建築物の風荷重解析 — 数値解法と実装

カテゴリ: 流体解析 | 2026-01-20
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数値解法の舞台裏

計算領域とメッシュ

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建物まわりのCFDで計算領域はどのくらいの大きさにすればいいですか?


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AIJ(日本建築学会)ガイドラインに基づく推奨値がある。


パラメータ推奨値備考
入口から建物まで5H以上Hは建物高さ
建物から出口まで15H以上後流発達のため
側面まで5H以上閉塞率5%以下
上面まで5H以上閉塞率5%以下
閉塞率3%以下推奨建物断面/計算領域断面
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閉塞率を低くする必要があるんですね。


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そうだ。閉塞率が高いと人工的な加速効果が生じて風圧を過大評価する。3%以下が理想で、最大でも5%を超えないようにすべきだ。


入口境界条件

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大気境界層の入口条件はどう設定するんですか?


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べき法則またはログ法則のプロファイルを与える。乱流諸量も同時に指定する必要があるんだ。


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速度プロファイル(ログ法則):

$$ V(z) = \frac{u_*}{\kappa} \ln\left(\frac{z + z_0}{z_0}\right) $$

乱流エネルギー:

$$ k(z) = \frac{u_*^2}{\sqrt{C_\mu}} $$

散逸率:

$$ \varepsilon(z) = \frac{u_*^3}{\kappa(z + z_0)} $$

ここで$u_*$は摩擦速度、$\kappa = 0.41$はカルマン定数、$z_0$は粗度長、$C_\mu = 0.09$だ。


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$z_0$(粗度長)はどう決めるんですか?


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地表面の粗度カテゴリに対応する値を使う。


地表面区分$z_0$ [m]べき指数$\alpha$
I(海上)0.0002--0.0050.10海岸、空港
II(田園)0.01--0.050.15田畑、低層住宅
III(郊外)0.1--0.50.20中層市街地
IV(市街地)0.5--2.00.27高層ビル群

メッシュ戦略

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建物まわりのメッシュ生成のポイントを整理しよう。


  • 建物面上: 最低10分割/辺(角部は細分化)
  • 地表面近傍: $y^+ < 1$(壁面せん断応力の精度確保)
  • 建物周辺リファインメント: 建物高さの2倍の範囲を細分化
  • 後流域: 建物後方10Hまでは粗くしすぎない
  • セル成長率: 1.2以下

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SnappyHexMeshで建物まわりのメッシュを作ることが多いですよね。


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OpenFOAMのsnappyHexMeshは建築CFDで広く使われている。STL形式で建物形状を読み込み、自動的に局所細分化とプリズム層追加ができる。STAR-CCM+のトリムメッシュも同様のアプローチで効率的だよ。


定常RANSとLESの使い分け

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どんな場合にLESが必要になりますか?


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使い分けの目安はこうだ。


目的推奨手法理由
平均風圧分布定常RANS実務で十分な精度
ピーク風圧LES/DES変動成分の予測が必要
歩行者風環境(平均)定常RANS16風向の効率的計算
渦励振評価LES渦放出周波数の予測
自然換気非定常RANS/LES開口部の変動風圧が重要
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平均的な風圧分布だけならRANSで十分なんですね。


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そうだ。ただしRANSのピーク風圧予測は過小になる傾向がある。外装材の設計ではピーク風圧が必要になるから、その場合はLESかDESが推奨される。計算コストはRANSの50--100倍になるが、局所的なピーク負圧を正しく予測できるメリットは大きいよ。


Coffee Break よもやま話

レイノルズの実験(1883年)——乱流発見の瞬間

オズボーン・レイノルズは、管内の水にインクを流す実験で「層流から乱流への遷移」を発見しました。流速を上げていくと、インクの線がある瞬間にグチャグチャに乱れる。この劇的な瞬間を、レイノルズは数学的に $Re = \rho uD/\mu$ という無次元数で表現した。100年以上経った今も、CFDエンジニアが最初に確認するのはこのレイノルズ数です。

離散化手法の詳細解説

空間離散化における手法選択が数値精度・安定性・計算コストに与える影響を詳述する。

風上差分(Upwind)

1次風上: 数値拡散が大きいが安定。2次風上: 精度向上するが振動のリスク。高レイノルズ数流れでは必須。

中心差分(Central Differencing)

2次精度だが、Pe数 > 2で数値振動が発生。低レイノルズ数の拡散支配流れに適する。

TVDスキーム(MUSCL、QUICK等)

リミッタ関数により数値振動を抑制しつつ高精度を維持。衝撃波や急勾配の捕捉に有効。

有限体積法 vs 有限要素法

FVM: 保存則を自然に満足。CFDの主流。FEM: 複雑形状・マルチフィジックスに有利。SPH等のメッシュフリー法も発展中。

マトリクスソルバーの選定指針

問題規模と特性に応じた最適なソルバー選択のガイドライン。

ソルバー種別詳細・推奨条件
圧力-速度連成(SIMPLE系)SIMPLE: 標準的だが収束が遅い。SIMPLEC: 圧力補正の緩和が改善。PISO: 非定常問題に適する。
連立系ソルバーAMG(代数的マルチグリッド): 大規模問題の標準。ILU前処理: メモリ効率良好。ブロックGauss-Seidel: 連成系に有効。
DOF別推奨〜10⁵セル: SIMPLE+AMG、10⁵〜10⁷セル: SIMPLEC+AMG+並列、10⁷セル〜: 結合型ソルバー(Coupled Solver)を検討

時間積分法と収束判定

ソルバー内部の制御パラメータと収束判定基準について記述する。

CFL条件(クーラン数)

陽解法: CFL ≤ 1が安定条件。陰解法: CFL > 1でも安定だが、精度と反復回数に影響。LES: CFL ≈ 1を推奨。物理的意味: 1タイムステップで情報が1セル以上進まないこと。

残差モニタリング

連続の式・運動量・エネルギーの各残差が3〜4桁低下で収束と判断。質量保存の残差は特に重要。

緩和係数

圧力: 0.2〜0.3、速度: 0.5〜0.7が一般的な初期値。発散する場合は緩和係数を下げる。収束後は上げて加速。

非定常計算の内部反復

各タイムステップ内で定常解に収束するまで反復。内部反復数: 5〜20回が目安。残差がタイムステップ間で変動する場合は時間刻みを見直す。

数値解法の直感的理解

FVMのイメージ

有限体積法は「会計帳簿」に似ている。各セル(口座)について「入ってくる量」と「出ていく量」の収支を厳密に管理する。隣のセルに流れ出た量は、そのセルに流れ込む量と完全に一致する——これが「保存性」であり、流体解析で質量やエネルギーが勝手に増減しないことを保証する。

SIMPLE法のたとえ

SIMPLE法は「交互に調整する」手法。まず速度を仮に求め(予測ステップ)、その速度で質量保存が満たされるよう圧力を補正し(補正ステップ)、補正された圧力で速度を修正する——このキャッチボールを繰り返して正解に近づく。2人で棚を水平にする作業に似ている:片方が高さを合わせ、もう片方がバランスを取り、これを交互に繰り返す。

風上差分のたとえ

風上差分は「川の流れに立って上流の情報を重視する」手法。川の中にいる人が下流を見ても水の出所は分からない——上流の情報が下流を決めるという物理を反映した離散化手法。精度は1次だが、流れの方向を正しく捕捉するため安定性が高い。

CFDメッシュの品質管理や乱流モデルの選定に悩む時間を、もっと創造的な設計作業に使えたら。 — Project NovaSolverはそんな実務者の声から生まれました。

CAEの未来を、実務者と共に考える

Project NovaSolverは、建築物の風荷重解析における実務課題の本質に向き合い、エンジニアリングの現場を支える道具づくりを目指す研究開発プロジェクトです。

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