横方向の曲げ($EI_z$)ねじり($GJ + \pi^2 EC_w/L^2$)の2つの抵抗メカニズムが連成する問題だからだ。ねじり剛性が高い断面(箱形断面など)は横座屈しにくい。


横座屈に影響する要因

🧑‍🎓

どんな梁が横座屈しやすいんですか?


🎓

主要な因子を整理しよう。


因子横座屈しやすい横座屈しにくい
断面形状開断面(H形鋼、I形鋼)閉断面(箱形、円形)
横拘束間距離 $L$長い短い
フランジ幅/梁せい比小さい(細長い断面)大きい
荷重の作用位置上フランジ荷重下フランジ荷重
モーメント分布等モーメント逆対称モーメント
🧑‍🎓

荷重が上フランジか下フランジかで違うんですか?


🎓

大きく違う。上フランジ荷重は圧縮フランジに直接荷重が作用するため、横座屈を助長する。一方、下フランジ荷重(引張フランジ荷重)は横座屈を抑制する。この効果は荷重作用点の偏心として $M_{cr}$ の式に反映される。


モーメント修正係数 $C_b$

🧑‍🎓

モーメントの分布によって横座屈荷重が変わるんですよね。


🎓

等モーメント($M_1 = M_2$)が最も厳しいケースで、不等モーメントでは横座屈荷重が上がる。この効果を表すのがモーメント修正係数 $C_b$ だ。


$$ M_{cr,actual} = C_b \cdot M_{cr,uniform} $$

代表的な $C_b$ 値:


モーメント分布$C_b$
等モーメント1.0(基準)
一端モーメント(三角形)1.75
中央集中荷重1.32
等分布荷重1.14
逆対称(ダブルカーバチャー)2.27
🧑‍🎓

逆対称モーメントだと2.27倍も座屈しにくくなる! かなり大きな効果ですね。


🎓

逆対称ではモーメントの向きが途中で変わるから、圧縮フランジが切り替わる。これにより横方向の変形が抑制される。$C_b$ を正しく適用することで、過剰な設計を避けられる。


非弾性横座屈

🧑‍🎓

断面が降伏している場合の横座屈はどうなりますか?


🎓

弾性横座屈の $M_{cr}$ が塑性モーメント $M_p$ に近いか超える場合は、非弾性横座屈の領域だ。材料の塑性化により剛性が低下し、弾性横座屈式より低い荷重で座屈する。


🎓

設計コードでは3つの領域に分類する:


1. 塑性域 — 十分に短い梁。$M_R = M_p$。横座屈は起きない

2. 非弾性横座屈域 — 中間の長さ。$M_p > M_R > 0.7 M_p$ 程度

3. 弾性横座屈域 — 長い梁。$M_R = M_{cr}$


🧑‍🎓

オイラー座屈の細長比による分類と同じ構造ですね。


🎓

まさに同じ。横座屈の「細長比」に相当するのが $\bar{\lambda}_{LT} = \sqrt{M_p / M_{cr}}$ だ。これが小さい(太短い梁)と塑性域、大きい(細長い梁)と弾性横座屈域になる。


まとめ

🧑‍🎓

横座屈の理論、整理します。


🎓

要点:


  • 横座屈は曲げモーメントによる座屈 — 圧縮フランジの横方向不安定
  • 横曲げとねじりの連成問題 — $EI_z$, $GJ$, $C_w$ の3つの剛性が関与
  • $C_b$ で実際のモーメント分布を反映 — 等モーメントが最も厳しい
  • 荷重作用位置の影響 — 上フランジ荷重は危険側
  • 弾性/非弾性/塑性の3領域 — 横座屈細長比で分類

🧑‍🎓

開断面の梁を使うときは、圧縮フランジの横拘束が設計の鍵なんですね。


🎓

その通り。鉄骨造の梁にスラブが載っている場合、スラブが上フランジの横拘束になって横座屈を防止する。逆に地震時に下フランジが圧縮になると横拘束がなくなるから、横座屈が問題になる。実構造では「どちらのフランジが圧縮か」が常に重要だ。


Coffee Break よもやま話

NASAとNASTRAN — FEMの夜明け

今や世界中で使われている有限要素法ソルバー「NASTRAN」は、1960年代にNASAが開発しました。アポロ計画でロケットの構造解析が必要だったのです。当時のコンピュータはメモリ数KBの時代——今のスマートフォンの100万分の1以下の性能で、人類を月に送る構造計算をしていたのです。

各項の物理的意味
  • 慣性項(質量項):$\rho \ddot{u}$、つまり「質量×加速度」。急ブレーキで体が前に投げ出された経験はありませんか? あの「持っていかれる感じ」がまさに慣性力です。重い物体ほど動き出しにくく、動き出したら止まりにくい。地震で建物が揺れるのも、地面が急に動いたのに建物の質量が「置いていかれる」から。静解析ではこの項をゼロにしますが、それは「ゆっくり力をかけるから加速度は無視できる」という仮定です。衝撃荷重や振動問題では絶対に省略できません。
  • 剛性項(弾性復元力):$Ku$ や $\nabla \cdot \sigma$。ばねを引っ張ると「戻ろうとする力」を感じますよね? あれがフックの法則 $F=kx$ であり、剛性項の本質です。では質問——鉄の棒とゴム紐、同じ力で引っ張るとどちらが伸びるでしょうか? 当然ゴムです。この「伸びにくさ」がヤング率 $E$ であり、剛性を決めます。よくある勘違い:「剛性が高い=強い」ではありません。剛性は「変形しにくさ」、強度は「壊れにくさ」で、別の概念です。
  • 外力項(荷重項):体積力 $f_b$(重力など)と表面力 $f_s$(圧力、接触力など)。こう考えてみてください——橋の上のトラックの重さは「中身全体にかかる力」(体積力)、タイヤが路面を押す力は「表面だけにかかる力」(表面力)。風圧、水圧、ボルトの締付力…すべて外力です。ここでありがちな失敗:荷重の方向を間違える。「引張」のつもりが「圧縮」になっていた——笑い話に聞こえますが、3D空間で座標系が回転していると実際に起こります。
  • 減衰項:レイリー減衰 $C\dot{u} = (\alpha M + \beta K)\dot{u}$。ギターの弦を弾いてみてください。音は鳴り続けますか? いいえ、徐々に小さくなりますよね。振動エネルギーが空気抵抗や弦の内部摩擦で熱に変わるからです。車のショックアブソーバーも同じ原理——わざと振動エネルギーを吸収して乗り心地を良くしています。もし減衰がゼロだったら? 建物は地震の後いつまでも揺れ続けることになります。実際にはそうならないので、適切な減衰の設定が重要です。
仮定条件と適用限界
  • 連続体仮定:材料を連続的な媒質として扱い、ミクロな不均質性を無視する
  • 微小変形仮定(線形解析の場合):変形が初期寸法に比べて十分小さく、応力-歪み関係が線形
  • 等方性材料(特に指定がない場合):材料特性が方向に依存しない(異方性材料では別途テンソル定義が必要)
  • 準静的仮定(静解析の場合):慣性力・減衰力を無視し、外力と内力の釣り合いのみを考慮
  • 適用外ケース:大変形・大回転問題では幾何学的非線形性が必要。塑性・クリープ等の非線形材料挙動では構成則の拡張が必要
次元解析と単位系
変数SI単位注意点・換算メモ
変位 $u$m(メートル)mm入力時は荷重・弾性率もMPa/N系に統一すること
応力 $\sigma$Pa(パスカル)= N/m²MPa = 10⁶ Pa。降伏応力との比較時に単位系の不一致に注意
歪み $\varepsilon$無次元(m/m)工学歪みと対数歪みの区別に注意(大変形時)
弾性率 $E$Pa鋼: 約210 GPa、アルミ: 約70 GPa。温度依存性に注意
密度 $\rho$kg/m³mm系ではtonne/mm³(= 10⁻⁹ tonne/mm³ for 鋼)
力 $F$N(ニュートン)mm系ではN、m系ではNで統一

数値例:片持ち梁の先端荷重(L=1m, 断面50×100mm, 鋼材E=210GPa, P=1kN)

最大たわみ δ = PL³/(3EI) = 1000×1000³/(3×210000×4,166,667) ≈ 0.381 mm 最大応力 σ = PL×(h/2)/I ≈ 12.0 MPa(降伏応力235MPaに対して安全率19.6)

メッシュ密度を変えた収束性の確認:

粗いメッシュ(500要素)0.362 mm
-5.0%
中程度(2,000要素)0.378 mm
-0.8%
細かいメッシュ(8,000要素)0.380 mm
-0.3%
理論解0.381 mm
基準

ポイント:要素数を4倍にしても結果は0.5%しか変わらない→8,000要素で十分収束。これが「メッシュ収束性」の確認です。

簡易計算ツール:構造力学基礎

片持ち梁の先端集中荷重における最大たわみ・最大応力を計算します。

単軸応力状態における応力・歪み・伸びの相互換算。

CAE実務でよく使う単位の換算。

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