ダクト内流れ — 理論と支配方程式
概要
先生! ダクト内流れの解析って、空調配管やプラント配管で使うやつですよね? 基礎から教えてください。
ダクト内流れのCFD解析は、配管やダクト系統の圧力損失予測、流量分配、偏流評価を目的とする。設計段階でDarcy-Weisbach式の手計算だけでは捉えきれない局所損失や二次流れをCFDで可視化するんだ。
支配方程式
圧力損失の基本式はDarcy-Weisbachですよね。
そう。直管部の摩擦損失はDarcy-Weisbach式で記述される。
ここで $f$ は管摩擦係数、$L$ は管長、$D_h$ は水力直径、$V$ は断面平均流速だ。層流の場合は $f = 64/Re$、乱流の場合はColebrookの式で求める。
Colebrookは陰的な式だから反復計算が必要ですね。実務ではSwamee-Jainの近似式を使うことも多いですか?
その通り。Swamee-Jainは陽的で実用上十分な精度がある。
局所損失(エルボ、分岐、拡大・縮小)は損失係数 $K$ で表す。
| 要素 | 損失係数 K(目安) |
|---|---|
| 90° エルボ(R/D=1.5) | 0.2〜0.3 |
| 90° マイター(ベーンなし) | 1.1〜1.3 |
| T字分岐(直進) | 0.3〜0.5 |
| T字分岐(分流) | 0.8〜1.3 |
| 急拡大 | $(1 - A_1/A_2)^2$ |
| 急縮小 | $0.5(1 - A_2/A_1)$ |
手計算での損失係数は文献値ですが、CFDだとジオメトリ固有の正確な値が出せるわけですね。
そう。特に角型ダクトのコーナーピースや複雑な分岐管は文献値がない場合が多いから、CFDで求める価値がある。
乱流モデルの選択
ダクト内流れに適した乱流モデルは何ですか?
角型ダクトでは二次流れ(コーナー渦)が発生しますが、k-epsilonで捉えられますか?
角型ダクトの二次流れはReynolds応力の非等方性に起因するから、厳密にはRSMが必要だ。ただし圧損予測が目的なら k-epsilon でも誤差は5%程度に収まる。
ライト兄弟は最初の「CFDエンジニア」だった?
ライト兄弟は1901年に自作の風洞で200以上の翼型を試験しました。当時のコンピュータは? もちろん存在しません。彼らは手作業で揚力と抗力を測定し、最適な翼型を見つけ出した。現代のCFDエンジニアがFluent1発で計算する揚力係数を、ライト兄弟は何百回もの風洞実験で手に入れたのです。
各項の物理的意味
- 時間項 $\partial(\rho\phi)/\partial t$:蛇口をひねった瞬間を思い浮かべてください。最初は水がバタバタと不安定に出て、しばらくすると安定した流れになりますよね? この「変化している最中」を記述するのが時間項です。心臓の拍動で血流が脈打つのも、エンジンのバルブが開閉するたびに流れが変動するのも、すべて非定常現象。では定常解析とは? 「十分時間が経って流れが落ち着いた後」だけを見る——つまりこの項をゼロにする。計算コストが大幅に下がるため、まず定常で解いてみるのがCFDの基本戦略です。
- 対流項 $\nabla \cdot (\rho \mathbf{u} \phi)$:川に落ち葉を落としたらどうなりますか? 流れに乗って下流に運ばれますよね。これが「対流」——流体の動きが物を運ぶ効果です。暖房の温風が部屋の端まで届くのも、空気という「運び屋」が熱を対流で輸送しているから。ここが面白いところ——この項は「速度×速度」を含むため非線形です。つまり、流れが速くなるとこの項が急激に強くなり、制御が難しくなる。これが乱流の根本原因です。よくある勘違い:「対流と伝導は同じようなもの」→ 全然違います! 対流は流れが運ぶ、伝導は分子が伝える。桁違いの効率差があります。
- 拡散項 $\nabla \cdot (\Gamma \nabla \phi)$:コーヒーにミルクを入れて放置したことはありますか? かき混ぜなくても、しばらく経つと自然に混ざりますよね。あれが分子拡散です。では次の質問——ハチミツとお水、どちらが流しやすいですか? 当然お水ですよね。ハチミツは粘性($\mu$)が高いから流れにくい。粘性が大きいと拡散項が強くなり、流体は「もったりした」動きになります。レイノルズ数が小さい流れ(ゆっくり、ドロドロ)では拡散が支配的。逆にRe数が大きい流れでは対流が圧倒し、拡散は脇役になります。
- 圧力項 $-\nabla p$:注射器のピストンを押すと、液体が針先から勢いよく出ますよね? なぜでしょう? ピストン側が高圧、針先が低圧——この圧力差が流体を押す力になるからです。ダムの放水も同じ原理。天気図で等圧線がギュッと密になっている場所では? そう、強風が吹きます。「圧力差があるところに流れが生まれる」——これがナビエ-ストークス方程式の圧力項の物理的意味。ここでの勘違いポイント:CFDの「圧力」は絶対圧ではなくゲージ圧のことが多い。圧縮性解析に切り替えたとたんに結果がおかしくなる場合、絶対圧/ゲージ圧の混同が原因かもしれません。
- ソース項 $S_\phi$:暖められた空気が上に昇る——なぜでしょう? 周囲より軽く(密度が低く)なったから、浮力で押し上げられるのです。この浮力はソース項として方程式に追加されます。他にも、ガスコンロの炎で化学反応熱が発生する、工場の電磁ポンプで金属溶湯にローレンツ力がかかる…これらはすべて「外部から流体にエネルギーや力を注入する」作用であり、ソース項で表現します。ソース項を忘れるとどうなるか? 自然対流の解析で浮力を入れ忘れると、流体は一切動かない——冬の部屋で暖房をつけたのに暖かい空気が上に行かない、という物理的にありえない結果になります。
仮定条件と適用限界
- 連続体仮定:クヌッセン数 Kn < 0.01(分子平均自由行程 ≪ 代表長さ)で成立
- ニュートン流体仮定:せん断応力と歪み速度が線形関係(非ニュートン流体では粘度モデルが必要)
- 非圧縮性仮定(Ma < 0.3の場合):密度を一定として扱う。マッハ数0.3以上では圧縮性効果を考慮
- ブシネスク近似(自然対流):密度変化を浮力項のみで考慮し、他の項では一定密度を使用
- 適用外ケース:希薄気体(Kn > 0.1)、超音速・極超音速流れ(衝撃波捕捉が必要)、自由表面流れ(VOF/Level Set等が必要)
次元解析と単位系
| 変数 | SI単位 | 注意点・換算メモ |
|---|---|---|
| 速度 $u$ | m/s | 入口条件で体積流量から換算する際、断面積の単位に注意 |
| 圧力 $p$ | Pa | ゲージ圧と絶対圧の区別。圧縮性解析では絶対圧を使用 |
| 密度 $\rho$ | kg/m³ | 空気: 約1.225 kg/m³@20°C、水: 約998 kg/m³@20°C |
| 粘性係数 $\mu$ | Pa·s | 動粘性係数 $\nu = \mu/\rho$ [m²/s] との混同に注意 |
| レイノルズ数 $Re$ | 無次元 | $Re = \rho u L / \mu$。層流/乱流遷移の判定指標 |
| CFL数 | 無次元 | $CFL = u \Delta t / \Delta x$。時間刻みの安定性に直結 |
数値例:円管内層流(d=10mm, L=1m, 水μ=0.001Pa·s, Q=0.1L/min)
Re = ρuD/μ = 998×0.021×0.01/0.001 ≈ 212(層流) 圧力損失 ΔP = 128μLQ/(πd⁴) ≈ 68.2 Pa
乱流モデル別の精度比較(後向きステップ、再付着長さ):
k-ω SSTは精度とコストのバランスが良く、多くの実務で最初の選択肢になります。
CFDメッシュの品質管理や乱流モデルの選定に悩む時間を、もっと創造的な設計作業に使えたら。 — Project NovaSolverはそんな実務者の声から生まれました。
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